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ナオト・インティライミ 『Nice catch the moment!』インタビュー

ナオト・インティライミ 『Nice catch the moment!』 インタビュー

“音楽好きには聴いてもらいたい”
アフリカや南米、カリブ海などを旅して完成した1枚

この春公開された映画『ナオト・インティライミ冒険記 旅歌ダイアリー』のため、この様々な土地を旅して回っていた半年間で、主に創られたというニューアルバム『Nice catch the moment!』。

“音楽好きには聴いてもらいたい”と胸を張れるだけの大作に仕上がったサウンドや、“優等生と思われるのが一番嫌”と言い放つとびっきりの歌詞。かなり押し通した所もあるという本作について、ナオト自身に訊いた。

ある意味、優等生的なシングルじゃない

ナオト・インティライミ - 恋する季節(digest ver.)
▲ナオト・インティライミ - 恋する季節(digest ver.)

--この春に公開された映画『ナオト・インティライミ冒険記 旅歌ダイアリー』(※1)もさることながら、昨年末には横浜と大阪でアリーナツアーがあり、そして初の紅白出場と大きなトピックが続きました。

ナオト・インティライミ:でも、やっぱり今回は旅。映画にもなりましたけど、この半年の間に行った旅が大きかったですね。

--では、旅で出会った音楽の中で、今作『Nice catch the moment!』にもっとも大きな影響を与えたものは?

ナオト:音楽でいったらそれぞれですけど、音よりも精神面で受けた影響が大きいですね。エチオピアのハマル族と一緒に裸で生活している時に“Catch the moment”ってフレーズが生まれて、曲名にもアルバムタイトルにもなっているけど、“その瞬間を逃すな”と。

例えば「恋する季節」のレコーディングの時も、ある日に仮歌を録ってみたら良い感じの1フレーズが歌えたので“Catch the moment”して、本番のレコーディングの日を待たずしてそのまま録ったんですよ。
レコード会社の人も事務所の人も誰もいない、エンジニアと俺だけの空間で瞬間をキャッチした。それが今の音源のテイクなんですけど、シングル曲であっても大胆な判断をしていけるような所には反映されていますね。

ナオト・インティライミ『Nice catch the moment!』インタビュー

--ただ、そうやって瞬間をつかんでいく制作のあり方は、音楽に限らず日本では難しい部分もありますよね。

ナオト:もちろん難しい部分はあるんですけど、そういうフォーマットや概念はもういらないと思っていて。旅で感覚が研ぎ澄まされて、自由度の高いアルバムになったと思うんですよね。
だから4曲目の「I’m chi-zu-ers」なら、“言いたいことは言い終わった!”って2分半で終わっちゃう(笑)。11曲目の「声をきかせて」も、歌が入る前にピアノソロまで弾き始めちゃって、歌が出てくるまでに1分半もかかるとか(笑)。J-POPの枠からは完全に逸脱してますよね。

--その分、音楽的な楽しさはより凝縮されました。

ナオト:「声をきかせて」は映画のサントラとして書き下ろしたインストの1曲だったんですけど、最初に作った時にピアノリフを弾いていたらニューオーリンズのライブバーにいるような感じで気持ちよくなっちゃって、そのままソロを弾き始めちゃった。その時のテイクなんですよ。
あとで組み替えとかできたかもしれないけど、さりげないアンビエント感というか、チルアウトな雰囲気の曲でいい。枠とかフォーマット、概念は一切関係なくて、曲が一番活きる表現を考えながら13曲を仕上げられたのは、まさに旅の賜物ですね。

ナオト・インティライミ『Nice catch the moment!』インタビュー

--また、「恋する季節」は今作の中でも飛び抜けた存在感がある曲だと思いました。シングル曲であり、J-POPとしての完成度が高い珠玉のメロディがありながら、サビの後でファンファーレが鳴る意外性な展開まで用意されている。変な話、ここまでの展開がなくても成立する曲ですよね?

ナオト:そうですね。だからある意味、優等生的なシングルじゃないんですよね。はみだしちゃってる(笑)。仰る通り、色んなメロが1回しか登場しなかったりして、最初の“なぜだろう 今夜は”のメロも1回しか出てこない(笑)。1番のA~B、サビと行った後に、“「香りはラベンダーかミント センチメンタルな……」”ってアンニュイなラップになっちゃう。

確かに“1番と同じメロの方がいいよね”とか、ビジネス的には刷り込んだ方がいいとか色んな提案はあったけど、感性の中でこの曲が一番活きるのはこうだった。最後の大サビでお花畑のようなメルヘンになるのも、行きっぱなしで帰ってこないメロも!(笑) シングル曲だったしアルバムのリード曲でもある「恋する季節」で、音楽として遊びながら、面白がりながら作れたことは大きなことでした。

--うんうん。それにしても、よく押し通せましたねぇ。

ナオト:……大変だったよ(笑)。

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アラファト議長の前で歌った時に感じたこと

ナオト・インティライミ - ナイテタッテ (digest ver.)
▲ナオト・インティライミ - ナイテタッテ (digest ver.)

