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THE BACK HORN 『罠』 インタビュー
何の因果か運命か。このバンドが「何故僕らは生まれたのだろう」っていうテーマをその音楽に課した瞬間から、同様のテーマを四半世紀にわたってメッセージし続けてきた「ガンダム」と出逢う必然性はあったのかもしれない。いくつもの出逢いを通じて、辿り着いた今のバックホーンの音楽と状況について、話を伺った。
響命と共鳴
--アルバム『THE BACK HORN』以来のインタビューになるんですが、今日はニューシングル『罠』の話の前にですね、ここ半年の出来事について話を聞かせて頂きたいんですが、まず7月1日のNHKホール、個人的にはそれまで観たバックホーンのライブの中で最も心が揺らされたライブになったんですが、自分たちの中でもかなり印象深いライブになったんじゃないですか?
松田晋二:そうですね。それまでホールクラスは、東京だと、野音と渋公ぐらいしかやったことがなかったんですけど、どっちのライブもライブハウスのタイトな感じに近い印象で。でもNHKホールでは、初めて、本当に音が広がって会場全体を包み込むようなホールライブを体感できて。セットリストの見せ方とかに関しては、ライブハウスもホールも分け隔て無く、むしろライブハウスでのノリをそのままホールに持っていこうっていうアプローチの仕方でやっていたんですけど、それでもNHKホールとライブハウスでやる感じは全く違って。音が響いてグワァ~ってなっていく感じはすごく新鮮でした。
--もういろんな方からあの日のライブの感想を聞いてるとは思うんですが、僕の席の周りみんな関係者らしき人だったんですけどね、まず3曲目の『ブラックホールバースデイ』で俺も含め泣かされて、最後の『枝』に関しては、ほぼ全員肩を震わせて泣いてたんですよ。
松田晋二:おぉ~。
--それって要はバックホーンの音楽が今までにも増して響きまくったってことだと思うんですけど、何が一体違ったんですかね?
菅波栄純:そこはわかんねぇなぁ。集中してやっていたっていうのは確かなんだけど。
松田晋二:でもやっぱりライブハウスでやる伝わり方と、同じ曲なんだけど、NHKホールでやる伝わり方に違いはあったなと思って。羽根が付いたみたいに飛び立っていく曲がいくつもあったなって。それこそ『枝』もそうだし、『フリージア』とか『ハロー』とか『航海』とか、やってて「すげぇ羽ばたいてんな!」っていう感じはすごくありましたね。それが聴く人の、ライブハウスでの衝動とか衝撃とは違う形で、なんか、涙腺を刺激できたのかなって。
--ちなみにあの日、山田さんが銀髪になっていたのはどういう想いから(笑)?
菅波栄純:(笑)。
山田将司:【KYO-MEIワンマンツアー~命を響かせる夜~】は、全部ああいう感じにしてみたんですけど。まぁ、あの、気晴らしに。自分の中で刺激になればいいかなと思って、特に意味もなく、やりました。
--あと、岡峰さん、僕の見間違いじゃなければ、ベース放り投げましたよね(笑)?
岡峰光舟:あれはね、リアルな話、ストラップが切れたんですよ。そんな、序盤でぶん投げてもね(笑)。
松田晋二:他の人にも言われてたよね?「何、序盤でぶん投げてんの?」って(笑)。
岡峰光舟:真相は切れてたんです。
菅波栄純:切れるほどキレた・・・ってな。
--(笑)。で、あの日のライブ以降もずっと止めどなくライブは行って、今もBRAHMANとの対バンツアーの真っ最中だと思うんですが、どうですか?BRAHMANと今廻ってて。(※このインタビューは、11月5日に行われた)
松田晋二:本当にもう・・・刺激的っていう言葉じゃ収まらないぐらい、良い影響受けてます。ライブに関してはいくつも場数を踏んでるバンドだし、尊敬してるバンドでもあるので、そこに対して俺らなりの伝え方というか、俺らなりのガチンコの勝負みたいなのを毎回して、ちょっとでも引きずり降ろすようなライブをしたいなって気持ちでやってます。まぁでもなかなかね。
菅波栄純:手強い。
松田晋二:【「KYO-MEI 対バンツアー」~共に鳴らす夜~】では、それこそ毎日違うバンドとやっていたから、全部終わった後に、いろいろ分かってきたなぁっていう実感があったんだけど、今回みたいにすげぇ場数を踏んでるバンドと何度も対バンするツアーってうのは、本当に1ステージ毎に感じるモノがでかいです。もちろんそれは、BRAHMANのライブを観てても思うし。
--【「KYO-MEI 対バンツアー」~共に鳴らす夜~】以降って、今回のBRAHMANに限らず、ELLEGARDENや小谷美紗子さんなど、いろんなアーティストとのツーマンライブが目立ってますが、今はそういうモードなんですか?
