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ウォッシュト・アウト 『パラコズム』インタビュー
2011年にサブ・ポップよりリリースされたデビュー・アルバム『ウィズイン・アンド・ウィズアウト』で現代のネット時代を象徴する音楽ムーヴメント、チルウェイヴとともに時代の寵児となったアーネスト・グリーンことウォッシュト・アウト。2年間のツアーを経て、出来上がった最新作『パラコズム』では、メロトロンやチェンバリンなどの楽器の導入によってヴィンテージ感溢れる外向的なサウンドとともに“非現実的な”創造の世界を構築し、新境地を開拓した。そんな彼に作品のインスピレーションや環境の変化が及ぼした影響などについて話を訊いた。
過去にやったことに背を向けるようなことをしようとは思っていない
▲ 「Paracosm」 (OFFICIAL ALBUM TRAILER)
??最新作『パラコズム』の完成おめでとうございます。前作より満足のいく作品に仕上がったと感じますか?
アーネスト・グリーン:そう思うよ…。前作に比べ、制作は困難ではなかったし、なごやかな気持ちで進められた。作業を開始する前に、どのようなサウンドにしたいかという明確なアイディアが頭に浮かんでいたのは大きいね。それにクリエイティヴ面において、ある程度領域を決めていて、その範囲内で創造することで、ソングライティングに容易く打ち込むことが出きたと思うんだ。
??チルウェイヴ・ムーヴメントとともにアーティストとしての認知度が急上昇したこともあり、デビュー・アルバム『ウィズイン・アンド・ウィズアウト』ではリスナーを意識した曲づくりをしなければいけなかったのが困難だったと言っていましたが、今作ではどうでしたか?
アーネスト:プレッシャーが消えることはないと思う。でもある意味そういうことから自分を切り離したり、それを無視することが以前よりうまくなったと思うんだ。方向性をコントロールしたり、一つのゴールへ向かわせることなく、再び楽しく音楽を作ることに専念した。過去にやったことに背を向けるようなことをしようとは思っていない。元々持っているアイディアをより洗練させ、あらたなツールや楽器とともにソングライティングに取り組んだよ。
??そしてジョージア州アセンズの郊外に引っ越したことが、制作環境に大きな影響を与えたそうですね。新居のスタジオ環境づくりにおいて重んじたことはありますか?
アーネスト:『ウィズイン・アンド・ウィズアウト』のツアー後に、ここに引っ越してきた。非都会的な環境は、アルバムのサウンドに大きな影響を与えている。自宅のスタジオには大きな窓があって、そこから家の周りの自然を観ることにインスパイアされることが多かったね。『パラコズム』が、日中のフィーリングがするのは、窓の外に広がる庭や自然を見ながら曲づくりを行っていたからなんだ。一番大切なのは落ち着けて、他の部屋から少し隔離された場所にあるということだね。邪魔されることなく創作できるというのは重要だから。
▲ 「It All Feels Right」 (OFFICIAL LYRIC VIDEO)
??やはりベッドルームで制作活動をするには、それなりの制限がありますからね。
アーネスト:もちろん。これまで作ってきた作品のプロダクション技法は、環境と直接的に関係していた。たとえば、以前制作を行っていた環境では、あまりサウンドがよくなかったり、プロの機材がなかったから、ドラムのサンプルやドラム・マシーンを多く使わなければならなかったんだ。
??ある意味“人工的で機械的”だったデビュー作とは打って変って、今作ではヴィンテージのキーボードを含む50種類以上の楽器を用いたそうですが、この変化はどこからきたものなんですか?
アーネスト:単純にこのアルバムで探究しようとしていた雰囲気にあっていたから。僕にとって、一つ一つの楽器は、絵の具の色なんだ。それに新しいサウンドやアイディアをもって創作することで、過去にやったことに頼れなくなるから、新たなものが生まれるインスピレーションにもなる。
??そして結果として温かさと奥深さがある外向的な作品に仕上がっていますよね。アルバムの中で特に気に入っている曲があれば教えてください。
アーネスト:このアルバムを作り始めた当初のヴィジョンに一番近い「It All Feels Right」 がとても気に入ってる。快活で、楽観的なフィーリングを連想させるし、多数の楽器を使っているから。曲の中で何度かテンポが変化して、ドリーミーだけど錯乱させるところも好きなんだ。今までもこの要素は、僕の作品に存在していたと思うけれど、それを新たな方法で躍進させようと努力しているんだ。
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Photo: Shae DeTar
平凡で退屈な日々を持ち前の想像力と独創力で超越していた
ダーガーの人生の捉え方に共感できる
▲ 「Don't Give Up」 (OFFICIAL LYRIC VIDEO)
??前作に引き続きプロデューサーを務めたベン・アレンとともにレコーディングに入る前に、既に作品は半分以上出来上がっていたそうですが、そんな中彼はどのような役割を果たしてくれましたか?
