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ロバート・グラスパー来日記念インタビュー&「#グラスパーに聞きたいこと」への回答が到着
2019年1月にトリオ+DJ編成で東阪のビルボードライブで来日公演を開催したロバート・グラスパー。現代ジャズ・シーンにおける最重要ピアニストとして、R&B、ヒップホップ、ロックなどのエッセンスを融合したボーダーレスな音楽性で、ロバート・グラスパー・エクスペリメントやR+R=NOW、オーガスト・グリーンなどの革新的なプロジェクトを次々と牽引してきた彼にインタビューを敢行。また、来日記念特別企画として実施された「#グラスパーに聞きたいこと」を通して集まった質問も本人に直接投げかけた。
ジャズの過去だけではなく現在にも注目して欲しい。
俺たちはマイルスとは違う時代にいてサウンドも変化しているのだから。
――昨年はR+R=NOWとして『コラージカリー・スピーキング』をリリースしましたが、自身としての新作リリースの予定はありますか?
ロバート・グラスパー(以下:ロバート):来月(2月)から『ブラック・レディオ3』に取り掛かるつもり。まだどんな風にするか全く決まってないんだけど…ハハハハ(笑)! いくつかアイデアは浮かんでいるんだけど、どうだろう、実際にやってみてって感じだな。スペシャル・ゲストを入れるから数か月かかるだろうね。今のところゲストについてはノーアイデアだからなんとも言えないけどさ。
――新作『ブラック・レディオ3』の完成を楽しみにしています! ところで先日、LGBTQコミュニティとホームレスを支援するイベントでシンディ・ローパーと共演している映像を見かけましたが、素晴らしい演奏でした。
ロバート:夢が叶った瞬間だったよ! 彼女と「タイム・アフター・タイム」を披露したんだ。俺、この曲が大好きでさ。ずっと前からソロの時やトリオの時に演奏していてね。オーディエンスの反応も良くて一緒に歌ってくれたりするんだ。
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――どういった経緯で今回の共演が実現したのでしょうか?
ロバート:彼女のスタッフが、俺が「タイム・アフター・タイム」を演奏している動画をYouTubeで観て、それをシンディに見せたらしいんだ。それで、シンディが「彼と一緒にやりたい」って言ってくれたんだよ! シンディ側から共演のオファーがあった時は二つ返事で引き受けた。「どの曲を一緒にやるんだ?」って聞いた時に、「タイム・アフター・タイム」って返事が来たときは開いた口が塞がらなかったよ。実はこのイベントの日に自分のライブが入ってたんだけどキャンセルしたんだ。シンディとの共演は夢の一つだったから、これは逃せない大事な機会だと思ったし、LGBTQやホームレスをサポートするために寄付金を募る大切なイベントでもあったから、やる価値のあると思ったんだ。
――実際にシンディと会うのはこのコンサートが初めてでしたか?
ロバート:シンディに会ったのも共演もその時が初めてだった。イベント前日の夜に「タイム・アフター・タイム」を1、2回、一緒にやったら、そこにいた全員が泣いよ。彼女のチームも「30年くらいこの曲をやってるけどこんなことは初めてよ」って言ってたな。
――新作にシンディがゲスト参加したら最高でしょうね!
ロバート:そうだね!
――インスタグラムで息子さんとの投稿をよく見ますが、父親として息子さん世代に教えたいこと、伝えたいことはありますか?
ロバート:「夢に向かってまっすぐに進め!」「楽しめ」ってことだな。仕事はつまらないって言う人がいるけど、俺は好きなことを仕事にして楽しんでる。好きなことだったらなんでもいいんだ。好きなことを仕事にして生きるなんて、最高じゃん! 息子にはいつも「何がしたい?」って聞いている。彼の夢はしょっちゅう変わって、ドラマーになりたいって言うときもあれば、俳優とかピアノ奏者になりたいっていうときもある。ピアノもドラムセットも買って、今は演技のレッスンにも通わせてるよ。あとダンスも好きだからダンス教室にも通わせてる。とにかく「好きならやってみろ」って言ってるんだ。のちに彼が何をやり続けたいかっていうのが分ってくるだろうからね。絶対にミュージシャンになってほしいというわけでもないし。彼の好きなことをしてほしいね。
――それでは続いて、以前インスタグラムで「You’re gonna kill the music if you only support people who are dead(故人ばかり応援してたら、お前ら、音楽を破滅させるぞ)」とメッセージをジャズポリスに向けて投稿していましたが、ジャズ、ヒップホップ、R&Bなど現代の音楽の在り方について、どう思いますか?
