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アンジェラ・アキ 『LIFE』インタビュー
デビューから5年間の集大成であり、新たな旅立ちのアルバム『LIFE』完成。日本人とアメリカ人のハーフであること、ふたつの国にルーツを持つことから、日本語詞と英語詞の曲を半分ずつ収録した勝負作になっているのだが、ひとつひとつのフレーズや音の説得力が半端ない。その生々しいまでのリアリティとエモーションは聴き手の“LIFE”とも激しくリンクするであろう。今回のインタビューでは、如何にしてその楽曲たちが生まれたのか。例に漏れることなく熱く赤裸々な言葉でもって語ってもらった。
集大成でありながら旅立ち。それを表現する言葉が“LIFE”。
--今日はまずこの話を聞かない訳にはいきません。デビュー5周年記念“里帰り”ライブ【阿波のMY KEYS ~ピアノ弾き語りライブ in アスティとくしま~】。僕も観させて頂きましたが、あの日はアンジェラにとってどんな1日になりましたか?
アンジェラ:故郷である徳島で【MY KEYS】をやることは自分にとって大事なことだったし、原点をすごく意識した上で今回のアルバム『LIFE』も作ったばかりだったので、噛み締めるようにやれたライブだったなと思います。
--いつ頃から徳島で【MY KEYS】を実現したいと思っていたんですか?
アンジェラ:初めて武道館で【MY KEYS】をやったときに、同じように徳島でもやれないかなとは思っていたんだけど、当時はまだ徳島で5000人も入るライブをやれるレベルじゃなくて。でも『手紙 ~拝啓 十五の君へ~』をきっかけに私のことを知ってくれた人も増えたりしていたので、もうアスティとくしまでもやれるかなって。それでも心配はしていたんだけど、チケットも売り切れたし「みんな聴いてくれているんだな」と思ってすごく嬉しかったです。あと、地元の人の前で歌えるのも嬉しかったし、他の場所から来てくれる人たちに徳島を知ってもらう良い機会になったのかなって。阿波踊り見るの、初めてだったでしょ?
--初めてでした。
アンジェラ:だから絶対にライブの中に入れたかったの。あそこで踊ってくれた方たちは、いろんな連の選抜メンバーで。阿波踊りのベストメンバーが60人ぐらい集まってくれて。
--ラストには『HOME』を歌ってくれましたが、徳島で歌う『HOME』は格別でしたか?
アンジェラ:格別でしたね。何回も何回も徳島で歌っている曲ではあるんですけど、ああやって徳島で歌う為だけに構成したライブ、より原点に立ち返るライブの中で『HOME』を歌うのは向き合い方が違った。そういうのも含めて、すごく意味のある【MY KEYS】が出来たなって感じてますね。
--そんなひとつの夢を叶えて間もないタイミングで、ニューアルバム『LIFE』がリリースされます。まず『LIFE』というタイトルに込めた想いを聞かせてください。
アンジェラ:5周年というのが大きいキーワードで、5年目だからこそ表現できることを意識して作ったアルバムで。で、私は日本人とアメリカ人のハーフだし、そもそもアメリカで「シンガーソングライターになりたい」と思って曲を作り始めたので、半分日本語詞で半分英語詞のアルバムにしたんです。これからの夢がいくつもある中で、原点に立ち返ってもう1回自分と向き合ってそれから進んでいきたくて。集大成でありながら旅立ち。それを表現する言葉が何かなと思ったときに『LIFE』だなって。
--紙資料には「音楽人生の集大成」と記してありますが、今作は最初からそこを目指して制作に入ったんでしょうか?
アンジェラ:そうですね。良いアルバムにしてやろうっていう気持ちはすごくあって、今回はとにかく1番良い曲を目指してどれも作っていったんです。クオリティが高いものを意識して作りましたね。
--そんな新たな展開を見せたアルバム『LIFE』、自身では仕上がりにどんな印象や感想を持たれていますか?
アンジェラ:とくしまのライブでも言ったんだけど「こういう風にやりたい、こういうサウンドでやりたい」っていろんな理想を想い描いてきたものがひとつひとつ形になった、理想のアルバム。自分の中で今一番人に聴いてほしい作品です。過去のどのアルバムよりそれが強くあるんですよね。「私が作れるクオリティはこれである」って胸を張って踏み出していける。そう心底思います。
--何がそうしたアルバムを作らせたんですかね?
