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楽園おんがく Vol.1:映画『旅立ちの島唄~十五の春~』プレミア上映会レポート
旅と音楽をこよなく愛する、沖縄在住のライター 栗本 斉による新連載がスタート。Vol.1は4月16日に沖縄・那覇で行われた映画『旅立ちの島唄~十五の春~』完成披露プレミア上映会の模様ををお届けします。
去る4月16日、沖縄の那覇にあるタイムスホールで、映画『旅立ちの島唄~十五の春~』のプレミア先行上映会が行われた。
前売り券が売り切れるほどの盛況ぶりだったということからも、この映画にかけられている期待の大きさと、素晴らしい出来栄えが証明されている。
ストーリーは、卒業していく先輩を見つめる少女の視点から始まる。誰にとっても卒業というイベントは、多少なりとも人生の転機だろう。離島に住む彼女たちにとっては、とても重い決断の瞬間である。
沖縄本島からさらに南へ360km離れた南大東島。ここには高校がない。だから、中学を卒業して進学するのであれば、必ず島を離れなければいけない。島を離れるということは、家族や友人など身近な人々との別れを意味する。主人公の少女は、1年後の進路について嫌が上にも考えさせられるのだ。家族が離散していくことを文句も言わずひとり黙々とサトウキビ畑で働く父、那覇に出て行ったまま仕事を理由にまったく戻ってこない母、嫁ぎ先から子連れで出戻ってきた姉。そして、思いを寄せる少年は、進学したくても家と島に縛られて動けない。
外からみれば素朴な島であっても、こういった多くの問題を抱えていることが、淡々と思春期の少女を中心に描かれていく。しかし、決して重苦しくなく、時にはユーモアを交えなから明るくストーリーが展開されるのは、南大東島の美しい大自然や、長年守り続けられている伝統行事、そして笑顔に溢れた島の人々がそこにあるから。そして、主人公が参加している中学生までで結成されている実在の民謡グループ、「ボロジノ娘」が歌う島唄の清らかで切ないメロディーが全編を彩っている。
多くの人にとっては、こういった離島の現実を認識することはめったにないだろう。だからこそ、日頃忘れてしまっている、人と人との繋がりを大きく意識させられるだろう。そして、旅立つことが人を成長させてくれるということ、家族の絆がいかに大切かということを、深く実感させてくれる。この春、少しでも出会いと別れを経験した方なら、絶対に共感できるはずだ。
さて、この先行上映会では、終映後に監督と出演者の舞台挨拶が行われた。
主人公を瑞々しく演じたのは、今回映画初主演だったという三吉彩花。
「三線も島唄も初めてだったし、南大東島のこともこの映画を通じて知りました。だから不安も大きかったのですが、笑顔が多い現場だったので穏やかな気持ちで撮影に臨むことができました」
「子どもは親を選べないから」というセリフが沁みる、寡黙な父親を演じたのは小林薫。
「ふだん忘れているような、父親の子に対する気持ちについて考えさせられました。儀式的なことはあまり好きではないのですが、あらためていい家族のありようだなと思いました」
母親役の大竹しのぶと微妙な関係にある会社社長を演じたのは、沖縄在住の俳優、普久原明。
「同じ沖縄でも本島と離島では全然状況が違う。僕にも来年15歳になる息子がいるんですが、どれだけ恵まれた環境なのかを感じました。だから、どこかに行かせようと思って(笑)」
監督は吉田康弘。井筒和幸に師事し、2007年に『キトキト!』でデビューした気鋭の若手監督だ。
「離島に生きる人々の喜びや苦しみ、そして家族の絆の大切さを伝えたくて作りました。沖縄の内側から見ても納得できることを目指した映画です。リアルで、晴ればかりでない曇り空の沖縄を表現したかった」
舞台挨拶が終わると、映画にも登場した島唄グループ、ボロジノ娘のミニライヴが行われた。同じく映画に出演している沖縄在住のタレント、ひーぷーの司会により紹介され、「ボロジノアイランド」と「おじゃりやれ」の2曲を披露。南大東島の空気が会場中に充満するような、可憐なステージを見せてくれた。
そして、その後はシークレット・ゲストということで、なんとBEGINの3人が登場。とても印象的なエンディングテーマ「春にゴンドラ」を披露した後、ボロジノ娘を再び迎えて「島人ぬ宝」を共演。会場を大いに湧かせてイベントは終了した。
映画は、4/27から沖縄の桜坂劇場とリウボウホールで全国に先駆け先行上映。その後、5/18より順次全国公開される。
作品情報
2013年4月27日(土)~ 沖縄・桜坂劇場にて先行公開
2013年5月18日(土)~ シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
監督:吉田康弘 出演:三吉彩花、大竹しのぶ、小林薫、他
主題歌:BEGIN「春にゴンドラ」
オフィシャルサイト
栗本 斉 Hitoshi Kurimoto
旅と音楽をこよなく愛する旅人/旅&音楽ライター/選曲家。
2005年1月から2007年1月まで、知られざる音楽を求めて中南米へ。2年間で訪れた国は、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、チリ、ボリビア、ペルー、エクアドル、コロンビア、ベネズエラ、トリニダード・トバゴ、パナマ、メキシコ、キューバの、合計14カ国。
帰国後は旅と音楽にこだわり、ラジオや機内放送の企画構成選曲、音楽&旅ライター、コンピレーションCD企画、ライナーノーツ執筆、講演やトークイベント、ビルボードライブのブッキング・コーディネーターなどで活動中。得意分野はアルゼンチン、ワールドミュージック、和モノ、中南米ラテン旅、世界遺産など。2013年2月より沖縄県糸満市在住。
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