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“名作や名盤は単に“創る”ことが可能だから生まれるのではない”― ザ・ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハート 最新インタビュー

ザ・ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハート 『デイズ・オブ・アバンダン』インタビュー

 2009年に『ザ・ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハート』でデビューし、米ビルボードのヒートシーカーズ・チャートで9位を記録。米英メディアにより2009年のベスト・アルバムの1枚に選出され、日本でも【CDショップ大賞】の洋楽部門でレディー・ガガに続く準大賞を獲得。2011年には、プロデューサーにフラッド、ミックスにアラン・モウルダーを起用した2ndアルバム『ビロング』をリリース。同年には【FUJI ROCK FESTIVAL】出演の為に来日し、翌年2月に行われた単独来日公演も、ソールド・アウトとなった。
 そんな彼らの約3年ぶりとなる最新作『デイズ・オブ・アバンダン』は、プロデューサー/エンジニアにマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの復活作『mbv』を手掛けたアンドリュー・サヴールを起用し、ブルックリンでレコーディングされた。7月の【FUJI ROCK FESTIVAL】で再び来日を果たすバンドの中心人物キップ・バーマンに話を訊いた。

僕らにとって一番大切なのは“いい曲”を作ること

??まずは、待望の新作『デイズ・オブ・アバンダン』の完成おめでとうございます。

キップ・バーマン:じっくり時間をかけて制作したから、やっとファンのみんなと分かち合えるとホッとしているよ。

??アルバムのリリースに先駆け、小規模なUSツアーを行っていましたが、久しぶりのツアー、新曲の反響はどうでしたか?

キップ:前作『ビロング』のツアーと新作のリリースまで、かなり時間が経ってしまったから、またツアーできてウキウキしてる。新曲の反響もいいし。でも古い曲もちゃんと演奏してるよ。ファンのみんなが両方聴きたいのは、ちゃんとわかってるから。

??現在バンドの中心人物はキップで、メンバーは流動的ですが、様々な人が曲を演奏することで、新たな解釈が生まれたり、曲にいい変化を及ぼすことはありますか?

キップ:これまでもずっと僕が曲を書いて、友人を招いて演奏してきた。その方が自分で全部やるより、音楽が生きるような気がするから。真の友好関係を築けていないバンドなんて嘘くさいし、音楽にも中身がないような気がする。カート、アレックス、ペギーがこれまで一緒に演奏してきてくれたことには、とても感謝しているけれど、この新しいアルバムが新たなミュージシャンが参加するきっかけとなったのは、素晴らしいことだと思う。

(ア・サニー・デイ・イン・グラスゴーの)ジェン・ゴマのヴォーカルは、曲を新たなレヴェルへと押し上げた。バックグラウンド・ヴォーカルで参加している曲ですら、これまで出来なかったことが可能になった。クリストフ・ホーホハイムは、1stアルバムから一緒に演奏していて、『ビロング』のレコーディングにも参加してる。今では双子のアントンもバンドに参加してくれていて、2人と過ごすのはとても楽しいから、喜ばしいことだよ。それに素晴らしいミュージシャンでもあるからね。ジェイコブのことは彼の前のバンド、ドリーム・ダイアリーの大ファンだったから、長らく知っていたんだ。アルバム制作中に、不思議なはど、みんなが一つなることができた。だから、ここ1年、そしてツアーは、すごくエキサイティングなものになると思うよ。

「Simple and Sure」
▲ 「Simple and Sure」 MV

??前作『ビロング』でのアンセミックでスケール感のあるサウンドに比べ、今作は細やかで奥行きのある音作りを行っていますが、このサウンド面においての方向性は自然と?

キップ:何年か前に僕のファズ・ペダルが壊れてしまったんだけど、新しいペダルを購入する以前に既にクリーンな曲を作り始めていた。ディストーション・ペダルを踏むことに頼らずに、パワフルで生き生きとした音楽を作ることはエキサイティングだったね。アルバムに収録されている「Masokissed」、「Kelly」、「Simple and Sure」、「Life After Life」なんかは、従来の方法で曲作りを行っていたら、出来上がらなかったと思うんだ。

アルバムごとに曲のスケールを大きくしていくと、そこばかりに集中するようになって、中身が薄れてしまう。僕らにとって一番大切なのは“いい曲”を作ること。音楽に新たな要素を加えること―より良いヴォーカル・ハーモニー、もっとエキサイティングなキーボードのメロディ、単純にもっといい詞を書くことで、音楽は自然と豊かで、ワクワクするようなものになる。そして最終的に、音のヴォリュームをただ上げるよりパワフルなものとなるんだ。

??そして今作のプロデュースは、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの最新作『mbv』をエンジニアしたアンディ・サヴールが担当していますが、彼との作業は如何でしたか?

