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オリアンティ 来日インタビュー
大ヒットを記録したマイケル・ジャクソンの『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』にフィーチャーされ、プリンス、サンタナ、スティーヴ・ヴァイといったアーティストたちとの共演、アリス・クーパー・バンドのギタリストとしての活動などでその実力を発揮し、新世代女性ギタリストとして世界中を虜にするオリアンティ。約2年ぶりとなる最新作『ヘヴン・イン・ディス・ヘル』では、プロデューサーにデイヴ・スチュワートを迎え、さらに磨き上げられたギター・プレイを見せつけてくれた。今もっとも注目を浴びる女性ギタリストを5月に行われたジャパン・ツアー中にキャッチ!最新作を始め、ライブや女性アーティストとしての自覚について語ってくれた。
普段音楽と接する時は、耳に入るぐらいの距離感が一番いいと思ってる
――この取材の前がちょうどお昼で、お寿司を食べてきたそうですね。
オリアンティ:そうなの。とても美味しくて、たくさん食べすぎちゃった(笑)。実はウニはまだ食べたことがなくて…これから大阪でのライブがあるから今回はトライしてないけど、いつかは食べてみたいわ。それに日本へ戻って来れて最高の気分よ。まだちょっと時差ボケしてるけど。
――約2年ぶりとなる最新作『ヘヴン・イン・ディス・ヘル』について教えてください。今作はよりオリアンティのルーツに近い作品に仕上がったと感じました。
オリアンティ:ここ何年間か曲は書き続けていたけど、このアルバムは偶然から出来上がったものなの。ある日ナッシュビルでレコーディングをしていたデイヴ・スチュワートから「ブラックバード・スタジオに来てみなよ。スゴクいいとこだよ。」と連絡があって、行ってみたの。今考えればすごくいい決断だったわ。スタジオもミュージシャンも素晴らしくて、1日で8曲もレコーディングした。そこからアリス・クーパーとツアーに出て、デイヴともシュガーランドの前座としてツアーを行った。ツアーが終わってから、再びLAでレコーディング作業を開始してやっと出来上がった。先週「ヘヴン・イン・ディス・ヘル」のミュージック・ビデオを撮ったばかりで、後はゲスト・ミュージシャンとして様々なアーティストの作品に参加している。色々なことができて楽しいけど、今回はこのアルバムの曲に専念することができて嬉しいわ。
――今、話に上がりましたが、今作はユーリズミックスのデイヴ・スチュワートをプロデューサーに迎えていますね。彼とはここ何年か共に制作活動を共にしていますが、彼との出会い、作品づくりについて教えてください。
オリアンティ:そう。彼に出会ったのは3年ぐらい前の【Stand Up To Cancer】というイベントで、スティーヴィー・ワンダー、ハート、マーティナ・マクブライドなんかの素晴らしいアーティストが出演していた。その時に食事会があって、彼とブルーズの話ですごく盛り上がったの。私がギターを演奏し始めたのが、B.B.キングなどのブルーズ・ギタリストからの影響だったという話をしたら、「じゃあ、今度一緒に曲を書いてみようよ。」と誘ってくれた。彼は尊敬すべきソングライター…彼が書いた曲を思い浮かべてみると、ユーリズミックスを始め、素晴らしい作品ばかりよね。だから「もちろん!」と即答したわ。それからジャムりだして、2年間が経ってやっと何曲かレコーディングした。アルバムにするという話は当初していなかったけど、それが今回の作品に繋がった。今私はLAに住んでるけど、彼はLAに住んでる知り合いの中では大親友。プロデューサーと仕事するにあたって信頼関係を築くことは大切なこと。自分のアイディアを惜しみなく相手と共有できなければ、いい作品は作れないと思うから。彼が元々ギタリストだというのも大きい。プレイヤーとしても私のことを理解してくれていて、レコーディングしている時も建設的な批評や色々なアイディアを提案をしてくれる。彼とは先日LAのトルバドールでライブをしたばかりよ。
――ではレコーディングを行った世界有数のミュージック・タウンのナッシュビルがアルバムに与えた影響は?
