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TOSHI-LOW(OAU)×佐々木亮介(a flood of circle) ビルボード対談

 11月も後半に入り、いよいよクリスマス・シーズン到来。普段はキリスト教に微塵も縁がないという人も、年末特有のウキウキしたムードにはつい足取りが軽くなってしまうはず。

 そんな季節に公演名に“クリスマス”を掲げ、ビルボードライブにて公演を行うロック・バンドが2組いる。一組はTOSHI-LOW擁するOVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND(通称OAU)、もう一組は佐々木亮介擁するa flood of circleだ。この2組は、キャリアやバックグラウンドは違えど、同じロック・シーンに軸足を置き活動してきた。そして、TOSHI-LOWと佐々木亮介は、ライブ会場での共演はもちろん、時には共に酒を酌み交わす先輩後輩でもある。

 今回はそんな2人を迎えての対談を実施。結果的に、先輩と後輩の楽屋での会話を垣間見るような、リラックスしつつも背筋がピンと伸びるような、独特の親密感のある対話となった。

俺らがビルボードって、もう異物感しかないでしょ(TOSHI-LOW)

佐々木:OAUは、去年もクリスマスにビルボードでやってるんですよね? TOSHI-LOWさんとクリスマスって、あんまりイメージが結びつかないけど…。

TOSHI-LOW:いやいや、やっぱり俺といえばクリスマスじゃない?(笑) まあ、確かに俺らがやってる音楽って、メシ食いながら楽しむようなイメージではないよね。というか、むしろそういう音楽への反抗として、俺らみたいなバンドがいるわけでさ。でも、こうして音楽そのものが大衆的になっていくなかで、俺らのお客さんにも「メシ食いながら楽しみたい」みたいな人は出てくるんだよ。で、それって結局は自分たちの音楽に多様性があったってことだからさ。フラッドもそうだよね。ただ泥臭いロックをやってるだけじゃなくて、それとはまたちがった妖艶な部分も、佐々木亮介にはあるわけで。まあ、さすがに俺もBRAHMANでこういうことをやろうとは思わないけどね。燕尾服がビリビリに破けちゃうから。

佐々木:ハハハ(笑)。でも、それこそロックンロールって、元々はブルースやジャズから分岐してきたものであるわけで。そのルーツに戻っていけば、おのずと俺たちもビルボード的な空気にハマる気がしてるんですよね。たとえばクリスマス・ソングにしたって、ビング・クロスビーの「ホワイト・クリスマス」みたいな白人のジャズもあれば、ナット・キングコールみたいな黒っぽいやつもあるじゃないですか。俺はそのどっちも好きだから、それを自分なりの解釈でやれたらいいなって。


▲Bing Crosby - White Christmas

TOSHI-LOW:でも、フラッドがクリスマスにビルボードでやる意味ってさ、「ここでそれ、やっちゃうの?」みたいなところにあるんじゃない?  そこはやっぱり、どう崩すかだよ。

佐々木:そうですね。どうしたって泥臭いところは出ちゃうと思う。いろいろ考えてるけど、きっと最終的にはいつものスタイルになっちゃうと思います(笑)。

TOSHI-LOW:俺はね、どうせやるならBGMにはしたくないのよ。で、去年はお客さんに向かって「酒おごれ!」みたいなことを言ったの。そしたら、みんなバンバン持ってきちゃってさ。もう、二部ではベロベロで「やべーな、これは」と。でも、最終的にはそれがブルースになるわけでさ(笑)。

佐々木:いいですね(笑)。座ってしっかり演奏するブルースもあれば、戦前のブルースみたいに、ベロベロでもギター1本で成り立っちゃうようなやつもあるわけで、そこは自分なりのやり方を見せたいなと思ってます。

TOSHI-LOW:その場所の雰囲気と調和するにはどうすればいいのかってことは、やっぱり考えるよね。でもさ、結局は絶対に調和しないんだよ。

佐々木:そうなんですか?

TOSHI-LOW:だって、俺らがビルボードって、もう異物感しかないでしょ。だから、前回はその異物感をそのまま出そうと思ってたんだけど、今回はもう、すんなりやりたいんだよね。別に合わせるってわけじゃなくてね。

佐々木:俺、そこがTOSHI-LOWさんの好きなところで。口ではけっこう土足で飛び込むタイプっぽいんだけど、実際はそれだけじゃないというか。それこそTOSHI-LOWさん、この前に会った時「お前らもアコースティックとかやった方がいいぞ」と言ってくれたじゃないですか。俺、けっこうそれを真に受けて、それで今回のライヴを決めたんですよ。TOSHI-LOWさんがテキトーに言ってることも、俺はけっこう真面目に聞いてるんですから。

