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【かわさきジャズ2019 まらしぃ with 初音ミク、鏡音リン piano acoustic live】開催記念インタビュー



まらしぃインタビュー

 アニメや、ボーカロイド、J-POPなど、ジャンルを越えた楽曲を独自のスタイルで披露し、その投稿映像の総再生回数が6億回を超える人気ピアニストのまらしぃが、2019年11月17日に開催される【かわさきジャズ2019 まらしぃ with 初音ミク、鏡音リン piano acoustic live】で、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社が発表するボーカロイドの「初音ミク」と「鏡音リン」とライブ初共演を果たす。2013年にTOYOTAアクアのCMで話題を集めたまらしぃは、これまで多くの初音ミクの楽曲を投稿してきたが、ステージで共演するのは今回が初めてだ。

 この度、かねてから初音ミクの大ファンであったまらしぃと、初音ミク、鏡音リンの開発者であるクリプトン・フューチャー・メディア株式会社の佐々木渉氏が対談を行った。両者に初共演が実現するまでの経緯や、当日初披露されるという新モデルの初音ミクと鏡音リンのことについて、そして公演の見どころなどをたっぷりと語ってもらった。

――まらしぃさんが昔から初音ミクの大ファンだということは、ファンの中でも有名なことですが、今回の共演ライブが決まったときの感想を聞かせてください。

まらしぃ:とても、とても嬉しかったです。初音ミクさんの楽曲を発表させてもらっていますが、それよりも前から他のボカロPさんが作られた音楽も好きだったんです。あと初音ミクさんのキャラクターが好きで、十何年か前に秋葉原でミクさんの「ねんどろいど」を結構買っていたんですよ。そこからねんどろいど集めが趣味になり、ミクさんがきっかけでねんどろいどやフィギュアを集めるようになったんです。ミクさんは僕が大好きな歌姫なので、今回一緒にやれるのはすごく光栄で嬉しいし、もう胸がいっぱいです!

佐々木渉(以下:佐々木):僕からすれば、VOCALOIDを様々なアプローチで盛り上げたクリエイターさんたちがいて、そのおかげで初音ミクが多方面に知れ渡っていたのは大前提で、特にまらしぃさんはピアニストとしても演奏家として楽曲の良さを広げてくれている稀有なイメージがあります。こういう機会で、まらしぃさんの生演奏に参加させてもらうのは、やりたくてもできなかったことなので、とても感慨深くて、こちらこそ胸いっぱいですね。一昨年くらいから実験的に、初音ミクがミュージシャンの方々と演奏で絡む音楽ライブやイベントを始めているのですが、ライブ活動をたくさんされているまらしぃさんは、セッションという部分においては初音ミクの先輩だと思っています(笑)。初音ミクはやはりデジタルソフトウェアであり、生々しい表現は苦手なので、まらしぃさんの生のピアノ演奏に上手く付いていけるように頑張らなくてはと思っています。ファンの方々に対しては、まらしぃさんの自宅のPCの中で歌っているミクが、実際にまらしぃさんと一緒にライブをやるという見え方ができればいいなと。作曲者とバーチャルな歌い手が共演するのが当たり前になる……というのは言いすぎかもしれませんが、未来に広がっていく可能性の一つとして少しずつ歩んでいければいいなと思います。

まらしぃ:すごく嬉しいです。今回のライブが決まって、それをニコニコ動画の生放送で発表させてもらった時に、いつも放送や動画や楽曲を聞いてくれるファンが、自分のことのように喜んでくれて、「おめでとう!」って祝福してくれたんです。僕がミクさんを大好きなのを、みんな知っているので、「ライブに行きます!」と言ってくれる人もいました。確かに僕のミクさんと、他のボカロPさんのミクさんの特徴は、それぞれあるとは思うんですけど、僕の場合は二次創作的な設定でニュアンスを受け取ることがあって、やっぱり僕の中のミクさんはミクさんという憧れの存在なので、僕の特色を出していくことはあまり考えていないです。ミクさんと一緒のライブが、なかなかない機会だとも佐々木さんに言っていただいて、本当に名誉なことだと思っています。


――自分の音楽ではあるものの、自身よりも初音ミクを全面に押し出していると。

まらしぃ:僕はミクさんを歌姫と認識していまして、僕は憧れの歌手と一緒に音楽をやっているんだという気持ちと、個人的にキャラクターとして大好きだという、この2つの気持ちがあるため、とても特別なニュアンスを持っています。

――そうだったんですね。佐々木さんにお伺いしたいのですが、【かわさきジャズ】では、昨年の初音ミクと巡音ルカとジャズピアニストの佐藤允彦さんのライブが初めてのセッションの場になりましたが、これはどういう経緯で始まったのでしょうか?

