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スチュアート・マードック of ベル・アンド・セバスチャン 映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』インタビュー
ベル・アンド・セバスチャンのフロントマン/ソングライターであるスチュアート・マードックの初監督映画『God Help The Girl』が遂に完成!アルバム『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』のリリースから約4年…構想から10年近くの時を経て遂に完成した青春ミュージカル・コメディ作の世界プレミア上映が行われたサンダンス映画祭にてスチュアートをキャッチ。映画、そしてファン待望のベルセバ新作について語ってくれた。
『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』とは?
英スコットランドのグラスゴーを代表するポップ・バンド、ベル・アンド・セバスチャンのフロントマン/ソングライターであるスチュアート・マードックによるソロ・プロジェクト、ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール。2004年にリリースされたベルセバの『ヤァ!カタストロフィ・ウェイトレス』の制作中に書かれた曲を女性ヴォーカルを起用してレコーディングしたら?というコンセプトからオーディションを重ね、2名の女性ヴォーカリストを選び、2009年にリリースされたのがアルバム『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』。もちろんベルセバのメンバーも参加しており、ディヴァイン・コメディのニール・ハノンなどもフィーチャーされている。
アルバム・リリース時より音楽だけではなく、映画/ミュージカルにも発展させたいと語っていたスチュアート。そんな彼の想いが、10年近くの歳月を経てやっと実現!自身初監督作品となる映画『God Help The Girl』が、今年1月に開催されたサンダンス映画祭にて遂に世界プレミア上映されたのだ。映画祭には、映画音楽に携わったベルセバのメンバーも同行、現地で出演者陣とともにライブを行うなどし、作品はワールド・シネマ ドラマ部門のアンサンブル・パフォーマンス賞を見事受賞。そして来月2月にはベルリン映画祭で上映されることも決定している。
▲ 「I Wish I Knew」 Years & Years
グラスゴーに暮らす、問題を抱えたとある少女イヴが、ミュージシャンとなることに憧れるジェイムスとキャスと出会い、バンドを結成するというミュージカル仕立ての今作。黒髪に赤のルージュがお似合いな主人公のイヴを演じたのは、オーストラリア出身のエミリー・ブラウニング。主役を務め、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で公開された『スリーピング ビューティー/禁断の悦び』では大胆なヌードを披露し話題となり、今夏公開予定のハリウッド大作『ポンペイ』ではヒロイン役を演じるなど、様々な役柄を演じ分ける若手実力派。
当初エル・ファニングがキャスティングされていたキャス役は、残念ながらスケジュールの都合でハンナ・マリーが演じることに。ハンナは、英人気ティーン・ドラマ・シリーズ『スキンズ』シーズン1&2で、その天然爆発なキャラで強烈なインパクトを残したキャッシー(キャス)役を演じていたので、案外エルよりピッタリだったのかも。
そしてジェイムス役には、『スキンズ』の最終シーズンにてハンナ演じるキャッシーの“ストーカー”役を演したオリー・アレキサンダー。ピアノ、ギターを弾きこなす彼は、Years & Yearsというバンドで音楽活動もしており、グレタ・ガーウィッグと共演した『The Dish And The Spoon』(隠れ名画!)には、何曲か曲を提供している。昨年9月には、お洒落っ子御用達フレンチ・レーベル、キツネからデビューEPをリリースし、2月には2nd EP『Real』が発売予定となっている。他にもゴールデングローブ賞外国語映画賞ノミネートされた『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』でモモ役を演じたフランス人イケメン俳優ピエール・ブーランジェが出演と、ベルセバのアートワークに通じるレトロ・ビューティーたちが作品を彩っている。
スチュアート・マードック インタビュー
??サンダンス映画祭で公開される映画は、直前に編集が終わったものが大半ですが、観客の反応を見た上で、映画にどのような変化を加えましたか?
スチュアート・マードック:初めて人に見せた時、みんなジェイムスについての映画だと思ったみたいなんだ。彼のキャラクターと理念。でもイヴについての作品にしなければならなかった。そう感じてもらえるように、手を加えるって感じだね。
??男女混合のバンドに所属しているあなたが、男の子と2人の女の子がバンドを結成する映画を作りましたが、自伝的な要素はどれぐらい含まれているのですか?
