Billboard JAPAN


NEWS

2019/08/29

<ライブレポート>KERAがジャズのビッグ・バンドで見せた「日本の芸能文化100年」のランドスケープ(景観)

 劇作家ケラリーノ・サンドロヴィッチとして日本の演劇界の頂点に立つ姿にももちろん注目はしているが、私にとってKERAは37年前から友だちの「有頂天のKERA」であって、芝居で賞を獲ったり勲章をもらったりするよりも、新しいアルバムを出したりライヴをやったりのニュースを知るほうが嬉しい。いや、芝居に向かうケラリーノ・サンドロヴィッチがどれだけ真摯でカッコいいかも知っているが、あのころ夜中にバイトしていたコンビニから、「ねぇ、いま無性にヒマなんだけど遊びにこない?」と電話してきたKERAの、他者の都合なんかおかまいなしのヤンチャさこそが、彼の表現の根幹だと思っている。そして私は、彼のそういうところが好きなのだ。

 KERAがビッグ・バンドでジャズをやっているのは知っていたが、父上がそっち系の人だったというのは本人から少し聞いたことがあった。だから意外とは思わなかったけれど、どこからも外れてしまうKERAらしい「ヤンチャなジャズ」を聴かせてくれたら嬉しいな、と思っていたのだ。そうしたら、ライヴを観てリポートを書け、と共通の知り合いに依頼されることになった。いいじゃないか。それは楽しい仕事である。

 ニュー・アルバム『LADSCAPE』発売記念ライヴの第2弾は、20人編成のビッグ・バンド編 at ビルボード東京。昼夜2公演の昼の部を観せてもらった。

 ビッグ・バンドは3年4ヶ月ぶりだというが、9人のホーン・セクションや、ヴァイオリン、男女のコーラスもいる大所帯に、アレンジを合わせるのではなく、曲によって楽器の編成を変え、最大が20人になるということなのだ。途中ホーン隊が退席するところもあったし、ベースがウッドとエレキの二本になったり、ヴァイオリンやコーラスがいたりいなかったりと、贅沢にミュージシャンを使い分ける。曲によってアレンジャーも異なるから、演奏はヴァラエティに富んでいるし、一般的なジャズの認識からすれば「まるでロック」な曲もあった。ミュージシャンもジャズ畑の人とは言えないオール・マイティな布陣だから、どんなアレンジだろうと無理がなく、個人のプレイよりも「KERAのビッグ・バンド」であろうとする姿勢が終始感じられた。

 そのムードがいい。劇団を動かしてきたKERAならではのまとめ方とも言えそうだけれど、ステージが進むにつれて、私は「KERAはとんでもないことを思いついちゃったのかもしれない」と思い始めた。もしかしたら無自覚で「そこ」に向かっているのかもしれないが、KERAの「ジャズ」は、エノケンやロッパが浅草六区で、米英のポピュラー・ミュージックを何でもかんでも「ジャズ」と呼んで喜劇に持ち込んだ時代、つまり90年前の、「日本独自のジャズがルーツ」と言ってもいいだろう。

 浅草六区でオペラが盛んになるのは大正6年(1917年)のことだが、12年9月1日の関東大震災によって崩壊した浅草の演芸が再建されていく過程で、オペラの人気は急激に衰退していく。それに取って代わったのが、レヴューの感覚を喜劇に持ち込んだ榎本健一と古川緑波だった。

 ちょうど90年前の昭和4年(1929年)1月、浅草電気館に電気館レヴューが誕生したときの演目は「サロメはジャズる」。翌年10月、水族館の第2期カジノ・フォーリーで売り出されたのがエノケンで、古川緑波・徳川夢声・大辻司郎らが「笑の王国」を旗揚げしたは昭和8年のことだ。そして昭和12年(1937年)9月、川田義雄・益田喜頓・芝利英・坊屋三郎が浅草花月劇場で「あきれたぼういず」を結成、「ダイナ狂騒曲」をヒットさせるのだ。

 大正デモクラシーの時代から日中戦争が本格化するまでのおよそ15年が、日本の大衆芸能が西洋の舞台様式を取り入れ、「文化」と呼ぶにふさわしい発展を見せた最初の時代だった。

 そのころのジャズは、世界大戦後に日本に入ってきた「モダン・ジャズ」とはまったく違うもので、つまりは西洋型のエンタテインメントを日本的に解釈して形式なんぞにはこだわらなかった「プリミティヴなポップ・ミュージック」だったわけだ。

 KERAの「ジャズ」のルーツは、明らかにエノケン、ロッパ、あきれたぼういずの時代のそれだ、と私は確信した。だから、フランク・ザッパみたいなアレンジの曲と、「見上げてごらん夜の星を」が並ぶことにまったく違和感がない。現代の日本人が概念として持っているはずの「ジャズ」から外れれば外れるほど、「KERAのジャズ」はエンタテインメント性を強くしていくのだ。

 彼が見ているランドスケープ(景観)は、「日本の芸能文化の100年」なのかもしれない。「戦前」に向かってキナ臭くなる一方の現代日本に、思想や政治を語ることなく警鐘を鳴らすKERAは、我が友として誇らしい。公演は終わってしまったが、本稿をサブテキストに『LANDSCAPE』を聴いていただけば、「たった一人の反乱」を繰り広げる彼を応援したくなるはずである。

Text by 和久井光司
Photo by 大串義史


◎公演情報
【KERA ソロアルバム『LANDSCAPE』発売記念ライブ 2
ビッグ・バンド編】
ビルボードライブ東京
2019年8月25日(日)※終了

<セットリスト>
01. B・BLUE
02. じんじろげ
03. ケイト
04. stardust
05. 木の歌
06. BITTER SWEET SUNSHINE(第1部) / 操行ゼロ(第2部)
07. ビバップ・バトン・ビバップ
08. サンキュー
09. アンパンとジャズ
10. cheek to cheek
11. 食神鬼
12. シリーウォーカー
13. Old Boys
14. キネマ・ブラボー
15. 俗界探険隊(第1部) / 聖者の行進(第2部)
16. サニー・グッジ・ストリート(第2部ではアンコールとして演奏)
<アンコール>
17. 見上げてごらん夜の星を
18. LANDSCAPE SKA


【ケラリーノ ・サンドロヴィッチ・ミューヂック・アワー2019】
新宿LOFT
2019年12月7日(土)
<出演>
KERA / and more
Info:http://www.loft-prj.co.jp/LOFT/

◎リリース情報
『LANDSCAPE』
CD
2019/5/8 RELEASE
CDSOL-1836 3,000円(tax out)
LP(2枚組)
2019/5/15 RELEASE
NGN-003/004 5,500円(tax out)

12TH. STREET SWING ~LIVE AT BILLBOARD TOKYO 20160313~
CD
2016/8/24 RELEASE
NGN-001 3,024円(tax in.)

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