佐々木:【かわさきジャズ】さんから日本コロムビアさん経由でお声がけいただきました。その数年前から初音ミクが冨田勲さんの楽曲をアコースティック・アレンジで歌う企画がありまして、佐藤允彦さんは、その時にご一緒したんです。ただ、当時はアニソンやポップスのジャズアレンジでご一緒していた中で、「せっかくなので、いつかジャズでもやりたいですよね」と僕がポロっと言ったところ、「クリプトンさんは熱意を持って初音ミクにジャズスタンダードを歌わせるチャレンジをしたいんだ!」という流れになりまして(笑)。逆にストレートなボールが飛んできた感じで、去年の今頃はジャズシンガーの方や、佐藤允彦さんからディレクションを頂きながら、慣れない英語の歌詞にヒイヒイいいながら、「スマイル」「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」といったスタンダードを作りこんでいました(苦笑)。

――そんな裏話があったんですね。まらしぃさんはジャズもお弾きになられるんですか?

まらしぃ:昔、クラシックを習っていたんですけど、先生と喧嘩して、ピアノを辞めた時期がありまして……。その後、父親から「クラシックがダメならジャズはどうだ?」と勧められて2~3か月くらい習っていたんですが、当時の僕はピアノへのモチベーションがゼロで、全くやる気がなかったので、すぐに習うのも辞めてしまったんです。なので、実を言うと、僕はジャズが弾けないんですよ(笑)。鳥取県の【境港妖怪ジャズフェスティバル】に出させてもらったときは、他の出演者がジャズのすごい演奏家ばかりだったので、「ジャズなんてできないのに、どうしよう?」って思いました。でも、ジタバタしてもしょうがないので、僕なりの演奏をしてこようと心に決めて演奏したところ、意外にもお客さんに受け入れてもらえて、ジャズフェスでジャズを演奏しなくても大丈夫なんだと思いました。なので今回も、少し甘えられたらいいなと思ってます(笑)。

――(笑)。今回のライブもこれまで通りに演奏されるということでしょうか?

まらしぃ:そうですね。「これが僕のジャズです」って言い張ろうと思います。ハハハ(笑)。

――今回のライブはどんな内容になるのでしょうか?

佐々木:もうセットリストは決まっています。まらしぃさんのソロピアノで構成される第1部と、まらしぃさんの演奏に、初音ミクと鏡音リンが交互にシンガーとして加わるスペシャル・ライブセットの2部構成になっています。まらしぃさんには初音ミクや鏡音リンが歌っているオリジナル曲をたくさん演奏していただけるようで、しっかりとカラーが出る公演になると思いますので、その辺りがお客さんに伝わると嬉しいですね。

――ステージ上にモニターが立てられて、ミクとリンが登場するのでしょうか?

佐々木:そうです。CG周りの仕組みなどは変更点も多く、昨年よりも映像などを中心にバージョンアップしたものをお届けできると思います。

――プレイヤーも出演されるのでしょうか?

まらしぃ:僕一人のピアノと、ミクさんとリンさんというシンプルな構成になっています。

――ジャズのライブでは、即興するのが当たり前という空気がありますが、今回はそういった即興演奏をされる予定ですか?

まらしぃ:普段からなのですが、僕は原曲を大切にしたい派で、もちろん細部で何かすることはありますが、基本はオリジナルを大切にしたいと思っています。ピアノでソロ演奏する時は、もしかしたら即興で演奏するかもしれませんが、ミクさんとやらせてもらうときは、せっかくミクさんの素敵な楽曲をやらせてもらいますので、そのまま大切にやりたいと思っています。



――佐々木さんにお聞きしたいのですが、さきほど今年は昨年よりもバージョンアップされたものが楽しめるとおっしゃっていましたが、このアップグレードした部分についてもう少し詳細を聞かせてもらえますか?

