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<対談インタビュー>神前 暁(MONACA)×八木海莉『Vivy -Fluorite Eye's Song-』を通して伝える“歌に心を込めるということ”



 歌で人を幸せにすることをプログラムされたAIの歌姫ヴィヴィが、100年後に起きるAIの反乱を止めるべく活躍するオリジナルアニメ『Vivy -Fluorite Eye's Song-』。そのオープニングテーマ「Sing My Pleasure」が、Billboard JAPANダウンロード・ソング・チャート“Download Songs”で最高17位にチャートインしたほか、Spotifyの国内バイラルチャートで3週連続首位を獲得するなど話題となっている。同曲を歌う八木海莉はデビュー前の新人で、初々しくもありながら新人とは思えない表現力が、各方面から高評価を得ている。彼女の歌声はなぜ人を引きつけるのか、そして八木海莉とは何者なのか? 同曲の作曲・編曲、アニメ『Vivy』の劇伴を担当する神前 暁(MONACA)と八木海莉の対談で、楽曲の秘密と八木の歌声の魅力を解き明かす。

ルーツはボーカロイドとRADWIMPS

――八木さんは約2年前から、YouTubeにカバー動画を上げていて。神前さんは実際にお会いする前にカバー動画を見ていたとのことですが、その時はどんな印象でしたか?

神前:すごく歌がお上手な方だなと思ったのが、率直な感想です。いろいろなアーティストの曲をカバーされていて、その中でも個人的にすごくいいなと思ったのは、くるりさんの「琥珀色の街、上海蟹の朝」とか相対性理論さんの「チャイナアドバイス」で、たまたま両方中国ものですけど(笑)。すごく通好みの選曲ですよね。

八木:ありがとうございます。

▲八木海莉/くるり「琥珀色の街、上海蟹の朝」弾き語りカバー

――ヨルシカ、ずっと真夜中でいいのに。、YOASOBI、Vaundy、きのこ帝国、Cö shu Nieなど、選曲の幅が広いですね。

八木:選曲はその時に流行している曲の中から、自分が歌って映えそうな曲を選んでいます。たまに、みんなが歌わないだろうと思う意外な曲なども選んだりしています。

神前:もともとは、どういう曲が好きなんですか?

八木:中学生の頃はボカロPさんの曲ばかり聴いていました。ボカロ曲って難しい曲が多いので、単純に歌うのが楽しいんです。ゲームを攻略するみたいな感覚で。あと、RADWIMPSさんにもとてもハマっていて、いろんなライブにも行きました。

――第1話の劇中歌「My Code」のレコーディングが初対面だったそうですが、その時の第一印象はいかがでしたか?

八木:自分と似た雰囲気の方だなと。私は人見知りなんですが、失礼ながら勝手に、自分と似ている匂いを感じていました。

神前:それは僕も言おうと思っていたことです(笑)。八木さんは、あの時はまだ高校生で、でもすごく大人っぽい雰囲気だという印象でした。ほぐれるまでに、けっこう時間がかかりましたね。何曲かやっていくうちに、徐々にという感じで。

▲ヴィヴィ(Vo.八木海莉)「My Code」

――八木さんの実際の歌声を耳にして、どんなところに魅力を感じましたか?

神前:ちょっと体温が低い感じと言うか、ほどよく無機的で不思議な響きがあるなと思いました。くせの付け方や歌い回しが面白くて、あまり聴いたことがない歌い方でした。少しエスニックな雰囲気も感じるし、表情の付け方や揺れ方が面白い。YouTubeで聴いた時はそこまで思わなかったですけど、『Vivy』の八木さん以外まだ誰も歌ったことのない曲をどう歌いこなすかという時に、すごく彼女のカラーが出て、「そういう歌い方をするんだ」と驚きました。

――そのような歌い方は、自己流で編み出したのですか?