アンジェラ:5年目ということもあって「自分は今の音楽シーンにおいてどういう位置にいるのか」って客観的に考えたときに、そもそも音楽シーンって何なんだ?って思って。普段、音楽をあまり聴かない人にも好きになってもらえるアルバムって言ったら、もう死ぬほど良いクオリティのものじゃないとダメで。だから今回は私自身が「妥協してない」「進化できてる」って思えるものじゃないと出しちゃいけないってプレッシャーがすごくあった。
--なるほど。
アンジェラ:どこにもないクオリティのものにしたかったんだよね。絶対進化したところは見せたかったし、私が1stの頃から持ってるアルバムのモットー“捨て曲ゼロ”は守り抜きたかったし。だからどの曲を取ってもシングルよりも強いものを目指したんですよね。
--では、その収録曲について触れていきたいんですが、まず世の男すべてが頭の下がる想いで聴くであろう『Every Woman's Song』。今回こうしたすべての女性のアンセムとも言うべき曲を作ろうと思ったのは?
アンジェラ:ジャニス・イアンとのインディーズ時代からの繋がり、彼女との関係が一番大きいかな。英語詞の曲たちはナッシュビルでレコーディングしたんだけど、そのきっかけを作ってくれたのもジャニスだし。で、今回のアルバムを英語詞と日本語詞の半々にするって決めたときから、日本語詞の曲は東京でいつも一緒に作業しているミュージシャンと一緒に作って、英語詞の曲を作るのはアメリカで作ろうと決めてました。『LIFE』というタイトルを付けている以上、私は日本のインターナショナルスクールに行って英語を憶えた訳じゃないし、英語が喋れないままアメリカに連れて行かれて、そのままタフに育ったので。
--そこは徹底していたんですね。
アンジェラ:その為に今年は全部で2ヶ月ぐらいアメリカで制作をしていて。そんな中で、ジャニスの家で「あなたも私も違う時代と国に生まれて育ってきたのに、なんでこんなに繋がってるんだろう」って話になったときに「それって私たちが女性であるという共通点があるからなのかな」っていう結論に至って。そこから「最初に生まれた人もこれから生まれてくる子供たちもみんなひとつなのかもしれない」みたいな話に発展していったんですけど、そういう会話をもとに“すべての女性へ捧げる歌”を作ることになったんです。
Interviewer:平賀哲雄
笑った日々は 泣いた日よりもはるかに多いから
--ジャニスと共作って凄いことですよね。
アンジェラ:インディーズのときにレコード会社の人に紹介してもらってからの縁なんですけど、メジャーデビューする前に「何かあったら私に言いなさい」みたいな感じでメールアドレスを教えてくれて。初めての武道館のときもアドバイスしてくれたり。一緒に曲作ったり、ご飯食べに行ったりしていると、昔話で「ジミヘンはこうだった」「ジャニス・ジョプリンはこうだった」みたいな話をさり気なくしてて「凄いな」って思うんだけど、そんな彼女が好きなシンガーソングライターとして私を理解してくれているのは、嬉しい。だからこそ同志としていろいろ言い合って曲を作れたし。
--こうした大作は通常アルバムに1曲ぐらいしかないものですが、このアルバムは違います。「あなたのいない「明日」と言う日を 無理してみても「希望」とは呼べない」と歌った『Remember me』。どんな背景や想いからこの曲は生まれたんでしょう?
