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videoolio vol.11: KT Tunstall ~注目のアーティストをビデオで紹介~
旬なアーティスト、注目のバンドをビデオを通じて紹介する【videoolio】。その第10弾は映画『プラダを着た悪魔』の主題歌に使われた「サドゥンリー・アイ・シー」の大ヒットで知られるイギリスを代表する女性シンガー・ソングライター、KTタンストール。
黒髪とエキゾチックなルックスが印象的なKTは75年6月生まれの現在38歳。
いくつかのバンドで活動したのち、ソロ・アーティストとしてレコード会社と契約を結ぶ。04年、イギリスでリリースしたデビュー・アルバム『アイ・トゥ・ザ・テレスコープ』は新人のデビュー・アルバムにもかかわらず、全英3位、そして世界セールス400万枚超という大ヒットを記録した。その後、『ドラスティック・ファンタスティック』(07年)、『タイガー・スーツ』(10年)と順調にリリースを続け、シンガー・ソングライターという範疇には収まりきらないサウンド・メーキングに取り組む一方、自身のツアーに加え、数々のロック・フェスティバルに出演し、エネルギッシュなライヴ・パフォーマーとしても人気と評価を確かなものにしてきた。
昨年6月にリリースした(今のところ)最新アルバム『見えざる帝国//三日月』では砂漠のルー・リードと謳われる超個性派アーティスト、ハウ・ゲルブとのコラボレーションを実現させ、ミュージック・シーンを驚かせた。 その彼女が今年4月、2年7ヶ月ぶりに来日公演を行うことが決定。それに先駆け、彼女のキャリアと代表曲の数々を映像とともに振り返る。
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代表曲中の代表曲。彼女を語るとき、絶対に外せないのは、映画『プラダを着た悪魔』とテレビドラマ『アグリー・ベティ』の主題歌に使われ、世界的なブレイクのきっかけになったことはもちろんだが、ニューヨーク・パンクの女王=パティ・スミスのデビュー・アルバム『Horses』のジャケットを見たとき、“こういう女性になりたい!”と思ったその熱い想いを、この歌に託したKTにとって原点と言える曲でもあるからだ。“こんなふうになりたい!”という想いを、この曲を作ることで羽ばたかせ、KTは世界中の女性に勇気を与えたのだ。
「サドゥンリー・アイ・シー」でブレイクしたと語られることが多いKTだが、少なくともイギリスでは「サドゥンリー・アイ・シー」のヒット以前に彼女の存在は注目されてはじめていたようだ。そのきっかけになったのが『アイ・トゥ・ザ・テレスコープ』リリース直後に出演したイギリスの人気音楽番組『Later…with Jools Holland』でのパフォーマンスだった。この時の出演は、当初予定されていた出演者が直前で出演キャンセルとなったため突然決まったものだったという。日本製のループ・ペダルを使い、手拍子、コーラス、タンバリンの音をその場でサンプリングして、歌とギターに重ねるド迫力のパフォーマンスがスタジオにいる人達はもちろん、テレビを見ているイギリス中の人達の度肝を抜いたことは想像に難くない。
バンドと演奏する時もループ・ペダルを効果的に使うKTはいつしかピンボールの魔術師ならぬループ・ペダルの魔術師と謳われるようになっていた。ループ・ペダルを使ったパフォーマンスをもう1曲。曲は同じ「ブラック・ホース・アンド・ザ・チェリー・トゥリー」だが、ホワイト・ストライプスの代表曲「セヴン・ネイション・アーミー」とのマッシュアップというところがポイント。因みにKTはジャック・ホワイト(ホワイト・ストライウスの元フロントマン)の大ファンなんだそうだ。
07年にリリースした2ndアルバム『ファンタスティック・ドラスティック』からの1stシングル。ラテン風味を加えたロック・ナンバーだが、リズミカルな演奏は「サドゥンリー・アイ・シー」や「ブラック・ホース・アンド・ザ・チェリー・トゥリー」同様、KTの真骨頂だ。50年代から時代を追って、KTがさまざまなダンスを披露するビデオも楽しい。
エネルギッシュ、あるいはパワフルという言葉で語られることが多いKTだけど、彼女の魅力がそれだけではないことをアピールするポップ・ナンバーを、『ファンタスティック・ドラスティック』から紹介しよう。憂いを感じさせるメロディーが染みる。
