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セルジオ・メンデス 来日記念特集
5月に来日を果たすボサ・ノヴァ・ブームの旗手であり音楽界の至宝 セルジオ・メンデス。ポップなブラジリアン・ミュージックで世界を魅了し、70歳を過ぎた今も精力的に活動を続けているマエストロの足跡を辿る。
セルジオ・メンデス 2014年来日公演
5月15日(木)~17日(土) ビルボードライブ東京 公演詳細はこちら
5月19日(月)~20日(火) ビルボードライブ大阪 公演詳細はこちら
躍動するサンバのリズムと、高揚感に満ちた混声コーラス。そのサウンドを聴けば誰もが心浮き立ち、寒い冬から春を通り越して一気に真夏の気分になってしまうのではないだろうか。ブラジル出身ではおそらく世界一有名なミュージシャンであるセルジオ・メンデス。その活動歴は50年以上経つが、常に色褪せることなくコパカバーナのビーチに照りつける太陽のように輝いている。FIFAワールドカップ・イヤーである今年は、さらに彼のサウンドを聴く機会も増えそうだ。ここでは、まもなく来日公演を行うマエストロの足跡を辿ってみたい。
セルジオ・メンデス&ブラジル'66の誕生
セルジオ・メンデスは、1941年にブラジルのリオ・デ・ジャネイロ州ニテロイで生まれた。幼少時からピアノを学び、クラシックの素養を身に付ける。しかし、まもなくしてジャズに目覚め、ティーンエイジャーの頃からナイトクラブでピアノを弾くようになった。おりしも、50年代末のリオはボサノヴァ黎明期。アントニオ・カルロス・ジョビンやジョアン・ジルベルトに影響を受けたセルジオは、ジャズからボサノヴァのプレイヤーへと転身する。1961年に初のソロ名義のアルバム『ダンス・モデルノ / Dance Moderno』を発表。その後もリオを拠点に活動を続けるが、1964年の軍事クーデターをきっかけに米国へ移住。西海岸のジャズ・ミュージシャンを中心に、様々なセッションを繰り広げていった。
▲セルジオ・メンデス&ブラジル’66デビュー作となる『マシュ・ケ・ナダ』
そして、1966年にセルジオの歴史を変えるグループが誕生する。それが、セルジオ・メンデス&ブラジル'66だ。ハーブ・アルパートとジェリー・モスによって設立された新進レーベル「A&M」より、ファースト・アルバム『マシュ・ケ・ナダ / Herb Alpert Presents Sergio Mendes and Brasil '66』を発表。ジョルジ・ベンの名曲をカヴァーした「マシュ・ケ・ナダ / Mas Que Nada」が大ヒットし、世界でもっとも多く歌われるブラジルのポップ・ソングのひとつとなった。この勢いに乗って、『分岐点~コンスタント・レイン / Equinox』(1967年)、『ルック・アラウンド~恋のおもかげ / Look Around』(1968年)、『フール・オン・ザ・ヒル / Fool on the Hill』(1968年)、『クリスタル・イリュージョンズ / Crystal Illusions』(1969年)、『イエ・メ・レ / Ye-Me-Le』(1969年)、『スティルネス / Stillness』(1970年)とアルバムが続いていく。1970年には大阪万博の際に来日公演を行い、大喝采を浴びた。
ブラジル音楽をポップにアレンジし
60年代を代表するアーティストへ
▲バカラック「恋のおもかげ」カヴァー収録の3rdアルバム『ルック・アラウンド』
ブラジル'66のこれらのアルバム収録曲は、いずれもサンバやボサノヴァのビートをポップにアレンジし、キャッチーなコーラスでメロディを奏でるのが特徴だ。時にはアフロ・ブラジリアンの土着的なリズムを取り入れたり、世相を反映したフォーキーな雰囲気をまとったりと振り幅はあるが、どこを切り取ってもセルメン節ともいえるサウンドに仕上がっている。また、彼らが興味深いのは、オリジナル楽曲をクリエイトしていくというよりは、既存の楽曲をブラジル'66風にリフォームしていったこと。「ソー・メニー・スターズ / So Many Stars」のようなセルジオが手がけた名曲もあるとはいえ、それ以外の大半はカヴァー曲だ。ブラジルのソングライターでいえば、アントニオ・カルロス・ジョビン、ジョアン・ジルベルト、バーデン・パウエル、エドゥ・ロボ、マルコス・ヴァーリ、ジョアン・ドナート、ドリ・カイミ、カエターノ・ヴェローゾなどを取り上げているが、彼らがいずれもその後米国でも成功していることを考えると、セルジオが取り上げたことによる影響力も実感できる。また、ビートルズ、バート・バカラック、サイモン&ガーファンクル、オーティス・レディング、ジョニ・ミッチェルといった当時のヒット曲を巧妙に織り込むことで、ポップス・ファンが入り込みやすい演出を図ったのも作戦勝ちといったところ。こうして、セルジオは60年代を代表するアーティストとして成長していった。
Writer:栗本 斉