TOSHI-LOW:テキトーじゃないよ(笑)。それにさ、土足にもルールがあるだろ。俺の土足は、ある程度の泥を払った上での土足なんだよ。まあ、どっちにしろ土足なんだけど。

佐々木:(笑) 。それこそ俺たちも土足のままで上がっちゃうタイプですけどね。とにかく新しいところに飛び込んでいくっていう。で、勝手に俺はそれを「TOSHI-LOWイズム」だと思ってるんですけど。

TOSHI-LOW:じゃあ、ぜひそこは俺イズムを継承して頂きつつ(笑)。佐々木の場合は、別にそこだけじゃないからね。たとえば、チバ(ユウスケ)とかベンジーって、俺とはぜんぜん違うじゃん。俺にはああいう色気がまったくないからさ(笑)。でも、お前にはそのふたつがどっちも備わってるんだよね。多様性があるっていうか。あとはもう、なんつーか、コイツは本当にバカだからな。

佐々木:ストレートに言いますね(笑)。

TOSHI-LOW:だって、フツーに俺とかチバと呑んでるんだよ? 「じつはコイツ、同世代の友達いねえんじゃねえか」って。

佐々木:実際そうかもしれないですね(笑)。でも、“友達いない者同士で仲がいい”みたいなのはありますよ。それに、俺はただ面白そうなところに飛び込んでいきたいだけなんで。

TOSHI-LOW:勿論それは感じてる。それに、本当はお前の選んでるところがいちばん面倒なんだよ。でも、そうやってお前がいつも面倒くさい方ばかりを選ぶのって、それこそロックだし、ブルースだと思う。

佐々木:嬉しいっすね。面倒くさそうな方に行きがちなのは、たしかにその通りだと思います。

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俺は死ぬギリギリまで粘ってる人が好きなんですよね(佐々木)


▲a flood of circle「花」

TOSHI-LOW:でもさ、去年の「花」っていうシングルを聴いたときに思ったんだよ。いつもロックンロールだブルースだって言うけど、なんかそれで自分を縛っちゃってるんじゃないかなって。もちろん、ジャンルや看板に拘るのもすごく大事なんだけど、そこに捕らわれちゃうと、やっぱり不自由になっちゃうから。だから、俺がひとつ思うのは、お前は何も言わなくなったら本物だってこと。

佐々木:説明しなくなったらってことですよね? 俺、「ロックンロール!」みたいな言い方はあんまりしてないつもりなんですよ。でも、やっぱり好きなものの話はしたくなるから、それでついつい「ロックンロールとは何なのか」みたいな話になっちゃうんですよね。

TOSHI-LOW:わかるよ。お前を見ていてよく思うのは、「コイツはルーツがほしいんだろうな」ってことなんだよね。ていうか、俺もそうなんだよ。でも、結局は自分なんて何者でもなかったりするわけでさ。

佐々木:本当にそうですね。

TOSHI-LOW:特に俺らみたいなバンドマンって、ある種の根無し草っていうか、「ここも自分の居場所じゃない」みたいなことを常に感じてるでしょ? 自分たちのホームみたいなライブハウスにいても、なんか違う。すげえ楽しいんだけど、ここじゃねえんだろうなっていう感覚。それがずーっと続いてる感じ。どこにでも行ける。でも、どこにも行けないっていう。

佐々木:うん、俺もそんな感じです。だからこそ、自分はツアーに向いてるなって思うし、とにかくロックンロールでいろんなことを飛び越えたいっていう気持ちがあるんですよね。どこかにゴールを設定しているわけでもないし。

TOSHI-LOW:いやいや、お前らはまだ10年くらいだろ? それでゴールなんかあるわけないよ。ていうか、そんなもんがあったら死ぬから。

佐々木:でも、そういう人もいるじゃないですか。ニルヴァーナみたいな、アルバム3枚くらいで燃え尽きちゃうタイプ。でも、俺は死ぬギリギリまで粘ってる人が好きなんですよね。それこそブルースマンってそういうもんだと思う。じっくりと何かを伝えて、それをずっと積み重ねている人たち。TOSHI-LOWさんもそうですよね。普段はみんなのボスって感じなんだけど、同時にすっごい孤独な感じもして、そのバランスがすごく不思議な人っていうか。BRAHMANも、OAUも、やってる曲の雰囲気はぜんぜん違うのに、それでも同じ人がやってるんだってことをすごく感じさせる。そこがすごく面白いんですよ。


▲OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND - FOLLOW THE DREAM(Live ver.)