八木:意図的にそう歌ったわけじゃなくて、練習していたら勝手にできていました。レコーディングで初めて自分の歌い方はそうなんだと教えてもらい、じゃあそれをうまくコントロールできるようになろうと思って、今は練習している途中です。

――現場で、ここをもっとこう歌ってほしいとかは?

神前:それはあまり言わなかったです。と言うのも、弾き語りですごくいい曲をたくさん歌っているので、音楽的な語彙がすごく豊富だろうと思って。

――音楽的な語彙というのは、表現の引き出しということですか?

神前:そうです。いろんな歌のオイシイところが染みこんでいるだろうと。

――神前さんは声優さんが歌う劇中歌をたくさん手がけられてきましたが、声優とボーカルが別という劇中歌は、これまでにもご経験が?

神前:弊社(MONACA)としては、『アイカツ!』シリーズなどで声優と歌い手が別という案件を経験していますが、僕自身は初めてでした。それもあって、最初に『Vivy』のお話をいただいた時は、正直不安もあったんです。まずもってキャラクターと声が違ってしまうわけで……。でもやってみて、結果的にすごくいい相乗効果を生んだと思います。

――声優さんが歌うキャラクターソングとの違いはありましたか?

神前:声優さんにキャラクターソングをお願いする時は、こちらで仮歌をしっかり作り込んで、それをお手本にして歌ってくださいとお願いすることが多いんです。八木さんの場合は、歌詞とメロディといった必要最低限のものだけをお渡しして、表現の部分は本人の中から出てくるものを活かそうというディレクションでした。表現力の部分は、我々作家よりも実際に歌う方の領域です。歌を専門にしている方の曲に対する解釈力やアプローチをいただけたのは、こんなにも心強いものかと、とてもありがたかったです。

――曲作りは、どういう順序で作っていったのですか?

神前:基本的には放送される順に作っていきました。作画の締め切りとの兼ね合いもあって。なので最初に「My Code」(第1話劇中歌)を作って、次に「A Tender Moon Tempo」(第3話劇中歌)という感じで。

▲ヴィヴィ(Vo.八木海莉)「A Tender Moon Tempo」

――歌う側としてもストーリーに沿った順に歌うほうが、気持ちを込めやすかったのでは?

神前:そもそも僕らからは、キャラに合わせて歌ってくださいとは言っていないんですよ。基本的に八木さんの歌として表現してくださいとお願いをしていて。

――なるほど。じゃあ、この曲の時のヴィヴィはこうだからこう歌おうとかは。

八木:そういうことは考えていなかったです。最初に『Vivy』のお話をいただいた時に、「ヴィヴィ役の種﨑(敦美)さんの声に、少しでも似せたほうがいいですか?」と聞いたんですが、「自分のままで歌っていい」と言っていただいたので、曲のこと以外は何も考えずに自由に歌いました。

――でも、それが違和感なくヴィヴィとすごくリンクして。

八木:でも自分では、ヴィヴィっぽいのかどうかはわかっていなくて。どう聴いても自分の声なので(笑)。

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“八木海莉節”がハマった「Sing My Pleasure」

――お二人それぞれ好きな曲を選んでいただけますか?

八木:私は、第9話の劇中歌で「Harmony of One's Heart」が好きです。レコーディングで歌を入れてる時から、皆さんと「いいね」っていう感じがあって、雰囲気がすごく良くて。

神前:最後に録った曲ですね。ストーリー的にも非常に盛り上がるところで、映像的にも「ここは全力でいい」という感じだったので、それに向かって歌詞も曲も歌も、全部の力が出せたという手応えがありました。第9話はアクションもあるし、最後のライブシーンもいいので、個人的に何度も見てボロ泣きしています。

八木:単純に歌っていても、とても気持ちの良い曲です。

――神前さん的にはどの曲が?

神前:どれも思い入れがありますけど、個人的には「Galaxy Anthem」です。第7話でディーヴァとして最初に歌う曲で、これは僕の好きなテイストを詰め込みました。アニソンへのオマージュと言うか、「僕はこういう音楽が好きです」というものがストレートに出ています。

▲ディーヴァ(Vo.八木海莉)「Galaxy Anthem」

神前:あと「Sing My Pleasure」もいいですか?

