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2017/01/27

ザ・エックス・エックスとボノボの最新作から紐解く、UK音楽シーンのいま

 2017年の幕開けからもうすぐひと月が経つが、「絶対に押さえておくべき新作は?」と聞かれたならば、真っ先にザ・エックス・エックスの『アイ・シー・ユー』と、ボノボの『マイグレーション』を挙げたいと思う。なぜならこの2つのアルバムは、現在のUKの音楽シーンがいかに刺激的かつ冒険的かのドキュメントであると同時に、ジェイミー・エックス・エックスとサイモン・グリーン(ボノボ)、2人の突出したサウンド・デザイナー/プロデューサーが改めてその存在感を世に知らしめた傑作だからだ。

 チャート・アクションも凄まじい。ザ・エックス・エックスは前作『コエグジスト』(2012年)に続いて2作連続の全英1位、さらにキャリア最高となる全米2位という快挙を達成。一方ボノボは、日本、イギリス、アメリカを含む8か国でエレクトロニック・チャート1位に輝いたほか、全英チャートでも初登場5位と好調な滑り出しを見せている。前作『ザ・ノース・ボーダーズ』(2013年)は結果的に50万枚以上のアルバム・セールスと、スポティファイで1億5000万再生、ワールド・ツアーではのべ30か国総計200万人(!)を動員という驚異的な記録を叩き出したが、チャート初登場時は29位に留まった事実を鑑みれば、彼に対する期待値がどれほど高まっていたのかご理解いただけるだろう。

 いちファンとして興味深いのは、両者のアルバムがあらゆるトライブ/ジャンルのクロスオーヴァーを象徴する作品として愛されているということ(実際、この2作を同時購入するリスナーは多いのだとか)。その理由は、彼ら自身が常にオープン・マインドな姿勢で音楽と向き合い、世界中のヴェニューやフェスティバルで「現場」を知り尽くしてきたからに他ならない。ザ・エックス・エックスの場合、ジェイミーのソロ・デビュー作『イン・カラー』(2015年)での経験が理想的なカタチでバンド本体へと還元されているし、かつては一匹狼に見えたボノボはいま、『マイグレーション』の制作にあたって人種のるつぼ=LAに移住し、同じくUK出身のジョン・ホプキンスのような外部のアーティストとも積極的にコラボを積み重ねた。

 今回もっとも特筆すべきポイントは、ボノボが(おそらく)初めて大文字の「ポップス」へと歩み寄った点だ。ザ・エックス・エックスは『アイ・シー・ユー』のリード・シングル「On Hold」(https://youtu.be/blJKoXWlqJk)でホール・アンド・オーツの「I Can't Go For That (No Can Do)」を大胆にサンプリングする新機軸を打ち出したが、ボノボもまた、『マイグレーション』8曲目の「Kerala」(https://youtu.be/S0Q4gqBUs7c)でブランディのヒット曲「Baby」のフレーズをテクスチャーとして再構築するなど、両者がどこか似たアプローチでポップ・シーンと共鳴してみせたのは単なる偶然ではないだろう。

 そして、『マイグレーション』はボノボの審美眼、あるいは同時代性をも浮き彫りにしている。キャッチーなリフレインが徐々に高揚感を煽っていく「No Reason」(https://youtu.be/ebzEEEdjHj0)では、かつてチェット・フェイカーと名乗っていたオーストラリアの鬼才=ニック・マーフィーを起用しており(日本の「引きこもり」をモチーフにしたMVも必見!)、ボノボの十八番である儚いブレイク・ビーツが響き渡る「Surface」においては、スクリレックス主宰のレーベルに所属するフロリダのフォークトロニカ・バンド、ハンドレッド・ウォーターズからニコール・ミグリスをゲストに迎えている。また、ザ・エックス・エックスのシャーデー愛は広く知られるところだが、男性ながらそのシャーデーを引き合いに出されるオルタナティヴR&Bの重要人物、マイク・ミロシュ(ライ)が「Break Apart」(https://youtu.be/vhhkk69CxXc)でうっとりするほどシルキーな歌声を披露している点も見逃せない。

 オーバーグラウンドとアンダーグラウンドの境界線が曖昧になりつつあるいま、誰よりも自由に音楽を楽しんでいるのは、間違いなくアーティスト自身。サウンドも立ち位置も異なるザ・エックス・エックスとボノボだが、彼らのアルバムがインディー・ロック/エレクトロニカ云々を飛び越えて世界中で親しまれているのは、アーティストである前にひとりの音楽ファンとして信頼できるから。そう、だからこそ彼らの作品は魅力的なのだし、いつだってハズさないのだ。


Text: Kohei UENO

◎「On Hold」The xx
https://youtu.be/blJKoXWlqJk

◎「Kerala」Bonobo
https://youtu.be/S0Q4gqBUs7c

◎「No Reason (feat. Nick Murphy) 」Bonobo
https://youtu.be/ebzEEEdjHj0

◎「Break Apart (feat. Rhye)」Bonobo
https://youtu.be/vhhkk69CxXc

◎リリース情報
『マイグレーション』
ボノボ
2017/1/13 RELEASE
日本盤CD:2,200円(plus tax)
日本盤特典:ボーナストラック追加収録 / 解説書封入

『アイ・シー・ユー』
ザ・エックス・エックス
2017/01/13 RELEASE
日本盤CD:2,590円(plus tax)
日本盤特典:ボーナストラック追加収録 / 歌詞対訳・解説書付き

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