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楽園おんがく Vol.12:楽園の香り高きアフリカ大陸のサウンド
旅と音楽をこよなく愛する、沖縄在住のライター 栗本 斉による連載企画。今回は、モロッコ、マリ共和国、ギニアなど、アフリカ大陸から届いた“楽園おんがく”をご紹介します。
我が国で“楽園”の音楽といえば、カリブ諸国や南米、もしくはハワイといったイメージが強いかもしれない。しかし、純粋に音楽的にいえば、アフリカを忘れてはならないだろう。いわゆるラテン・ミュージックも、その多くはルーツがアフリカにあるわけだし、実際アフリカ大陸から発せられるリズムや歌には、力強さを持つと同時にどこかハッピーなムードに満ちている。実際には、貧困や政情不安など多くの問題を抱える国も多いエリアなのに、これほどまでに“楽園”を感じさせる音楽が多いのかが不思議だ。
さて、そんなアフリカの大地から、ここ最近話題作が続々と登場している。とりわけ、大西洋に面した西アフリカ諸国の音楽シーンの充実ぶりは目覚ましい。ここでは、今年に入ってから日本盤がリリースされたアフリカ発の“楽園おんがく”をまとめてみた。徐々に暖かくなる季節、そして新しい節目となるこの時期だからこそ、生命力に溢れた調べを楽しんでもらいたい。
ハッサン・ハクムーン『ユニティ』
まずは、ヨーロッパ大陸からジブラルタル海峡を渡ってモロッコへ。アラブ文化の影響が色濃いこの国では、グナワといわれるイスラム神秘主義のダンス・ミュージックが盛ん。その代表的なアーティストがハッサン・ハクムーンだ。90年代にはピーター・ガブリエルに見出されてワールド・デビューを果たしただけあって、ゲンブリという弦楽器で独特のグルーヴを生み出すトランシーなサウンドは強烈なインパクト。ファンクやダンス・ミュージック好きにもおすすめしたい。
ティナリウェン『エンマー ~灼熱の風~』
モロッコからサハラ砂漠に入ると、大きく横たわるのがマリ共和国。アフリカ最大の音楽大国だが、そのなかでもトップに君臨するのがティナリウェンだろう。遊牧民族による粘っこい演奏は“砂漠のブルース”と呼ばれ、ロバート・プラントからハービー・ハンコックにいたるまで多くのミュージシャンと共演を行っている。レッド・ホット・チリ・ペッパーズのジョシュ・クリングホッファーなどもゲストに入れた新作は、政治的弾圧を逃れてヨシュア・トゥリーで録音された傑作だ。
ママニ・ケイタ『カヌ』
同じくマリのスターといえばサリフ・ケイタの名を挙げられるが、彼のバック・コーラスで活動していたママニ・ケイタも新しいスタイルのシンガーだ。パリに移住してジャズやクラブ・ミュージックを取り入れるなど、ジャンルを超えたコラボレーションを次々と行ってきた。しかしこの新作では一転し、バンジョーの祖先ともいわれる民族楽器ンゴニを効果的に使ってルーツ回帰。とはいえ、エレクトリック・ギターなどを加えたコンテンポラリーなアフロ・ポップに仕立てているのがさすがだ。
アビブ・コワテ『故郷』
こういったマリの斬新な音楽シーンを30年近く牽引してきたのが、アビブ・コワテだ。グリオと呼ばれる音楽家の家系に生まれ、80年代にバマダというグループを結成して伝統音楽をモダンなアフロ・ポップへとアップデートしてきた。本作は初のソロ・アルバムで、ドラムレスのアコースティックなサウンドに乗せて、ソフトな語り口の歌を聴かせてくれる。ンゴニやカラバシュといった民族楽器に混じり合うギターと、バンバラ語やマリンケ語といった部族ごとに異なる言葉の響きに耳を傾けたい。
ロビ・トラオレ『バマコの夜』
