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ボビー・ウーマック 来日直前インタビュー

ボビー・ウーマック 来日直前インタビュー

 昨年約18年ぶりとなるオリジナル・アルバム『ザ・ブレイベスト・マン・イン・ザ・ユニバース』をリリースし、見事復活を果たしたラスト・ソウルマン=ボビー・ウーマック。1960年代にサム・クックのレーベルからグループとしてデビュー、「ルッキン・フォー・ア・ラヴ」やローリング・ストーンズがカヴァーしたことで有名な「イッツ・オール・オーヴァー・ナウ」がヒットを記録。その後、ソロのヴォーカリスト、ギタリスト、さらにソングライターとしても才能を発揮、「ウーマンズ・ガッタ・ハヴ・イット」「イフ・ユー・シンク・ユー・アー・ロンリー・ナウ」、さらには映画『110番街交差点』サウンドトラックのリード・トラックなど多彩な名曲を放ってきた。だが今年1月に初期のアルツハイマー病にかかっていることを告白。今後の活動への支障が心配されたが、そんな素振りを見せない程元気そうに「ウーマックだぜ。」と電話に出た彼に近況や5月に控える来日ツアーについて訊いた。

国境を超え、人々に音楽を届ける…それが私の使命なんだ

「It's Been A Long Night 」
▲「It's Been A Long Night 」

――調子はいかがですか?

ボビー・ウーマック:今日は調子がいいよ。でもいい日もあれば、悪い日もある。以前と比べると完璧な日というのは少なくなってしまったけれど、今度日本へ行くことはとても楽しみにしている。きっとその時は完璧な日になるに違いない。というか、完璧な1週間だな(笑)。

――ファンの皆さんも再びボビーの生の歌声が聴けるのを楽しみにしていますよ。

ボビー:前回パフォーマンスをした時も最高だったし、いい経験だった。この前誰かに「ライブ内容は今でも工夫しているの?」と訊かれたが、「信じられないかもしれないが、私が同じショーをすることはない。」と即答したよ。私はスピリチュアル・ゴスペル・シンガーで、パフォーマーだからね。どうなるかは、その時次第だ。これが私の天職だということは、身に染みて感じている。

――やはりステージを観ていると天性のパフォーマーなんだというが、ひしひしと伝わってきます。

ボビー:音楽を作ること、ライブをすること。それがいつでも私にとって唯一の安らぎだった。皆に自分の一番の姿を観てもらいたい。だから私はいつも200%でステージに挑んでいる。国境を超え、人々に音楽を届ける…それが私の使命なんだ。バンドに関しても、メンバーが多くなってしまって、私の取り分が少なくなってしまっても構わない。そもそも私は金持ちではないし、金儲けをすることにも興味はない。ステージに上がって、自分を待ち望んでくれている嬉しそうな観客の顔を見ることほど価値があることは他にない。それだけで億万長者の気分だよ。

「Deep River」
▲「Deep River」

――そして今回のライブでは昨年リリースされた最新作『ザ・ブレイベスト・マン・イン・ザ・ユニバース』からの楽曲も聴けるということですよね。

ボビー:もちろん、最新作からの曲はやるよ。「デーモン(・アルバーン)とどうしてレコーディングしたんだ?」という質問はよく訊かれるけれど、20年近くのブランクがあったから、自分のためにやった部分が大きいんだ。人間と同じで、長年音楽と付き合っていくと愛憎関係に陥ってしまうのは否めない。20年間を経て、やっとまたアルバムを作ることに対する愛が芽生えてきた。

――若い世代とコラボレーションすることで、制作活動に対する新鮮味も新たに感じられたのでは?

ボビー:そうだね。若い世代のアーティストが次々出てくるから、我々みたいな昔のアーティストはどんどん忘れ去られていく。私にとって興味深かったのは、自分のことを全然知らない若い世代にもこのアルバムを通じて名前を知ってもらえたこと。とても刺激的で、同時に私の音楽を聴きたいと思ってくれる人がまだいるとうことを再確認させてくれたので、ありがたい事だった。

3か月ほど前に、ウーマック&ウーマックとして活動していた弟のセシルが他界してしまった。アルバムの中から、特に「ディープ・リヴァ―」を歌うのが好きなのは、ゴスペルを歌い始め、彼と一緒に歌った時のことを想い起こさせてくれるからだ。この曲は私のルーツであるとともに、とても特別な曲なんだ。そしてもちろん昔の曲もやるよ。50年近くアーティストとして活動してきているから、すべてのアルバムから2曲ずつやっても4時間ぐらいのショーになるんじゃないかな(笑)。

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ここにいれるだけで、ありがたいことなんだ

――そしてボビーは、20世紀屈指の"ストーリーテラー"でもありますよね。

ボビー:私が語るストーリーが素晴らしいのは、すべて真実だからだ。生きている間に様々なことが起きた。近いうちに、今までに出会った人々についてのインタビューを収録したレコードを出したい思ってるんだ。ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、サム・クック、レイ・チャールズ、ウィルソン・ピケット…話は山ほどあるよ。音楽業界の"クレイジー"な移り変わりも体感してきている。この業界に長年いる秘訣は、自分がやっていることを心から愛することだな。でなかったら、69歳にもなって何万キロと旅して、一晩で2公演やるなんて到底無理なことだからね(笑)。

――ではデビュー当時から変わっていないことや貫いている信念はありますか?

