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怒髪天 増子直純【BJMA2013 スペシャルパフォーマンス】インタビュー
12月14日にテレビ東京系列で放送される音楽アワード『Billboard JAPAN Music Awards 2013』にて、怒髪天 増子直純がスペシャルパフォーマンスを披露することが決定!!
「50年前、世界を変えた歌。今、私たちが歌う未来」をテーマとしたこのスペシャルパフォーマンスで増子が歌うのは、翌年に控える東京オリンピック開催を前に三波春夫が歌った1963年の大ヒット曲「東京五輪音頭」。これを記念し、1964年の東京五輪の舞台となった“聖地”駒沢オリンピック公園にて、その意気込みはもちろん、バンド結成30年を迎える来年1月に控える初の武道館ワンマン公演についてなど、現在の思いを訊いた。
今この状況においても恋愛の歌が多いのは驚き
▲[YouTube]「どっかんマーチ」Music Video
――今年は坂本九さんの「上を向いて歩こう」が、「SUKIYAKI」として米国のBillboard Hot100で1位を獲得してから50年という節目の年になります。1963年当時といえば……
増子直純:まだ生まれてないね、俺は66年生まれだから。でも、九ちゃん大好きだったよ。子どもの頃だったからぼんやりとしか覚えてないけど、よくテレビに出て歌ってたし、教科書に載ってもいいくらい日本のポップスのスタンダードを確立した人だよね。歌声も特徴あるし聴きやすい。大人になって気付いたけど、作家陣も凄い。「上を向いて歩こう」は、俺が高校生くらいの頃にRC(サクセション)のカバーもあったから、思い入れは多いよね。
――今年の1月に英BBC電子版で“世界を変えた20曲”という記事が掲載されたのですが、「風に吹かれて」と「イマジン」に並んで、「SUKIYAKI」が選ばれたそうです。以前、増子さんはインタビューで「日本人なら日本語で歌うべきだ」と仰っていましたが、その証明になるような結果ですよね。
増子直純:俺らだって洋楽を聴いてて、興味があったら調べるじゃん。言葉も大事だけど、基本はメロディとハーモニーとビート。この3つが揃ってたら、多少言葉が分からなくても、良い曲は良いって分かるんだよ。それに言葉もシンプルな方がいいと思うよ。「上を向いて歩こう」だって子どもから大人まで分かるし、大人になればなるほど歌詞の裏に込められた想いを感じられる。良いものは常にシンプルなんだよねェ。
――確かに怒髪天が今年発表した楽曲も、「ニッポン・ワッショイ」や「どっかんマーチ」が象徴的なようにシンプルな歌詞です。
増子直純:やっぱり震災を受けて、音楽と向き合う姿勢が相当変わった。今みたいな時代だと、テレビやラジオから流れてくるほんの一瞬で聴き取れて、意図が伝わるものが必要だと思う。「どっかんマーチ」だって“どっかん! どっかん!”だけ覚えておけば、ちょっとは元気出るじゃん? そういうのが歌なんだと思って。元々俺はパンクやハードコアが好きなんだけど、速いビートでザクザク刻んでるイントロを聴くだけでテンションが上がるのと同じだと思うんだよ。日本の歌もそうなっていくべきだと俺個人は思っているけど、今この状況においても恋愛に関する歌が多いっていうのは驚きだよね。
――今はそんなことを歌っている場合ではないと?
増子直純:今の日本には、将来的に明るい展望を見出せるようなトピックがほぼ無いわけでしょ? 2020年に東京でオリンピックを開催することが決まったけど、その前にやることがいっぱいあるよ。反対している人はいるし、俺も最初は「どうかな……」って思ったけど、世界中から来てもらうための整備をガッチリやらなきゃいけない。その中で一番大切なのが原発の問題だったりするわけだから、そこをきっちり片付けておかないと。その後押しになるのであれば、何かしら1つの目標、明るい出来事を先に設定して、みんなで向かっていけるのは凄く良いことだと思う。
それだけで男が一生を懸けるに値する
増子直純:もちろん税金は上がるよ、金が無いんだから。でも、今の自民党に入れた人は良かれと思って投票したんでしょ? 「それは責任を負えよ」って思うよね。権利と義務じゃないけど現実的に1つずつ向き合わなきゃいけないし、そういう抜き差しならない時代だと思うんだよね。
――近年の怒髪天は、その抜き差しならない状況でも歩き続けなければいけないと訴える楽曲が多いですよね。
増子直純:世相が暗ければ暗いほど明るい曲が出るから、間違いなく。今、日本中にどでかいブルースが漂っているわけだから、闇夜を照らすのは光でしかない。やっぱり受け取り方は千差万別で、本当の意図を汲み取ってくれない場合ももちろんあるし、“ただのお祭りバンドになったな”って人だっているけど、それはそれでけっこう。俺が飯屋の店長だったとして、出した飯に対するウンチクは語らんよ。美味しく食べてくれれば十分。2011年に被災地を回ったとき、音楽で悲しい思い出を消すことはできないけど、楽しい思い出を1つ増やすことはできるって気付いてさ。音楽って、それだけで男が一生を懸けるに値することだと思うんだよね。何か一緒にできないか。そして、どうにかこの暗い毎日を1つでも明るくできないか。楽しい気持ちを1つでも増やせないかってことだけ考えてるから、今は。
――やっぱり増子さんが「東京五輪音頭」を歌う理由は大きくあると思います。
増子直純:前回の東京オリンピックのときに三波春夫さんが歌った「東京五輪音頭」って、戦後で大変だった日本が高度成長期に向かっていこうとする後押しというか、1つのエネルギー、推進力になる曲だったと思うんだ。音楽ってそういうものだと思っていて、闇が深かったからこそ明るい曲が映えたんだろうし。まだまだ色んな問題が山積みだった時代なのに、“世界に目を向けましょう”、“手を繋いでいこう”って日本が迎え入れる新しい時代へ向かう推進力になったと思うんだよね。
Interview&Photo:杉岡祐樹
もう一回再構築していかないと日本のロックが伸びない
――そんな「東京五輪音頭」を2013年に歌う上での意識というのは?
