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<インタビュー>「それぞれの正解」を見つけるために――和田彩花のエッセイ集『アイドルになってよかったと言いたい』から紐解く、自由と権利の在り方【WITH BOOKS】

Interview & Text: 森朋之
Photo: 堀内彩香
書籍や文筆と縁深いアーティスト、また音楽と縁深い作家へ、自身の書籍や音楽とのかかわりについて訊くインタビュー企画【WITH BOOKS】に、エッセイ集『アイドルになってよかったと言いたい』を発売した和田彩花が登場。
15歳から24歳までアイドルグループ・アンジェルムのメンバーとして活動した和田彩花。「QJWeb」で連載されたエッセイを中心に、アイドルプロデューサー・木村ミサとの対談「“かわいい”の先にある希望」などが収められた本作には、アイドル時代に感じた疑問や不安、エンタメ業界の労働環境、フェミニズムやジェンダーを巡る問題意識から家族観、結婚観に至るまで様々なトピックが綴られている。1年半に及ぶフランス留学、うつの経験を含めた「愛おしい闘争の記録」だ。
現在は「詩と言葉のアーティスト」として活動するなど、自らのアイディティを明確に示している和田。本書『アイドルになってよかったと言いたい』を巡る思考と行動の軌跡について、自身の言葉で語ってもらった。
自分のために必要なところだけ抜き取って、自由に使ってほしい
――『アイドルになってよかったと言いたい』、とても興味深く拝読しました。「私のアイドル人生は、自由、権利への闘争でもあった」という帯の文言通り、和田さんご自身の経験と思索が軸になっていますが、私のようなシス男性も読むべき本だなと。エンタメ業界、アイドルシーンもそうですが、男性の加害性もこの本の背景にあると思うので。
和田彩花:ありがとうございます。この本の取材を男性のライターさんから受けることがなかったので、そう言ってもらえてうれしいです。10代後半からの自分のこと、女性として生きてきたことの困難も書いているので、共感してくれるのはやっぱり女性が多いんです。インスタのDMにメッセージをくれるのも基本女性で、アイドルファンもそうでない方も読んでくれてるとは思うんですけど、男性がこの本をどう読むのかほとんどわからないんですよね。
――和田さんはもちろん、読者を限定しているわけではないですよね。
和田:全社会に向けた本だと思ってます。同じ女性でも、世代によって受け取り方が違うみたいなんですよ。年上の女性から「今の若い子たちも苦しんでいることが分かりました」と言ってもらえて、年齢によって社会の見え方、苦しみの色も全然違うんだなと感じました。もちろん、「どの世代が悪い」ということではないんですが、一つ思うのは、社会の空気を変えるためには若い世代が行動を起こすことが大事だということかなと。若い人たちが元気がないのは、街の景色として寂しいですからね。
――この本を読んだ方が、自分の悩みや葛藤は社会の在り方と関係があると気づけば、何か変わっていくかもしれない。
和田:私自身は、誰かの意識を変えたいとは思っていないんです。私の経験を活用してほしくて、何かあったときに「そういえばあの本に書いてあったことが使えるかも」と、自分を守る術になったらいいなと思っているので。必要なところだけ抜き取って、自由に使ってほしいです。こちらから正解を提示するのも良くないと思っていて、それぞれの人生があるんだから、お互いの苦しみを接続して、「そういうこともあるよね」と穏やかに繋がっていけたらいいなと。そのうえで「それぞれの正解を見つけてほしい」という言い方がいいのかな、と思っています。
――女性同士がお互いの苦しみを接続して、穏やかにつながる。そういうフェミニズムの在り方は素晴らしいと思います。
和田:私はアイドルという立場で活動していましたが、アイドルの現場はオタク文化をまともに浴びてしまうし、「フェミニズムの理論を学ぶ」みたいなこととすごく差があるんです。初めてステージに立ったのは10歳なんですけど、客席から自分よりかなり年上の男性がジッ……と観ている光景に違和感があったのですが、違和感を言葉にできないままステージに立ち続けるしかなくて。でも“オタク”と呼ばれる人たちが私のことを応援してくれているから、この本も成り立っている。そういうバランスのなかにいるんですよね。
――アイドル活動のなかで感じていた違和感や葛藤を、いろいろな知識や勉強によって言語化し、和田さん自身の在り方を確立していく。その過程をリアルに追体験できるのが、この本の軸だと思います。やはり大学・大学院で美術史を学んだことがターニングポイントだったのでしょうか?
和田:そうですね。女性画家や、美術と社会のつながりを扱う授業に興味があって、そこでファミニズムやジェンダーという言葉を知って、特にやなぎみわさん(美術作家、舞台芸術家)の作品にはとても衝撃を受けました。若さと老いを混乱させるような作風の「フェアリテール」シリーズという作品があるんですが、それがアイドルの在り方と結びついたんですよね。アイドルは、20歳を過ぎると居場所が見つけづらくなって、すぐに「劣化した」などと言われる。それは年齢差別やルッキズムの問題なんだなと。
――知識と経験が結びつくと、アイドルの現場で起きている問題がはっきりと認識できるわけじゃないですか。その状態で活動を続けるのはさすがにきついですよね。
和田:そうなんですけど、私は自我の芽生えがだいぶ遅かったし、すぐに答えを出せなかったんです。たとえば男性から見られる女性の在り方にしても、それを受け入れて女性性を全開にする人がいたり、過剰に受け入れる人も周りにはいて。私はどうすればいいか判断できなかったし、「こうなりたい」という願望もなかったので……。その分、考える時間はたくさんありました。それが結果的には良かったんだと思います。あと、私がいたグループ(アンジュルム)は反抗的なメンバーが多かったんですよ。いわゆる“いい子”ではなかったし、イヤなものはイヤという人が多かったので、むしろすごく楽でした。つらいのは、その後でしたね。だんだん大人になっていくなかで、あれだけ「これ、おかしくない?」と言ってたのに、いろいろなことを飲み込んでしまうのが、いちばんつらかったです。