スチュアート:かなり含まれているよ。バンドを結成する前から、“スピリチュアリティ”について不思議に思っていることがあった。音楽とその繋がり。その疑問は80年代後半ぐらいにまで遡る。彼らは僕の一部分だけを表しているんじゃなくて、きちんとしたキャラクターだよ。それにイヴにも、キャスにも、僕の個性が投影されてる。女性の周りにいるのが好きなんだ。彼らのおしゃべり―“ガールズ・トーク”がね。だから脚本を書いている時にも、女性に焦点をあてたいと思ってたし、他に選択の余地もなかったんだ。だって、僕の頭の中に浮かび上がってきた曲を歌っていったのは女性だったから。
▲ 「The Psychiatrist Is In」 / God Help the Girl
??『God Help the Girl』には、軸となるストーリーがありますが、曲とストーリー、どちらが先に浮かんだのですか?
スチュアート:ストーリーと音楽は、ほぼ切り離せなくて、ストーリーを思いついた時には、既に何曲か書いていたんだ。2、3曲書いた後には、キャラクターのことをより理解できた。脚本のほとんどは2006年に書き上げて、アルバムは2008年までレコーディングしなかった。ツアーやアルバム(『ライフ・パースート』)のリリースで忙しかったけど、すべてがしっくりきてた。アルバムがリリースされたことで、映画も完成させなきゃ、っていう気持ちになったんだ。
??劇中で俳優たちは交互に、ベル&セバスチャンの曲とアルバム『God Help the Girl』のスタジオ・バージョンを歌っていますが、どのヴァージョンが合うか、どのように決めていったのですか?
スチュアート:判断要素はたくさんあったよ、ここで話すのには多すぎるくらいにね。両面作戦的な感じで、ほとんどはハウス・バンドと一緒にみんなが歌っているのを生でレコーディングした。そのほうがいいテイクが録れることが多いからね。ベルセバの曲だ、ってすぐ分かるものは2曲ほど入ってる。「The Psychiatrist Is In」は、脚本を書いていたのと同時期に書かれたもので、「Pretty When the Wind Blows」は、出来上がった脚本をタイプしていた時―プロセスの終盤に出来上がったものだよ。
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Stuart Murdoch Photo by Marisa Murdoch
▲ 「Pretty Ballerina」 / Left Banke
??映画には、所々音楽に言及した場面がありますが、冒頭でBBCのDJ2人が、ニック・ドレイクとイアン・カーティスについて語っていますよね。何故ここから物語を始めようと思ったのですか?
スチュアート:僕が何かトピックを与えたら、彼らは自由に話してくれたんだ。特にニック・ドレイクとジョイ・ディヴィジョンにこだわったわけではないけど、謎が多いミュージシャンは話題として、作品に合っているよね。今作はメンタルヘルスと音楽についてでもあって、この二人はそれに打ち勝つことができなかった。作品が問いかけているのは、「果たしてイヴは打ち勝つことができるか?」なんだ。そして彼女が生きたい、と思っているのは明らかだよね。
??スコアにはレフト・バンクの「Pretty Ballerina」を彷彿させる要素もあり、実際に曲の45回転レコードをターンテーブルに乗せる場面もありますよね。そして3人がバンドになった後には、ザ・スミスのTシャツが登場したり。スチュアート自身の好みは、スコアにどの程度投影したかったのですか?
スチュアート:根本的なことで、もしベル・アンド・セバスチャンにとって物差しとなっているバンドがあるとすれば、それはレフト・バンクで、僕の一部なんだ。元々クラシカルなバックグラウンドから来ているから、ああいったクラシックぽいものはいつでも頭の片隅にある。映画にありがちなのは、音楽スコアの比重が大きすぎて、劇中に音楽のハイライトが無数にあること。でも僕は作品を音で埋め尽くしたくなかった。よりシンプルにしたかったんだ。ほとんどの場合、僕が一人でピアノを弾いていて、たまにスティーヴィーがハーモニカを吹いている。ほぼ一つの曲のヴァリエーションなんだけど、ストーリーが進むにつれ感じられる秘めた温かさがある。
??スティーヴィーは、音楽コーディネーターとしてクレジットされていますが、彼の具体的な役割は?