松田晋二:そうですね。あの対バンツアーでいろんな人の刺激を受けたっていうのもあり、あとこっちのイベントに出てくれたっていう感謝の気持ちもすごくあって、なるべくいろんなバンドでやりたいなと思って。そこは対バンツアー以降、結構貪欲になってます。
菅波栄純:いろんなバンドと対バンやってると、なんて言うのかな、活き活きしますよね。今までライブのシーズンと曲作りのシーズンって結構俺はハッキリ分けてやってて。でも最近は、曲がツアーの間に生まれることがよくあって。やっぱりライブやってるときって心がウキウキしてるシーズンじゃないですか。そういうときに曲を作る方がきっと良いモノが出来るんじゃないかってちょっと思い始めてます。机の前に座ってても曲はやっぱり出来ねぇから。個人的な部分では、そういう変化がありました。
Interviewer:平賀哲雄
遭遇と誕生
--で、そうした状況の中での、今回の「機動戦士ガンダム00(ダブルオー)」のエンディングテーマ。なんかバックホーンが人との繋がりだったり自分たちの音楽に対して開いていけば開いていくほど、どんどんバックホーンを取り巻く状況が広がっていってるイメージがあるんですけど、どう思いますか?
松田晋二:本当にそうですね。まぁ何に対しても魅力がなかったらやってきてないし、そこに「やりたい」って気持ちがあるからどれもやってきただけではあるんだけど、例えば、映画「アカルイミライ」の話をもらったときとかは「そのキッカケで自分たちの新たな一曲を生み出したい」っていう気持ちもすごく強くて。だから一見、映画のためだけに書き下ろしたとか、そういう方向に寄って見えてしまうこともあると思うんだけど、バックホーンの道にはそういういろんなモノや人との出逢いがあって、そこで新しい曲が生まれて、バンドもどんどん新しい方向に向かったり、また再確認したりしてこれたんですよね。
だから今回の話もアニメの曲であるとか、ガンダムを俺しか観てなかったとか、いろいろあったんだけど、でもやっぱり監督の描きたい世界観に対する熱意っていうか、想いや伝えたいことを感じたときに、やっぱり自分らも「よし!じゃあ、俺たちは曲で!」っていうエネルギーが沸いてきて。そういう瞬間に、ひとつひとつの出逢いやキッカケに対して、純粋にムキになってやってきて良かったなって思う。それは今回みたいな話をもらう度に感じますね。--松田さんは熱心なガンダムフリークと聞いてるんですが、これが決まったときはどんな気持ちになりました?正直なところ。
松田晋二:俺、一人だけ喜んでましたよ。
山田将司:でもちょっと抑えてた。
岡峰光舟:(笑)。
菅波栄純:抑えてた!抑えた顔してた!