ロバート:ジャズ・コミュニティは過去にとらわれ過ぎなんだよ。今を見ずに無視してばかりで、音楽を殺してしまっている。だからジャズは他ジャンルより弱いんだ、他のミュージックは常に進化して競争があるけどジャズは全然それがないからさ。ジャズはクラシックみたいに過去の作品のことばかり持ち上げている。まるでもう死んでいるかのように。クリスチャン・スコットやマーカス・ストリックランドとか俺たちは、“今”のジャズ・ミュージックを作っているんだ。でも、ジャズのこととなるとジョン・コルトレーンやマイルス・デイビスのことばかり話してる奴らがいる。俺は彼らが好きだし、当然彼らを批判するつもりは全くない。彼らだって常に新しいミュージシャン達を参加させていたからさ。
――そういった考えを重視する人々をどう変えていく必要があると思いますか?
ロバート:考え方の問題だからね。もっと俺たちにチャンスを与えてほしい。俺たちを表紙に載せろって言い続けて、もっと露出機会を増やすことが必要だと思っている。そうすればもっと注目が集まるし、若い人たちにもジャズに興味を持ってもらえるだろ。でも人々は、“デクスター・ゴードンの再発盤”とかを好むけど…そういうことじゃないんだ。わかるだろ? それに、もっと若手や同世代にジャズをPRさせろとも言いたい。エスペランサ・スポルディングとか最高にいい音楽を作ってる。俺たちとか、もっと若い世代は、デクスターやジョン・コルトレーンを一括りに見てなんかいないよ。そもそもサウンドが違うんだからさ。ジャズの過去だけではなく現在にも注目して欲しい。俺たちはマイルスとは違う時代にいてサウンドも変化しているのだから。
――ありがとうございました。さて、ここからは来日記念企画「#グラスパーに聞きたいこと」を通してファンから集まった質問にお答え頂きたいと思います!
「#グラスパーに聞きたいこと」への回答が到着!
「初めて日本に来た時に驚いたことや感動したことは何でしょうか?」
ロバート:オーディエンスがめちゃくちゃ静かだったこと(笑)。演奏しながら「みんな楽しんでるのかな…?」「俺のこと本当に好きなのかな?」って心がざわついたよ。でもシーンとした場面から演奏が終わって歓声とか拍手が聞こえた時は安心したね。日本の文化を知った瞬間でもある。しっかり聴いてくれている証拠だろ? 初めて来たときは、そんなこと知らなかったから、最初、俺のこと嫌いなんじゃないかと思ったよ(笑)。
「日本のアーティストで影響を受けた人はいますか?」
ロバート:上原ひろみかな。ひろみはドープだよ。2、3回共演したことがあるけど、クールで面白くて、アメイジングなプレイヤーだ。あまり物事を深刻に考えないタイプで、ジョークも言うし、自分自身を楽しんでいて、すごくナチュラルなんだ。俺はああいうアーティストが好きなんだよな。
▲Hiromi - The Tom and Jerry Show - Later… with Jools Holland - BBC Two
「初めて見たライブはどのアーティストのライブでしょうか?」
ロバート:EW&F…いや、マイケル・ジャクソン。あれは、ジャクソン5の【Victory Tour】だった。俺はまだ7歳で父さんに連れられて行ったんだ。周りはマイケルの服装をした観客ばかりで「パパ、あそこにもあそこにもマイケルがいるよ!」って(笑)。
「物心がついた頃に好きだった音楽やミュージシャンを教えて下さい。」
ロバート:(即答で)マイケル・ジャクソン。間違いない。
――彼の影響でダンサーを夢見たことはありますか?
ロバート:いや、ダンサーになりたいと思ったことはなかったな。
「フェスやツアーで世界中を回ることが多いですが、体調のコンディションを保つ秘訣は何でしょうか?」
ロバート:ジムに通っているよ。数週間前に始めたばかりだけどね(笑)。それからビタミンとかサプリメントも飲むようにしている。でも全然続いたことがなかったから、ちゃんとやってみようと思ってるんだ。食生活にも気をつけて、体を動かしたりしてバランスが保つようにしている。
「演奏中の姿勢で背筋が伸びてて綺麗ですが、何か意識してトレーニングなどはしてますか?」
ロバート:背中痛めたことがあって、今も完治していないんだけど、昔は背中を曲げてプレイしてたから、今は背中をまっすぐに、姿勢よく弾こうとを意識しているよ。とにかく背中を伸ばせって、意識的に直している。だいぶ良くなったてきたね。
「今まで演奏した中で、印象的だったライブのベスト3とその理由を教えてください。」
ロバート:3つだけなんて選べない(笑)。
「次作で共演したいアーティストは?」
ロバート:今のところ答えられない。たくさんいるからね(笑)。
「最近気になっているアーティストは誰ですか?」
ロバート:そうだな…最近それほど音楽を聞いてないけど、アンダーソン・パークとH.E.R.はドープだよ。あと、ジ・インターネット。こういう奴らが俺は好き。
――ちなみに、今年の【グラミー賞】には参加されますか?
