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バート・バカラック 来日記念特集(追悼再掲)

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 ポップス音楽における偉大な作曲家の一人、バート・バカラックが2月8日、94歳で天国へと旅立った。バカラックは、「小さな願い」「雨にぬれても」「サン・ホセへの道」など珠玉の代表曲をはじめ、ディオンヌ・ワーウィック、カーペンターズ、アレサ・フランクリン、B.J.トーマス、ダスティ・スプリングフィールド、ジェリー・バトラー、スタイリスティックスなど数々のミュージシャンに楽曲を提供。これまでに6回グラミー賞を受賞し、映画音楽でも手腕を発揮したことから3度のアカデミー賞にも輝いた。2014年にはビルボードライブ東京でも来日公演を開催するなど、日本でも精力的に活動し続けたバカラック。Billboard JAPANでは2014年2月の来日記念特集を再度掲載し、彼の功績をあらためて振り返るとともに、世代もジャンルも超えて愛され、世界に絶大な影響をもたらした偉大な彼の冥福を心から祈りたい。

 * * * * * * * * *

 「雨にぬれても」、「恋の面影」、「遙かなる影」、「アルフィー」、「世界は愛を求めてる」、etc。“珠玉の旋律”と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、バート・バカラックの音楽ではないだろうか。これらの名曲に、つい嬉しくなったり、心ときめいたり、せつなくなったりしてしまうという人も多いはず。高度な音楽理論に裏打ちされながらも、誰もが口ずさめるメロディは、音楽ファンでなくても絶対にどこかで聴いたことがある。ジョージ・ガーシュインやレノン=マッカートニー並んで、ポピュラー・ミュージックの頂点に君臨するソングライターであることは間違いない。

そんな偉大な作曲家であるバート・バカラックが、この春2年ぶりに来日する。今回は、バンド・スタイルとオーケストラ編成の二本立て。永遠に輝くグッド・ミュージックを作者自身の生演奏で体感できるパフォーマンスは、すべての音楽ファン必見。ここではその予習も兼ねて、彼の長い歴史を紐解いてみよう。

高橋 幸宏 バート・バカラックと僕の「映画音楽」>

初期:ディオンヌ・ワーウィックとの出会い

 バート・バカラックは、1928年5月12日にミズーリ州カンザスシティで生まれ、その後すぐにニューヨークのクイーンズへ移り住んだ。8歳から母親の影響でピアノのレッスンを始め、フランスの印象派からディジー・ガレスピーまで、様々な音楽から影響を受ける。ハイスクール卒業後は、ピアニストとして様々な歌手のサポートを務めていたが、最初に注目を集めたのはドイツの女優であるマレーネ・ディートリッヒの音楽監督として。ピアニストとしての仕事と並行しながら作曲活動を行ううちに作詞家のハル・デイヴィッドと出会い、それからはソングライターとして怒濤の活躍ぶりを見せることになる。ビートルズもカヴァーしたことで知られるシレルズの「ベイビー・イッツ・ユー / Baby It's You」(1961年)や、ジーン・ピットニーの「愛の痛手 / Only Love Can Break A Heart」(1962年)などが、バカラックの初期を代表するヒット曲だ。

CD
▲D.ワーウィックのデビューアルバム『Presenting』

しかし、彼の才能を決定付けたのは、なんといってもディオンヌ・ワーウィックとの出会いだろう。1962年のデビュー曲「ドント・メイク・ミー・オーヴァー / Don't Make Me Over」が、ビルボードのポップ・チャートで21位、R&Bチャートで5位を記録。以来、数々のヒットを生み出すこととなった。「恋するハート / Anyone Who Had A Heart」、「ウォーク・オン・バイ / Walk On By」、「リーチ・アウト / Reach Out For Me」、「マイケルへのメッセージ / Message To Michael」、「アルフィー / Alfie」、「世界の窓と窓 / The Windows Of The World」、「小さな願い / I Say A Little Prayer」、「ディス・ガール / This Girl's In Love With You」、「エイプリル・フールス / The April Fools」といったチャート1位を含むシングル曲を連発。また、「サン・ホセへの道 / Do You Know The Way To San Jose」と「恋よさようなら / I'll Never Fall In Love Again」では、彼女にグラミー賞をもたらした。1972年まで10年強タッグを組んだディオンヌとのヒット曲は、そのままバカラックの代表作といってもいいだろう。