オリアンティ:大きいわ。特にサザン・ロックの要素が、多く見受けられると思う。ダン・ダグモアがラップスティールで参加しているけど、彼は最高。後はキース・アーバン、ラスカル・フラッツ、フェイス・ヒルの作品に参加しているギタリストのトム・ブコヴァクの演奏も素晴らしい。音楽性、人間性、両方において、とても相性がいいチームだと感じたのは確かね。スタジオ内のエネルギーの高揚感も最高で、短期間で何曲もレコーディングすることができた。
――アルバムのオープニング・トラックからしても、とても多彩な作品に仕上がっていますが、今作の制作中に聴いていた作品やアーティストがあれば教えてください。
オリアンティ:デルタ・ブルーズはよく聴いたわ。ロバート・ジョンソン、マディ・ウォーターズ、ハウリン・ウルフなんか。こういう音楽は家で料理をしている時とかによく聴いていて。大事なのは、何かをやりながら聴いていてもインスピレーションを受けることが可能だということ。説明するのが難しいんだけど…細かい部分に焦点を当てて音楽を聴いてしまうと、その曲に似せた曲を書きたくなって、極端な話「じゃあデルタ・ブルーズのアルバムを作ろう!」という気持ちになってしまう。だから普段音楽と接する時は、耳に入るぐらいの距離感が一番いいと思っているの。
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とにかく色々なことにチャレンジしてみたい
何かに挑戦することによって人は育つと思うから
――前作に比べ、今作ではギターリフを中心とした曲が増えたと感じたのですが、詞よりリフから曲づくりを始めることが多かったのでは?
オリアンティ:そうなの。たとえば「Fire」は、スライド・ギターのリフが思い浮かんだから、GarageBandで録音して、スタジオに持ち込んだ。詞については、全く何も考えていなくてデイヴと一緒に一日費やして物語を練っていった。この曲のギターパートは、ライブで演奏するのが大好き!「ヘヴン・イン・ディス・ヘル」は、アコーステック・ギターで書き始めたんだけど…“爆発”する曲が欲しかったの。ちょっと気味が悪いヴォーカルで始まって、ドアをノックする音、足を踏み鳴らすようなサウンドと叫ぶ声…こういうダイナミックな曲を書きたいとずっと思っていた。スタジオで曲のデモを作った時に、オクターブ・ペダルとファズボックスを使ったら、より骨太で圧倒されるようなサウンドになるのではというアイディアが浮かんだ。この曲もとても気に入っているから、ミュージック・ビデオを撮って、完成をすごく楽しみにしている!
――ではそのミュージック・ビデオの内容について少し教えて下さい。いわゆるパフォーマンス・ビデオですか?
オリアンティ:監督は、シャナイア・トウェイン、デッドマウス、ネオン・トゥリーズのビデオを手掛けたポール・ボイド。作品のヴィジョンからライティングまで、彼はすべてにおいて完璧だった。私が何かに対して心から満足するのは稀なの。でも彼が撮った映像は、自分が思い描いていたとおりだった。とてもドラマチックで…パフォーマンスがメインだけれど、きちんとした物語がある。演技もしているわ。とにかく“ロックンロールな”ストーリーよ(笑)。
――なるほど。演技をするというのは、初の試みだったのですか?
オリアンティ:前にも少しやったことがあるわ。実は演技をすることにも興味を持っているの。とにかく色々なことにチャレンジしてみたいのよ。何かに挑戦することによって人は育つと思っているから。まだ具体的に何かって言ったら分からないけど、ちょっとオフビートな作品とか面白いかもね。
――今まで様々なアーティストと共演を果たしていますが、また共演したことがないアーティストで、何かやってみたいという人はいますか?
オリアンティ:ゲイリー・クラークJr.、エリック・クラプトン…キース・アーバンも凄くクールよね。後はレディ・ガガ。
――面白そうなプロジェクトになりそうですね~。
オリアンティ:そうよね。彼女の歌声とピアノの演奏が大好きなの。彼女が歌いながらピアノを弾いて、私がギターを演奏するというのをやってみたいわ。彼女は本当に才能溢れるアーティストよね。
――パフォーマンスにおいて、アリス・クーパーを始め、他のアーティストと演奏する場合では気を付けていることなどありますか?