アンジェラ:実は『Remember me』は『ANSWER』用に作った曲だったの。でもあのアルバムには合わなかったんですよ。『ANSWER』が持ってる少し内向的な感じにはちょっとだけ相応しくないなと思って。『Remember me』って過去を見てる歌なんだけど実はすごく外を見ていて、サウンド的にはすごくポジティブな方向に進んでいる歌だから。それで取っておいたんです。で、今回のアルバムに入れようと思ったんですけど、今度はアレンジがしっくり来なくて。たまたま亀田誠治さんとメールしてて「1曲、プロデュースしてくれませんか?」って頼んだら「いいよ!会いたいし!」って返してくれたんです。そしたらもう亀田節出しまくりの感じになって「あー、これを待ってたんだ。この曲は」って思って。本当に表現したいサウンドになったんですよ。
--あと『Remember me』は「笑った日々は 泣いた日よりもはるかに多いから」って歌うところに強い愛を感じました。
アンジェラ:そこがこの曲のポイントなんです。『LIFE』っていう曲にも繋がるんだけど、昨日と今日、笑いと泣きの対比があって。恋愛って別れ方が悪いだけで、育んだ日々とかが全部パーになったりするじゃないですか。でもそれって勿体ない。終わりの方は泣き叫んでばかりで、怒りに任せた言葉を言ってしまったとしても、それは本当に一部であって全てではなくて。だからこの曲では「笑った日々は 泣いた日よりもはるかに多いから」って歌ってるんです。で、私もそう憶えていたいけど、あなたにも泣いている私とか怒っている私とかじゃなくて、笑っていた私を憶えていてほしいっていう。それこそが“LIFE”だと。出逢いと別れの間にこそ真実があって、その真実の欠片をお互いに持って行って次の人生、次のステップに生かしていかないと。
--あと、今回は『What Are The Roses For?』や『愛と絆創膏』『Mad Scientist』『The Truth Is Like A Lie』と、いつにも増して辛い恋愛の歌が多いですよね。それでアルバムタイトル『LIFE』って何だか堪らない気持ちになりました(笑)。
アンジェラ:辛い曲、多いですよね(笑)。『愛と絆創膏』は完全に女性目線で歌ってるんですけど、気付いてもらえない恋ほど辛いものはないっていう。「いや、私なの。本当に苦しいのは」みたいな。そういう内容なのでピアノ弾き語りのバラードでも全然成り立ったんだけど、内面にある自分の葛藤と表の悲しさを対比させたかったから、今回は優しさと激しさを同居させたサウンドになってて。
--なるほど。
アンジェラ:あと『What Are The Roses For?』『Mad Scientist』『The Truth Is Like A Lie』は英語詞である部分が自分を自由にしたところがあるんですよね。『What Are The Roses For?』に関しては“天使と悪魔”がテーマで。誕生日でもないのにプレゼントをもらったりとか、やたらと愛情を注がれたときに天使の方は「それはあなたが特別だからよ」って言うんだけど、悪魔の方は「それは何かを隠そうとしているからだよ」って囁く。その真ん中で自分は踊っている訳ですよ。だから曲調はワルツにして、天使を表現するピアノを左に振って、悪魔を表現するチェロを右に振って、その真ん中に声を置いたんです。
--また『Mad Scientist』は恋愛の更にエグいところを描いてますよね。
アンジェラ:嫉妬に狂っていく男の歌ですからね(笑)。最高に可笑しかったのが、レコーディング中にスタッフがこの曲の歌詞の日本語訳をじーっと見ていて。心配になるぐらい。そしたら「これ、俺の歌やわ」って。
--ダメじゃないですか(笑)。
アンジェラ:「ダメじゃん、君」みたいな(笑)。この曲はね、日本語で歌ったら単なる怨念の塊になっちゃうんだけど、英語詞だからそれをマイルドにすることができて。更にブクブクの音を入れたりとか、サウンドで研究室をイメージさせてコミカルな印象にしてるんですよ。この前、清水ミチコさんのライブを観に行ったんだけど、あの人のライブが天才的に良いのはすべてを真面目に捉えすぎてないところで。すべてがシニカルだけどコミカルなのね。だからこの曲も嫉妬に狂っていく男を真剣に歌うと「怖い」になっちゃうけど、それを半ばちゃかすようにポップに歌うと楽しくなるんですよ。それって英語詞の醍醐味でもあるんだけど。
--『The Truth Is Like A Lie』はどんな背景があって出来たんでしょうか?
アンジェラ:私の叔母さんがつい最近、旦那さんを急に心臓発作で亡くして。まだ50代ですよ。子供もたくさんいて。で、その彼女と旦那さんの関係っていうのがあまりにも素晴らしくて、理想の夫婦だったんですよ。なんでそんな2人に悲劇が起きるのかって思うぐらい。彼らはカトリックで「神様の運命を信じて生きていきましょう」ってずっと言っていたのに、そんなことが起きてしまった。それで彼女の中での信仰の揺らぎみたいなものもあったりして。そんな状態で彼女は私に「まだ習慣が抜けないのよ」って言うわけ。毎日、今も彼のご飯も作ってるし。みんな「進んでいきなさい」って言うけど「私には進む道なんかない」って言うんです。そのときに自分の中で思うことがすごくいっぱいあって。
--具体的に言うと?
