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宇宙人 『惡の華』インタビュー

宇宙人 『惡の華』 インタビュー

しのさきあさこ(※1)長谷川智樹(※2)
個人的に今年もっともワクワクしたマッチングだった。そして二人が完成させた楽曲「惡の華」は、想像の斜め上をいきつつ、5月現在での2013年No.1アニソンと宣言したい強烈な1曲だった。

賛否にアニメファンが沸く『惡の華』。原作を基にしたサウンドと歌詞。キーワードはハンガリー舞曲、光GENJI、フランス映画。ゲストボーカルの後藤まりこ、の子、南波志帆。そして視聴者を震撼させたエンディング曲、ASA-CHANG&巡礼「花 -a last flower-」についてまで。二人の話は多岐に渡った。

アニメ『惡の華』の衝撃とキャラクター考察

--現在もオンエア中のアニメ『惡の華』(※3)は、放送開始直後からネットでも大きな話題を呼んでいますが、改めてトンでもない作品ですね。

惡の華 / 宇宙人
▲惡の華 / 宇宙人

長谷川智樹:さっきも二人で話してたんですけど、とてつもないですね。いろんな意味でみんなが天才ですね、演出やエンディングなども含めて、みんなが凄いです。

--実験的な手法が取り入れられたアニメ(※4)になっていますが、あのような作品になると知っていたのでしょうか?

しのさきあさこ:まったく。

長谷川智樹:びっくりですね! それに宇宙人の「惡の華」のPVも凄いですよね、謎の物体が出てくるし。

しのさきあさこ:UFOです!

--しのさきさんは今回のプロジェクトに参加する上で、原作の『惡の華』を読んだりしましたか?

しのさきあさこ:読みました! ……感想ですか? えー、印象は……、主人公が、3人いる漫画(笑)。お気に入りは佐伯さんです♪

--『惡の華』は原作者が男性ということもあって、女性のキャラに関しては“男から見た理想の女性像”になっている所もあると思うんですよ。

長谷川智樹:うん、両極端な理想ですよね。我々男性から見ると分かりますよね、仲村さんの方にも惹かれてしまう性(さが)というか。佐伯さんももちろんかわいいんだけれど、仲村さんの魅力がタマらないっていうのはありますね。

--その佐伯さんも回を追うごとに……

長谷川智樹:そこがまた、まったく女性というものは……とね(笑)。

しのさきあさこ:ああいう中学生ってどこにでもいるなって思います。

--そしてお二人が手がけたアニメのオープニングテーマ「惡の華」は、主要キャラ3人の名前と、作品の舞台ともいうべき群馬県桐生市の名前が冠された4つのパートで構成された組曲(※5)になっています。

しのさきあさこ:仲村さんは、分かりやすく“自分は他人とは違いますよ”っていうのを表に、全面に出してくるタイプ。春日くんはかっこよく見せようとして結局気持ち悪いけど、そこは見せないぞって必死なタイプで、佐伯さんは優等生だけど心の中はグチャグチャ。桐生は実際に行きました!

--どのような町でしたか?

しのさきあさこ:桐生は、不穏な空気の漂う町でした。

長谷川智樹:はい。僕は少し前に偶然、(栃木県の)益子町っていう所に行ったんですよ。北関東特有の黒い森があったりして、その時に感じた町の雰囲気は曲をアレンジするヒントになっていたかもしれないですね。

キーワードはハンガリー舞曲、光GENJI、フランス映画、etc

--楽曲「惡の華」については、しのさきさんが作曲、長谷川さんが編曲とクレジットされていますが、どのような行程で完成したのでしょうか。

長谷川智樹:最初はまったくアカペラの、伴奏もない鼻歌がきましたね(笑)。明らかに夜、部屋で一人で歌っている状態で。ただ、コード感とかテンポが何もないので、逆に広げやすかったですね。
それに“このキャラクターたちを、よくぞここまで把握して作られたな”とも思いました。コケティッシュというかイノセントというか。キッチュだったし声もステキで、とにかくそのデモテープが魅力的だったんです。宇宙人の音楽は聴いていたんですけど、普段はどのような作り方をしてるんですか?

しのさきあさこ:全部バラバラです。コードとか何も考えず、鼻歌で作ったのは「惡の華」が初めてです。Aメロ、Bメロの塊をいっぱい作って、その中から選ばれた4つを使いました。元旦から1週間で50個くらい作りました!

--歌詞もその時に作ったのでしょうか?