アーネスト:彼は素晴らしいプロデューサーで、ミュージシャンなんだ。それに仕事もしやすい。今回の制作過程で一番大きく貢献してくれたのは、レコーディングにライブ・パフォーマンスを取り入れることをプッシュしてくれたことだね。ドラム・パートは、すべて再録して、ギターやアップライト・ベースも同じくそうした。でもこうしたことによってもっと人間味が溢れる作品に仕上がったと思うんだ。
??今作は、ヘンリー・ダーガーの『非現実の王国で』などの世界観から多くのインスピレーションを受けたそうですね。彼の作品は、主に子供の思考、逃避主義やイノセンスなどをテーマとしていますが、具体的にどのような部分に惹かれましたか?
アーネスト:ヘンリー・ダーガーは、様々なレヴェルでこのアルバムをインスパイアした。彼の作品はとても素晴らしいよね…彩色豊かで、無垢でユニークな制作アプローチを取ってる。それに平凡で退屈な日々を持ち前の想像力と独創力で超越していた彼の人生の捉え方にも共感できるんだ。詞は、ここ何年か感じていたこと…主に家に戻り、大好きな創作活動を再び始めたいという想いについて書いている。前作『ウィズイン・アンド・ウィズアウト』のツアーは、2年間にも及んで、ツアー中にクリエイティヴになるのは難しいからね。
??アートワークに関しては、ジャケットに写真を起用していない初の作品ですが、コンセプトについて教えてください。
アーネスト:前作に比べ、僕にとってこのアルバムは、気まぐれな感じがしたんだ。だからイラストレーションの方が適していると思った。実際のアートワークは、植物の百科事典からとった古い花のイラストレーションをコラージュしたものだよ。
▲ 「Feel It All Around」 (Live on KEXP)
??最近ライブで表現することが困難な音楽が増加傾向にあるように思えますが、今作のアルバムの楽曲は、どのようにライブ環境に反映されると思いますか?また自分の音楽を誠実に、オーセンティックにライブで表現する為に気を付けていることは?
アーネスト:これまで作ってきた曲は、元々ライブ・バンドと演奏する為に書かれた曲ではないからそれを再現するのが困難だった。でも今作では、ライブでどのように演奏しようかということをきちんと考えながら作った。ライブを聴いている観客にとって、どうようなことが楽しいのか。それを理解して曲に組み込むのには、何年間かツアーをしなければわからなかったのは、明らかだね。このアルバムには様々な楽器が用いられていて、現代のテクノロジーでは、サンプラーやキーボードでそれを“演奏”することが可能だ。5人編成のバンドで演奏する為に、多少アルバムからアレンジも変えてる。もちろんアルバムに基づいたリアルでオーセンティックなパフォーマンスを体験してもらいたいと思っているけど、同時にそれと異なったアレンジや即興性を持たせようという努力もしているよ。
??では最後に、このアルバムのリリースによって自身のアーティストとしての意識はどのように変化しましたか?そして現在の音楽シーンをどのように見ていますか?
アーネスト:多分アーティストとしての自分が確立されたことによって、制作中に感じた恐れや自分を疑う気持ちを跳ね返すのが容易くなったんだと思う。だからもっと気楽に制作が行えたね。 曲を書くのにも、あまり時間がかからなくて、実は、もう1枚アルバムを作れるぐらいの曲がまだ残っているんだ。
一般の音楽リスナーが、様々な音楽を聞くようになっていることは、とても興味深いと思う。それは多分、ジャンルを問わず新しい音楽を発見することがより身近になったからなんだよね。このようなフレッシュな感覚と多様化する音楽の趣味は、これから作られていく音楽に興味深い変化を及ぼすと思うな。
Washed Out | Exploring The Sounds of 'Paracosm' | Part I
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Photo: Shae DeTar
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