Special

「ロバート・グラスパーをライブで聴き続ける理由」Text by 柳樂光隆 ~ロバート・グラスパー・トリオ with DJジャヒ・サンダンス来日記念特集



top

 2019年1月にトリオ+DJ編成で東京&大阪のビルボードライブに登場する現代ジャズ・シーンにおける最重要ピアニスト=ロバート・グラスパー。これまでに、 “ロバート・グラスパー・エクスペリメント” や “R+R=NOW” 、そして今回のトリオ編成 “ロバート・グラスパー・トリオ” と変幻自在なスタイルで、何度もファンを魅了してきた彼のライブの魅力はどこにあるのか?現代のジャズ・シーンに精通した音楽評論家の柳樂光隆氏に考察してもらった。

常に変化し続ける自在な才能
ロバート・グラスパーをライブで聴き続ける理由

 最初に観たのが2010年ごろなので、『Double Booked』と『Black Radio』のちょうど間の時期になる。そこから今まで、僕はロバート・グラスパーの来日公演をほぼ欠かさずに観ている。近年だとグラスパーを見るためだけにサマーソニックにも行ったし、フジロックに出ると決まれば苗場にも行った。「なぜ、そんなに何度も何度もロバート・グラスパーを観ているんですか?(よく飽きませんね)」みたいに言われることもある。言いたいことはわからないでもない。ただ、何回見ても飽きていない自分がいる。ここではその理由を考えてみたい。



▲Robert Glasper - So Beautiful (Live At Capitol Studios)


 意外に思えるかもしれないが、ロバート・グラスパーは同じフォーマットで来日したことはそれほど多くない。ロバート・グラスパー・エクスペリメントはもともと4人だったが、近年はギターとDJが加わったし、ヴォーカリストやラッパーが同行したこともある。その上、クリス・デイヴ、マーク・コレンバーグ、ジャスティン・タイソンと作品ごとにドラマーが変わっているし、ライブではデリック・ホッジからバーニス・トラヴィスへとベースも変わっている。結成当時はリオネル・ルエケやザ・ルーツのマーク・ケリーが在籍していた、との証言もある。つまりメンバーが固定されていないのだ。

また、ロバート・グラスパー・トリオはヴィセンテ・アーチャーとダミオン・リードの不動のリズムセクションだが、近年はDJが加わり4人編成になることも多い。次の1月のライブも同じ編成だという。そして、2018年はR+R=NOWという現代USジャズシーンのオールスターバンドでの来日もあった。そう考えると、そもそも毎回メンバーや編成が違うので、同じ名前でも同じ音楽とは言えないわけだ。



▲R+R=NOW - Collagically Speaking (Album Trailer)


 その上、アルバムごとにサウンドも変わっている。『Black Radio』と『Black Radio 2』の間でもかなり変わっていたが、ゲストを入れなかった『ArtScience』は編成から違う上に、それまでのイメージと全く異なる80年代的アーバンなサウンドを取り入れていて全く別のプロジェクトのようだった。また、『In My Element』と『Covered』はともにアコースティックのピアノトリオのアルバムだが、音の質感からリズムパターンまで、同じメンバーとは思えないくらいに違う。ライブではDJを加えて、DJが出すボーカル・サンプリングの伴奏をするようにトリオが阿吽の呼吸でブレイクビーツを作り出すこともあった。そうやって、常に変わり続けているのが、ロバート・グラスパーのサウンドなのだ。



▲ROBERT GLASPER TRIO I Jamboree Jazz Club


 ちなみにグラスパー自身のピアノやキーボードも変わり続けている。『In My Element』のころにあったハービー・ハンコックやブラッド・メルドーからの影響を感じさせる雰囲気は消えて、『Covered』では誰にも似てない個性を確立させている。最近はシンセでのミニマルなフレーズの中でリズムを細かく分解したり、ズラすように演奏するのにハマっている場面を見かける。実は、グラミー賞を取ってブレイクして地位を確立してからの、この10年でさえも、常に変化し成長し続けているのがはっきりとわかるのがロバート・グラスパーなのだ。

 そんな音楽家を見逃したくないのはリスナーとして至極当然のことだと僕は思う。おそらく僕は次の10年も彼を見続けるような気がしている。




関連キーワード

TAG

関連商品