佐々木:まず、先ほどのジャズっぽいかどうかというところですが、あくまで歌モノですので、アドリブやアレンジを織り込んでいくというのではなく、決まっているメロディーをまらしぃさんがピアノでアレンジしていくパフォーマンスになります。歌唱部分に関しては、ライブ会場でミクやリンが歌う意外性や、ライブパフォーマンスっぽい声のゆらぎや、勢いのある表現といった部分も入れていきますので、ライブっぽい味わいの歌声を楽しんでいただけたらと思います。今の初音ミクやリンでできることに新しい音声技術のアプローチも加えて、面白いことをやりたいと思っています。また、今回、ステージ上に登場するミクとリンは、セガさんとの新しいゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ!feat. 初音ミク』のCGモデルにもなり、特にリンはこのライブが初お披露目になります。アニメタッチに可愛らしく仕上がっていますので、そのビジュアルも楽しみにしてほしいですね。

――となると、まらしぃさんが『プロジェクトセカイ』モデルの初音ミク&鏡音リンとコラボレーションする第一弾アーティストになるわけですね。

佐々木:音楽でいろんな人とセッションしたり、みんなで歌ったりするのが、このゲームのコンセプトになっていて、今後スマホアプリ用のリズムゲームとして展開される予定なのですが、そのゲームのサイドプロジェクト【Live Session!】シリーズとして、今後いろんなライブイベントをしていきたいと思っています。今回は、その関連イベントのプレ・イベントになりますね。来てくれたお客さん方に、ステージ上のアーティストの熱量や緊張感が伝わるようなイベントにしたくて、今回は、最新の音声と、可愛らしくもスタイリッシュなCGと、まらしぃさんのピアノ演奏の組み合わせがピッタリだと感じています。

まらしぃ:いやぁ、名誉なことですね! 音声と見た目のどちらも楽しめるということなんですね。今回はピアノしかないので、今までのバンドサウンドに乗ったボーカロイドの声とは違うアプローチになると思います。新しい技術によって、より伝わりやすくなっているのでしょうから、僕自身もそれがものすごく楽しみですし、新しいビジュアルにも期待しています。今後スマートフォンでもアプリで楽しめるそうで、いっぱい課金します(笑)。

佐々木:いやいやいや(笑)。

まらしぃ:すごく壮大で素敵な企画の初めの段階に携わることができて、ミクさんが大好きな僕にとって、とても嬉しいことですし、素敵なスタートを切れるように頑張ろうと、とてもやる気が出ます。

佐々木:今までの初音ミクは、分厚いバンドサウンドに乗せて、デジタルっぽくミクらしく歌うのが多かったのですが、今回のライブはピアノとミクとリンの、タメやゆらぎのある歌声でセッションするので、お客さんもリラックスしてそれぞれの音色が聞ける最高のシチュエーションだと思います。とても細かい音のディテールまで楽しんでもらえるのではないでしょうか。

――いろいろな“初”が集まったライブで、面白くなりそうですね。

まらしぃ:当日はいつも僕のライブに来て下さっている方や、ミクさんのライブが大好きな方々が多いかもしれませんが、みんなで好きなものを楽しむ時間を共有できたらいいなと思っています。

佐々木:初といえば、僕がクリプトンに入って最初にした仕事が、まらしぃさんが共演されている(レーベルの)ワールドアパートに所属されているヒイズミマサユ機さんのバンドのPE’Zのドラマーの航さんのドラムのサンプリング素材集の担当だったんです。クリプトンは音楽クリエイターのためのツールも販売しているのですが、10年以上前に、しかも自分が初めてクリプトンで仕事した関係者の方とお仕事しているので、なんだか感慨深いものがあります。

――これまでの経験が今回のライブに繋がっているんですね。2017年にまらしぃさんはボカロカバー・アルバム『Vocalo Piano ~marasy vocaloid songs cover on piano~』を発表されて、そのアルバムのツアーもされましたが、その時も初音ミクと共演したわけではないので、今回が本当に初共演になるのですね。

まらしぃ:そうなんです。北海道で開催された【SNOW MIKU】や【マジカルミライ】で出させてもらった時も、僕一人でやらせてもらったので、ステージ上でミクさんとご一緒するのは、本当に初めてなんです。

――ライブまで一か月ほどありますが、ご心境はいかがですか?(インタビューは10月上旬に実施)

まらしぃ:直前になるとガチガチに緊張しちゃうんですけど、まだ今は楽しみな気持ちでいっぱいですね。

――現在は全国ツアー【marasy collection piano live tour 2019】に気持ちが向かっているかと思いますが、サイドプロジェクトなど、別のお仕事が同時進行することもありますよね?

まらしぃ:ありますが、オンとオフを切り替えるのは昔から嫌いじゃなくて、逆に一つのことしかできないので、何かが並行して動いている時も、ツアー中はライブのこと、ライブが終わったら別のことと、どちらかに集中していることが多いです。今回の【かわさきジャズ】でのライブはツアー中に行われますが、ちょうどツアーがいい具合に脂が乗っている頃に行われるので、自分でも気持ちが乗っている時期なんじゃないかと思います。

――ちょうど先日、ミクの新曲「霖と五線譜」も発表されましたね。「出だしからまらしぃっぽい」というようなコメントもたくさん残されていましたが、この曲はどういう経緯から作られたのでしょうか?

