2016/10/17 20:44
芸術総監督・指揮にゲルギエフが就任して以来ロシア国内に留まらず多くの国際舞台へスターを輩出しているマリインスキー・オペラ。5年振りの来日の千秋楽は、瑞々しさ溢れる『エフゲニー・オネーギン』公演にて大成功の終幕となった。
1幕冒頭、黒衣のヒロイン・タチアーナが黒い背景を背に、悲しい運命を回想するかのように夜の窓辺に立つのが印象的だ。一転、幕が開くとそこは明るい屋外の風景。地面に敷き詰められたリンゴと空中ブランコ、ウッドデッキ。白いドレスの姉妹がギターを片手に奏でる二重唱は、芳しく舞台を彩っていた。リンゴが幕ごとに少なくなり、そして登場人物によって胸に押し当てられる度に、観客は「あの時の」幸せを思い返す。シンプルながら想像力を掻き立てる演出と演技が、その文学性を最大限に引き立てていた。
プーシキンの韻文小説である『エフゲニー・オネーギン』は、ロシア人にとっては非常にメジャーな小説であり、チャイコフスキーが最初に作曲した手紙のシーンなどは、今でもこどもが学校で諳んじる教材としているほどだ。チャイコフスキーもこのプーシキンの韻文を損なわないよう注意を払って台本を作り、若い登場人物に合わせて初演はモスクワ音楽院の学生で行なった。
今回の公演も多くの若手歌手がその舞台を瑞々しく飾った。千秋楽ではチャイコフスキーコンクールで優勝したユリア・マトーチュキナが快活で華やかにオルガを演じ、その演技によって雄弁にレンスキーやエフゲニーへの心象を魅力的なキャラクターで表現していた。また詩人レンスキーを歌ったコルチャックは、新国立劇場「ウェルテル」タイトルロール出演で一躍注目を集めた新星スター。詩的でノーブルな人物像と、それが故の純粋な熱情と死を甘く切なく歌い上げ、万雷の拍手が注がれていた。
原作をよく知るロシア人の若い歌手陣と、プーシキンの意図を最大限汲み原作をリスペクトするロシア人演出家、そしてゲルギエフとマリインスキーのオーケストラが奏でる幻想的で雄大、かつ甘美なチャイコフスキーの旋律。全てが調和したこの舞台が、世界最高の『エフゲニー・オネーギン』のひとつであったことは間違いないだろう。text:yokano photo:Yutaka Nakamura
◎公演概要
マリインスキー・オペラ
チャイコフスキー作曲『エフゲニー・オネーギン』
芸術総監督・指揮:ワレリー・ゲルギエフ
2016年10月8日(土)ロームシアター京都
2016年10月15日(土)、10月16日(日) 東京文化会館
関連記事
最新News
関連商品
アクセスランキング
1
【ビルボード 2025年 年間Top Lyricists】大森元貴が史上初となる3年連続1位 前年に続き5指標を制する(コメントあり)
2
【ビルボード 2025年 年間Artist 100】Mrs. GREEN APPLEが史上初の2連覇を達成(コメントあり)
3
【ビルボード 2025年 年間Top Albums Sales】Snow Manがミリオンを2作叩き出し、1位&2位を独占(コメントあり)
4
【ビルボード 2025年 年間Top Singles Sales】初週120万枚突破の快挙、INI『THE WINTER MAGIC』が自身初の年間首位(コメントあり)
5
<年間チャート首位記念インタビュー>Mrs. GREEN APPLEと振り返る、感謝と愛に溢れた濃厚な2025年 「ライラック」から始まった“思い出の宝庫”
インタビュー・タイムマシン







注目の画像







新国立劇場『リング』第1日『ワルキューレ』開幕、過酷な運命を背負う神の子供達の物語
新国立劇場バレエ『ロミオとジュリエット』上演 演劇的振付の最高峰マクミラン版
英国ロイヤル・オペラ・ハウスの迫力を映画館で、2016/17シーズン演目発表