ボビー:私は幼い頃から、この業界に入りたいと思っていた。音楽を作ることによって周りにいい影響を及ぼせるし、第一に自分自身が満たされるからだ。それは今でも変わらない。その気持ちが無くなってしまったら、もう潮時だと感じている。そしてこの業界から消える。ホントの話さ。音楽が楽しくなくなってしまったら、諦める他に道はない。そして観客に対する敬意も忘れてはいない。彼等がいなければ、私も存在しないからだ。世界中の人々全員に私の歌声を届けることは難しいかもしれない、でも目の前に座り、自分のことを信じてくれる観客には精一杯に自分のメッセージを伝えたい。

――このような謙虚な気持ちを持ち続けて長年活動している方は少なくなってきていると思うので、とても希少な存在だと感じます。

ボビー:ありがとう。とりあえず今生きているということに一番感謝しているよ。実際問題、生きてる人間より死んでる人間の知り合いのが多いからね。それだけでも、アーティストとして一線を越えているよね(笑)。

――後はデビュー当時から声がまったく衰えていないのが、前回のライブ・パフォーマンスで特に印象的でした。

ボビー:アハハ。ガタがきてない唯一の部分かもしれないね!もう歳だから、体はボロボロだけど、声は年々力強さを増しているんだ。これで30年ぐらい前の体だったら、って思う時もあるよ。でもステージに上がって大勢の観客を見ると、精神的にある種のトランス状態になって、自分がまだ21歳の頃にステージに立っていたかのような心持ちになる。ステージを降りて、楽屋へ戻ると81歳のような気分だけれど(笑)。

――そしてプライベートでは、つい最近マネージャーを務めているレジーナさんと再婚されたそうですね。

ボビー:そうなんだ。私には4人の子供がいる。ジェームス・ブラウン、マーヴィン・ゲイ、レイ・チャールズなど様々なアーティストの最期を見てきた。でも彼らの死後、遺族による金銭のトラブルが尽きない。もし彼らが墓の中からこの現状を見たら、何て言うだろうと思うね。私にとって家族はとても大切だ。だから私が生涯をかけて築き上げてきたもの…決して多くはないが、私がいつ死んでも彼等には不自由ない人生を歩んでほしい。それは私が彼等の年齢の時になかったものだったから、出来る限るのことをしてやりたいんだ。その願いを彼女ならきちんと果たしてくれるとわかっている。まだ若い2人は、一人が19歳で、もう一人が12歳だから、ほんの子供なんだ。12歳の娘の方は、私のツアーにたまに同行してる。この前、二人でユニットを組んだらどうだ、と言ったら笑っていたよ。

――では最後に、ボビーにとって"ソウル・ミュージック"とは?

ボビー:とてもシンプルだよ。魂に響く音楽さ。"魂"がなければ、それは音楽ではない。どんなスタイル、設定の曲であれ、音楽は人の心を動かすものだ。それもポジティヴにだ。それが私にとっての"ソウル・ミュージック"。その精神を長年引き継いできたアーティストたちのおかげで途絶えることはない。レコードをかけ、古き良き時代とその時の思い出を振り返る。そこには何度聴いても、色褪せない魅力があるんだ。

――今話に上がった"ソウル・ミュージック"の精神を引き継ぐという意味では、ボビーも重要な役割を果たしていますよね。

ボビー:ここにいれるだけで、ありがたいことなんだ。1日1日をかみしめ、感謝しながら生きているよ。そして日本の皆さんに会えるのを楽しみにしてる。でも同時に怖い事でもあるんだ。「未だに活動しているのは、ウーマックぐらいなのでは?」とでも誰かに言われないと、あまり考えないことだけど、他にもアル・グリーンや…、と言い始めても生きているアーティストの名前が出てこないんだ。その日に元気に話していても、翌日には亡くなっていたというケースも多く経験している。

――確かに、以前エリック・クラプトンがジミ・ヘンドリックスについて同じようなことを言っていたのを思い出しました。

ボビー:そうだね。彼は素晴らしいミュージシャンで、私の同志の一人だった。考えると恐ろしいね。マーヴィン・ゲイ、ジョニー・テイラー、ウィルソン・ピケットなど私と同世代だったアーティストはみんな亡くなってしまっているから。

The Making Of "The Bravest Man In The Universe"

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