松田晋二:いや、一人だけ「うわぁ!やりますやります!」って言ってたら、すげぇ分かりやすいなって思って(笑)。
山田将司:「え?なんなんスか?」みたいな顔してた(笑)。
菅波栄純:一応、スッとしてるようなところ見せようとしてた(笑)。
岡峰光舟:みんなにバレてたよ(笑)。
山田将司:おかしかったもん、だって。「絶対マツ喜んでんだろうな」って思ってパって顔見たら、変に険しい顔してて。
(一同爆笑)
菅波栄純:そんな感じでしたね、リアルな話をすると。
--(笑)。あの、ガンダムもバックホーンも好きな自分とかからすると、このふたつの交わりってすごく必然的と言えるモノで、実際『罠』の中で歌われていますけど、「何故僕らは生まれたのだろう」とか、何故にこんなに傷付けあってまで人は生きようとするのか?っていうのは、ガンダムもバックホーンもずっとテーマにしてきたものじゃないですか。だから僕は「ガンダムのタイアップか、すごいね」っていう感じじゃなくて、「出逢うべくして出逢ったな」って感じていて。
松田晋二:それはありましたね。ただ自分が見てたのは、初代「機動戦士ガンダム」で、ある種、暗くて、残酷で、いわゆるヒーローアニメとは一線を画いてたアニメだっていうイメージがあったんだけど、それが今、現代に至るまで、いろんな捉えられ方をガンダムっていうのはされてきたんだろうなって思ったんですよ。例えば、単純にそのストーリーだけじゃなく、キャラがカッコイイとか、声優さんが良いとかね。そういういろんな、自分が想像していたガンダムだけじゃない部分も全部引っくるめたところで、俺らはガツン!とバックホーンの主題歌っていうのを出したいっていう気持ちはすごくあったんですよ。
とは言え、計算したり客観的に見たりして「ここかな?」みたいなバランスを取ったわけでもなく、最終的に行き着いたのは、結局さっき仰ってくれたような部分で。ずっとバックホーンが向き合ってきたテーマっていうのはそういうところだし、俺が見てた初代の「機動戦士ガンダム」も人間の葛藤を描いていて。そして最後に少年が何かをひとつ成し遂げて、で、それに対して「どう思う?」っていう投げかけで終わってるアニメだったから。だから今回、俺らも俺らなりの投げかけ方が出来れば、多分それだけで絶対行けるだろうなって思って。まぁ最初は結構考えましたけどね。好きだっただけに。でも結局今までも考えたからって曲出来た試しないし、単純にバックホーン節を今ここで出せればいいなって気持ちに変わっていきました。--そうして生まれた『罠』、作詞は栄純さんが手掛けられていますが、どんなイメージを膨らませながらこの形にまで持っていったんでしょうか?
菅波栄純:いろいろ裏切られたり、騙されたり、それこそ罠に掛けられたりするのに、人と、誰かと繋がろうとしたりする気持ちっていうのは何だろう?って思って。もしかしたらそれが本当は救いのキッカケなのかな?とか。自分を信じたり、誰かを信じたりすることを諦めないことがまずは第一歩なのかな?とか。そういうのを書きましたね。
--そうして詞曲共に仕上がった『罠』を聴いたときはどんな印象や感想を持たれましたか?
菅波栄純:バンドの勢いがすごく音になったなって気がしました。今までってレコーディングになると、勢いっていうよりは、その曲の雰囲気とか世界観とかを存分に打ち出すって感じだったんだけど、今回は、世界観も出てる上で、4人の演奏の勢いっていうもんが入ってる感じがするんですよね。それは2曲目の『真冬の光』もそうで。で、3曲目の『水芭蕉』も演奏から出てくる雰囲気っていう意味では、バンドのムードが入ってんなって気がしてます。
岡峰光舟:すごく“塊”な感じが出ましたね。
Interviewer:平賀哲雄
変革と未来
--「心が戦場だから誰にも救えない」っていう序盤のフレーズがあっての、クライマックスの「優しさ信じ 全てを許して」っていうフレーズまでの流れは、これまでバックホーンの葛藤だったり苦悩だったり模索だったりがあってこそ明確に堂々と表現できたもんだなって感じたんですが、どう思いますか?
菅波栄純:確かに。
松田晋二:今までだったら自分の中だけでの葛藤とか、自分と世界を照らし合わせた中での葛藤とか、そういう視点の曲が多かったんだけど、今回は『罠』っていうタイトルが付いてる時点で、誰かもう一人いる。で、「俺たちは一人じゃ生きていけない」っていう前提があるところで、ちょっと視点は広がってると思うんだけど、そういう曲の中に「何故僕らは生まれたのだろう」っていう歌詞がある。それを歌ってきてるバンドなんだけど、それがこの『罠』に入ってると、なんか、今までと違うグッと来る感じがして。
--また、すでにライブでの『罠』も聴かせて頂いたんですけど、回数を追えば追うほどものすごいことになっていきそうな曲だなって。
松田晋二:即効性で勝負してる曲ではないんだけど、でも何回かCDやライブで聴いてもらっているうちに、バックホーンの良いところが全部ギュッと一曲になったのが『罠』だから、そこを体感してもらえたら良いなって思いますね。
--ちなみにこの『罠』がガンダムのエンディングテーマとして流れてる映像はご覧になられたんでしょうか?