マリの伝説的なミュージシャンによる復刻盤も話題の一枚だろう。ロビ・トラオレは、惜しくも2010年に若くして亡くなったギタリスト。本作は、1995年に首都バマコのバーでライヴ・レコーディングされた貴重な記録だ。エフェクター処理されたアグレッシヴでサイケデリックなギター・プレイは、“アフリカのジミ・ヘンドリックス”の異名を持つほど個性的。ブルージーな歌声や、リズム・セクションとの一体感も絶妙。しかし、どこか飄々とした雰囲気も彼の魅力のひとつだ。
ジョー・ドリスコル&セク・クヤーテ『ファヤ』
内陸国のマリから大西洋へ向かうと、ギニアに入る。この国の代表的なミュージシャンであるセク・クヤーテは、コラというひょうたんの胴を持つシタールにも似た楽器の若き名人。その伝統的なサウンドに、米国出身のラッパー、ビート・ボクサーのジョー・ドリスコルを組み合わせたのが本作。社会的なメッセージをたっぷりはらんだライムとプリミティヴな音像が交錯する様子はとてもエキサイティング。レゲエやヒップホップがアフリカ音楽と相性がいいことを証明する意欲作といえるだろう。
シエラ・レオーネズ・レフュジー・オール・スターズ『ライベイション』
ギニアに囲まれるように位置するのがシエラレオネ。内戦によって多くの難民が国外に逃れたが、彼らはそのなかから生まれたグループ。ドキュメンタリー映画が作られ、2006年にはフジロックフェスティバルにも参加するなどすっかり人気バンドに成長した彼らは今年10周年。ハイライフやパームワインといった南国テイストのアフロ・ポップにレゲエやラテンの要素を加えた極上のアコースティック・サウンドには、誰もが心を浮き立たせ多幸感を味わえるはずだ。
アンジェリーク・キジョー『EVE』
海岸に沿って東へ向かうとベナン共和国に辿り着く。この国出身国民的スターというだけでなく、世界的に大きな成功をおさめているのがアンジェリーク・キジョーだろう。アフロ・ルーツを武器にしながらも、果敢に欧米のロック・シーンに飛び込んでいくスタイルはとにかくポジティヴ。ロスタム・バトマングリ(ヴァンパイア・ウィークエンド)からドクター・ジョン、クロノス・クァルテットまでをゲストに迎え入れた斬新なコラボレーションで、最新型のアフロ・ポップを提示してくれる。
シェウン・クティ&エジプト80『ロング・ウェイ・トゥ・ザ・ビギニング~始まりへの長い道のり』
ベナンの隣にある大国がナイジェリア。この国のスターといえば、70年代に強靱なアフロ・ビートを生み出したフェラ・クティが有名だが、彼の息子のひとりシェウン・クティも若き先鋭として人気を誇っている。父親のエネジーを継承しつつも、最先端のソウルやR&Bを取り入れた作風は唯一無二。前作ではブライアン・イーノを共同プロデュースに迎えて驚かせたが、今回はなんとロバート・グラスパーとタッグを組み、高揚感に溢れるグルーヴを構築している。
栗本 斉 Hitoshi Kurimoto
旅と音楽をこよなく愛する旅人/旅&音楽ライター/選曲家。
2005年1月から2007年1月まで、知られざる音楽を求めて中南米へ。2年間で訪れた国は、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、チリ、ボリビア、ペルー、エクアドル、コロンビア、ベネズエラ、トリニダード・トバゴ、パナマ、メキシコ、キューバの、合計14カ国。
帰国後は旅と音楽にこだわり、ラジオや機内放送の企画構成選曲、音楽&旅ライター、コンピレーションCD企画、ライナーノーツ執筆、講演やトークイベント、ビルボードライブのブッキング・コーディネーターなどで活動中。得意分野はアルゼンチン、ワールドミュージック、和モノ、中南米ラテン旅、世界遺産など。2013年2月より沖縄県糸満市在住。
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