2014/11/11
彼が弦を指で弾くとヒューマンな音の暖かさが広がり、会場の空気がやわらかく変化していく――。
エリック・クラプトン、ジョージ・ハリソン、スティーヴィ・ワンダー、ジョージ・ベンソン、マドンナ、ホイットニー・ヒューストン、ライオネル・リツチー、アニタ・ベイカー、ジョー・サンプル、フィル・コリンズ、ビヨンセ、ダフト・パンク…共演したアーティストの名前を挙げ始めたら枚挙に暇がないほど、ロック、ソウル、ジャズと幅広いジャンルのミュージャンから愛され、信頼されてきたベーシスト――ネイザン・イースト。
世界最高のバイ・プレイヤーである彼が今年、キャリア40周年の節目としてゴージャスなゲストを迎えた初のリーダー・アルバムをリリースし、素晴らしい音の世界観を聴かせてくれたが、それから間もないこのタイミングで、その世界観を『ビルボードライブ』のステージで披露している。こんなにタイムリーで貴重なライヴを見逃したら、後悔すること間違いなし!絶対に体験しておきたいライヴだ。
他のミュージシャンのサポートのときと同様、いつものようにステージに上がった彼がベースを弾き出すと、その音が音楽全体を優しく包み込み、ふくよかな響きで心地好いサウンドに仕上がっていく。そんな効果を欲しがった耳ざとい(?)ミュージシャンは数多く、冒頭に記した通り、彼はさまざまなセッションに迎え入れられ、いろいろなミュージシャンのツアーにも参加してきた。まさに、誰もが1度は必ず聴いたことのあるベース・サウンドが、ステージの上から存分に弾き出されてくるのだ。
また、彼の繊細なハイトーン・ヴォーカルも聴きどころの1つ。アルバムでは、クラプトンとスティーヴ・ウィンウッドが60年代末に短期間結成していたブラインド・フェイスの名曲‘Can’t Find My Way Home’を感動的に美しく唄っているが、それも今回のライヴで披露され、ハイライトの1つに。そして、サプライズ・ゲストを迎えて大ヒットしたダフト・パンクのあの(・・)曲まで…。
1955年にフィラデルフィアで生まれたネイザンがプロになったのは弱冠16歳。それ以来、“最も忙しいベーシスト”として実績を積み上げ、現在はフォア・プレイのメンバーとしても活躍している。そんな彼が、長いキャリアの中で身体に染み込ませてきたものをミックスし、都会的で洗練されたサウンドに昇華して届けてくれている今回のライヴ。まさか、彼が主役になったライヴが観られる日が来るなんて思ってもいなかった人が大半だろうから、まさにこれは一種の“奇跡”なのだ。
また、ネイザンと共にリズムを刻むドラマーにスティーヴ・フェローンが参加しているのも、マニアには嬉しい顔ぶれだ。イギリス発ながら黒人顔負けのファンキーな演奏していたアヴェレイジ・ホワイト・バンド(平均的白人バンド)唯一の黒人メンバーとして頭角を現した彼とのコンビネーションは、ロックやソウル、フュージョンやジャズまでをカヴァーできる最強のリズム隊だと言って差し支えないだろう。
そんな、いろいろなトピックがある今回のライヴ。とても見応え、聴き応えのある内容になっているのだから、ファンとしては狂喜乱舞したくなる。
さて、もう、薀蓄はいらないよね。今宵はネイザンのふくよかなベース・サウンドに包まれながら、過ぎ行く秋の夜を思う存分に満喫しよう。東京公演は残り11月11日と13日、大阪公演は11月12日に開催される。
◎ネイザン・イースト公演情報
ビルボードライブ東京
2014年11月10日(月)・11日(火)・13日(木)
ビルボードライブ大阪
2014年11月12日(水)
More Info:http://billboard-live.com
TEXT: 安斎明定(あんざい・あきさだ)
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。ジビエ料理が美味しくなり始めるこの時期は、フランス・ローヌ地方のトップ・ドメーヌ=アラン・グライヨがリリースしているシラー100%のクローズ・エルミタージュが断然オススメ!
PHOTO: Masanori Naruse
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