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ジョン・ホプキンス 来日インタビュー

ジョン・ホプキンス インタビュー

 2001年に『Opalescent』でデビューし、プロデュース、リミックス、映画音楽など多方面で活躍するジョン・ホプキンス。2000年代中期よりブライアン・イーノのコラボレーターとして注目を浴び、イーノがプロデューサーとして参加した2008年リリースの『美しき生命』から最新作『ゴースト・ストーリーズ』を含む3枚のコールドプレイのアルバム制作に携わり、2009年開催のコールドプレイのジャパン・ツアーではオープニング・アクトに抜擢。2011年のキング・クレオソートとのコラボ作では、英国最高峰音楽賞【マーキュリー・プライズ】にノミネートされるなど、現代のUKエレクトロニック・ミュージック界を担う存在になりつつある。再び【マーキュリー・プライズ】にノミネートされた5年ぶり4枚目となるソロ作品『イミュニティ』でも高評価を得た彼が、【TAICO CLUB '14】に出演する為に再び来日。最新作を始め、進化するライブ・パフォーマンスやコラボについて話を訊いた。

自分が愛する曲、聞きたいと思える曲を作ることが一番

Open Eye Signal
▲ 「Open Eye Signal」MV

――元々は、クラシカル・ピアノを学んでいたそうですが、エレクトロニック・ミュージックに目覚めたきっかけは?

ジョン・ホプキンス:一日何時間も費やして練習し、他のアーティストの楽曲を演奏することに、次第に制限があると感じたんだ。自分自身を表現できていなんじゃないかって。頭の中で常に奏でられている精巧な音楽を具現化するには、自分でそれを書かねばならないと悟ったんだ。エレクトロニック・ミュージックは、クラシカル・ミュージックと並行して長年興味があるものだった。まだ子供だった80年代後半ぐらいまで遡るかな。デペッシュ・モード、ペット・ショップ・ボーイズ…シークエンスされたサウンドに、何故かわからないけれど魅了されたんだ。年頃になってコンピューターを買って、速攻曲作りを学んだ。音楽学校を卒業してからは、その道を進むことがごく自然なことだったんだ。

――近年ではオーラヴル・アルナルズ、ニルス・フラームやニコ・ミューリーなどクラシカル・ミュージックのバックグラウンドを持ち、多方面で活躍している若い世代のアーティストも大勢いますが、彼らにはシンパシーは感じますか?

ジョン:実は、彼らについてはごく最近まで知らなかったんだ。僕より少し若くて…多分僕が最初の何枚かのアルバムをリリースしていた時には、まだ学生だったんじゃないかな(笑)。ニルスとは知り合いで、最近彼の『フェルト』というアルバムを聴いたんだけれど、とても美しくて、今後何か一緒にやろうっていう話もしているんだ。共通するアイディアはあると思うけれど、僕自身は自分の音楽をクラシカルだとは思っていない。ピアノの生音を使っているから、“クラシカル”とよく表現されることがあるけれど、ピアノはただの楽器であって、それを使ったからと言ってクラシカル・ミュージックではないし、むしろ映画音楽からの影響の方が強いんじゃないかな。それにニコは、とにかく素晴らしいアレンジャーだけど、僕にはそういった才能はないからね(笑)。

――最新作となる『イミュニティ』が各所で高評価を得るなど、この1年は特に印象に残るものだと思いますが、アルバムの反響には正直驚きましたか?

ジョン:うん。これまで3枚のソロ・アルバムをリリースしているけれど、どれもそこまで注目されることはなかった。だから4thアルバムも同じ結果に終わるんだろうな、となんとなく思いながらリリースした。でも今作では、音楽面に精魂を込めたのはもちろんだけど、自分が大好きなDJが聴いてもらえるように、とかこれまでにしなかった努力をした。特に近年は、完成した音源をレーベルに送って、終わりというわけにはいかなくて、自分でもきちんとプロモーションしなければならない。それが理想的なシチュエーションとは言えないけれど、そうすることによって結果が大きく変わってくることがわかった。だから今回は、あらゆる領域で最善を尽くした。ヴィジュアル面にもこだわり、優秀なヴィデオ・ディレクターを雇うことで、新たなレヴェルに到達したと思うし、アートワークもアルバムの為に撮影された写真を使って制作されている。そういう点を踏まえ、どのアルバムが一番成功するチャンスがあるか、と言われれば、やっぱりこのアルバムだよね。そして結果として、それが現実となって嬉しいよ。

Collider
▲ 「Collider」MV

――前作に比べ、今作には、より明確なストーリーと骨組みがありますが、この点にはこだわったのですか?

ジョン:そうだね。前作『インサイズ』は、トラック2から5にかけてビルドアップしていき、中盤でアグレッシヴになり、そこから落ち着きを取り戻していくという、このアルバムの原始的な骨組みを持っているけれど、それを一段と強調したかった。ヘヴィーな「Collider」に続く、「Abandon Window」はとても静かな曲で、そのコントラストが特に気に入ってるんだ。この2曲は、お互いが存在することによって、より強い効果をもたらすからね。

――アルバム制作を開始してから、こういうフィーリングの作品にしたいという明確なヴィジョンに辿り着いたポイントは?