松田晋二:観ました。俺はまず拍手をしましたけどね。
菅波栄純:感動したよね。「すげぇ」って。ハマり方が良かったよね。普通、エンディングテーマって言うと、バラード調なんじゃねぇのかなって思ってたんですけど、監督がすげぇ『罠』を気に入ってたから、どういう風になるのかな?って思ってたら、結構アニメ自体もハードじゃないですか。今回はヘヴィなシリーズって聞いてたんですけど、そのヘヴィな内容の後にあれが流れてくるのがすげぇハマってるなって。気持ち良かったですね。
--映像をフラッシュさせてる感じとか、鳥がバァ~!って飛んでる感じとか、あそこだけ見たらバックホーンのPVって言われても疑わないぐらいな感じですよね。だから、第一話であれがエンディングで流れてきたとき、ぶったまげました。最初は正直、これ、振り切りすぎだろ?って(笑)。
松田晋二:(笑)。
--ただ、4話の終盤で、なんか、弾き語りバージョンみたいなのが使われてたじゃないですか。あれは別録りしたモノなんですか?めちゃくちゃマニアックな話ですけど(笑)。
松田晋二:そうですね。エンディング用に別バージョンを作って。でもあれを聴いたら、完全体であるCDの『罠』を聴いてほしいなって。
--そんな今作『罠』、多分今までの作品の中で最も「この曲でバックホーンを知りました」って人が増える作品になると思うんですが、それの2曲目、3曲目がまた生きる厳しさをとことん掻き鳴らしていて、なんか、このシングルで初めてバックホーン聴いた人がどんな反応するのかなっていうのも、ちょっと楽しみですよね。何を感じてくれるのかっていう。
松田晋二:なかなか想像できないですね。でも、「こんなバンドいねぇよな」って思うんじゃないんですかね。歌詞も曲もそうだし。ひょっとしたら「なんでバックホーンはこういうこと歌ってんのかな?」って気になってもらえるかもしれない。やっぱり俺らのバンドがやるべきことっていうのは、ハッとさせられる気持ちだったり、「見ないようにしてたけど、この曲を聴いて見せられた」って感じさせることがすごく大事だと思うんで。まぁなんで、全員が全員の反応とかは想像できないけど、「なんだこれ!?」ってちょっとでも思ってくれたらそれでいいなって。
--そこは期待の募るところですが、そんな今作の制作中には喧嘩あったり沈黙あったりと、大変な部分もあったようで。
菅波栄純:まぁ具体的に話すと、普通に曲の展開の話で意見がぶつかったっていうところですよね。そこで冷静に語り合えるタイプではないので。まぁ最初は冷静なんですけどね!
(一同笑)
松田晋二:そこがな、難しいんだよ。で、結局、お互い譲り合ってんのかな?って思いきや、実はひとつも譲ってない。「分かるけど、分かるけど」って言ってるんだけど、絶対分かってないっていう(笑)。
菅波栄純:で、言い合って話が解決したと思ったら、次の日、「やっぱり、あれは・・・」って(笑)。みんなが言い出す。まぁそれぐらいが良いと思うんですけどね。特に『水芭蕉』でぶつかり合ったんですけど、あの曲はいろんな可能性っていうかね、いろんな解釈ができる曲だったから、一番そういう時間が掛かりました。その結果、『罠』と『真冬の光』が結構ハードでヘヴィな内容だったりする分、最後に来る『水芭蕉』は心にジーンと響くような曲になったなって。時間掛けて作っただけあって、繊細に紡がれてる感じはしました。
--そんなシングル『罠』が今年最後の作品とそしてリリースされ、来年は10周年です。一ファンとしてはどこまでそのエネルギーを爆発させてくれるのかっていうのが楽しみでもあるんですが、この先、どうなっていくんでしょうね?
松田晋二:『THE BACK HORN』っていうアルバムからちょっと短いスパンでシングルが出て。それは、ガンダムっていうキッカケがあって出来たシングルだったんだけど、なんかすごく、確信に近付いていってる感じがあって。絞られていってる感じ。前々からずっと言っていた、バックホーンが一番歌いたい部分にどんどん向かっていってる勢いが曲として出たなと思っていて。だからこれからは、そうやって洗練されたモノを作っていく方向に向かいたい。「なんかいろいろ考えてこういうことになりました」っていうモノよりかは、「何かが見つかりました」っていうモノを次のアルバムとかで、10年目に出せたらいいなっていう気持ちはありますね。そのキッカケが今回の3曲で出来たので、どんどんそこを求めていきたいなって。
Interviewer:平賀哲雄
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