オリアンティ:やはり他のアーティストと演奏する時は、彼らをサポートしているという面で気を遣うわ。私は彼らの“サイドウーマン”だから。サイドマンじゃなくてね(笑)。でもアリスはもちろん、これまでマイケル・ジャクソン、マイケル・ボルトンなどジャンルを問わずアイコン的なアーティストと演奏することができた。内緒だけど、来週大きなアワードにサプライズで出演するの。これはつい先日オファーされたばかりなんだけど、とても楽しみにしてるわ。日本でもテレビで見れるんじゃないかしら(編注:オリアンティが出演したのは【Billboard Music Awards 2013】で、クリス・ブラウンの「ファイン・チャイナ」のパフォーマンスにサプライズ・ゲストとして参加した)。後は、アリスと同じぐらい天才的なロックンロール・ヴォーカリストとレコーディングもしていて、それももうすぐリリースされるわ。
――では今回のように自身が主体となって演奏する時はいかがですか?より演奏に集中する?
オリアンティ:何も全く考えていなくて、演奏をしている時は“無”の状態なの。不思議なもので、考えてしまうと後々その時の音源を聴くと自分が考えてる“音”がするのよ。だから自然と体を音楽に合わせて動かしているという感覚。根はヒッピーだから、自由が一番(笑)。音楽で自分を始め、聴き手を自由にする。自分が型にはまらないことには気にならないし、幼い頃から少し変わったオフビートな人たちに惹かれる。11歳の頃からサンタナを聴いていたり、それこそボブ・マーリーのTシャツを着て学校行ったり。周りにそういう音楽を聴く人はまったくいなかったから、変な子と思われてたに違いないわ。
ライブでは何も考えたくないというのは、良くも悪くも様々なことが起っている世の中から解放される唯一の場所でもあるから。でもライブ中にトラブルが発生することもある…弦が切れたり、コードを踏んでアンプから抜けちゃったり。でもエンターテインメントだし、そんなことは関係ないの。私の髪がビビのベースに絡まっちゃったことがあって2曲ぐらいその状態で演奏したこともあるわ(笑)。彼女は、私のギターソロ中に一生懸命ベースを放そうとしたけどより絡まっちゃって。1万人ぐらいの観客がいたんだけど、みんな演奏そっちのけで、無事ほどけるかに注目してた。ビビのことは大好きよ。彼女ほんとに面白いんだから。
――そういう出来事もライブでしか体験できないことで、ある意味、醍醐味でもありますよね。
オリアンティ:本当よね。何が起こるか予測できないというのもそうよね。ギターストラップが壊れてて、誰も直せなかったから手でギターを持って演奏しなければならないこともあった。アリスとのツアーでは、その要素の方が大きいわね。いつもクレイジーな出来事が起こってる!
――(笑)。中でも一番印象に残っているものは?
オリアンティ:知ってると思うけど、アリスは巨大なパイソンを飼っていて、それをツアーにも連れて来ているの。ある日ツアー・バスの中のジェネレーターが壊れたから、ケージから一晩出してたの。私はとっくに寝ていたから朝まで知らなくて、その時はさすがにヒヤリとしたわ。パイソンが自由に徘徊している場所で寝てたなんて。彼とのツアーは、とにかくクレイジー。でも彼にも、蛇にも大分慣れたわ(笑)。ステージ上で紙吹雪が入った大きな風船を剣で割るパフォーマンスがあるんだけど、私の頭上に落ちてきた風船をそのまま差して割った時は「オーマイガッド!」ってビックリしたわ。しかもそれは彼とツアーをし始めて初の公演だったから、余計にね。
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人より2倍頑張らなければならないのは、
身に染みてわかっている
――ギターは6歳の時に始めたそうですが、歌い始めたのは何歳頃でしたか?
オリアンティ:7歳の時。その時に初めて書いた曲を学校で歌ったの。映像も残っているけど、サイアク(笑)。
――どんな感じの曲だったんですか?