▲BRAHMAN 20th Anniversary Live DVD / Blu-ray「尽未来際」予告編

TOSHI-LOW:一方向だけにこだわっちゃうとつまんないからね。たとえば同じビールでも、ガード下で飲む350円のビールもあれば、「なんでこれが1200円すんだよ!」みたいなやつもあるでしょ? でも、その違いには必ず理由があるんだよ。だから、そのどちらも知ってた上で「やっぱりガード下がいいな」みたいに思えることは当然あるし、逆に普段ガード下で呑んでるやつが、ホテルのバーで夜景を眺めながら「こういうのもいいもんだな」と思えるのも、俺はふくよかだと思うんだよね。だって、もうすでに芯は出来てるんだからさ。あとはそこから視野を広げていったほうがいいんだ。

佐々木:TOSHI-LOWさんのやってることは、音楽的にもすごいじゃないですか。それこそBRAHMANって、めっちゃくちゃ変わったことをやってるバンドだから。『エア・ジャム』でも、去年の幕張メッセ(BRAHMANの20周年記念イヴェント『尽未来際~尽未来祭~』)でも、やっぱりBRAHMANはめっちゃ浮いてて、そこがホントすげえなって。

TOSHI-LOW:だって、そうなるしかなかったんだよ。いま思い返せば、本当は俺だって正統派のフォームで160キロのボールを投げたかったんだ。でも、それは自分の肩じゃ無理だった。だから、下投げのへんてこりんなフォームで投げてみて、そうしたらたまたま誰にも投げられないような球だったっていう(笑)。もう、ギターを手に取った瞬間から既におかしかったんだよね。とりあえず教則本を読んでみたのはいいけど、ぜんぜんわかんないから、とりあえず素振りするしかないっていう。

佐々木:素振り!(笑)

TOSHI-LOW:でも、そうやって回り道してよかったなと思うよ。まっすぐに行こうとしてたら、たぶん今ごろ潰れたかもね。

佐々木:回り道か。俺の場合は、インディーの頃からとにかくいろんな曲を作ってきて。ある時にそれを見たメーカーの人から、「いろんな曲がありすぎるから、なにかひとつに絞った方がいい」と言われたんですよ。で、「うるせえ!」と(笑)。そうしていくなかで、メンバーが抜けたりもしたんですけど、それでも新しい音を作るってことだけは、ずっとやめずにやってきて。だから、そこに関しては自信があるんですよね。もがいて、もがいて、それでも一回も休まなかったっていう。

TOSHI-LOW:そうやって10年くらいやってると、ようやく本当の意味が出てくるよね。3年くらいじゃ、どうにもなんない。「石の上にも3年」っていうのは、3年でようやく素人じゃなくなるってことで、そこから一人前になるためには、やっぱり10年はかかるんだよ。俺はそういうもんだと思ってる。もちろん、年齢なんて関係ないしね。それこそ俺らがOAUを始めた時なんて、反発がすごかったから。なんとなくわかるでしょ? 俺らみたいなロック・バンドが、アコースティック・アレンジでやったりするとさ。

佐々木:「別にアコースティックとか要らんわ!」みたいなことですか?

TOSHI-LOW:そうそう(笑)。 でも、それこそバッド・ブレインズなんてさ、あんなハードコアな曲をやりながら、同時にレゲエもやってたわけで、そういう両極に触れる人たちは過去にいたわけじゃない? そういう極端なことを自分たちにも出来ないかなってことで始めたのが、OAUだから。


▲Bad Brains - Attitude(Live)

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ある程度の男を超えると、みんなオバちゃん化してくるんだよ(TOSHI-LOW)

佐々木:それが今や、ビルボードのライヴを普通に受け入れられてるんですからね。俺らも今回のライヴでは、お客さんに思いっきり楽しんでもらえるようなやつをやりたいんですよ。だからこそ、はじめてクリスマスを冠に付けてみたってところもあるんです。今までの俺だったら、「クリスチャンでもないクセに」みたいな野暮ったいことを言ってたと思うんですけど(笑)。

TOSHI-LOW:俺だってそういう野暮なタイプだよ(笑)。でも、どうせやるなら楽しんでみたほうがいいよな。だって、元はと言えば盆踊りだってなかったんだよ?  昭和7年にはじめて(都内で)盆踊りが開催された時にも、永井荷風が「なんで盆に踊るんだ!」と言ってたんだから。

佐々木:クリスマスに対するツッコミと同じですね(笑)。

TOSHI-LOW:でも、結局はハロウィンとかだって、ああいう風になっていくわけでさ。そこで俺らみたいなやつらがお客さんを楽しませられたら、それはそれで成功だよね。もちろんその成功っていうのは、爪痕を残すっていう意味なんだけど。

