2014/09/01
音楽カルチャー雑誌『ヘドバン』の別冊第1弾として発売された『ヘドバン PRESENTS 史上最高の英国メタル・フェス完全レポート&永久保存版!』。その記念トークイベントが、8月28日 タワーレコード新宿店にて開催された。
夜21時スタートという遅い時間にもかかわらず、この日の会場には開始時間前からメタルTシャツに正装したメタラーたちが続々と集結。様々なバンドのファンが混在重複する中、壇上にはチーム『ヘドバン』別冊隊のカメラマンでイベントの司会を務めるaki、梅沢直幸編集長、ライターの荒金良介、倉田真琴が並び、今夏開催されたイギリスでのメタルフェス中心にアイアン・メイデンやメタリカの揺ぎ無いパフォーマンス、そして日本代表 BABYMETALが残した爪あとなど、現地取材ならではのトークが展開された。以下に、その模様を掲載する。
◎『ヘドバン』別冊発売記念トークイベント レポート
<渡英早々に取材パスが出ないという事態に……>
aki:まずこの別冊を作ろうとしたいきさつを編集長から。
梅沢:BABYMETALが海外で演るという話があって、【SONISPHERE】に出演するメンバーが出た段階で、『ヘドバン』本誌でやるのはタイミング的に間に合わないので別冊を出そうとしたんです。でも実際最終的にGOサインが出て動き始めたのは、渡英の半月前くらい。
aki:夏場は日本でもフェスがいっぱいあって、それを取材したフェス本ってたくさん出るじゃないですか、それを敢えて作ったのは?
梅沢:僕はキレイな本よりグジャグジャな方が好きなんです、それは『ヘドバン』を見ていただければ(笑)。で、フェス本でも情報が詰まって、熱量の高い本を作りたい! と、熱い文章を書けるライターさん、撮れるカメラマンを連れていっちゃえ! っていう気合い一発みたいなノリで。
aki:通常フェスの海外取材だと現地のカメラマン、特派員のレポートなんですけど、今回オール・スタッフを日本から連れ込んだ。
梅沢:総勢7名。異例中の異例だと思います。泣ける文章でファンの多いBABYMETALライブ番記者の倉田さん、メタルの中でもジャンルに拘らず熱い文章を書ける荒金さんにお願いして。
aki:でも誰も英語が喋れないんですよ、僕も含めて(笑)。だから海外での撮影経験があるだろうって僕にみんな頼ってきて、運転、コーディネイター、カメラマン、通訳(?)、全部やりました。
といったチーム『ヘドバン』別冊隊だったが、実際現地ではもっと大きな問題が立ちはだかっていたという。GOサイン遅延によりフェスの取材申し込みが遅れ、取材パスが出ないという緊迫した事態に追い込まれた。当たり前である。通常3週間前の申請などあり得ない。その窮地を救ったのがメタルゴッド伊藤政則大先生だった。
梅沢:ここにいる倉田、aki、僕は政則チルドレンというか、20年くらい前伊藤さんのところで働いていた経験があったんです。取材対象のフェス【BLACK SABBATH TIME!】は現地のコーディネイターが動いてくれてなんとかなったんですが、【SONISPHERE】の方はパスが出ないという埒が明かない状況で。ここはもう政則先生にお願いするしかない! って「政則チルドレン3名、一生のお願いです!」と連絡したんです。そうしたら、「なんだよ、早く言えよ」って伊藤先生が日本のレコード会社とアイアン・メイデンの事務所とやり取りしてくださって、最終的にメイン・ステージの撮影場所/フォト・ピットまで入れるオール・アクセスのパスまで出たという奇跡が起きたんです。
aki:本来はゲリラで行って、客席から撮って勝手にレポートするしかないと思ってたんですよ、編集長は(笑)。それが最後にマサ伊藤の神の一声で(笑)。しかもアイアン・メイデンに至っては世界中で20名しか入れないフォト・ピットに入れて。日本人僕一人ですよ! しかも英語がわからない(笑)。
梅沢:現地のコーディネーターの方の協力もあってバックステージのパスも、あり得ないんですけど2枚出たんです。2日目はaki、3日目は僕がそれぞれコーディネイターの方と入りました。
<大舞台に立ったBABYMETAL、SU-METALは観客を見回してニヤリ?>
aki:ではお待ちかねのBABYMETALの話、その【SONISPHERE】2日目からいきましょうか。
梅沢:別冊にも書いたんですが、ステージは12時10分のスタートで、僕たちが着いたのが11時くらい。その時点ではお客さんの入りが半分くらい。曇天でざわざわしてて、これは集まらないのかな…と思ってたら、別のステージが終わると人が押し寄せてあっという間に埋まりました。
aki:倉田さんはどうでした?