--そういう面白さは7曲目の「ナイテタッテ」にもあって、ソカやサンバのリズムに乗せた曲なら、もっと明るくポジティブな歌詞の方が定番だった思うんですよ。

ナオト:ハッピーなイントロからはじまるのに、“AHーやだやだ もーいや”って壁を殴っているという凄いシチュエーションなんですよね(笑)。日本の英語教育へのディスを入れつつ、キツい時、ツラい時、悲しい時でも“fine”と応えて耐えてるとか。
10年前だったら“泣いてないで笑え”って歌っていたと思うんですよ。でも、みんなそれぞれキツいし、不満を抱えながらストレスもあって歯がゆくて、もどかしい。「そうやって生きてく中では、そりゃ泣くよ!」って思えるようになったんだよね、今は。

ナオト・インティライミ『Nice catch the moment!』インタビュー

--それはライブでたくさんの観客と対峙してきたからこそ、変化した部分もありますか?

ナオト:確かにそういう瞬間もあるんですけど、今思い浮かんだのは世界一周(※2)の中で、アラファト議長を前にして歌ったことですね。あの経験は、むこうのカリスマと会って歌ってきたというキャッチーなトピックだけじゃなく、そこで何を感じたのかが凄く大きかった。
当時もパレスチナとイスラエルの戦争のさなかだったけど、自分が歌っている瞬間はアラファトさんも側近の兵士たちも、戦争を感じていなかったんじゃないかって。それは勝手な解釈かもしれないけれども、その瞬間、戦争の中心にいる人たちだって俺らと一緒なんじゃないかって思えたんです。

うまくいかない歯がゆさは、みんな抱えている。逆境の中で戦っていて、聴いている数分間、あるいはライブにいる数時間だけでも、ツラいことや悲しいことから気持ちが解放されて夢中になれる。そんな力が音楽にはあるって、アラファト議長の前で歌った時に感じた。それは自分の中で信じている部分ですね。

旅に行かないとこれはできない

ナオト・インティライミ『Nice catch the moment!』インタビュー

--一方、8曲目「Ballooooon!!」はシンプルかつハッピーな雰囲気で子どもも楽しめる内容になっていますが、中盤のセリフパートでいきなり“大切なものはなぜ失くしてから気がつく”とシリアスな様相になって驚きました。

ナオト:よくぞ気づいてくれました(笑)。この中で“めっちゃ良いこと言ってみよう”と思ったんですよ、おちゃらけてる中にも教訓というか。だから強調するためにわざわざミュージカル調にしてるんですよね、普通に流れちゃうともったいない!って(笑)。

--そういう面白さは10曲目の「未来スケッチ」にもあって、有名アニメキャラを模したセリフが出てきます。

ナオト:あれは一緒に作詞した佐伯ユウスケの声なんですけど、遊びながら実際に入れてみたらユウスケ本人がひるみ始めたから、“俺は絶対に残す!”って(笑)。“説教なう”もマネジャーに言ってもらったりしてるし、そういう所も“Catch the moment”なんです。

--かつての旅では飛び入りでライブに出演したり、現地のラジオで歌ってみたり。果てはコロンビアでのデビュー話にまで連なっていくなど、自由な音楽活動を行っていましたよね。

ナオト:それは今回の旅もしかりでしたね。行く前は、8年前と比べてスタンスとかどれくらい変わっていってるんだろうと思ってたんだけど、ほっとんど変わってなかった!(笑) 旅に行って感覚が研ぎ澄まされて、本当に産地直送な取って出しの感じでやれる機会なんて、これからもそうないと思うんですよ。

ナオト・インティライミ『Nice catch the moment!』インタビュー

--その行程でこれだけ素晴らしい作品が完成してしまうと、リスナー的には“次もその形でお願いします”ってなりますよね。

ナオト:だから俺も言ってるのよ、旅に行かないとこれはできないよ?って(笑)。

--また、今作の編曲には、Jazzin'parkの栗原暁さんと久保田真悟さんや、近年はモーニング娘。の編曲でも知られる大久保薫さんが数多くクレジットされていますね。

ナオト:カオ(=大久保薫)ってモー娘。の新しい曲「ブレインストーミング」もやってますよね? それぞれの良さを存分に発揮してくれた感じですよね。そういうキャスティングも含めたこだわりはありましたし、やり取りの仕方もそれぞれで違う。僕のプロデューサーマインドとしては、その人の色を出したいとも思いますね。

それはミュージシャンでも同じで、例えばあるベースラインを求めていたけど、違うタイプのベーシストが来た。弾いてもらっていて“ちょっと違うんだよな……”って思うんだけど、“この人はこういうクセがあるんだ”とか“こういうグルーヴが得意なんだったら”って、こっちから寄せていくこともある。それこそ“Catch the moment”で、それぞれを活かしながらっていうね。

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やっぱり優等生と思われるのが一番嫌

ナオト・インティライミ『Nice catch the moment!』インタビュー

--そんな作品の最後を、編曲から楽器の演奏までをすべてナオトさん自身が担当している、いわば非常にパーソナルな楽曲「Catch the moment」で締めくくった理由は?