- 「人生に大きな影響を与えたフランス留学」
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人生に大きな影響を与えたフランス留学

――2022年から約1年半、美術史をさらに深く学ぶためにフランスに留学。『アイドルになってよかったと言いたい』にも書かれていますが、この経験は和田さんの人生に大きな影響を与えているようですね。
和田:もともとフランスで暮らしてみたいとは思っていたんですが、そのときはとにかく日本から逃げたかったんです。かなりネガティブな動機だったにも関わらず、フランスでの1年半、最高に満喫しました。フランスは、フェミニズムが身近なんです。語学学校の授業でもフェミニズムの議論があったり、小さい子供たちにもちゃんと教えていて。教育って大事だなと思ったし、今も「自由・平等・博愛」をスローガンにして、みんなでがんばってるんですよね。白人、アジア人、黒人、イスラム圏の人たちもそうだし、いろんな人種の人たちが一緒に暮らしている空間に身を置くことで、視野も広がりました。アジアの友達が出来たのも大きかったです。韓国、ベトナム、中国、台湾、タイなどの友人と接するなかで、アジアにおける日本の立ち位置も見つめ直すことができた。
日本は先進国かもしれないけど、だからといってアジアのなかで優位に立っているわけではなくて、その感覚を持って帰ってきたら「日本の外国人差別、やばいな」ということにも気づきました。私がやってることは意味があるんだと思えたのも大きかったです。

――アイドルの労働環境など社会的な発信を続けていると、否定的なコメントも飛んでくると思います。この本では「発信活動は、私にとって「当たり前のこと」と書かれていますが、その揺るぎなさを支えているものは何なのでしょうか?
和田:自分の良いところでもあり、悪いところでもあるんですが、自分が正しいと信じ切ってるんです。あとはXを見てないので、知らぬが仏と言いますか……(笑)。インスタのDMにはいろいろなメッセージが来るので、なるべく会話をして返信するようにしています。ただ、大変は大変ですね、こういう活動をしているから。
否定はしませんが、アイドルを応援している人たちの中には、必要以上に意見を伝えてくる人が多いと感じます。「その考え方は、問題あるよ」と思って私から伝えることもありますが、そういう方々も自分なりにアイドルについて考えているので。この前も、そのことについてチャットGPTと話したんです。
――何か結論が出ました?
和田:そういうファンの方は自分の理想をアイドルに投影していて、その人にとっての完璧な状態が好きなんですよね。そこで私が「アイドルのこういう在り方には問題がある」、「労働環境をこうしてほしい」などという言葉でメスを入れると、その人たちの理想の姿を揺るがしてしまう。それが不安でしょうがないから、自分を守るために反対の言葉を私に向かって投げないと気が済まないんじゃないかなと思います。
――まさに! すごい解像度ですね。
和田:そう理解することで、めちゃくちゃ腑に落ちたんです。ただ、こちらが何もしないと調子に乗ってくる人もいるので、「見てるよ」ということはちゃんと伝えるようにしています。
――『アイドルになってよかったと言いたい』は、うつの経験も含め、ご自身のことを包み隠すことなく明らかにしている印象もありました。この本を出版したことで、和田さん自身にも変化があったのでは?
和田:私はずっと、本来の自分と表に出ている自分に差があるなと感じていて。その差を埋めたいと思っていたんですが、本を出したことで「できるだけ、ありのままの自分でいたい」という気持ちが強くなりました。どうしても「元アイドル」という色が強すぎて、その視点でしか見られていない感覚があったんです。それも払拭したかったし、私は音楽と美術をやっている人間なので、本来の自分でいないと説得力を持った活動ができないんじゃないかなと。この本を出したことで、自分が被っていたパブリックイメージが一皮むけた感じがありますね。
――和田さんの今後の創作活動、クリエイティビティにも良い影響がありそうですね。
和田:そうですね。詩のなかだけでしか自分の表現ができないって、つまらないと思うんですよ。こういう取材の場所でもしっかり話したいし、自分の生活と自分の発言、自分の表現はすべて密接に結びついているので。私のパートナーは外国人なんですが、それを隠して「外国人差別反対」と言ってもしょうがないと思うんですよね。
――素晴らしい。日本ではアーティストや俳優が社会的な発言を下げる傾向が強いですが、どうすれば変わっていくと思いますか?
和田:私みたいな人がどんどん出てくれば変わると思います。俳優の橋本愛さんも積極的に発言を続けているし、だんだん空気が変わっているのも感じているので、私自身もちゃんと自分の立場を示したうえで発信したいなと。最近気づいたんですけど、「選挙に行こう」は詩みたいになってるというか、いい言葉として浸透してるじゃないですか。「立場を示す」というのはそういうことではないし、もう少し踏み込んでもいいんじゃないかなと。名前が知られている皆さんは、その影響力を使ってほしいなと思います。