佐々木:その感覚は、やっぱりライブハウス育ちな感じですよね(笑)

TOSHI-LOW:そうそう。でも、こういうときは普通のライヴハウスではなかなかマッチしないような曲もできちゃうからね。それこそ曲にも季節感みたいなもんがあるからさ。クリスマスみたいなロマンチックな時に、思ってもみなかったような曲が映えたりすることって、意外とあるんだよ。だから、曲選びはおもしろいよね。

佐々木:たしかに、曲の聴こえ方はいつもと変わりそうですよね。俺らの場合はバンドの10周年みたいなところもあるので、これまで関わってくれた人たちともセッションするつもりなんです。この10年間で知り合った人たちに登場してもらって、「俺の友達、すげえんだぜ!」と自慢するっていう(笑)(※関連記事:a flood of circle ビルボードライブ・ツアーのゲストが決定

TOSHI-LOW:佐々木はそういうつながりをすごく大事にしてるよね。すごくいいと思う。だからこそ、なんかそこに女々しさも感じるし。

佐々木:ハハハ(笑)。

TOSHI-LOW:いや、いいボーカルには必ずそれがあるんだよ。スパッと言い切れないもどかしさとか、何かごまかしが効かないものを抱えてる感じっていうかさ。俺なんて、もう“女々しい”を通り越してオバちゃん化してるからね(笑)。それこそ、チバもベンジーもなんかもそうじゃないかな。ある程度の男を超えると、みんなオバちゃん化してくるんだよ。最近、俺はそう思うんだよな。

佐々木:俺にはまだ見えない境地があるんでしょうね(笑)。

TOSHI-LOW:あと5~6年したら、お前にもわかるから。まあ、なかには池畑潤二みたいな人もいるけどね。あの人はもう、(自分のコブシを指差して)ここみたいな感じだろ?「男梅」のキャラクターみたいな感じというか。

佐々木:そうやって池畑さんのことをいじれる人って、多分TOSHI-LOWさんくらいですよ(笑)。

TOSHI-LOW:マジで? 俺だけ怒られたらイヤだな(笑)。でも、先輩はけっこうみんなツッコミ待ちだっていうよ? みんな、待ってるんだって! お前ならイケるよ。だって、「一発や二発くらいは殴られても平気っす」みたいな感覚でしょ? 犬だって、引っ叩いたらどっか行っちゃうのにさ。

佐々木:俺、犬以下ってことですか!?(笑)

TOSHI-LOW:まあ、俺も引っ叩かれたら突進していくタイプだからね(笑)。逆に、お前がルールだけを守って、怖いところには立ち入らずに素通りしていくようなやつだったら、こうやって話そうとも思わないからね。バンドマンとして、おなじ何かを持ってるなって感じてるよ。つまりそれは、お前が馬鹿だってことなんだけど。

佐々木:馬鹿でよかったっす(笑)。実際、それが間違っていたのか正しかったのかは、突進してみないとわからないから。

TOSHI-LOW:失敗か成功かはどうでもいいんだよ。失敗したらもう一回やればいいだけの話だから。でも、そこで損得しか考えられないようなやつが多すぎるんだよね。コイツみたいに、「よくわかんないけど、面白そうだからやります!」みたいなやつは、そんなにいない。それに、結局は俺たちも生き物だからね。道が右と左に分かれていたら、頼れるのは自分の嗅覚しかない。そこで決断していけるやつが、生き残っていけるんだよ。実際、みんなはこういうやつが一番最初に潰れるって思うんだよね。無鉄砲に見えるから。でも、違うんだよ。俺らみたいなやつらが石橋を叩いて渡ってたら、チャンスの神様なんてすぐに目の前を通り過ぎちゃうんだから。だったらすぐに「やります!」っていかないと。そこで躊躇してる暇なんかないよね。

佐々木:そうですね。今って、わかりやすいことが大事だと言われるじゃないですか。でも俺は、わからないことの方が面白いんですよ。もちろん、わかりやすいものがダメだとは言わないけど、少なくとも、新しいものはそういうところから生まれるんだと思ってる。「わからない」は、面白さの種なんですよね。だから、俺はその種をいつも持っていたいんです。

a flood of circle「FLYER’S WALTZ」

FLYER’S WALTZ

2016/11/23 RELEASE
TECI-533 ¥ 1,650(税込)

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Disc01
  1. 01.Flyer’s Waltz
  2. 02.Rock‘N’Roll New School
  3. 03.Christmas Time
  4. 04.オーロラソング (X’mas Carol ver.)
  5. 05.クリスマス・イブ

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