しのさきあさこ:「惡の華 -仲村佐和-」と「惡の華 -春日高男-」のAメロBメロは、ゲストボーカルの人が書きました。

--そもそも曲を作る上で、他の人が歌うという想定はあったのでしょうか?

しのさきあさこ:全然なかったです。ゲストボーカルですよーって聞いて、「なるほどー。オッケーオッケー」って(笑)。『惡の華』のことだけ考えていたので、アニメに寄り添う作品になるなら誰が歌ってもいいと思って作ってました。

--長谷川さんはデモを受け取った所から、どのような発想で現在の形に作り上げていったのでしょうか。

長谷川智樹:最初は難しかったですね。4曲が1曲に聴こえるように、でも全部違う感じにして、なおかつボーカルも4人いる。さらにキーも違うとか……、頭が混乱しました(笑)。
でも、ディレクターさんと3者で打ち合わせをさせていただいた時に、ハンガリー舞曲であるとか、光GENJI、フランス映画みたいにとか色んなキーワードをいただいたんですよ。そのキーワードが全部自分の引き出しにあるというか、大好きだし得意な所だったので、そんなに苦労せずに割とスルスルやれたと思います。

しのさきあさこ:コード進行が、新鮮でした! あと、いっぱい色んな音が入っていたので勉強になりました♪

長谷川智樹:同じメロディなんだけど違う曲に聴こえるようにコードをひっくり返したり違うコードを付けていったり、色彩を添えるのが僕の役割でしたね。

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しのさきあさこは、なぜ光GENJIと言ったのか

惡の華 第1話
▲【ニコニコ動画】惡の華 第1話

--ちなみに、「惡の華 -春日高男-」のイントロでホーンセクションが高らかに鳴る展開は、どんなイメージだったんですか?

しのさきあさこ:光GENJIです!

長谷川智樹:びっくりしましたね(笑)。打ち合わせで光GENJIと言われて、「これは冗談なのかな?」って思ってたんですけど……

しのさきあさこ:当時の人はかっこいいと思って見ていたのであろうけれども、今、昔の光GENJIの映像を見るとおかしい! みたいな(笑)。桐生の町には“昔は栄えていた感”が残っていて、それなのに今は寂れた感が凄く怖かったんです。光GENJIの映像の、悲鳴のように聴こえる歓声みたいなのも不思議に見えたので、光GENJIにしました!

長谷川智樹:それを最初に言うといてくれればよかったのに(笑)。でも、その考察は深いですね。昔は栄えていたのに、今見るとちょっと変な、怖い感じか……。なるほど。退廃美みたいな、グラムロックみたいな感じですね。

しのさきあさこ:あー、それに近い感じ!

--確かに『惡の華』の作品自体にも、デカダン的な要素はありますよね。

長谷川智樹:そこが肝ですよね。

--編曲をする上では、先ほど仰っていたイノセンスと退廃性を共存させることは難しくもありながら、一番面白い部分でもありますよね。

長谷川智樹:仰る通りですね。大江健三郎の『セヴンティーン』とか、倉橋由美子の『聖少女』とか、太宰治もそうですよね。僕はグラムロックも大好きなんですけど、そういった感覚をフワッとしたイノセンスに結びつけていくギャップ感は凄く面白い。

例えば「惡の華 -仲村佐和-」にはタンゴの要素をちょっとだけ入れているんですけど、僕の中ではタンゴってパンクに聴こえるんですよ。アルゼンチンタンゴとかは楽器をもの凄い叩いたりして、コンチネンタル(=ヨーロッパ大陸的な)タンゴと全然違う。これはパンクロックだと。そこにティンパニーを入れてスケール感を出して欲しいっていう要望もいただいたりで、本当に楽しかったですね。

--やっぱり音に関して、より制限なくやれた部分はありますか?

しのさきあさこ:ありました!

長谷川智樹:ストリングスも入れたりね。

--しのさきさんは以前より映画の劇判(=映画音楽)をやりたいと仰っていましたが、そういう意味では今回の作品は願望が一つ具現化された形になりましたよね。

しのさきあさこ:はい! 近づいた気がします! ウフフフフ!

長谷川智樹:組もうぜ、俺と。

しのさきあさこ:ぜひ!