ジョン:今回一番最初に書いたのは、「Form By Firelight」だけど、書いた当時からリード・トラックではなくて、ストーリーの一部分に過ぎないという認識だった。アルバムの方向性が定まったのは、「Open Eye Signal」を書き上げた時。その時、これが1stシングルでリード・トラックになるだろうと思った。そして他の曲を導いてくれ、テクノっぽい作品になるんだろうな、という感触を得た。実際にアルバムを書き始めないと、どういう作品になるかはわからないから。思っていたよりも、ダンスよりの作品にはなったね。ほぼ直感的なんだ。自分が愛する曲、聞きたいと思える曲を作ることが一番。自分本位な感じだけど(笑)。

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機械的ではなくて、ストーリーや感情がある
ダンス・ミュージックを作ることに惹かれる

Breathe This Air
▲ 「Breathe This Air feat. Purity Ring」MV

――アルバムがリリースされてから約1年ほど経ちましたが、振り返ってみて、今作を完成させる上で、一番のチャレンジとなったのは?

ジョン:これまでに比べ、特に大きなチャレンジはなかったかな。アルバムが自分を書いていった感じに近くて、自分が作るべきアルバムを書いてるという心持ちで、僕の望みどおりに物事が進んでいった。あえて言うなら、オープニング・トラックを完成させることは難しかった。僕はオープニング・トラックを最後に制作するという手法で普段作品づくりを行っていて…その方が新鮮味があるから。説明するのが難しいんだけど…、アルバムのオープニングは弾けるようなエネルギーがあるものにしたい。アルバム制作の終盤に差し掛かると、感覚が研ぎ澄まされるから、色々プログラミングするのも慣れてくる。冒頭でドアが開いて、スタジオの中に入っていく部分の録音は、アルバムに不可欠だったから、最後に行ったんだ。あの部分がしっくりくるまでは、チャレンジだったね。

――自身の作品、曲をエディットするプロセスについて教えてください。やりすぎてしまうこともある?

ジョン:そうでもないかな。あまり深くは考えてなくて、自分が納得するまでやるって感じだね。たとえば、「Abandon Window」は、3、4日で完成したけれど、「Open Eye Signal」には6週間かかった。曲に何が必要かが、キーとなってくる。作業が軌道に乗ってきて、アルバムのサウンドがどういうものになるか理解できてきたら、そういう作業の時間は自然と減っていったんじゃないかな。

――比較的ダークだった前作『インサイズ』に続き、今作は高揚感があるエモーショナルな作品となっていますが、何がこのエモーションにパワーを与えていると思いますか?

ジョン:直感的に曲を書いているから、書き始めた時点ではどうなるか見当もつかない。曲を組み立てている時に、なぜかエモーショナルになってしまうから、自分にも得体が知れない内面的なものなんだと思う(笑)。それと機械的ではなくて、ストーリーや感情があるダンス・ミュージックを作ることに惹かれるから、それを探究したいとは思っているしね。

We Disappear
▲ 「We Disappear」 (Live on KEXP)

――リリースに伴い、精力的にライブも行っていますが、ここ1年間でライブ・パフォーマンスはどのように進化していますか?

ジョン:今回は、アルバムを書いている時点から、どういう風にライブで表現するかについて構想していた。その方がいいと思うんだよね。前作『インサイズ』リリース時は、年に1度か2度ライブをやるぐらいだったから、あまり深く考えていなかった。今作は、ライブで演奏するということを前提として全てのパーツを書いたんだ。最初の頃は、アルバムに忠実に演奏していたけれど、1年間を経て、確実に進化しているし、個々のトラックを識別することは可能だけど、すべて新たな形へ変化している。今は特にいい感じになってるよ。

――エレクトロニック・ミュージックは、特に流行に左右されやすいジャンルだと感じるのですが、あなたの音楽はそういったものにまったく影響されていませんよね。

ジョン:意識的ではないけれど、自分の音楽が“タイムレス”であって欲しいとは願っている。それを試みる方法はかなりシンプルで、新しい音楽はまったく聴かないんだ(笑)。聴かなければ、何が流行ってるかわからないからね。自分が好きだったりや共感出来る音楽というのは、10年前、20年前に作られたものだったりすることが多い。このアルバムに関しても、そういった作品に影響を受けているから余計そう聴こえるんだと思う。だから10年経ったら、今作られているようなサウンドの音楽を作っているかもね。単にめんどくさがり屋っていうのもあるんだけど。自分で一日音楽を作ってから、家に帰って、また新しい音楽を聴くとなると疲れるから。

――では最近買ったアルバムや最近のアーティストで気に入っているものはありますか?