アンジェラ:「じゃあ、運命ってなんなんだろう? 愛って何なの?」みたいな。それを壊されるぐらいだったら最初から経験したくないよなって。で、彼女はまだ2人分のコーヒーも淹れるし、彼の為にテーブルもセットするし。「帰ってくるかも」って思うから電気を点けたまま寝たり、家にはいっぱい彼の写真が飾ってあったり。そこで彼女は「嘘みたい、嘘みたい」ってずっと言ってて。そのイメージが強かったから『The Truth Is Like A Lie』は“真実が嘘みたい”というのをテーマに書いてるんです。
--女性が歌う切ないラブソングが流行ってますけど、アンジェラが今回歌ってるのは切ないどころの騒ぎじゃなくて。どれも辛くて苦しくて必死。でもその生々しさが胸を打ちます。しっかりと聴き手の心に何かを残す。自分ではどう思いますか?
アンジェラ:喜怒哀楽って明白じゃないじゃないですか。怒りが哀しみになっていったり「楽しいな」って思うことを客観的に見ればそれは喜びであったり。なんか、ヌルッとしてるじゃないですか。今日は喜、明日は怒とかじゃないし。それを『LIFE』っていうひとつのアルバムで表したくて。その喜怒哀楽のスナップショットみたいなものを素直に表したかったんですよね。だからあんまり無理がない。無理にポジティブにならなくてもいい。解決しない歌があってもいい。真実が嘘みたいに感じている状態では「でもそれを受け入れて前に進んでいこう」とはならないんですよ。でもそれがきっと“LIFE”じゃないですか。だから「進んでいく」っていうのは別の曲で歌う。そういう無理がないリアル感に今回は拘ったかな。
Interviewer:平賀哲雄
ポジティブって人にかけられる言葉では絶対無い
--『Unbreakable』も今の話に当てはまりますよね。孤独のどん底を味わったすべての人が経験した想いが綴られていると思うんですが、こうした内容を歌にしようと思ったのは?
アンジェラ:自分は夜っていう時間が結構苦手で。寝られないときは窓から朝日を見たりするんですけど、明るくなった瞬間に安心して眠くなるんですよ。この不安定さは何なんだろう?と思って。で、今回のアルバムのテーマのひとつに“ポジティブ”があるんだけど、巷でポジティブな歌が溢れまくっている時代だからこそ強く思うのは、ポジティブって人にかけられる言葉とかでは絶対無いんですよ。自分の中から見つけて感じて生み出すもの。それが真のポジティブ。だから暗いときもあって良いんですよ。自分のタイミングで立ち直ればいいから。『Unbreakable』は「壊れない心がほしい」と願うけど、別に誰かが助けてくれる訳ではなくて。やっぱり自力でそれを見つけていかないといけないけど、見つけられてそれを本当に感じられたときに真のポジティブ、本当の強さが手に入れられる。だからポジティブって強さなんですよ。
--最近ツイッターとかやってると「結局誰も相手にしてくれない」みたいなことを書いている人を多く見かけます。そうした人にこの曲はどんな風に響いてくれたらと思いますか?
アンジェラ:確かに1人は不安だし、怖いけど、自分があれば良いんじゃないってすごく思う。さっき話した叔母さんが立ち直ってきてる姿とか見ると、やっぱり自分の力で進んで行ってる訳ですよ。カウンセリングとか家族のサポートとかもちろん大事だと思うけど、自分の力で、自分のタイミングで一歩踏み出す。そこに本当のポジティブとか強さを感じる。だから人は落ち込むけど「そんなことで落ち込んじゃダメよ」って言ったり「だからこの曲を聴いて元気になって」なんて押し付けたくもないし。落ち込んでるときは落ち込んでていいと思うし、悲劇のヒロインやヒーローになっちゃえばいいと思う。ツイッターで「人生最悪」「もう嫌だ」って言っていればいい。もちろんフォロワーはどんどん少なくなっていくと思うけど(笑)。で、演じきって「もういいかな」と思ったときにリアルな世界に帰ってくればいいんだから。
--あと、今作にはとってもポップでキュートな曲もあって。『Bop Bop Bop(Colors of Your Soul)』。この曲は見事に聴き手の心を軽くしてくれます。自分ではどんな印象や感想を?
アンジェラ:これもジャニスと一緒に作ったんだけど『Every Woman's Song』作った後に「もう重い歌を作るのはちょっと。」って気分になってて(笑)。それで極端に軽いものを作ろうと思って、メロディはその思い通りになったんだけど、結局は私たちだから歌っている内容は大事なことを言ってるっていう。励みの言葉を探す際に「何を言われたら一番嬉しいかな」って考えて、その人が自分の美しさに気付けるきっかけの言葉にしようと。それで「あなたの魂からは虹色の輝きが見えるんだよ」っていうことをキャッチーにポップに歌いたくて。
--その後に『母なる大地』ですよ。凄まじい振り幅ですが、今回ここまで日本的な曲を作ろうと思ったのは?