キップ:アンディは素晴らしかったよ。それに今後一生友人でいられるような存在だと思う。曲のスケール感を増すために、ギター・サウンドにばかり頼らないことを教えてくれた。それから、インディー・バンドがよく使うありきたりなシンセやドラム・サウンドではなく、もっとポップなアプローチをとる手助けをしてくれた。生き生きとした輝くような音作りを目指していたから、彼がそれに合った的確なサウンドをはめ込む手伝いをしてくれたんだ。

??『mbv』の感想は?

キップ:グレイトなアルバムだよ、特にアンディのエンジニアとミキシングがね(笑)。『ラヴレス』の重みや先行する期待感もあっただろうし、極限に近いような困難な状況におかれていたと思うんだ。もしニルヴァーナが『ネヴァーマインド』に次ぐ作品を、去年リリースしなければならなかったら、っていうのと同じような状況だよね。けれど、革新的でありつつ、期待にも答えるような、両立した作品に仕上がっていて、それって並大抵のことじゃないと思うよ。

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死への衝動と自己破壊の誘惑

「Art Smock」
▲ 「Kelly」 Live At Gigstock In The Greene Space

??アルバムのインスピレーションにおいて、これは意外だったかも、と思うものがあれば教えてください。

キップ:スロッピー・ジョーという日本のバンド、ディスク・ユニオンの“ネオアコ”セクション、アウトキャストの「Hey Ya!」、それからトム・ペティだね。

??アルバム収録曲「Kelly」や「Life After Life」では、ベイルートなどの作品にも携わるケリー・プラットがホーンのアレンジを担当していますね。因みに「Kelly」は彼にインスパイアされた曲なのですか?

キップ:そう、ケリーが「Kelly」という曲に参加したというのはちょっと面白いけれど、全くの偶然だったんだ。この曲は、僕に手書きの手紙を書いてくれた、とある人物の名前を元につけられたものだよ。

曲づくりに関して話すと、昨年の冬に1週間ぐらいをかけてケリー(・プラット)の家へ曲を持ち入って作り上げていった。他にも何曲か参加していて、「The Asp at My Chest」やこれは日本盤のボーナス・トラックになるのかな…「Impossible」、「The Real World」、「Summer of Dreams」なんかがそう。彼がどのように作業するのかを目の当たりにするのはとても興味深かった。僕が考えついたベースとなるメロディ・パートを歌うと、それを様々な種類のホーンを通じて表現し、ハーモニーや時にはカウンター・メロディを作り上げていくんだ。彼は才能溢れるプレーヤーで、ベイルートのメンバーでもあるし、デヴィッド・バーン&セイント・ヴィンセント、アーケイド・ファイアなど様々なアーティストの作品に携わっているんだ。

??因みに「The Asp at My Chest」の“Asp”とは何を表しているのですか?

キップ:自分自身、そしてアートにおいての死への衝動と自己破壊の誘惑。僕は、いつも切迫した降伏の衝動を耐えなければならないと感じてるから。

写真

「Art Smock」
▲ 「Life After Life」 Live At Gigstock In The Greene Space

??なるほど。そういった衝動をバランスすることで、アルバムを通して醸し出されている雰囲気やムードがメランコリーなような気もします。

キップ:あえて言えば、前作とは同じぐらいメランコリーだと思うな…。より鮮やかで、生命力に溢れ、豊満な感じもするし。曲がクリアで、一体感がある。たとえば「Simple and Sure」や「Kelly」をライブで演奏するとアズテック・カメラ、オレンジ・ジュース、ザ・キュアーの初期の作品に通じるポップ・オプティミズムがかすかに感じられる、フレッシュなエネルギーが音楽に宿っていていて、すごくワクワクする。

一つのフィーリングと言うより、喜びや怒り…様々な感情を捉えていて、それは人生そのものを反映した感情だと思う。少なくとも僕の人生はそう。とは言っても、なんとなくいつもメランコリーや失望感、孤独感に惹きつけられる。けれど自分の中でそういった感情と闘い、その中から善や真実を導き出そうと努力している。僕にとっていい曲というのは、その葛藤について正直に語ったものなんだ。だって人生、ピクニックや自転車に乗ることや春のことばかりじゃないから。

??加えて、詞もよりパーソナルで内省的になっていますよね。

キップ:『ビロング』では、はっきりとした直接的なものを表現しようとしていて、特定の瞬間や感情を捉えたものだった。完全に理解することができない経験、感覚に溺れるという感じ。

でも『デイズ・オブ・アバンダン』では、曲が行きつくところに僕を導いてくれた。あまりどうしたいかと言うのは事前に考えていなくて、直感が自然と正しい方向を示してくれると感じたんだ。

