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ゲイリー・ニューマン 『スプリンター(ソングス・フロム・ア・ブロークン・マインド)』 インタビュー

ゲイリー・ニューマン 『スプリンター(ソングス・フロム・ア・ブロークン・マインド)』
インタビュー

 エレクトロニック・ミュージック、インダストリアル・ロック、ヒップホップからポップ・ミュージックまで様々なジャンルのアーティストに支持される孤高のカリスマ、ゲイリー・ニューマン。シンセサイザーをポップ・ミュージックに初めて用いた前衛的で革新的なサウンドで、1979年の「Cars」が全英1位、米ビルボード・シングル・チャート9位を記録。曲が収録された『The Pleasure Principle』では全英1位を獲得、その後も『Telekon』『Dance』と立て続けにヒットを放ち、一躍“時の人”となった。
 だが80年代後半~90年代前半にクリエイティヴVS商業の葛藤に悩まされ、不振続きだった中、マリリン・マンソンやナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーが曲を取り上げることで再評価され、1994年の『Sacrifice』にて見事に復活を果たした。デビューから30年以上経つものの、近年ではバトルスの2ndアルバムでその唯一無二のヴォーカルを披露するなど精力的に音楽活動を続けている。そんな彼が記念すべき20枚目のスタジオ・アルバムとなる最新作『Splinter (Songs From A Broken Mind)』について語ってくれた。

(「Lost」は)このアルバムだけじゃなくて、
今までで一番重要な曲だと言えるかもしれないな

「Wide Awake」
▲ 「Splinter (Songs From A Broken Mind)」 Trailer

??待望の最新作『スプリンター(ソングス・フロム・ア・ブロークン・マインド)』が遂にリリースとなりますね。発売に先駆け、アメリカにて何公演がライブを行っていましたが、新曲に対するファンの皆さんの反応はいかがですか?

ゲイリー・ニューマン:今のところはかなりいいよ。古い曲をプレイすれば、もちろん皆知ってる曲だからポジティブな反応を期待してたけど、新曲はアルバムがリリースされてないから皆まだ知らないんだ。だから、反応はもっと静かなものだろうと予想してた。でも、実際にプレイしてみると、新曲でも同じリアクションを返してくれたんだ。素敵なサプライズだったよ。皆新しい曲にノってくれて、最高だった。盛り上がってたね。これ以上の反応はない。10月にはもっと沢山のショーをやるから、すごく楽しみなんだ。その時は、もっと新曲を演奏するつもり。今のところ、全て順調に進んでる。

??以前、古い曲はあまりプレイしないと言ってましたよね。 昔の曲は5曲くらいで、あとは新曲を演奏するようにしてるとか。

ゲイリー:そうそう。でも今はリリース前だから、少し多めに古い曲を演奏してる。でも、ちゃんと意味のある昔の曲を選んではいるよ。ナイン・インチ・ネイルズがカバーした「メタル」って曲や、フー・ファイターズやマリリン・マンソンがカバーした曲。他にも色々選んでる。ただ古い曲だから、という理由じゃなくて、沢山の人がカバーしてたり、サンプリングしてる曲を選んでるんだ。演奏することで、昔の曲を再提示しようとしてるんだ。新しいバンドと繋がってる曲とか、何か新しいものが関係してる作品。昔の曲を演奏する時は、そういうバランスは大切だと思う。注意して選ばないとね。

「Wide Awake」
▲ 「Splinter (Songs From A Broken Mind)」 Trailer2

??今作のサウンドは、ヘヴィーでスケール感があり、さらにはアンセミックでもありますよね。ライブで演奏するとより映えるような曲ばかりだと感じるのですが、これはアルバムを制作する際に、意識していたことの一つなのでしょうか?

ゲイリー:アルバムを書いていた時、毎回ライブのシチュエーションを考えていた。ライブは、俺がレコーディングの時に考えていたことの大部分を占める。レコーディングの時だけじゃなくて、曲を書いていた時もそうだね。詞を書いている時なんかも、それがライブではどう映しだされるかを考えたりしてた。曲をライブで演奏するということは、曲づくりの部分から大きな要素だったんだ。

??個人的にアルバムの中で一番惹かれたのは一際“アコースティック”でまるで子守唄のような「Lost」だったのですが、ヘヴィーなサウンドに対比するような曲を入れることで、アルバムのサウンドやテンポに多様性を持たせることは重要でしたか?

