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japan(finds) vol.5: Midge Ure
来日アーティストに様々なものを日本で探求、発見してもらう新企画、japan(finds)の第五弾は、80年代にウルトラ・ヴォックスのフロントマンとして数々のヒット曲を残し、いまだに熱狂的なファンの支持を受けるミッジ・ユーロが登場。9月の来日公演前に行われたオープン・レタープロジェクトで『メタルギア』シリーズのゲームデザイナー小島秀夫氏に招かれ、『メタルギア ソリッド』の開発現場に訪問が実現。普段は見ることのできない貴重な現場に密着した。
「ゲームの世界はあまり知らないから、今日はすごく楽しみだよ。」
『メタルギア』シリーズの開発現場である小島プロダクションは東京、六本木ミッドタウンにあるコナミデジタルエンタテインメント本社の中にある。マネージャーも連れず一人颯爽と登場したミッジ・ユーロはライブのときとは違い、とてもリラックスしていて、優しい印象を受けた。
「ゲームの世界はあまり知らないから、今日はすごく楽しみだよ。」
オフィスに入りながらそう語ったミッジ・ユーロは、応接室で小島氏を待つ間、展示されたアーケードゲームに興味深々。席に着くことなくゲーム機の前に行くと、「これはどんなゲーム?」「スタッフは何人?」「オフィスはここだけ?」「ゲームの開発は全部このオフィスでやっているの?」などなど、広報担当者に矢継ぎ早に質問を浴びせていく。まるで工場見学にきた子どものようだ。
5分ほどすると、小島氏が登場。メールでもお互いに熱いメッセージを送り合っていた二人がついに再会。軽く挨拶を交わすと、さっそくミッジ・ユーロからサプライズプレゼントが。1980年にリリースされたウルトラ・ヴォックスのアルバム「ヴィエナ」のアナログ盤。しかも2000枚しか出回っていないという代物。ウルトラ・ヴォックスだけでなく、ヴィサージュやソロ作品もコレクトしている小島氏も「これは持っていない」と大喜びだった。
応接室を出て一行が向かった先は、ゲームの最終的な音の調整を行うミキシング・スタジオ。ここでまず小島氏が見せてくれたのは、6月に発表した『メタルギア』シリーズ最新作『METAL GEAR SOLID Ⅴ THE PHANTOM PAIN』(以下MGSV)のトレーラー映像。上映が終わると「インクレディブル」、「ファンタスティック」と感嘆の声を上げるミッジ・ユーロは音もやはり気になったようで、「ゲームで使われている音はすべてここで作られているのか」という質問に対し、音楽はハリー・グレッグソン=ウィリアムズ氏を始めとする外部の方や社内のスタッフが制作し、効果音はすべて社内で制作しているという。「みんなグラフィックや映像に注目しがちだが、この音が驚くほど素晴らしい」と唸った。
彼をうならせた本作は、オリジナルエンジンの開発に5年ほど費やし、ゲームやトレイラー自体は3年ほどかかっているという。
「こんなクリエイティブな現場で働いて
給料をもらえるなんて、すごく幸せ者だ」
ミキシング・スタジオを出て、次に小島氏が案内してくれたのは、小島プロダクションの制作フロア。まさにシリーズ最新作『MGSV』が開発されている現場である。広々としたフロアは、無数のパーティションで区切られ、エンジニア、デザイナーが複数のモニターを見ながら作業をしている。
はじめに、ゲームに登場する人物を制作するクリエイターのもとへ。エンジニアと小島氏は、キャラクターが出来上がっていく様子を丁寧に説明してくれた。作業場のすぐ横には無数のカメラが設置され、3Dで写真を撮影できるスタジオがあり、そこで撮影した写真をクリエイターがアレンジしていくのだそう。昔はゼロから作っていたが、それだとリアルにならないという。逆に、精密に作りすぎると今度はデータが重くなるので、工夫をしながら出来る限りリアルなものを作っていると小島氏は説明してくれた。
初めてみるキャラクターの制作現場に、食い入るようにモニターを見つめるミッジ・ユーロ。「こんなクリエイティブな現場で働いて給料をもらえるなんて、すごく幸せ者だ」と、クリエイター達を笑わせた。
その後、リアルタイムで進行するゲームの仕組みや、トレイラーで観た映像を別の視点から見たり、細部にまでこだわった『メタルギア』 のクオリティに「ファンタスティック…ファンタスティック…」と驚きと感想を隠せないでいた。ミッジ・ユーロが「このまま限りなく実写に近い映画が作れるね」と言うと小島氏は「できるけど誰もやりたがらない(笑)」と答えていた。やはりこれだけ精密なキャラクターと世界を作るために、膨大な時間と労力が伺える。
そして実際にゲームをプレイするところを見ることになり、オフィスを移動していると、ミッジ・ユーロファンのスタッフからサインを求められ、即席のサイン会がスタート。気さくに話しかけ握手をするミッジ・ユーロ。デビューから20年以上たったいまでも、ファンに親しまれるのは、彼の人柄によるものに違いない。
実際にゲームがスタートすると、プレイするスタッフに「グッド!」、「ナイス!」と声をかけながら、緊迫したゲームの世界にのめりこんでいくミッジ・ユーロだった。
「日本のゲームは映像や音楽も含めて本当に素晴らしい。」
オフィスツアーも終盤に差し掛かり、向かった先は『メタルギア』シリーズのアートディレクター新川洋司氏のオフィス。
机にはキャラクターの草案とも思しき絵が並んでいる。機密情報なので、お見せできないのはとても残念だが、どれも躍動感とリアリティがあり、ミッジ・ユーロもそのクオリティの高さに「ビューティフル。日本のコミックもそうだが、絵のクオリティがすごく高い。」と感嘆の声を上げた。キャラクターは筆ペンで描かれていて「なぜ筆なんだ」とミッジ・ユーロが問うと、新川氏は「筆で描くと、スピーディに自分のイメージを形にすることができます。」と説明してくれた。さらにミッジ・ユーロが机にあった一枚の絵を取りながらさらに感心していると、新川氏は「プレゼントフォーユー」と、その絵をプレゼントしてくれた。
そして最後に隣の小島氏のオフィスに訪問。一歩オフィスに入ると、そこには所狭しと並んだフィギュアや本、そしてCDの数々。もちろん、ウルトラ・ヴォックスのビデオもそこにあった。「ここでは特に見せるものないんだけどな。」と笑いながら言った小島氏は、車に踏まれても壊れないというiPhoneケースの『メタルギア』オリジナルデザインバージョンをプレゼント。11月にはイギリス出張があることを告げると、ミッジ・ユーロは「本当か!?11月に僕のイギリスツアーがあるんだ!」とさらにテンションが上がる。小島氏も「タイミングが合う様でしたら、伺いたいですね。」と返答。約1時間半に渡った今回の訪問でさらに親交を深めた二人が再会する日は近い?
小島プロダクションを出ると、ミッジ・ユーロはそのままミッドタウンの中にあるビルボードライブ東京に直行。楽屋に到着し一息つくと、「日本のゲームは映像や音楽も含めて本当に素晴らしい。今日間近で実際に見て、クオリティの高さにびっくりしたよ。ヒデオも、他のスタッフもみんな素晴らしかったね。」と言いながら、小島氏からもらったiPhoneケースや新川氏の絵を嬉しそうに見つめていた(iPhoneケースはパーツが細かかったためすぐに付けることができなかった…)。
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