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単に“創る”ことが可能だから生まれるのではない

「Art Smock」
▲ 「Eurydice」 Live At Gigstock In The Greene Space

??以前The Talkhouseに寄稿したザ・キラーズについての記事で、好きなリリシストにデストロイヤーのダニエル・ベイハーとタイタス・アンドロニカスのパトリック・スティックルスの名を挙げていましたよね。ダニエルはなんとなくわかるのですが、パトリックの名を挙げていたのが意外だな、と思って。

キップ:デストロイヤーもタイタス・アンドロニカスも過激主義者だ―けれど彼らには、自分の知性を見せびらかしたり、詩的な期待へ従うような、くだらない欲望はない。ダニエルが書く詞は、シュールで心に訴えかけるものがある。遊び心と深みが兼ね備わった言葉づかいは、現在英語で書かれている詞の中でほぼ匹敵するものがない。かれこれ10年間をそれを続けているというのも驚くべきことだと思う。デストロイヤーの『Streethawk: A Seduction』を聴いた時に、その自己に言及した部分には心が奪われた。彼の言葉が創りだす世界とその惜しみない美しさ。彼の文章には本物のデカダンスが備わっている。“自己耽溺”というのは、何かを“悪く”表現する時に使うけれど、ベイジャーの “耽溺”は、自分のエゴではなく、言語がもたらす愉しみのためのような気がする。

タイタス・アンドロニカスに関して言うと、パトリック・スティックルスはソングライティングのありきたりな技法に抵抗している―リピートするコーラス、エンド・ライム、それはヴァース/コーラス/ヴァース/コーラスというトラディショナルな曲構造までに及ぶ。ある意味、彼らが奏でる音楽は、ザ・フォールに近いものがあると思うんだ。彼の詩的な嘆願、世界に対する不満や説法の背景として奏でられる偶発的でラウドなバックグラウンド・ノイズ。彼らのバー・ロック(bar rock)は“マジ”で、詞と同じく制御不能。そういうところがすごく好きなんだ。キッズがモッシュしたり、ダイヴしたりするサウンドだけれど、彼がやってることの最大のパワーは、詞の中にあるんだ。

??なるほど。ではソングライター、リリシストとしてキップ自身が目指すのは?

キップ:レナード・コーエンやジョナサン・リッチマンのように、65歳になってギターを抱えた時に、25歳の頃やっていた実質的内容パワーが変わらなければいいな、と思ってる。いい曲のパワーというのは永遠だけれど、シンガーやロックスターは、あまりいい年の取り方はしない。特に“若さ”を売りにしていると、ユース・カルチャーやトレンドにを必死に取り入れようとして、まるで若き頃の姿のパロディと化するから。

写真

「Art Smock」
▲ 「Art Smock」 Trailer

??最新作を含め、これまでリリースしてきたアルバムすべて30~40分前後に収めていますが、これには何かこだわりがあるのですか?

キップ:うん。11番目にいい曲をアルバムに収録する必要はないと思うから。母は「いいライターには、必ず後ろにいい編集者がついてる。」とよく言っていたんだけど、のちに名作や名盤と呼ばれるような本やレコードは、単に“創る”ことが可能だから生まれるのではなく、一つの作品として何が出来上がったかを的確に判断し、いらない部分を必要最低限まで取り除いていくことで出来上がる。

『ビロング』から『デイズ・オブ・アバンダン』の完成までには、40~50曲書いたかもしれない。でもバンドとして20曲を練習して、そのうち15曲をレコーディングして、その中から選ばれた最高の10曲がアルバムに収録されている。残りの曲は、個々としては良いかもしれないけれど、Bサイド、そして日本盤のボーナス・トラックとして存在することとなった。それに聴いたことがない曲を恋しがる人はいないからね。

??では最後に、7月に【FUJI ROCK FESTIVAL】に出演する為に、再来日しますが、楽しみにしていることがあれば教えてください。

キップ:アメリカのバンドにとって日本で演奏できるなんて、夢みたいだし、この上ない名誉だよ。しかも歴史ある【FUJI ROCK FESTIVAL】で、素晴らしいアーティストたちと演奏できるなんて。日本には友達もいるから会うのを楽しみにしてる。

日本で一番好きなのは、ディスク・ユニオンでレコードを買うことと、自動販売機で買ったレインボーBOSSとチューハイを飲むこと。友人みんなと出かけて、パーティー出来ればいいなと思ってるよ。モスコー・ミュールを適度に飲んだら、カラオケもしちゃうかも。

ザ・ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハート「DAYS OF ABANDON」

DAYS OF ABANDON

2014/05/07 RELEASE
OTCD-3723 ¥ 2,420(税込)

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