ロバート:当日はショウがあるからロサンゼルスにいるけど、今年行くかは決めてない。正直、ノミネートされてないとつまらないし。過去にグラミーを獲ったことがあるから毎年2枚、フリーチケットがもらえるんだ。でも、やっぱり今年は行かないと思うな。
「ディアンジェロとの共演の可能性はありますか?」 (インスタグラムのストーリーでリハ映像を載せていたとか…?)
ロバート:(満面の笑顔で)彼との共演は俺の夢だよ。20年前にニューヨークでディアンジェロが『Voodoo』のレコーディングをしていた時に初めて会ったんだ。その時は、「どうも」って軽く挨拶しただけだったけどね。ストーリーに載せたのは2017年の時の映像で、俺とコモンとカリーム(・リギンス)のオーガスト・グリーンっていうバンドでリハーサルをしていた部屋の隣部屋で、ちょうどディアンジェロもリハをしてたんだ。俺たちの部屋を訪ねてきた時に「え? もしかしてロバート・グラスパー?」って声をかけられて、それで神様を拝むみたいに「ははーー」って(笑)。俺はそれを見て「やめてくれー」って言ってさ(笑)。彼が俺のことを知ってるっていうだけで幸せだったよ。ディアンジェロと共演なんて、いつかやってみたいね。昔から大好きなアーティストが俺のことを知ってるなんて、ホントに信じられないよ。
「DJ ジャヒ・サンダンスとの出会いを教えてください。」
ロバート:2002年か2003年頃に、ニューヨークで出会ったんだ。ミシェル・ンデゲオチェロのショウでジャヒがDJしてたのがきっかけだったね。クリス・デイヴがミシェルのドラマーをしてて、クリスに紹介されたんだ。あのショウはすごく良かったよ。
――そういえば、昨年10月にクリスやデリック・ホッジと行ったBlue Note Jazz Clubでの長期公演で、映画『ブラックパンサー』のチャドウィック・ボーズマンとバックステージでお話されている写真を見ました。すごいメンバーですよね。
ロバート:チャドウィックとは『ブラックパンサー』の前から知り合いなんだ。ジル・スコットのショウでロサンゼルスにいた時に、息子と客席を歩いてたら、彼から「大ファンです。あなたの音楽を使って役の準備をしたんです!」って言われた。その時は彼がジェームズ・ブラウンを演じてるってことを知らなくて、「え? なんで?」って感じだった。その時に連絡先を交換して、当時発売されたばかりの『アートサイエンス』のリリースパーティーにも招待したんだ。それから時々メールする仲になってね。バックステージの写真は、ちょうどチャドウィックもニューヨークにいて俺たちのショウを見に来てくれたんだ。
――余談なのですが、『ブラックパンサー』に出てくる(マイケル・B・ジョーダン演じる)キルモンガーとクリスチャン・スコットって似てると思いませんか?(笑)
ロバート:アクセサリーの話だろ? 面白い話があるんだけど、実はキルモンガーのアクセサリーを担当したのがクリスチャンの元カノなんだよ。元々、クリスチャンのアクセサリーを作っていて、彼と別れた数年後に『ブラックパンサー』の仕事が来たらしいんだ。
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――そうだったんですね! 面白いお話ありがとうございます!
「ビルボードでのプレイ機会が多いですが、どういったポイントがこの会場の良さだと思いますか?」
ロバート:いい会場だよ。特にトリオの時は、大きな会場より、こういうこじんまりとした親密な会場の方が合って良いと思うね。
――たくさんの質問に答えて頂き、ありがとうございました!
コラージカリー・スピーキング
2018/06/15 RELEASE
UCCQ-1085 ¥ 2,750(税込)
Disc01
- 01.チェンジ・オブ・トーン
- 02.アウェイク・トゥ・ユー
- 03.バイ・デザイン
- 04.レスティング・ウォリアー
- 05.ニーデッド・ユー・スティル feat.オマリ・ハードウィック
- 06.カラーズ・イン・ザ・ダーク
- 07.ザ・ナイト・イン・クエスチョン feat.テリー・クルーズ
- 08.リフレクト・リプライズ feat.スターリー
- 09.彼女=現在 feat.アマンダ・シールズ
- 10.レスポンド
- 11.ビーン・オン・マイ・マインド feat.アンバー・ナヴラン
- 12.リフレクト・リプライズ -MC ROB G ヴァージョン- (日本盤ボーナス・トラック)
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