ゲイリー:かなりね。結構前にアルバムのことを考え始めた時、俺はとにかく壮大な曲を12曲収録することを考えてた。超ビッグなグルーヴとコーラスが入った、かなり一次元的な作品をイメージしてたんだ。でも、エイド(・フェントン)と一緒に『Dead Son Rising』のサイドプロジェクトをやったとき、3~4年前の話だけど、アイデアがガラッと変わったんだ。その時に、最初のアイデアよりもより良いものを思いついてね。より柔らかだけど、同時にもっとアグレッシブな作品を作りたくなった。
 今回のアルバムには、その要素が沢山入っているんだ。もっとダイナミックな要素を持ったものを作ろうと意識したけど「Lost」は、その中でも大切な曲。この曲を書いた当時、俺と妻は、かなり頻繁に言い争いをしててね。鬱のせいで色々大変だったのもあって、俺は家を出て行こうとしてたんだ。大きな過ちを犯すところだった。それでも、あの時の俺は本気だった。彼女がいなかったら人生どうなってたか….怒りは一旦鎮めてスタジオに入って曲を作りながら考えてみることにしたんだ。そうしているうちに、自分がいかにバカだったかに気がついた。「Lost」を書いたことで、自分が忘れてしまっていたこと、彼女がいかに素晴らしいかに気づかされたんだ。そこから、2人で再スタートすることができた。あの曲が、俺たちの結婚生活を救ってくれたんだよ。もしかしたら、このアルバムだけじゃなくて、今までで一番重要な曲だと言えるかもしれないな。

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    そういうのが全て、少しずつ入った作品を作りたかった
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そして同時に美しいラブソングのような…
そういうのが全て、少しずつ入った作品を作りたかった

「Wide Awake」
▲ 「I Am Dust」

??今、名が挙がった前作の『Dead Son Rising』では、昔のデモなどを掘り下げ、これまでに無かったような、ある意味実験的な作品づくりを行いましたが、それが今作に与えた影響についてもっと詳しく教えてください。

ゲイリー:さっき言ったように『Dead Son Rising』の影響でライティングの時にかなりダイナミックなものを意識するようになった。奇妙で、まるで取り憑かれるような、そして同時に美しいラブソングのような…そういうのが全て、少しずつ入った作品を作りたかったんだ。『Dead Son Rising』のあと、皆がそういった部分を気に入ってることがわかった。そういう部分に反応してくれてる。それが『Dead Son Rising』から学んだこと。そのあと、『Splinter』の作業に戻って、そこからはもっと変化に富んだ曲を書くようになったんだ。クールだよね。例えば、「Lost」みたいな曲を書いたことは今まで一度もなかった。元々のアイデアじゃなかったんだけど、『Dead Son Rising』のおかげで間違いに気づく事ができたんだ。そのおかげで全然違う、かなりベターなアルバムを作る事が出来た。もしそれまでのアイデアのままだったら、ここまでの反応はなかっただろうね。全然違うリアクションになってたと思うよ。

「Wide Awake」
▲ 「Love Hurt Bleed (Live on KEXP)」

??アートワークに関しても強いこだわりを持っていて、独創的なものが多いですが、今作のイメージのインスピレーションになったものがあれば、教えてください。

ゲイリー:自分でもわからないんだ。ちゃんとした答えをあげられなくて申し訳ないけど…抽象的なコンセプトと、最高のフィーリングがしっくりきたんだ。少なくとも、俺の頭の中ではね。アルバムのアートワークを見てアルバムを聴いても、コネクションは見出せない人も沢山いると思う。それはすごく理解できるよ。俺にも説明できないから。でも俺の中では、完璧に繋がってるんだ。

写真


「Wide Awake」
▲ 「Everything Comes Down To This (Live on KEXP)」

??以前、映画音楽をスコアすることにも興味を持っていると語っていましたが、この気持ちは今でも変わらず?

ゲイリー:今でもその思いは変わらない。俺にとってそれが正しいことかはわからないけどね。それを今、明確にしようとしてるんだ。今はイギリスにいるけど、LAに戻ったら、俺とエイドでフィルム・スコアを書くことになってる。12月と1月で書く予定なんだけど、アニメーション映画で、すごくダークな作品なんだ。それが映画音楽へのキャリアの第一歩になる。すごく小さなステップだから、あまりプレッシャーはない。大作でもないし、予算も少ないしね。だからすごく落ち着いた第一歩なんだ。もしそれが上手く言ったら、それよりも少しプレッシャーがかかかるくらいの、もう少し予算が多めの作品に挑戦してみたいと思ってる。今はまだ模索中。とりあえず、それをまず完成させることができないといけないし、上手く出来ないといけない。もしかしたら、全然上手く行かないかもしれないしね。まだ自分に映画音楽がちゃんと書けるかさえわからない。ひょっとしたら、俺には合ってないのかも。だから、まずとりあえずその作品で様子を見てみたいんだ。もし面白いと思ったら、その方向へも進んで行きたい。1、2年後には、やっぱりいいやと思うかもしれないしね。

??では好きな映画音楽の作曲家や作品などはなにかありますか?

ゲイリー:好きな作品と作曲家は…思いつかないけど、俺はとりあえずホラーがあまり好きじゃない。理由はただ怖いから(笑)。LAの俺の家はでかくてお城みたいなんだ。ドラゴンやガーゴイルが庭にあったり。だから気味悪くてさ(笑)。もしもホラーを見に行って家に帰ったら怖いだろうな(笑)。多分、俺は全てのジャンルの映画に曲が書けるわけじゃない。おそらずコメディは無理だし、やっぱり自分の音楽にフィットするものが合うだろうね。ダークでヘビーで。ってことは、ホラーは適してるのかも。自分は観ないけど、雰囲気は合ってると思うね。

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「My Machines」
▲ 「My Machines」 / Battles feat. Gary Numan

??1970年代後半でデビューしてから、30年以上の活動を続けてきましたが、未だに自身が作る作品に対して自己批判的ですか?