増子直純:まずさ、よく俺に話が来たなって(笑)。「何を考えてるんだ!?」っていうね。
――日本の土着的な音楽にチャレンジしながら、キャッチーな音楽的価値も高めていく。怒髪天は日本独自のスタイルで、ロックを表現している大きな存在だと思います。
増子直純:やってることはザ・ポーグスと変わらないと思ってるからね。例えば日本の酒場で、「1杯おごるから1曲やってよ」って酔っ払ったおじさんにギターを渡したら、適当にでも演歌や音頭を歌うと思うんだよ。そういう血に流れているもの、土着的なものを再構築じゃないけど、今の音楽として歌う、鳴らすのがどういうことなのか。そして、それが日本人にとってどれほどテンションが上がることなのか。それを体現できればと思ってるよ。聴いてて楽しくなる、手拍子したくなる、ニヤニヤしたくなる(笑)、そういうものであって欲しいよね、音楽は。音頭って本来、もっと世界的に評価されていいグルーヴだと思うんだけどね。日本のロックは“和製ビートルズ”だ“和製プレスリー”だと、和っぽいものが皆無な所から始まってるじゃない。そこをもう一回再構築していかないと、今後日本のロックが伸びないからね。世界的なものにならない。それは英語で歌うことよりも先にやらなければいけないよ。
――しかも「東京五輪音頭」は発表された当時、三橋美智也さんや橋幸夫さんなど何種類か同時に発売されたようですが、中にはかつて怒髪天の1stアルバム『怒髪天』のジャケット題字を担当した北島三郎さんも参加されていたんですよね。
増子直純:……ただ、抜群に歌がウマい人ばっかりだから困ってるよ(笑)。まァ、そこから俺に依頼がくるっていうのも現代的で面白いよね、ポップアート的っていうかさ。
関ジャニ∞のドーム公演で5万人が歌ってた
▲[YouTube] 太鼓の達人
「ももいろ太鼓どどんが節/ももいろクローバーZ」演奏画面
――今のシーンで怒髪天ほど繋がりを持ったバンドもそういないですよね。最近では、ももいろクローバーZのニューシングル『GOUNN』にも、c/w曲「ももいろ太鼓どどんが節」を提供しましたし。
増子直純:面白いと思ったことはやるよ。興味がある所とはどこでも繋がりたいと思うし、ない所とはやらない。ずーっとそれできたから。色んな所に面白い人や凄い人がいるんだよ。色んな所にいっぱいいる。それは音楽活動していく上での楽しみでもあるから。俺らが作るものって、それなりの独特さ、オリジナリティがあると思うから、そこにニーズが生じているのは面白いことだと思うよ。
――「やっと気付いたか」という想いもありますか?
増子直純:だけどこればっかりは時代性があるからしょうがない。去年の年末、(「あおっぱな」と「モンじゃい・ビート」を提供した)関ジャニ∞のドーム公演を観に行ったとき、5万人が俺たちの作った曲を歌ってたからね。あれは凄かった(笑)。で、それを見たときにさ、自分が言いたいこととか伝えたたいこととか、俺のバンドじゃ手が届かない所まで伝わるって思ったんだよね。良い曲を作って良いライブをやる、そして良い曲を遺していくためにバンドをやっているから、曲がちゃんと残っていれば誰が歌っていてもいい。それが名曲だと思うよ。
――30年近い活動歴がありながら、今になって広がりを作れているバンドはなかなかいないですよね。
増子直純:でも、言ったら29年分の蓄積があるってことだからね。埋蔵量はハンパじゃない(笑)。
――次の東京オリンピックまでは持ちそうですね(笑)。
増子直純:この間、色々調べてみたら持ち曲200曲くらいあるんだよ。恐ろしい(笑)。これは常に思ってることなんだけど、日記を書くように曲を作っていくことがリアルだと思うんだよね。推敲に推敲を重ねて色んな音を重ねて計算して、何年もかけて作ったアルバムが必ずしも面白いわけではない。スガ(シカオ)くんとは同い年なんだけど、前に一緒に飲んだときに話してたらさ、彼は歌詞をほとんど書き直さないんだって。思ったことを最初に文字にしたときの勢いが一番大事だと思うって。「なるほどな~」って思って、それからあんまり書き直さないようになったね。
Interview&Photo:杉岡祐樹
俺らの夢はバンドを楽しくやること
▲[YouTube] 「歩きつづけるかぎり」Music Video
――それはスガさんや増子さんのようなキャリアがあって初めて成立するのでは?