ジョン:一番最近買ったのは、新しいビビオのEP『The Green E.P.』。あれはすごく気に入ってる。後は、ケルプ(Kelpe)っていうアーティストのアルバムも好きだよ。昨年リリースされたクロックのリミックス・アルバムも最高だし。モデラットも。俗にいう“ダンス・ミュージック”はまったくフォローしてない。とにかくいろいろありすぎるから。あ、ダニエル・エイヴリーのアルバムもとても気に入ってる。トレンディなものより、少しクラシックな方がいいね。1か月経ったら古くなってしまうような音楽は好きじゃないから。

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Garden's Heart
▲ 「Garden's Heart」 / Natasha Khan & Jon Hopkins

――これまで、ブライアン・イーノ、キング・クレオソートや最近ではバット・フォー・ラッシーズのナターシャ・カーンなどとコラボしてますが、コラボが自分自身や作品に与える影響は?

ジョン:コラボは、僕にとってブレイクタイムのひとつなんだ。メイン・パートを作ってくれる他の誰かがいると、自分の作品を作るより簡単だから。たとえば、ナターシャは素晴らしい声の持ち主だから、それを活かした曲を完成させることは難しくない。ソロの作品だと、自分1人しかいないし、すべてを自分でこなさなし、ヴォーカルもないから、フックとなるリード・パートを自分で作り込んでいかないといけない。それってとてもハードなことなんだ。だからコラボは、そういった状況から気晴らしになるいい機会だね。

――ブライアン・イーノは昔から好きだったのですか?彼のクリエイティヴ・プロセスのどのような部分が他のアーティストに比べ、一線を画していると感じますか?

ジョン:彼のことは、U2の作品のプロダクションを通じて知ったんだ。ソロ作品については、20代前半ぐらいまで知らなかったから。21歳の頃に、初めて『ディスクリート・ミュージック』を聴いて、ハロルド・バッドと制作したレコードを買った。あれはすごく好きで、その時に彼の大ファンになった。特に『ヨシュア・トゥリー』で、ありきたりな壮大なサウンドを奏でるロック・バンドだったU2をダニエル・ラノワとともに…、ダニエル・ラノワはあの時代の音響において、イーノ以上に僕のヒーローだね。エレクトロニックな要素を駆使しつつ、ギターやヴォーカルを昇華させていった。そのアイディアには、今でも影響を受けていて、ピアノを使って作ったパートのバックボーンにあるエフェクトを施すことで、楽器を新たな世界に昇華させる。そのパイオニアは、まぎれもなく彼らだと思うね。

Shreds
▲ Brian Eno, Jon Hopkins, Leo Abrahams

――彼のように自身のソロ作品以外にも、様々な表現のはけ口を持つことはアーティストとして大切だと思いますか?

ジョン:これまで役に立ってきたとは思ってる。最初に作った3作…『インサイズ』では少しツアーをしたけれど、その前の2作をリリースしたことで、出来ることが絶え間なくあったわけではないから。だから外に目を向け、コラボ、プロデュースなどの世界に足を踏みいれなければならなかった。でも結果としては、良かったと思ってる。映画音楽など、様々なサイド・プロジェクトを行うことで、平常心が保てるし、自分の作品にのめり込み過ぎないように歯止めをかけてくれる。それに、自分の作品を作るのが嫌になったら、他にも色々な選択肢があることが分かったから。

――そして彼を通じて、最新作『ゴースト・ストーリーズ』を含む過去3枚のコールドプレイのアルバム制作にも参加していますよね。

ジョン:今回は「Midnight」という1曲にしか参加していなくて、2007年~2008年に携わった『美しき生命』に比べ、スタジオにもあまり顔を出さなかった。「Midnight」は、2年前ぐらいにスタジオでクリス(・マーティン)と作業したり、ジャムってた時に、「今作っているもので、何かいいアイディアや面白いサウンドはない?」と問われ、あるトラックを聴かせ、それが「Midnight」になったんだ。僕がコードを弾き、クリスがハーモナイザーとヴォーカル加え、その後も彼らがちょこちょこ作業し、基礎部分が出来上がったら僕に送ってきて、そして完成させたんだ。他の曲はアルバムがリリースされてから初めて聴いたから、今回はすべての作業には携わっていないよ。

――近年では音楽を作るのにも、聴くのにも様々な方法がありますが、音楽のアクセシビリティが高まったことがどのような変化を持たしたと感じますか?

ジョン:あまり考えすぎるとよくないと思うね。僕の対応としては、こういうことについて考えないこと。たとえば、アルバムを作っている時に、どういう風に曲がマーケティングされ、消費されるかを考えていたらキリがないからね。だからそういうことは、レーベルにやってもらうようにしてる。今作に関して、ドミノ・レコードもホステスも、すごくいい仕事をしてくれている。僕自身、ストリーミング・サイトで自分の曲を配信することは反対なんだけど、もしレーベルがそうすることが最適だと感じるのであれば、その部分は彼らの領域なので、それに従う。逆に僕の音楽やアルバムをどうしたらいいとかは、レーベル側は口を出さないから。

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