倉田:僕は思いの丈を全部原稿に書いたので(笑)。でも、これも書いたことですが、一番印象に残ったのは、SU-METALさんがステージに上って、観客を見回してニヤリとした瞬間ですね。
梅沢:出て来て、「BABYMETAL DEATH」がかかって、手でキツネサインをして、会場を舐め回すように見た時ですね。
倉田:そこでニヤリと。
梅沢:僕も倉田さんも別々に離れて観てたんです。
倉田:僕は前の方で観てて、終わってから皆と話した時、最初にその話題が出たんです。
梅沢:SU-METALニヤリとしたよね? って言ったら。
倉田:そうそう! 観た観たって。で、ここしかないと思って原稿に書いたんですけど、後からYouTubeとか見ても一切その表情写ってないんですよ。
aki:ということは…うそ?(笑)
倉田:違う! 本当だよ! 俺ら観たもん! あのニヤリを観た時に思ったのは、ジャイアント馬場が最初にスタン・ハンセンと戦った時に見せた表情と同じで。
梅沢:わかんないよ、誰も!(笑)。わかりやすく解説すると、好敵手を見つけた時に格闘家が見せる表情だったんですよ。
倉田:そう、それくらいの懐の深さというか余裕があった(笑)。
aki:僕は最前列で撮ってるでしょ、そうするとヴァイブレーションというか、アーティストの緊張というのがわかるんですよ。たしかにBABYMETALは全然余裕でした。登場からして凛々しいというか。
梅沢:肝が座りまくってた。
荒金:僕はお客さんを見るのも楽しかったので、そちらも見てたんですけど、だんだん振りを真似する人が出て来て、BABYMETALのそういう処も面白かった。
梅沢:2日目はヘッドライナーがアイアン・メイデン。お客さんもメイデンTシャツや他のメタル・シャツを着てる連中が、最初はポカ~ンとしてるんですけど、徐々に体が動き始めてノッてきて、最後はガチでキツネサインというかメロイック・サインを挙げてる。それがず~っと後ろの方まで続いて、見てて鳥肌が立ちました。だからYouTubeで先にお客さんが撮った動画を見た人のネガティヴな反応が書いてあったので、これはきちんと真実を伝えなくちゃいけない! と扉文を書きました。
aki:バックヤードでも、いろいろ印象的な景色があったんです。アンスラックスのスコット・イアンがBABYMETALと記念撮影するとか、トム・アラヤが談笑してるとか、あのコントラストが印象的でした。なにか日本代表的な感じで張り合ってる雰囲気が。
梅沢:ここじゃあ(彼女たちが)高校生、中学生だからってのは全然関係ねぇなって。
倉田:フェスなのでモニターとかも完全じゃないから、BABYMETALのパフォーマンスも絶好調ではなかったと思うんですが、結果としてはその空気感というかすべてがよかったんです。
荒金:僕はお客さんの反応も含めて原稿を書いたんですが、そういう全体も含めてよかったですね。
梅沢:ロンドンでのライブも観てから、あれがBABYMETALの出発点になるのかなと思いました。O2アリーナとかの大きな会場に武道館のセットを持ち込んで出来るなと。日本人アーティストでそこまでやる人はいないと思うんですけど、それくらいのパワーを感じたし、なんか誇れたんですよね。そこに尽きます。
<現在進行形のアイアン・メイデンが一番カッコいいんじゃないかって>
その【SONISPHERE】2日目のヘッドライナーはアイアン・メイデン。7万人を越す観客の内5万人以上がメイデンのTシャツを着て、それもそれぞれ種類が違うという絶景に出くわした取材陣。現地コーディネイターの「アイアン・メイデンとモーターヘッドはロンドンで観なきゃダメよ」という言葉に納得したとか。10時半の日没で、メイデンのステージは9時からのスタート。会場はメイデン一色に染まる。
倉田:まずセットが凄かった。これは日本じゃ無理だろうって、あまりに大掛かり過ぎて。だから英国で観た方がいいっていうのも納得。
荒金:原稿にも書いたんですけど、日本に帰ってきてからず~っとメイデンのことしか考えないくらい、本当に素晴らしいなと思いました。僕は一度メイデンから離れたんです。95年の『The X Factor』というアルバムから。そこから全然追いかけてなくて、どうせボーカルのブルース・ディッキンソンが復帰しても昔の作品には勝てないだろうって。でも現在進行形のアイアン・メイデンが一番カッコいいんじゃないかって思うくらい、演奏もブルースの歌声も本当に素晴らしくて。動きもオジー・オズボーンとは比べ物にならないくらい(笑)キレにキレてました。
aki:話の腰を折るようでなんですが、僕は撮ってて、ジョン・ボン・ジョビに見えたんです(笑)。
荒金:それ、何回も言いますよね(笑)。見えなくはないですけど。
aki:僕は当時の雑誌で見た85年のMonsters Of Rockの時のブルースがインパクトが強すぎて、野獣に見えたんですよ。それが別人のように洗練されていて。
倉田:髪切って、黒いジャケット着たからじゃない?