増子直純:まァ経験値っていうのはあるよね。誰も気付かないし何とも思わないんだろうけど、以前は曲を作って歌詞を乗せるときに、歌い出しの音は母音から始めず、破裂音であったりインパクトのある言葉を選んだりしてたんだよ。作った歌詞をローマ字にして起こし直して、音がかぶらないようにしてたんだよね、昔は。でもね……、本当に意味がなかった(笑)。例え言葉がかぶったとしても、言いたいことがあるのであれば同じ単語を堂々と使えばいい。そっちの方が大事だね。もっと自由でいい。ロックバンドなんだから。シンプルで荒削りで熱いものの方がいいね。
――そんな増子さんは来年1月、結成30年目にして怒髪天にとって初の武道館ワンマン公演が控えています。
増子直純:バッターボックスに立ち続けていればデッドボールでもフォアボールでも出塁することがあるんだよっていうのは体現できるんじゃない? 俺らは武道館を目標にやってきたわけじゃないし、まさかできるとも思ってなかったけど、やっていれば本当にこういうこともあるんだよっていうのをみんなに見せたいっていうか、感じて欲しいよね。
――先日フラワーカンパニーズにインタビューしたとき、シングルヒットが取り立てて無くても、日本中をツアーしていればとりあえず食えるという状況を怒髪天が見せてくれれば、若いバンドの励みにもなると仰っていました。
増子直純:国民的大ヒットが1曲あるよりも、ライブで盛り上がるスマッシュヒットが何曲もある方が、ロックバンドとしては正しいと思うんだよね。だって、RCの「雨上がりの夜空に」だって国民的ヒットではないじゃん。バンドの存在自体が国民的スマッシュヒットくらいであれば、いくらでも続いていくし、そうじゃなくても続いていくからね。すぐバンド辞める奴はいっぱいいるし、それが悪いとも思わない。そういう奴って有名になりたいとか金欲しいとかモテたいとか、手段としてバンドを選んだわけじゃん。その夢が叶わないとなったら手段は変えるよ。でも、俺らの夢はバンドを楽しくやることだから。バンドをやって、良いライブを演って、良い曲を作っている時点で夢が叶ってるから、辞める必要がないんだよね、全然。
30年間続けてきたよ、ありがとう
――ただ、決して楽な道ではありませんよね。
増子直純:うちのメンバーは40歳過ぎまでバイトしてたからね。そりゃあ結成した当時にさ、「ここから30年ほど、泣かず飛ばずですけど、バイトしながら30年間、このメンバーでがんばってください」って言われたら「キッツいなー!」って答える(笑)。だけど、楽しくやってきた結果として続いただけであって、続けようと思って続けてきたわけでもないしね。
――(上原子)友康さんは怒髪天で武道館に立つため、過去にあったゲスト出演などのオファーは全て断っていたそうですね。
増子直純:そうそう。俺はやると思ってなかったから出ちゃってるけどね(笑)。メンバースタッフ含めてみんなで話し合った結果、「30年に1回だし、もし赤字になったら、またがんばって働いて返しましょうよ」って話になって決めたことだから、即完すること、売り切ることが目標じゃない。“30年間続けてきたよ、ありがとう”ってことをみんなに見てもらって、お祭り気分で一緒に楽しんでもらえれば十分なんだよ。それから先もやることはいっぱいあるからさ。
――では、最後に、番組で「東京五輪音頭」を歌う上で、視聴者に伝えたいことや見所になりそうな所を教えてください。
増子直純:日本の曲は良いって感じてもらえれば、楽しんでもらえればいいと思うよ。誰が歌っても楽しいって、演歌や音頭のハードルを下げられればなって。気張って肩肘張ってやらなきゃいけないジャンルじゃないし、もっと身近に宴会で歌うようなものだよって。こっち側に手繰り寄せられればなって思ってるよ。
――個人的には、ずみちゃんスタイルで出演して欲しいのですが……
増子直純:それは凄いよね。もはや誰だか分からないじゃん(笑)。
取材協力
東京オリンピックメモリアルギャラリー
東京・駒沢オリンピック公園内にある入場無料のギャラリー。1964年の第18回オリンピック東京大会の公式ポスターやユニフォーム、開会式や名場面の写真など、貴重な資料が展示されている。番組情報
『Billboard JAPAN Music Awards 2013』2013年12月14日(土)16時よりTXN系列6局ネット(テレビ北海道、テレビ東京、テレビ愛知、テレビ大阪、テレビせとうち、TVQ九州放送)にて放送
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Interview&Photo:杉岡祐樹
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