ナオト:最後にこの曲がいてくれる安心感というのがあって、要はそれまでの楽曲で色んな服を着飾っている訳ですよ。シルバーのギラギラな服とかレゲエっぽいのとかを色々と着飾って、最後に全部脱ぐ。これが素っ裸のナオト・インティライミですと。「逃げも隠れもしません、これが俺です」っていう素な音楽ですよね、「Catch the moment」は。

--しかも、その前に収録されている曲が、過激な英語詞が満載の「I FEEL IT GOOD」という並びになっているのも驚きです。

ナオト:男の本能ソング、セクシーソングですよね。

--こうした部分まで歌えた背景には、裸である以上、素直な人間である以上はそういう行為も当然だという想いもある?

ナオト・インティライミ『Nice catch the moment!』インタビュー

ナオト:本当にそうですよ! それ、もっと言って下さい(笑)。ほっこりソングやせつなソングを聴いてもらえるのはありがたいですし、オマットゥリ男でパーティ野郎っていうのはあるけど、「良い人、面白い人で終わりたくないんだコッチは!」っていうね(笑)。

男も女性も誰しもが持っている野性的な所……。色んな面を見せていく中では、それだって大事な要素です。ただ、これまでのアルバムでも1曲ずつ、こういう曲を入れては引かれていたんですよ、「やりすぎ」って(笑)。確かにギリギリアウトのラインまでの表現はしてますから。

--和訳を読むと、よく通ったなって思います(笑)。

ナオト:“Do you wanna PERORI?”とか、かなりギリギリですよね(笑)。“奏でるメロディー 絡み合うYou and Me”も、僕と君が絡み合ってる時に鳴っちゃってる音だし、“baby-making music”って要は……って話ですから(笑)。

--この曲が「Catch the moment」の前に収録されている潔さが見事なんですよ!

ナオト:だからさ、「I FEEL IT GOOD」で服を脱ぎ始めている訳でしょ? で、「Catch the moment」で裸になる……っていうのを今思いついた!(笑) やっぱり優等生と思われるのが一番嫌だからね。そんないいもんじゃねえと。ダメなヤツだよ~っていうね(笑)。

若い子は新しいだろうし、年配の方には懐かしい音楽

ナオト・インティライミ『Nice catch the moment!』インタビュー

--そういう部分もしっかり見せた上で面白いものを提供できる。それがナオト・インティライミなのだと改めて証明する作品になりましたよね。

ナオト:1曲目「introduction ~Do whatcha wanna~」のスキャットも音楽表現の一つだし、必ずしも歌詞が乗っているものがすべてじゃない。そうやってしょっぱなから遊べたし、音で楽しもうよっていうのを見せられていると思いますね。

--だからこそナオト・インティライミの音楽を、コアな音楽ファンや洋楽志向のリスナーにもっと聴いてもらいたいんですよ。

ナオト:間違いないですね、うん。そう言ってもらえるのは本当に嬉しいなぁ。何よりの褒め言葉ですよ。

ナオト・インティライミ『Nice catch the moment!』インタビュー

--ナオトさん自身がコアな音楽まで聴いているし、好きですよね。そうした音楽的な素養とポップ性が非常に高い次元で共存しているのが「恋する季節」であり、アルバム『Nice catch the moment!』だと感じました。

ナオト:若い子は新しいと感じるだろうし、年配の方には懐かしいと感じてもらえる音に落としこめたっていうのはね。そうだなー、やっぱり音楽好きには聴いてもらいたいなー!

だからさ、「ナオト・インティライミって旅に行ってるのに、音楽には全然“旅感”がないよね」ってよく叩かれるんだけど、シングル曲だけでそう言われてしまうのは歯がゆいですよね。
もちろん彼らが言っていることもよく分かるんだけど、その一つ奥にあるアミューズメントパーク感というか。こんなジャンルがあってこんな歌詞があってこんな卑猥な曲があって(笑)。あらゆる多面な音があるっていうのを感じて欲しいんだよね。iTunesで1分半ずつ試聴でもいいから、聴いてもらいたい。「~からの!?」っていう所にどうやってみんなをつれてこれるかが大事だと思います。

--では、最後の質問にして難しいことを訊いてしまいますが、音楽マニアにまずオススメする1曲を挙げるとしたら?

ナオト:んーーーー!! いやぁ、絞れないよ……。だってジャンルがそれぞれ違うからなぁ。流すハコによって選曲を変えるDJのようなというか、ん~……、だってね……(※3)

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ナオト・インティライミ「Nice catch the moment!」

Nice catch the moment!

2013/05/15 RELEASE
UMCK-1445 ¥ 3,204(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.introduction~Do whatcha wanna~
  2. 02.Brand new day
  3. 03.恋する季節
  4. 04.I’m chi-zu-ers
  5. 05.365
  6. 06.君生まれし日
  7. 07.ナイテタッテ
  8. 08.Ballooooon!!
  9. 09.しあわせになるために
  10. 10.未来スケッチ
  11. 11.声をきかせて
  12. 12.I FEEL IT GOOD
  13. 13.Catch the moment

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