ブラジル'77から再起の80年代
▲スティービー・ワンダーのカバー3曲を収録した『ヴィンテージ'74』
70年代に入ると、グループ名をブラジル'77に変更。『パイス・トロピカル / Pais Tropical』(1971年)、『プライマル・ルーツ / Primal Roots』(1972年)、『ラヴ・ミュージック / Love Music』(1973年)、『ヴィンテージ'74 / Vintage 74』(1974年)、『ホームクッキング / Homecooking』(1976年)、『セルジオ・メンデス&ザ・ニュー・ブラジル'77 / Sergio Mendes and the New Brasil '77』(1977年)とコンスタントにアルバムを発表。スティーヴィー・ワンダーと交流を持ったりしているうちに、徐々にAORやニュー・ソウル、クロスオーヴァーといったサウンドを取り入れて洗練されていくが、同時に60年代ほどの勢いも失ってしまった。
▲ブラジルの楽曲をカヴァーした1989年発表の『アララ』
くすぶっていた70年代を乗り越え、80年代には少しずつセルジオの再起が始まる。まずは1983年に久々にA&Mに復帰して作ったソロ・アルバム『愛をもう一度 / Sergio Mendes』から、バリー・マン&シンシア・ウェイルのコンビによるミディアム・バラードの名曲「愛をもう一度 / Never Gonna Let You Go」がシングル・ヒット。続いて、同じコンビがロサンゼルス五輪のテーマとして書いた「オリンピア / Olympia」を含むアルバム『オリンピア / Confetti』(1984年)も話題になった。ミルトン・ナシメントやイヴァン・リンスといったブラジルの楽曲をカヴァーしたソロ作『アララ / Arara』(1989年)をステップに、本格的な再起動をしたのは1992年の『ブラジレイロ / Brasileiro』だろう。“バイーアの怪人”カルリーニョス・ブラウンをパートナーに迎え、サンバやアシェーといったルーツ・ミュージックと徹底的に向き合った力作だ。その結果グラミー賞を獲得し、再びセルジオが注目を浴びるきっかけとなった。
次世代との共演で再びピークへ
▲豪華ゲストを迎え大ヒットを記録した『タイムレス』
セルジオのキャリアが、二度目のピークを迎えたのは21世紀に入ってからだ、2006年に発表したアルバム『タイムレス / Timeless』の爆発的なヒットはご存じの通り。ブラック・アイド・ピーズのウィル・アイ・アムを共同プロデューサーとして制作した本作は、ジョン・レジェンド、エリカ・バドゥ、Qティップ、ジャスティン・ティンバーレイクといったR&Bやヒップホップの錚々たるメンツを配してセルジオの代表曲を再演するという企画が成功し、リード曲の「マシュ・ケ・ナーダ / Mas Que Nada」は日本を含む全世界で鳴り響いた。2008年には同じスタイルの『モーニング・イン・リオ / Encanto』を発表。こちらもウィル・アイ・アムとタッグを組み、ファーギーが歌ってヒットした「ルック・オブ・ラヴ / The Look Of Love」を筆頭に、レディシ、フアネス、ナタリー・コール、ザップ・ママといった幅広い国籍とジャンルのアーティストが参加している。
▲10人の女性ヴォーカリストとのコラボによる『ランデヴー』
この勢いはとどまることを知らず、2010年にはカルリーニョス・ブラウン、ミルトン・ナシメント、セウ・ジョルジといったブラジルのミュージシャンを中心に迎え入れたセルフ・プロデュース作『ボン・テンポ / Bom Tempo』、2013年にはなんと、中納良恵(エゴ・ラッピン)、MINMI、畠山美由紀、BENIといった日本の女性シンガーとのコラボを行った『ランデヴー / Rendez-Vous』と、立て続けに話題作をリリース。今年も新作が噂されているというから、その精力的な活躍ぶりには圧倒させられる。今年73歳を迎えたセルジオ・メンデスがまだまだ現役だということは、まもなく行われる来日公演でも証明されるはずだ。
Writer:栗本 斉
セルジオ・メンデス・ベスト
2014/06/25 RELEASE
UCCU-1429/30 ¥ 2,096(税込)
Disc01
- 01.マシュ・ケ・ナダ
- 02.恋のおもかげ
- 03.フール・オン・ザ・ヒル
- 04.コンスタント・レイン
- 05.アフター・サンライズ
- 06.イパネマの娘
- 07.ウィチタ・ラインマン
- 08.愛をもう一度
- 09.ヴィラムンド
- 10.ウォッチ・ホワット・ハプンズ
- 11.カエル
- 12.スカボロー・フェア
- 13.愛を求めて
- 14.ソ・ダンソ・サンバ
- 15.パイス・トロピカル
- 16.もう一度 (モノラル録音)
- 17.デサフィナード
- 18.ドック・オブ・ベイ
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