ゲイリー:もちろんさ。寧ろそうでないと。自己批判的になるのは必要なことなんだ。音楽を作る時は、その度にベストをつくさなきゃ。自分がやることに批判的になりながらね。でも、それが行き過ぎると危険なんだ。少なくとも、俺には起こったことで、20年も前の話ではあるけど、追求しすぎて、何にも満足出来なくなってしまったことがある。自信もなくなるし、“ベスト・アルバム”にとらわれすぎて、いったい何が良いものなのかわからなかくなってしまうんだ。だから、批判的になりすぎないバランスが大切。俺は批判的になりすぎた時期があったけど、反対に全くならない人もいるよね。ただ、曲を書いてることだけに満足できる人たち。そしてそれに自信がある。そうだったらいいなと思うこともあるけど、俺は違うんだ。

??なるほど。以前インタビューなどで、昔は“ヒット曲”を書くことを自分自身に強要していたと言っていましたが、そのメンタリティの変化についての話をお聞かせください。

ゲイリー:1992年に変わった。『Machine and Soul』はかなり出来の悪いレコードだと思うんだけど、あれが上手くいかなかったことで、もうヒット・シングルと書くのはやめようと思った。とにかく自分のキャリアを続けられるものを書こうと思ったんだ。その時期から先が見えなくなってしまって…未来のプランもなく、レコード契約もなかった。俺のキャリアは終わったな、と思ったんだ。でもだからこそ、そこから何も気にせず、楽しんで曲が書けるようになった。アルバムになるとかならないとか、そういうことを気にせずに曲が書けたんだ。そしたら、アルバムがもっとダークでヘビーなものに仕上がった。それを聴いた時、「あ、これが俺が書きたかった音楽なんだな」と気づいたんだ。
 商業的な成功やラジオ、レコード会社、そういう全てのビジネス面を考えずに心から曲を書けば、俺の音楽はこんなにダークに、こんなにヘビーに、こんなに面白くなるんだ、と。それがわかってから、そのやり方にハマってるんだ。もう色々考えないようにした。前に戻れと言われても、それはもうエンジョイできない。若い頃の自分を再発見した感じだよ。『Splinter』では特にそれが出来た。もちろん成功も大切だけど、メインの理由ではないね。今は自分が好きな作品を書いて、それが成功することを願うんだ。

??ナイン・インチ・ネイルズをはじめ、レディー・ガガ、バトルスなどゲイリーの作品や音楽性は、様々なアーティストに影響を与えていますが、逆に若いアーティストから自身が影響を受けることは?

ゲイリー:もちろんあるよ。俺のキャリアの長さやどれだけ彼らに影響を与えてきたかは関係ない。お互いに学んでるんだ。俺は今でも新しい作品を聴くし、それがどのように出来上がったのかに興味を持つ。一生学校にいるようなものだよ。お互いに影響し合って、新しいものを作っていくんだ。

「Cars」
▲ 「Cars (Live)」 / Nine Inch Nails with Gary Numan

??では最後に、エレクトロニック・ミュージックのパイオニアの一人でもあるゲイリーから、再び人気が高まりつつあるその現状はどのように見えていますか?

ゲイリー:最近のエレクトロニック・ミュージックにはもちろん良いものもある。新しい世代の沢山の人たちが興味を持ってると思う。でも、ひとつ違和感を感じるのは、昔のエレクトロを参考にして作品を作ってる人たち。エレクトロも最近では歴史ある音楽になったから、ノスタルジアが出て来てしまったんだ。俺は、エレクトロニック・ミュージックは常に前進すべき音楽だと思ってる。次や新しいものを意識するジャンルだと思うんだ。テクノロジーも新しくなっていくわけだしね。前と違うことをするのがエレクトロなんじゃないかな。でも、新しく参入してくる人の中には、そうでない人もいる。過去を振り返って、昔の70年代とか80年代を再び訪れてる人達がいるんだ。それは間違いではないし、もちろん悪くもないんだけど、エレクトロにノスタルジアは必要ないと思うんだよね。振り返ることに意味はない。テクノロジーが関係してるジャンルなんだから、前を見なきゃ。
 昔のテクノロジーが人を惹き付けるのもわかる。その時代に存在してなかったから、彼らにとっては初めての経験なのもわかる。古い物に特別な価値が出来て、歴史が彼らを惹き付けるんだろうね。でも、俺自身は過去には戻らないし、振り返らない。昨日よりも新しいものを作って前進したいんだ。そこがエレクトロの面白い部分だと思うしね。エレクトロに限らず、音楽自体がそうだと思う。クレイジーな実験的音楽である必要はないんだ。わずかな、かすかな前進を常に意識してればいい。それが俺の目標。エイドが俺に求めるのもそこだしね。ニューサウンドを作るよう背中を押してくれる。だから、今回のアルバム『Splinter』もああいう作品に仕上がってるんだ。

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