――もちろんです。どういったところがポイントですか?

神前:劇中歌としてグレイスが歌っていたりしますけど、アニメのオープニング曲、つまりアニソンとして機能するように意識して作りました。そのぶんテンポが速くて歌の難易度が高いので、歌うのはすごく大変ですけど、耳に残るキャッチーさや絵と合った時に気持ち良くなるようにとか、イントロにコーラスが入っていたり、構成を多く作ったり、アニソンとして映える曲を意識しています。僕は普段難しい曲をあまり作らないのですが、「Sing My Pleasure」はメロディの跳躍が多いし息継ぎをするポイントがないし。でもヴィヴィはAIなので、息継ぎなしでもいけるだろうとか(笑)。

八木:実際に歌うのは人間なんですけどね(笑)。最初にいただいた時は「すごく難しいな」と思ったんですが、「難しい」ばかり言っていてもしょうがないので、とにかくたくさん歌って体に馴染ませました。

▲ヴィヴィ(Vo.八木海莉)「Sing My Pleasure」

神前:Aメロ冒頭の八木さんの表現は、すごく良かったですよね。〈光を〉のところは、ともすればツルッとした表情のない歌になりかねないメロディですけど、“八木さん節”って言うのかな。ちょっとこぶしを回すような感覚があって、あれがすごく曲にハマったなと思います。僕はあのAメロがいちばん好きです。

八木:ありがとうございます。最初の〈光を〉は、言葉の通り光をイメージして、ちょっと尖らせる歌い方をしようと考えました。

神前:あとさっき八木さんの歌声の魅力の話で、言いそびれましたけど、八木さんの声ってペンタトニックとブルースの匂いがするんです。西洋的なドレミファソラシドの音階とは違う、ドレミソラドだったり、ちょっとアジア的な土の感じがすると言うか、独特の生々しさがあって。無機的なのにそういう匂いがするのは、すごく面白い。

八木:とても嬉しいです!そのお言葉、脳内に録音しました(笑)!

神前:そんな八木さんの歌声から、影響を受けて書いた曲もあって。「Sing My Pleasure」のカップリング曲「Happiness」は、もちろんヴィヴィの歌ではありますが、八木さんからもインスパイアを受けて作りました。アコースティックギターで始まるのも、八木さんへのリスペクトを込めているところです。

八木:聴いた時は、「ウワ~!」ってすごくうれしかったです。とても大好きな曲です。ありがとうございます!

――その八木さんの歌声については、ネットで高評価が集まっています。

八木:すごく嬉しいです。自分の歌声について、たくさんの人がいろんな意見を言ってくださって、それを読んで自分の声のことを客観的に知ることができて勉強になっています。

――5月26日には『Sing My Pleasure』のCD購入者限定ライブが開催されましたが、いかがでしたか?

八木:ライブをするのが昨年YouTubeライブをやって以来なので、みなさんの前で歌うのは1年ぶりくらいでした。みなさんにCDを手に取っていただいた上で歌うことになるので、ヘタクソって思われたらどうしようと思ってめちゃめちゃ緊張したんですけど、歌いだしたら楽しく歌えたので良かったです。

神前:すごく堂々としていました。リズムもピッチもいいし、僕は安心して聴いていました。

――あと、Spotifyの国内バイラルチャートで1位を獲得するなど、配信チャートを賑わせています。それはどう受け止めていますか?

神前:アニソンは、アニメを見てもらって初めて音楽にも耳を傾けてもらえるものなので、そこはアニメの力が大きかったと思います。その上で気に入ってもらえたことは、非常に嬉しいです。

八木:アニメの力と神前さんの力があってこそで、その上で私は歌えていると感じています。

――この『Vivy』をきっかけに、八木さんの音楽活動はさらに広がっていくと思いますが、何か将来的なビジョンはありますか?