aki:そういう問題?(笑)
梅沢:そこがボン・ジョビ!?(笑)
荒金:今回の『ヘドバン』別冊出してからもメイデンの反響が大きいですよね。もう一度聴き直そうとか。
梅沢:メイデンの特集組んだのも、【SONISPHERE】のステージを観てからなんですよ。これはやんなきゃって。7万人の「フィア・オブ・ザ・ダーク」とかの大合唱を浴びてゾクッてきたんです。この凄さを日本で伝えるには、日本で体感するには若い子たちにメイデンをわかりやすくキチンと伝えて新規のメイデンファンを増やさなきゃダメだって思って、ライターの増田勇一さんに相談したんです。そうしたら増田さんも同じ事を考えてらして、ビギナー向けのアイアン・メイデン特集を組むことができた。そうしたらビギナーはもちろん、ガチのメタルファンも食いついてくれて、すごく評判いいですね。
aki:僕もカメラ・ピットに入る時は緊張しました。他のアーティストの時とは違って撮影可能な人は20名だけ。それが列をなしてピットに入るんですけど、その前にマネージャーから撮影の注意があるんです。ここでパイロン(爆発・閃光)が上がるとか炎が出るとかエディが出るとか、でも全部英語なんで(笑)全然わからない。で、気付いたら入っちゃ行けない所で撮ってたんです(笑)だからビビってシャッター押したレアな写真もあります(笑)。
梅沢:そうそう、メイデンの写真の話もしなきゃ。
aki:僕が誓約書を書かされるんです、撮った写真は事務所の許可を得ないものは使えないと。で、編集長も本当は表紙にも使いたかったんですよね?
梅沢:そう、表紙にも使いたかったんですけど、全然使用の許可が下りてこなかったんです。もう間に合わないし、コーディネイターの人からは「ウメちゃん、勝手にやっちゃダメ、ゼッタイ」って釘刺されてて。で、ギリギリになって日本のレコード会社の方から「『ヘドバン』は伊藤さんから言われてるので、メイデンの事務所曰く何でも使っていいから」って言われた。もう、エ~~~!! っですよ。オールOK、表紙に使ってもよかったんです。
倉田:マサ伊藤すっげ~~!
梅沢:だから今回の渡英は、もう「マサ最強!」だったんです。あ、あんまり言うと伊藤さんに怒られるので(笑)。
<メタリカが「エンター・サンドマン」や「ナッシング・エルス・マターズ」を演るわけ>
3日目はメタリカがヘッドライナー。梅沢編集長の意外なコメントからスタートした。
梅沢:僕はメタリカが大好きで、それこそ91年にMonsters Of Rock@ド二ントンまで観に行ったし、来日公演もほぼ観てるんですけど、去年のサマーソニック最後の曲「シーク・アンド・デストロイ」の途中で疲れて帰っちゃったんです。暑かったしトゥー・マッチ過ぎて、あ~また同じ曲か、ゴメンなさいって。正直、大好きなんだけど今回もあまり気持ちが乗らなかった。でも、今回【SONISPHERE】で観たメタリカが、今までの中で一番よかったんです。実は僕『Metallica』(ブラック・アルバム)が嫌いなんです。「エンター・サンドマン」とか「ナッシング・エルス・マターズ」とか演ると、あ~また来たかって。でも今回はその2曲が一番良かった。何故かというと、観客の中に、おっちゃんたちがいて。メタリカが始まってもキャンプ椅子に座ってて。
倉田:あの、おっちゃん軍団でしょ。革ジャンの下に、昔のMonsters Of Rockのくたくたになった灰色のTシャツ着て。
梅沢:そうそう(笑)。回りの連中もリスペクトがあって、退けよとか言わなくて。それが始まって乗ってくると椅子をバーンと蹴って立上がって、ずっと飲んでるから、もう酔っぱらってて全曲大合唱をするんです。「ナッシング~」辺りになると、もう哭くぐらいに歌って。で、携帯で自分たちが唄ってるのを撮ってるし、しかも録音しているんですよ(笑)
aki:自画撮り&録音で歌うと(笑)
梅沢:それを見てると、あの曲がまた新鮮に聞こえてきて。
aki:アンセム(賛美歌)になってる感じ。
梅沢:そうそう。だから、メタリカがこの曲を延々と演っているのはこういうことなんだなと。
aki:『ブラック・アルバム』から23年経ってますからね。
梅沢:あの2曲は外さないんだな、と。それがよかった。だから改めて「メタリカ最高!」って言えるなと。