アンジェラ:原点に立ち返る、立ち止まる、そしてここから旅立つ。1stアルバムの『Home』では、デビューまでの10年間を故郷として考えて、その原点に立ち返って旅立つっていうことを表現したんだけど、もう一度それをデビュー5年目でやってみようと思って。そう思ったときにピンと「ホッピー神山さんに電話しないと!」って思って、今回のアルバムのテーマやキーワードとして「美空ひばりさんの『川の流れのように』みたいな感じ」とか伝えたんだけど、ホッピーさんが返してきたのはハープじゃなくて琴だったんですよ。今作が和と洋のミックスであることとか、オーヴァーチュアみたいなものを間に挟みたいこととか、そういう私の想いをしっかり受け止めてくれて。
--なるほど。
アンジェラ:で、私がデビューしたとき、故郷っていうのは「育ててくれた人や場所」って言っていたけど、この曲における故郷っていうのは、5年にわたって私の音楽を聴き続けてくれた人たちなんです。みんなに見守られてもう1回ここから私は自分の夢に向かって旅立っていく。それを言いたくて。だから大きな大きな歌にしました。
--今作のラストを飾る『LIFE』。この曲に込めた想いを聞かせてください。
アンジェラ:人生は白黒じゃない。正しいと思われていることと間違いと思われていることが、必ずしもそうではない。子供には「嘘を付いてはいけません」って言うけど「嘘も方便」っていう言葉があるぐらい、嘘こそが2人の愛を守ってくれることだってある訳だから。なので、そのときそのときに自分が思う正しいこと、間違いだと思うことが真実なんじゃないかなっていう。だからそれは変わっていいの。
--この曲の「動けなくても 歩けなくても なくしたものは 取り戻せるから もう一度踏み出せば」と歌いきるところに胸を打たれる人も多いと思います。
アンジェラ:私もそのサビがすごく好きで。喪失感みたいなものってやっぱりあるじゃないですか。歳を取れば取るほど。生きている実感はあるんだけど、何か置いてきちゃっている気がする。自分の無垢な部分とか純粋な部分がどんどん削れていく気がする。でもそれは「きっと取り戻せるんだろう」って信じて進んで行きたいし「もっともっと無くなる」って思ったらそれまでだし。だから踏み出す。
--そんなアンジェラ・アキ、渾身のニューアルバム『LIFE』。どんな風に世に響いていってほしいと思いますか?
アンジェラ:進化できたアルバムだからその成長を見届けてほしい。あと、これが集大成であり、旅立ちのアルバムであるということを胸に聴いてほしいな。デビュー5周年と言うとベスト盤を出すことが普通かもしれないけど「私はそうじゃないな」と思って、このアルバムを作ったから。集大成の気持ちはありながらも「ここからよ」っていう。
--今“集大成”という言葉も出ましたが、自分的にこの5年間はどんな音楽人生だったなと感じていますか?
アンジェラ:デビューまで10年かかったから、ひとつひとつの出来事が鮮明に残ってるし、ひとつひとつのことに対する有り難みが全然違うと思います。CD1枚の価値がよく分かっている上での、メジャーデビューがあり、武道館もあり、そういう夢が叶っていくプロセスだったから。最初にデビューシングルを持ってインストアライブツアーをやったんですけど、その全部の会場を鮮明に今でも憶えてるし。広島の図書館で歌ったとか、青森のジャスコで歌ったとか。それの積み重ねの5年間だから、感謝の気持ちがすごく大きい5年だったなって。何も当たり前だとは思わなかったし、だからこそクオリティの高いものを作りたいといつも思ってました。
--では“これから”のアンジェラ・アキ、どうなっていきたいですか?
アンジェラ:今回、英語詞半分のアルバムを作ったからと言って、アメリカデビューを狙ったりしている訳ではなくて。やっぱり日本をちゃんと拠点として活動していく。いつかは自分の夢であるグラミー賞を獲るとか、カーネギーホールで弾き語りをやるとか、そういう目標っていうのはあって。それに向けて出発している感じは今すごくあるんだけど、変わらずに“伝える”と“繋がる”を自分の芯として今後も守り抜きたいですね。
Interviewer:平賀哲雄
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