『ドラスティック・ファンタスティック』からもう1曲。アコースティック・ギターによるざっくりとした音色を使った後期ビートルズを思わせるちょっとサイケなフォーク・ポップ・ナンバー。ビデオの最後、鼻血を流したKTがおちゃめだ。
KTはソングライティングのみならず、アルバムごとにサウンド・メーキングにも意欲的に取り組んできた。デヴィッド・ボウイの『ヒーローズ』やU2の『アクトン・ベイビー』という数々の名盤が作られたベルリンのハンザ・スタジオでレコーディングした『タイガー・スーツ』は、エレクトロニカが大好きだと語る彼女がエレクトロなサウンドに挑んだ野心作だった。そんな試みが顕著に表れたのが、アルバムからのリード・シングル。ふわふわと漂うようなサウンドとメランコリックなメロディーの組み合わせが新境地を印象づけた。
そして、前述したとおり、砂漠のルー・リードの異名を持つハウ・ゲルブと彼の本拠地であるアリゾナ州トゥーソンでレコーディングした『見えない帝国//三日月』は前作『タイガー・スーツ』から一転、エモーショナルな表現を作品に封じ込めるため、ライヴ・レコーディングしたアコースティック調の作品だった。ハウ・ゲルブや彼の人脈と言えるミュージシャン達と作り上げた深遠という表現も使いたいサウンドスケープは、さらなる新境地とKTの成熟を印象づけた。『見えない帝国//三日月』からのミュージック・ビデオはアルバムが持つミステリアスなムードを反映した、どれも印象深いものばかりだが、ここではR&B調がどこかノスタルジックなこの曲を取り上げよう。
来日公演情報 / リリース情報
ビルボードライブ東京:2014/4/15(火) ~ 4/16(水)
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪:2014/4/14(月)
>>公演詳細はこちら
INFO: ビルボードライブ オフィシャルサイト
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今回の来日公演はソロ・パフォーマンスだそうだ。『見えない帝国//三日月』のリリース後ということを考えると、「キャリード」のようなしっとりしとした弾き語りライヴになるのかもしれない。
しかし、そこはKTのことだ。ループ・ペダルも使ったエネルギッシュなパフォーマンスもきっと交えるにちがいない。ところで、これまでジャクソン5、ボブ・ディラン、チャカ・カーン、バングルス、ゴリラズ、アトムス・フォー・ピース等々、ライヴのステージで多彩なカヴァーを披露してきたことを考えれば、1曲ぐらいはカヴァーも聴いてみたい……などと、期待をいろいろ膨らませながら、ドン・ヘンリー84年のヒット曲「ボーイズ・オブ・サマー」の弾き語りで最後を締めくくろう。山口智男 Profile
【山口智男】
音楽ライター。90年代前半からフリーランスのライターとして、洋邦の音楽専門誌を中
心にインタビュー、ライブ・レポート、レビューなどを寄稿。洋楽CDのライナーノーツ
も多数執筆。
来日公演情報 / リリース情報
ビルボードライブ東京:2014/4/15(火) ~ 4/16(水)
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ビルボードライブ大阪:2014/4/14(月)
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INFO: ビルボードライブ オフィシャルサイト
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見えざる帝国//三日月
2013/06/19 RELEASE
TOCP-71587 ¥ 2,619(税込)
Disc01
- 01.見えざる帝国
- 02.メイド・オブ・グラス
- 03.ハウ・ユー・キル・ミー
- 04.キャリード
- 05.オールド・マン・ソング
- 06.イエロー・フラワー
- 07.三日月
- 08.ウェイティング・オン・ザ・ハート
- 09.フィール・イット・オール
- 10.チャイムズ
- 11.ハニーデュー
- 12.ノー・ベター・ショルダー
- 13.フィール・イット・オール -バンド・ジャム -Bonus Track-
- 14.ハロード・グラウンド -Bonus Tracks for Japan-
- 15.ネヴァー・ビー・ザ・セイム・アゲイン -Bonus Tracks for Japan-
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