まらしぃ:依頼を受けるときは別ですが、普段、何かのために曲を作ることがなくて、ふとした時に思いついたことをストックしているんです。今回の初音ミクさんとの共演ライブが決定した頃に、フワッと新しい曲を作りたいと思いついて、それを煮詰めていった結果、この曲が完成しました。楽曲にはリズム隊が入っていますが、楽器編成はわりとアコースティックよりで、今回のライブで演奏することを想定して作りました。

佐々木:僕もこの曲を聴かせてもらいました。ピアノが優美でありながらとってもポップなアコースティック感溢れる楽曲ですよね。ほんと、今の御時世、こういったまらしぃさんの曲を聴いて、ジャズ/ラテン・アレンジやアコースティックに興味を持ちはじめるリスナーも多いと思います。インターネット音楽の時代に、まらしぃさんやOSTER projectさんなどがいなかったら、こういうテイストの楽曲に触れない人たちがたくさんいたんだろうなと思うと、やっぱり生楽器っぽい演奏のエモーションが好きな子たちの受け皿として、まらしぃさんたちの活動は今、ものすごく重要だと思います。シリアスなジャズピアノやクラシカルも良いですが、音楽を聞き始める頃合いでは、取っつきにくい部分もありますし、きれいで耳障りの良いピアノの音色が、広がりを持って響いているという意味で(TOYOTA「アクア」の)CMで使われたまらしぃさんの「千本桜」や「チョコレイト・ディスコ」は良いきっかけになって、ピアノに興味を持つファンを増やしているのだろうなと感じます。

まらしぃ:僕は、昔にピアノを辞めたことがありましたが、僕の音楽を聴いてくれている人から「僕/私も昔にピアノを辞めましたが、久しぶりに弾いてみました」とか、「またピアノを弾くために電子ピアノを買いました」ってコメントをくれたことがありまして、こういうことを聞くと、自分が活動する意味とか、音楽をやっていて良かったなって実感できます。


――実際に曲を作られるとき、特定の何かをイメージされながら作られるんですか?

まらしぃ:うーん、出来上がったらそうなっていたということが多くて、最初からそう作ろうとはあまり考えていないですね。ボカロに限らないですけど、ピアノソロ曲を作るとき、キーワードやビジュアルをイメージして作るのが好きなんです。ただ、この「霖と五線譜」はアコースティック・ライブで発表するのと、ちょうど作ろうと思った時が、僕が住んでいる名古屋でやたらと雨が降っていたので、雨の曲もいいかと思い、作ったんです。

――【かわさきジャズ】での初音ミクと鏡音リンとの共演オファーが、この曲を作るきっかけのひとつとなったわけですね。新しい取り組みから新しい何かが生まれるというところが、クリプトンさんが描く今後のサイドプロジェクトと上手く繋がっているようにも思えますね。

佐々木:そうですね。最近話題のストリートピアノやLove Pianoを楽しそうに演奏している方々を見ても、その演奏に出会って足を止めて聞いている方を見ても、音楽と出会う瞬間の一期一会の光景だなぁ! と見えてしまうのですが、まらしぃさんのピアノは、まさにその源流のような、純粋で素直なイメージなんです。音楽や音との出会いってiTunesで音楽を検索することも一つですが、ときに、演奏してくれる人がいて今ここで立ち会えることが有り難い! と思いながら聴きたいじゃないですか!? そういう心ってネットにもあって、YouTubeでいろんな動画を観たからこそ、「ライブにも行きたいなぁ。直接聞きたいなぁって」って思う人達がいる。だから、今回はまらしぃさんを通じて、そんな素敵な流れに繋がっていきたいと思っていますね。

――最後に、【かわさきジャズ】へ向けて、意気込みをお願いします!

まらしぃ:今回のライブは、ボカロ大好き、ミクさん&リンさんファンである僕にとってはすごく嬉しく、そして名誉なことなので、共演がとても楽しみです! ミクさんの声が新バージョンとのことで、ピアノ演奏させていただくことでどんな感じになるのかとても楽しみです。演者としてもですけど、いちファンとして、このライブを楽しみにしています。これをきっかけに新しいステキな流れが生まれればと思います。そうなるように頑張ります。

佐々木:ライブという部分では、まらしぃさんが初音ミクたちの先輩ですので、今回のライブから、我々もいろいろ勉強できればと思っています。まらしぃさん、どうぞよろしくお願いいたします!

まらしぃ:こちらこそ! とても楽しみにしています!

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