荒金:僕もメタリカは好きで何度か観てるんですけど、【SONISPHERE】でのメタリカはシチュエイションも良かった。ちょうど夕暮れ時で、日が沈むか沈まないかというところに、あのエモいメロディーが聞こえるという、全部がセットで良かったです。あと新曲「ローズ・オブ・サマー」ですね。僕もYouTubeとかで見て、すごい予習してたんで曲の最中ずっとヘドバンしてました。誰一人あの曲でヘドバンしてる人がいない中で(笑)、どうだ! って感じで。
aki:僕が3曲撮り終わって、引き画を撮ろうかなって移動してる時、ちょうど荒金さんに会ったんですけど、「ナッシング~」を目を瞑って歌いまくってました(笑)
倉田:僕もあのおっちゃん軍団込みで一番よかったのが、アンコールの「ウィスキー・イン・ザ・ジャー」。古いトラッドで、ものすごいダメな、どうしようもない男の歌なんですけど、88年のMonsters~のTシャツをずっと着込んでる、もうメタルしかないっていうおっちゃん連中が、大声上げて歌ってるのにジーンときちゃいました。
aki:僕もピットで撮ってて、1曲目の「バッテリー」で吠えましたね。至近距離で、英国のフェスでメタリカを撮ってるってるんだなぁって思いも込めて。あと印象的だったのが、ドラムのラーズ・ウルリッヒと、ベースのロバート・トゥルージロのリズム隊。彼らが当日トラックのリハーサル・ルームで音合わせをしてたって話を聞きました。
<日本のライブではありえない、BABYMETALロンドン公演の光景>
締めはBABYMETALのロンドン公演の話。ここはBABYMETAL番、倉田氏の出番だ。
倉田:会場に入ると凄まじい列が出来ていて、入場は早い者順なので何日も前から列んでいる人もいて。別冊に観客の写真もいっぱい載ってるから、見て欲しいんですが、いろんなメタル・バンドのTシャツや、コスプレもいっぱいいて。それぞれ声をかけて僕が撮りました。
aki:それ、全部日本語じゃないですか、「いいね! いいね! それ手作り?」って(笑)。
倉田:本物のパンクスの人もいました、結構お歳を召していましたけど、そういう人もBABYMETALのライブに来てたんです。あと、BABYMETALのタトゥを入れた人も。本番はともかく熱狂のライブで、僕は1階の真ん中、モッシュ・ピットです。その渦の中に自分が居たってことがハイライト。熱いし、何をやってもドッカンドッカンうけるし、もうあそこで死んでもいいくらいに思いましたね。「イジメ、ダメ、ゼッタイ」のウォール・オブ・デスでクラッシュするでしょ、そのスキに一番前に行くのが通(笑)。そうやって動いたら、イギリス人が笑ってた「お前ヤルね」って(笑)。
荒金:僕は2階の一番前で観てたんですけど、立っちゃいけないんで、前の手すり? ですか、それを叩いて観てるお客さんがたくさんいたのが印象的でした。ライブは、梅沢編集長が「伝説」って言うくらい、本当に良かった。
梅沢:客入れにかかるメタルのBGMから会場は大合唱なんですよ。その時点ですでに日本のBABYMETALのライブではあり得ない光景、僕はメタル側からBABYMETALが好きなので、もう理想的な光景でした。その衝撃がまずあって、お客さんの凄さにBABYMETALの3人とバンドも乗っていった感じで、終わった瞬間、まず「イギリスの客すげぇ!!」って思いました。だから、別冊の扉ページに「BABYMETAL ENGLAND」って付けて、ロンドンのお客さんに敬意を表したんです。それくらい、日本もこうなったらいいなっていう理想的光景でした。
aki:会場がお客さんと一緒にグルーヴしてましたよね。
この後、会場内での質疑応答に移り、カーカスの話題となった。国内発売元のトゥルーパー宮本代表とライブ直後に会った編集長は、渡英できなかったカーカス番 掟ポルシェとのライブ・ルポ対談を即決した話から、タワー・レコード嶺脇社長のBABYMETAL愛、そして再びBABYMETALの話題に戻り、aki氏の「BABYMETALはどこから撮っても絵になる数少ないアーティスト」という絶賛コメントに次いで、最後は梅沢編集長の挨拶で幕を閉じた。
梅沢:現在Vol.5の製作に入ってます、秋には出せればいいかな…、いや、まだ全く未定ですけど、今後とも『ヘドバン』宜しくお願いいたします。
◎雑誌『ヘドバン PRESENTS 史上最高の英国メタル・フェス完全レポート&永久保存版!』
2014/08/20 RELEASE
1,200円
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