音楽史に残る名曲ヒット曲を量産

CD
▲マンフレッド・マン
『マイ・リトル・レッド・ブック』

 もちろん、バカラックはディオンヌ以外にも名曲とヒット曲を量産した。ジャック・ジョーンズ「素晴らしき恋人たち / Wives And Lovers」(1963年)、ジャッキー・デシャノン「世界は愛を求めてる / What The World Needs Now Is Love」(1965年)、トム・ジョーンズ「何かいいことないか仔猫ちゃん / What's New, Pussycat?」(1965年)、マンフレッド・マン「マイ・リトル・レッド・ブック / My Little Red Book」(1965年)、ハーブ・アルパート&ザ・ティファナ・ブラス「ディス・ガイ / This Guy's In Love With You」(1968年)、カーペンターズ「遙かなる影 / (They Long To Be) Close To You」(1970年)、フィフス・ディメンション「悲しみは鐘の音と共に / One Less Bell To Answer」(1970年)、スタイリスティックス「遠い天国 / You'll Never Get to Heaven (If You Break My Heart)」(1972年)などが代表的なところだろうか。共作やカヴァーなどを含めると膨大な名曲名演が残されているのはご存じの通りだ。

CD
▲ソロとしては4作目となる
『バート・バカラック』

 自身でも、1965年にロンドンで録音したアルバム『ヒット・メイカー! / Hit Maker!』を皮切りに、定期的にリーダー作を発表。とくに、A&Mからリリースされた『リーチ・アウト / Reach Out』(1967年)、『メイク・イット・イージー・オン・ユアセルフ / Make it Easy On Yourself』(1969年)、『バート・バカラック / Burt Bacharach』(1971年)などは、彼のメロディとアレンジをたっぷり堪能できる好盤としてファンにも人気が高い。基本はインストゥルメンタルだが、「ハウス・イズ・ノット・ホーム / A House Is Not A Home」や「メイク・イット・イージー・オン・ユアセルフ / Make It Easy On Yourself」など、自らがヴォーカルを取る楽曲の味わい深さもまた格別だ。また、ニール・サイモンが脚本を書いたブロードウェイ・ミュージカル『プロミセス、プロミセス / Promises, Promises』(1968年)のような力作も残している。

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Writer:栗本 斉

バカラックと映画音楽

CD
▲映画『明日に向かって撃て!』
サウンドトラック

バカラックの名前をさらに一般的に広めたのは、映画音楽のおかげではないだろうか。トム・ジョーンズの主題歌が大ヒットしたウディ・アレンが脚本・主演によるコメディ映画『何かいいことないか仔猫ちゃん / What's New, Pussycat?』(1965年)や、ダスティ・スプリングフィールド「恋の面影 / The Look Of Love」とハーブ・アルパート&ザ・ティファナ・ブラス「カジノ・ロワイヤル / Casino Royale」のヒットを生んだ『007 カジノ・ロワイヤル』(1967年)も素晴らしいが、名実共に決定的となったのが『明日に向かって撃て! / Butch Cassidy And The Sundance Kid』(1969年)。アカデミー賞とグラミー賞をダブルで受賞するという快挙を成し遂げただけでなく、B.J.トーマスが歌う主題歌「雨にぬれても / Raindrops Keep Fallin' On My Head」という奇跡の名曲を生んだ本作。ポール・ニューマンとキャサリン・ロスが自転車を二人乗りするシーンで効果的に使われたこの曲は、おそらく世界でもっとも有名なバカラック・ナンバーといっても過言ではない。サウンドトラックのスコアも、「捨てた家 / Not Goin' Home Anymore」や「自由への道 / South American Getaway」といった名曲揃いの傑作だ。