神前:それは僕も聞いてみたい。

八木:1年半くらい前から作詞作曲も始めているので、自分の曲でライブができるようになりたいです。

神前:八木海莉さんという一人のアーティストとして、どういう音楽をやっていくのか楽しみです。いい音楽を聴いて育っているので、彼女のセンスにとても期待しています。要注目です!

八木:ありがとうございます!

――この機会に、お互い聞きたいことはありますか?

八木:じゃあ、神前さんにとって「いいメロディ」とは何ですか?

神前:すごくいい質問ですね。僕は、お約束と裏切りのバランスがちょうどいいことだと思っています。気持ち良くて「これだよね」と言ってもらえるお約束の部分を守りつつ、「お!そうくるのか!」と言ってもらえる意外性や、その曲にしかないアイデアが、バランス良く入っていること。でも歌を歌う人が作るメロディは、湧き出てくる芯の太さみたいなものがあるだろうし、僕はあくまでも提供メインで、八木さんは自分の表現手段として作るわけだから、その違いは大きいと思います。それに八木さんのような方の楽曲制作は、きっと自分を限界まで掘り下げていくことの楽しみがあるんじゃないかと思います。

――八木さんが歌いたい歌は、どういう歌ですか?

八木:私がRADWIMPSさんにハマったのは、「歌詞ってこんなに自由に書いていいんだ」と歌詞の自由さに惹かれて好きになったんです。だからいい歌詞の曲は歌いたくなりますし、自分でもそういう曲を作りたいんですけど……素直に歌詞を書くのが苦手で、ちょっと濁したくなってしまうんです。ちょっと考えさせると言うか、面倒くさい歌詞になりがちです。でもそれが良くて、そういう曲を書きたいし、そういう歌を歌っていきたいと思っています。

――では最後になりますが、ヴィヴィは「歌に心を込めるとはどういうことか」と悩みます。八木さんにとって、歌に心を込めるとはどういうことだと思いますか?

八木:最初に『Vivy』のお話をいただいた時に、すごく考えました。AIなのに歌に心を込めると説明を聞いて、AIなら歌に心を込めたように聞こえる歌い方ができるんじゃないかとか、いろいろ考えたんです。

神前:ボカロ世代っぽい発想ですね(笑)。

八木:そういう技術があってもおかしくないと思って。でも、「心には定義が無い」とマツモトが言っていて、定義は比べるものが無ければ作れないものなので、心を込めることは一人ではできないことだと思いました。そう考えると、思いを込めた歌が相手に届いてその人の心に残ることが、歌に心を込めるということなのだと思います。私もそういう歌を歌っていきたいです。

神前暁「Vivy -Fluorite Eye’s Song- Original Soundtrack」

Vivy -Fluorite Eye’s Song- Original Soundtrack

2021/06/30 RELEASE
SVWC-70539/40 ¥ 3,850(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.Project : Singularity
  2. 02.The Archives
  3. 03.Smile a Little More
  4. 04.Navi -Usual Conversation-
  5. 05.Hacking
  6. 06.Matsumoto, the Stuffed Bear
  7. 07.The Scourge of the Future
  8. 08.Vivy -The First Battle-
  9. 09.The Minutes Are Ticking Away
  10. 10.A Flowchart of Fate
  11. 11.On-Screen Malevolence
  12. 12.Vivy -Progressive-
  13. 13.The Mission at Hand
  14. 14.Vivy -Cutting Edge-
  15. 15.Anti-AIism -Theme of Toak-
  16. 16.”It’s not about how long we live, it’s how we live.”
  17. 17.Vivy -Unrivaled-
  18. 18.When It’s All Over
  19. 19.Putting Forth My Heart and Soul
  20. 20.Matsumoto -He Will Surely Come-
  21. 21.Entrusted Future
  22. 22.Peaceful Moment in a Sunrise
  23. 23.The Pinky Promise
  24. 24.Remembering You, Forever

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