オリアンティ:ビートルズの「ツイスト&シャウト」に似たサウンドの曲。アップビートで少しレトロな感じで「Spin Your Jackets Around」っていうタイトルだったわ。ちょうどその頃、『ロビン・フッド』の劇をやったから、バックアップ・ダンサーを務めてくれた友人たちもその時の衣装で、みんなジャケットを回してるっていう。キャッチーな曲だったけど、ちょっと変な要素もあって。実は、その頃ビートルズに憧れていてマッシュルーム・ヘアにしてたの。ある日自分で美容院に行って、切ってもらって。新しい髪形を見た瞬間、母は固まってたわ(笑)。単にトライしてみたかっただけだったんだけどね。
――では話は変わって、オリアンティはSNSを頻繁に使っていて、ファンとのコミュニケーションを大切にしていますよね。
オリアンティ:そうなの。Facebook、Twitter、最近ではVine。Vineはとってもクールよね。でも実はやり過ぎって感じているの。たとえば原宿に歩いている途中に素敵な公園があったんだけど、Vineに投稿しなきゃ、ツイートしなきゃっていう頭でいっぱいになってしまって。普段会えない友人と話すいい機会でもあるし、ファンのみんなとも自分がその時に感じていることやいる場所を分かち合うことが出きる。みんなよく見てくれていて、実際会って話す機会があるとなんでこんなこと知ってるんだろう、と思ってたら自分がInstagramに投稿してたのを忘れてたり…。Facebookに送られてくるメッセージは呼んでいるけど、長いものが多いからTwitterの方が好きかな。瞬時に反応や反響が分かるところも興味深いし。
――若い女性のファンが多くいるというのも印象的ですが、デビューしたのが若かったのと、やはり女性ということで、活動を始めた頃には様々な葛藤があったと思います。でも今では彼女たちのロール・モデルとなっていますよね。
オリアンティ:でも実はその状況は今でもあまり変わっていなくて…。これまで『Guitar Player』、『Guitar World』、日本では『Young Guitar』誌の表紙を飾ってきた。確かコートニー・ラヴ、クリッシー・ハインドに続き、3人目の女性だって訊いたわ。音楽業界は、男社会的な部分がまだあると思う。多くの女の子、そして男性からもポジティヴな反応がある反面、「所詮女でしょ。」とか「注目されたいからやってる。」というようなネガティヴなことを言われることもある。自分の存在がマスに知られることによって、いい反響も増すけれど、それと同じぐらい嫌われるのは仕方がないことなの。
だからその分、人より2倍頑張らなければならないというのは、身に染みてわかっている。私がやっていることを男性のアーティストがしたら「すごくクール!」と言われるけど、私がやったら「彼女イイね。」ぐらいで留まってしまうのよね。
――では最後に、ギタリストやミュージシャンを目指している人々へ女性アーティストとしてのメッセージをお願いします。
オリアンティ:音楽業界はクレイジーなビジネス。でも音楽は、世界中の人々に届く素晴らしいアートだと思う。それを演奏し、作ることができるというのは天からの贈り物。ましてはそれを仕事にできるなんて。自分のことを信じて、誰からも“出来ない”とは言わせないで。粘り強く取り組めば、必ず夢は叶うはずだから。マイケルが私を見つけてくれたのはYouTubeだった。今はTwitter、MySpaceを始め、様々なメディアのプラットフォームがあるからそれを有効に使ってプロモーションを行うこと。たくさんライブをすること。自分が心からやりたいことをあきらめないで。「それはやらない方がいいんじゃない?」と言われることもあるかもしれない。実際、私は学校の先生からギターは女の子ぽくないから、ハープを習えって言われていた。現代の音楽シーンには、素晴らしい女性ベーシスト、キーボード奏者、ドラマーが大勢いる。私の好きなベーシストの一人は女性なの。
――タル・ウィルケンフェルド?
オリアンティ:その通りよ!彼女は本当に素晴らしい。女だからとか関係なく、あんなに巧いベーシストはめったにいないわ。最近ブリタニー・マッカレロというドラマーと演奏したけれど、彼女もいいプレイヤーだと思う。状況はゆっくりだけどいい方向へ変わりつつあると思う。最後に言いたいのは、どんな時でも心を込めてプレイしてということね。
"Heaven in this Hell" At: Guitar Center
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ヘヴン・イン・ディス・ヘル
2013/03/13 RELEASE
UICO-1246 ¥ 2,670(税込)
Disc01
- 01.ヘヴン・イン・ディス・ヘル
- 02.ユー・ドント・ワナ・ノウ
- 03.ファイアー
- 04.イフ・ユー・シンク・ユー・ノウ・ミー
- 05.ハウ・ドゥ・ユー・スリープ?
- 06.フローズン
- 07.ロック
- 08.アナザー・ユー
- 09.ハウ・ダズ・ザット・フィール?
- 10.フィルシー・ブルース
- 11.イフ・ユー・ワー・ヒア・ウィズ・ミー
- 12.ベター・ウィズ・ユー (日本盤ボーナス・トラック)
- 13.セックス・イー・ビザー (日本盤ボーナス・トラック)
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