スチュアート:アルバムでのスティーヴィーのタイトルは、アソシエイト・プロデューサーなんだけど、大体の場合、アソシエイト・プロデューサーが何をしているかなんて、みんな知らないよね。スティーヴィーは、すべてのことにおいて僕の右腕だから、そのタイトルにしたんだ。実際に音楽を作る部分はまったく別物で、彼は参加したミュージシャンがちゃんと時間に来るように指示したり…アンプを繋ぐ役割を果たしてくれた。彼の存在は不可欠だったよ。
??映画のタイトルになっている“ガール”は、摂食障害を抱えるイヴで、ポップ・レコードを作ることを夢見るライフガードのジェイムスとソングライターになりたい迷える仔羊のキャスに出会います。その中でジェイムスには理念があって、それは主にヒット曲を書く能力は天からのインスピレーションというものですが、これにはスチュアートも同感ですか?
スチュアート:この要素は作品に入れるか、わからなかったけど、最終的には残した。今は、どんなトピックであれ、スピリチュアリティに関するものだと、懸念する人が出てくる。もちろん僕にも、彼の見解に共感する部分は多少ある。アルバムがリリースされた時に、ガーディアンの為に3件の記事を書いたんだ。その一つ目は、インスピレーション―音楽はどこが違う域から生まれるもの―についてだった。読者がコメント出来るっていうのを知らなくて、一番最初のコメントは「これまで読んだ文章の中で一番ナイーヴ。馬鹿じゃないの。」っていうものだった。この映画が公開されたら、「馬鹿じゃないの。」ってこてんぱんに言われると思うけど、僕はまったく気にしてないよ。
??とは言っても、スチュアートのことをサポートする人は多いですよね。製作資金を募る為に立ち上げたキックスターターには、51もの国から資金が募られたとエンドロールに書いてありました。それってすごい事じゃないですか。
スチュアート:最初は、やりたくなかったんだ。一人からたくさんの資金を募る方が簡単だからね。でも資金が足らなくなったから、それを集める為に心から楽しめる方法を選んだ。色々やらなきゃいけないことは増えたけど…。僕が映画の撮影地を巡るバスツアーにみんなを連れて行ったり、“スクラブル”ツアーもしたんだ。ベルセバとツアーしてる最中に、僕が人々の家に出向いてスクラブルをするっていう。トロントでは、最初のスクラブル・プレイヤーにコンサートまで来てもらったんだ、彼女の家まで行く時間がなかったから。ステージにスクラブルのゲーム・ボードを設置して、他のメンバーが軽めのジャズを演奏してる最中に彼女とゲームしたんだ。結構楽しかったよ。
??夏にはいくつかのライブを控えていますが、これから日程は増えていきますか?新曲はいつぐらいに聴けそうでしょうか?
スチュアート:去年の10月にみんなで集まって曲を書き始めた―しばらく経ってるよね。レコーディングは、ジョージア州アトランタで行う予定なんだ。新たに探究する街になるね、3月ぐらいかな。
??プロデューサーは?
スチュアート:(ボンベイ・バイシクル・クラブ、シーロー、マット&キムを手掛けた)ベン・アレンだよ。彼が携わった作品はいくつか聴いているよ。もしかしたら今回のアルバムは、もう少し温かみがあって、スウィートで、ヘヴィーな感じになるかもね。違うことをやってみるのもいいよね。アトランタには、いいゴスペル・シンガーがたくさんいるから、バックアップ・シンガーに彼らを起用するかも。
Q&A by Phil Gallo / 2014年1月21日 Billboard.com掲載
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Stuart Murdoch Photo by Marisa Murdoch
ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール
2009/07/08 RELEASE
WPCB-10117 ¥ 2,703(税込)
Disc01
- 01.アクト・オブ・ザ・アポスル
- 02.ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール
- 03.プリティ・イヴ・イン・ザ・タブ
- 04.ア・ユニファイド・セオリー
- 05.ハイディング・ニース・マイ・アンブレラ
- 06.ファニー・リトル・フロッグ
- 07.イフ・ユー・クッド・スピーク
- 08.ミュージシャン、プリーズ・テイク・ヒード
- 09.パーフェクション・アズ・ア・ヒップスター
- 10.カム・マンデー・ナイト
- 11.ザ・ミュージック・ルーム・ウィンドウ
- 12.アイ・ジャスト・ウォント・ユア・ジーンズ
- 13.アイル・ハフ・トゥ・ダンス・ウィズ・キャシー
- 14.ア・ダウン・アンド・ダスキー・ブロンド
- 15.ハワード・ジョーンズ・イズ・マイ・モーツァルト (日本盤ボーナストラック)
- 16.アイム・イン・ラヴ・ウィズ・ザ・シティ (日本盤ボーナストラック)
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