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ボーヴォワールの言葉と出会い、意味を探り、過程を築いた
――ここからは本との付き合い方について。普段、どんな本を読んでますか?
和田:美術史や歴史に関する本が多いですね。小説は苦手なんですけど、昔の作品は読めるんですよ。好きなのは谷崎潤一郎。最初に読んだのは「痴人の愛」。「谷崎、やっぱりヤバいな」と思いながら読んでいたんですけど(笑)、最後まで読むと「こういう結末か!」という感動がありました。今は「細雪」を読んでいますが、大正、昭和初期の文化が見えてくるのも好きです。私はバンド(LOLOET)をやっているので、音楽の歴史や芸術論などにも興味があって。特にテオドール・アドルノの芸術理論は、私の思想とも近しいところがあって、すごく参考になります。今まではあまり歴史や理論に触れてなくて、好きなものは全部受け入れる、嫌いなものは受け流すというスタンスだったんですけど、基礎を洗い直そうと思ってます。あと、デヴィッド・ボウイの本(「デヴィッド・ボウイ 増補新版――変幻するカルト・スター」)。実はあまり知らないんですけど、これだけ有名な人だから読んでみようかなと。何でも知りたいタイプなんです。
――音楽の理論や歴史を知ることで、ご自身の作品へのフィードバックもある?
和田:あると思います。今のバンドはダブとアンビエント、エクスペリメンタルみたいな音楽性なんですが、友達に「タブの歴史を踏まえて歌詞を聴くと、捉え方が変わる」と言われたことがあって。理論や歴史を知ること自体、詩を書くときのヒントになるんじゃないかなと。
――ダブやレゲエも闘争の歴史ですからね。
和田:ただ、今のダブやレゲエの在り方はまた違うじゃないですか。歴史のなかでいろいろな変化もしているだろうし、だからこそ「今、何をするか」を考えることが大事なのかなと。美術の世界もそうですけど、いろんな作品が溢れかえっているし、みんな作品の見方もわかっていて。そのなかでオリジナルなものを作るのはめっちゃムズいんですよ。音楽はそれがさらに顕著で、引用と借用でしか曲が作れなくなっている。曲を聴いて「〇〇年代の雰囲気だよね」で終わっちゃうって寂しくないですか?
それを飛び越えるものは何か?っていつも考えてますね。

――やはりカギになるのは身体性でしょうか?
和田:そういうことになりますね。……って、この話は長くなるのでまた今度(笑)。
――これまで読んだ本のなかで、印象に残っている一節は?
和田:いろいろあるんですけど、いちばんはやっぱりシモーヌ・ド・ボーヴォワールの「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」ですね。大学生のときの言葉と出会って、その意味を探って。その過程がこの本になったと思っているし、ボーヴォワールの文章がなければ、たぶん気づけなかったと思います。
――本の探し方については?
和田:けっこう古本屋に行きます。その街にある古本屋に入って、気になるタイトルの本を手に取って。そういう出会い方が好きなんです。古本屋って、店主の方の趣味やセンスが出るじゃないですか。「いいな」と思うセレクトの本屋で1冊を選ぶって、すごく贅沢ですよね。
――最後に、Billboard JAPANの「BOOK Chart」をご覧になった感想をいただけますか?
和田:上位はマンガが多いんですね。「Hot Bungei Books」に入ってる本も全然読んだことないな…あ、「コンビニ人間」(村田沙耶香)は読みました!気になるタイトルがあったら、読んでみたいと思います。

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