4人のボーカル:後藤まりこ、の子、南波志帆、しのさきあさこ

--また、後藤まりこさん、の子さん、南波志帆さんというゲストボーカルの声が非常に生々しくて印象に残りました。

長谷川智樹:役に徹しているっていうんですかね、その役割を皆さんが徹底してくださったと思います。普通の歌手では行けない所まで振り切っている感じもあったりで、さすがだなって。

--例えば「惡の華 -佐伯奈々子-」はイノセントな雰囲気を持ちつつ、その裏にある冷たさまで感じさせる音になっています。

長谷川智樹:間奏の所が肝ですね。あそこで一気に世界が俯瞰する訳ですよ。それまでのパートはかわいらしいし、最初は“スピッツみたいに”って言ってたよね?(笑)

しのさきあさこ:爽やか!

長谷川智樹:爽やかなフォークロック調で始まるんだけど、間奏の「チャララララーン!」で一変する。映画で言えば一気に俯瞰して、桐生の町を空撮している感じというか。

--間奏は他のパートにもありますが、いわゆる普通のアニソンだったらすぐにサビにいくと思いました。

長谷川智樹:劇判に近いような感じですよね。僕に依頼がきたということは、恐らくそういうことが要求されているんだろうと思いましたので、それならたっぷりやってやろうと(笑)。音色についても、デカダンの中に見え隠れするカラフルさであったりとか、頭で計算した訳ではないですけど結果的にそうなりましたね。

--では、しのさきさんの歌う「惡の華 -群馬県桐生市-」についてはどうでしょう?

長谷川智樹:一歩引いて歌っている印象は受けましたね。他の方はぐわぁ~っと集中して入り込んでいくんだけど、あさこちゃんの歌はそれを全体から見ているような……

しのさきあさこ:(無言で何度もうなずく)

長谷川智樹:客観的な感じだし、キーもトップにいかずにあえて抑えているでしょ? それは計算されていると思ったんですけど……

しのさきあさこ:客観的なの大好きです! 普段から人のことを冷静に見ているタイプです、フフッ!

--しのさきさんは独自の距離感の中で、万物をフラットに捉えている印象がありますね。

しのさきあさこ:自分以外はその他大勢、っていう感じ……ですか!?(笑)

長谷川智樹:不思議な人ですよね(笑)。観察しているんだよね、冷めた目で。曲の作り方もそんな感じだと思います。宇宙人バージョンの「惡の華」をレコーディングする時、最初は歌の表現がバンドの音に入ってしまうかなって思っていたんですよ。それが逆で、クールに歌われていましたよね?

しのさきあさこ:はい。いつでもクール!(笑)

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ネットも震撼、ASA-CHANG&巡礼「花 -a last flower-」

--一方、エンディングに起用されているASA-CHANG&巡礼の「花 -a last flower-」もトンでもない曲ですね!

長谷川智樹:さっきもその話で持ちきりでしたね(笑)。あさこちゃんも大好きだったそうで。あと、さっき江戸川橋の駅の地下通路でね、“さいた さいた チューリップのはなが”って歌っている3つくらいの女の子がいたんですけど、僕は完全に「花 -a last flower-」に聴こえてね!

--“ハ ナ ガ サイタヨー”と(笑)。

しのさきあさこ:大ファンなので、早くフルサイズで聴きたいです!

--アニメ『惡の華』はニコニコチャンネル:アニメでも放送されていますが、エンディング時のコメントが凄いです(笑)。

長谷川智樹:ネットでも“何だこれは!?”とか“怖い”とか、ガツンときてましたね。光GENJIなオープニングとのギャップ感もあるし、エンディングが「花 -a last flower-」だから「惡の華」であることに意味があるというか。

--それに劇中の音楽も、おどろおどろしさと美しさが絶妙のバランスで保たれた奇妙な音楽ばかりです。

長谷川智樹:映画音楽のようですよね。間をたっぷり取った感じで、普通なら15~20秒くらい使う所で40秒くらい使うような。凄いステキですよね。

--あらゆる面で作品に豊かな才能が集まった上に、それぞれが自由度高く突き抜けた表現をしています。

長谷川智樹:『惡の華』に関してはアーティストの作業をやるような感覚で、各分野の職人の方々がやられているというのかな。説明が難しいんだけど、アーティストと職人の間の、絶妙な感覚。感覚が鋭くなくてもできないし、技術がなくてもできない。そんな感じの……、わかります?

しのさきあさこ:わかります!

--「惡の華」を編曲する上で、パーソナリティの表出というのは悩まれた部分でもあるのでしょうか?