 しかし、順風満帆に思えたバカラックも70年代頭から失速していく。きっかけのひとつは、ミュージカル映画『失われた地平線 / Lost Horizon』(1973年)のサウンドトラックを手がけたこと。鳴り物入りで公開されたにもかかわらず、興業も評価も惨敗。このことがきっかけで、長年コンビを組んできたハル・デイヴィッドとの関係もこじれて崩壊してしまった。その後もアルバム『フューチャーズ / Futures』(1977年)や『ウーマン / Woman』(1979年)などで起死回生を図るが、いずれも思うようなセールスを挙げられず、ソングライターとしてもほぼ引退同然の状態が続いた。

低迷期を乗り越え、再びピークへ

 気運が再び上昇してきたのは、後に3人目の妻となるキャロル・ベイヤー・セイガーと出会ってから。すでにシンガー・ソングライターとしても実績を上げていた彼女との共作で、1981年に映画『ミスター・アーサー / Arthur』のサウンドトラックを担当。クリストファー・クロスによる主題歌「ニューヨーク・シティ・セレナーデ / Arthur's Theme (Best That You Can Do)」はチャートの1位を記録し、その年のアカデミー主題歌賞も受賞した。また、しばらく袂を分かっていたディオンヌ・ワーウィックとも再会。グラディス・ナイトやスティーヴィー・ワンダーも参加した「愛のハーモニー / That's What Friends Are For」(1985年)が大ヒットする。翌年には、パティ・ラベルとマイケル・マクドナルドのデュエット「オン・マイ・オウン / On My Own」もチャートの1位を獲得し、再び作曲家としてのピークを迎えることになった。

CD
▲E.コステロとのコラボ作
『ペインテッド・フロム・メモリー』

 60年代ほどの多作ではないにしても、80年代から90年代にかけてコンスタントに作曲活動を行っていたバカラックだが、90年代末に入って新たな転機が訪れる。それが、エルヴィス・コステロとのコラボレーション・アルバム『ペインテッド・フロム・メモリー / Painted From Memory』(1998年)だ。両者にとっても重要なキャリアのひとつに数えられる本作は、コステロのシンガーおよびストーリーテラーとしてのセンスと、バカラックのメランコリックなメロディが見事に融合した傑作となった。収録曲の「アイ・スティル・ハヴ・ザット・アザー・ガール / I Still Have That Other Girl」はグラミー賞を獲得。その後も二人の友情は続き、しばしば共演を重ねている。

色褪せることない永遠のメロディとサウンド

CD
▲28年ぶりのソロ作となった
『アット・ディス・タイム』

21世紀に入っても、バカラックの活動は充実している。大きな仕事のひとつが、アイズレー・ブラザーズのリード・シンガーであるロナルド・アイズレーがバカラック・ナンバーを歌い上げるソロ・アルバム『ヒア・アイ・アム / Here I Am - Islesy Meets Bacharach』(2003年)を全面プロデュースしたことが挙げられる。また、2005年には28年ぶりのソロ・アルバム『アット・ディス・タイム』を発表。本作ではドクター・ドレがリズム・ループを提供したり、ルーファス・ウェインライトが参加するなど新旧の世代交流も新鮮だが、何よりもバカラック・サウンドが現代でも十分有効であることを証明した。プライヴェートでは最愛の娘ニッキーの自殺や自らの骨折とリハビリなどアクシデントも多かったこの10年だが、現在ではすっかり元気を取り戻し世界中をツアーで飛び回っている。フレッシュなトピックでいえば、昨年の11月にリリースされた椎名林檎のアルバム『浮き名』に収録された「IT WAS YOU」が、バカラックによる現時点での最新の提供曲だ。85歳にしてなお、現役で音楽シーンに大きな影響を与え続けるバート・バカラック。永遠のメロディとサウンドは、2014年現在も褪せることなくきら星のごとく光り輝いている。

Writer:栗本 斉

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