長谷川智樹:そういう作業は職人冥利につきますね。色んな引き出しがあるので、どこまで広げて開くかっていうのは職人にとって一番嬉しいんですよ。最初に色んな要望をいただいたので、30年間音楽をやってきたあらゆるジャンルのあらゆる引き出しを惜しみなく開ける感じでしたね、“分かったよ、全部開けるよ!”って(笑)。

しのさきあさこ:やったー!

長谷川智樹:劇判を作っている時は大体そうなんですけど、それでもジャンルくらいはある程度ざっくりとありますよね、“ジャジーにいこう”とか“クラシカルに”とか。だから「惡の華」で全部を開けるのは凄く楽しかったですよ。

しのさきあさこ:海鮮丼みたい。エビとかイクラも入ってる。

長谷川智樹:ウニだったら棘まで入ってそうだね(笑)。

しのさきあさこ:あ、惡の華ってウニに似てる!

最後に訊く、二人が音楽を始めたきっかけ

--そういえば以前、アニメ『謎の彼女X』の取材で監督の渡辺歩さんにお話しをうかがった時、長谷川さんに劇判をお願いしたら夢のシーンの音楽が強烈でたまげた、と仰っていて……

長谷川智樹:あれもかなりぶっ飛んでましたね。夢の中でもう一回夢を見ているような感じというか。ちなみに渡辺監督とは今、NHKの『団地ともお』というアニメを一緒にやってるんですけど、この作品も原作にはちょっとクセがあって、日常のSFというか星新一みたいな感じ。日常なのに「これってもしかしたら現実じゃないんじゃないか?」と思えるようなエッセンスを取り入れたりね。

僕が中学二年の頃だから……、ちょうど春日くんくらいの歳のころ、(大阪の)池田という町に4本立てでビートルズの映画が来たんですよ。そこで初めて観た映画『イエロー・サブマリン』のサイケデリックな感じにヤラれて、人生が狂っていって(笑)。
で、あの音楽はビートルズが作っていると思っていたんですけど、実は後ろにジョージ・マーティンという人がいてね。その人がオーケストラなどを作っていると後で知って、そういう仕事をしたいと思ったんですよ。

そして今回の作品は、まさに『イエロー・サブマリン』的なマジカル、ファンタジーが凝縮されている気がするので、今日この日を迎えるために生きてきたかのようですね。

しのさきあさこ:海鮮丼のために!

--グルメの人みたいになっちゃいましたね(笑)。……ちなみに、しのさきさんが音楽を始めたきっかけは?

しのさきあさこ:えーーーー!? きっかけですか! えっと、どの時点が音楽を始めるきっかけだと思いますか? 興味を持ち始めた時点?

--いや、しのさきさんが話したいポイントでいいですよ。

しのさきあさこ:話したいポイントは、前回のアルバムの曲を作り始めた時が、始めようと思ったきっかけです!

--『珊瑚』を作り始めた時?

しのさきあさこ:……の曲作りの時がスタート地点だと思いました。

--それ以前の活動はどうしましょう?

しのさきあさこ:始まってなかった!

--『キッズリターン』みたいですね(笑)。では、もし次にお二人がご一緒される時は、どんなことをやってみたいですか?

長谷川智樹:レコーディングの最初の日から、何か一緒にやりたいって言ってたんですよ。一緒にナポリタンを食べようとか(笑)。

しのさきあさこ:あ、木魚!

長谷川智樹:木魚バンドだっけ? 実は佐伯さんの曲で、木魚を入れたいっていうリクエストをもらって、大きい音で木魚を入れてみたんだけど、さすがに却下されました(笑)。その怨念を晴らすためにも、木魚とギターでね。

しのさきあさこ:ライブはシェルターで(笑)。

長谷川智樹:タブラみたいに使えるかもしれないね。それに木魚と海鮮丼なら魚繋がりじゃないですか。

しのさきあさこ:そうか!

--今回の対談のテーマは魚だったんですね。

長谷川智樹:やってみたいね、木魚バンド。

しのさきあさこ:作ってみたい! スターチャイルドからメジャーデビューしたい(笑)。

Music Video

宇宙人「惡の華」

惡の華

2013/05/22 RELEASE
KICM-1453 ¥ 1,257(税込)

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Disc01
  1. 01.惡の華
  2. 02.砂漠の鎮魂歌
  3. 03.惡の華 (歌無し)
  4. 04.砂漠の鎮魂歌 (歌無し)

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