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凛として時雨 『i'mperfect』インタビュー

凛として時雨 『i'mperfect』 インタビュー

作詞作曲からミキシングまで手がけるTK(vo,g)は、国内最高峰のプレイヤーらを招いてアルバム『flowering』という日本の音楽シーンにおける最高傑作を、ソロ名義で発表した。そして345(b,vo)はgeek sleep sheepという新バンドを始め、ピエール中野(dr)はGLAYの新作でその腕前が一級品であることを改めて証明と、昨年の3人は個々の活動が目立った。そうした1年を経た今、凛として時雨というバンドで何を刻むのか。2年半ぶりのニューアルバム『i'mperfect』を完成させた3人に訊いた。

ソロとは向き合い方が別物

TK from 凛として時雨 『studio live trailer』▲TK from 凛として時雨 『studio live trailer』

--今回も本当に凄い作品が完成しました。……どうですか中野さん?

ピエール中野:質問丸投げじゃないですか!(笑) いやー、発売延期にならなくてよかったですよ!

--昨年、TKさんがドラムにBOBOさん、ベースに日向秀和さんという最高峰のプレイヤーを招いてソロ作『flowering』を完成させました。

ピエール中野:純粋に凄くかっこいいと思いました。ライブも観に行ったんですけど、自分が一緒に演奏しないというか、お客さんとして見るのは本当に久しぶりだったので「みんな、こういう感じで観てるのか!? こんなかっこよかったのか!」って(笑)。
僕は元々が時雨のファンだった所から入っていますし、これまで時雨にしかできない所もキチンとやってきたので、そういう所も含めて。

345:(TKが)ソロをやったから意気込みが変わったりとかはまったくないですし、さっき中野くんが言ったようにかっこいいなって。気持ちが高揚するというか。

TK:やっぱり自分の中では、向き合い方が別物っていう意識が強いので。例えばソロでも中野くんに近いタイプのドラマーみたいな感じだったら違うのかもしれないですけど(笑)、スリリングで手数の多い中野くんに対して少ない点数を究極のグルーヴで鳴らすBOBOさん、みたいな所も踏まえてますし。
お互いが引き立つというか、良い意味でライバル……という言い方はアレかもしれないですけど、時雨で作る曲とソロで作っている音像とで、僕自身も切磋琢磨できればいいかなって。自分対自分、じゃないですけど。

--時雨に戻る上での変化はなかった?

TK:変わった所といえば、2人の持っている一番美味しい部分を自分がどれだけ引き出せるか。例えば中野くんがGLAYさんでドラムをやったり、345がyukihiroさんや百々さんとバンド(※1)をやっていたりしますけれども、違う所で引き出されている中で、より2人の持ち味を引き出せるかどうか。っていう自分のプライドを持ってやれた所はありますね。

GLAYのサポートやgeek sleep sheepで求められるもの

GLAY「運命論」ミュージックビデオ フルバージョン▲GLAY「運命論」ミュージックビデオ フルバージョン

--では、2人はそうした経験から変化した意識はありますか?

ピエール中野:GLAYの現場でもいつも通りやった感じなので、ガラッと意識が変わりまして……みたいなのはなかったんですけど、「あ、俺ってだいじょうぶなんだ!」っていうのはありました(笑)。
でも、「ちょっとこういうパターンが欲しいから叩いてみて」って言われた時に、わりと細かいフレーズを構築したら「もっとシンプルで」っていう指示はもらいました(笑)。わりと手数が多い複雑なパターンを求められてると思ったんですけど、実は普通の16分でよかったとか。

TK:時雨をやってたらどこに行ってもそうなりますよね、ドリーム・シアターでも行かない限り(笑)。

345:中野くんと本当に一緒で、「もっと普通でいい」とか、歌う時も「もっと力抜いて」って言われることが多くて(笑)。時雨の時はけっこう全力で歌うんですけど、そういうものは求められていないですし、キーもそんなに高くないですし。でもまぁ新しい感じになるので、それがいいかなぁと。

--結果、TKさんの特異性が際立つ質問になってしまいました。

TK:僕のソロでも全員がビックリしてましたね、BOBOさんが「お前の曲って……」みたいな(笑)。最初にライブをやった時、ART-SCHOOLのトディ(戸高賢史 / g)にサポートしてもらったんですけど、曲の構成表を書いていったら最終的にJかKメロまでいって、「構成表を作る意味がない」って(笑)。

ピエール中野:BOBOさんは初ライブの時の目標を「間違えないこと」って言ってたよね(笑)。

--と、そんな経緯もありつつ完成したニューアルバム『i'mperfect』ですが、1曲目「Beautiful Circus」は歌い出しが“凛としてる夕景”をはじめ、時雨を象徴する歌詞が幾つも出てきます。超絶的なサウンドも含めて、本作をそのまま象徴しているような楽曲だと感じました。

TK:はい。

--そんな1曲を“錯覚のサーカス”“美しくなんてない”と言い切ってしまう、ある種の残酷さがとても印象的でしたが、1曲目にした意図というのは?

TK:曲自体が一番最初にできたっていうのもあるんですけど。歌に関しては、最初に歌詞を書き始めてしまうと言葉を書いちゃうんですよね。そういうのが必要な時もあるんですけど、極力オケを流して自然に出てきた言葉を書き下ろしたいなっていうのが時雨に関してはあって。
語感やスピード感が意味よりも大切な所っていうのがけっこうあったりして。だから1曲目とかはまったく意識していなかったんですけど、本当に自然に出るまま歌っていったらこうなりました。けっきょくそれが楽曲の一番活きるポイントだったりするので。

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時雨ってけっこうJ-POPだと思っている

凛として時雨 『Beautiful Circus (short version)』▲凛として時雨 『Beautiful Circus (short version)』

--「Beautiful Circus」におけるキメの多さや展開の多さは、3ピースのロックバンドがAメロ~Bメロ~サビとある種の定型になぞらえる中で生み出せる究極に近い所まで到達していて……。

TK:……僕は凄いシンプルだと思ってたんですけど。

--マジすか!?(笑)

TK:今回の中ではかなりシンプルでJ-POP寄りです。時雨ってけっこうJ-POPだと思っているので、凄くポップな曲ができたな、……って感じがしたのは勘違いでしょうか?

ピエール中野:勘違いじゃないよ(笑)。

--ではシンプルな曲でしたか?

ピエール中野:いや全然(笑)。全然シンプルではないですよ! 自分で演奏してるのに「どう動いてるんだろう?」って思う瞬間がいっぱいありますからね。

TK:Aメロが2回出てくる時点で、自分の中ではけっこうポップなんですよ。

345:1番2番ってなってると、「あ、1番がもう1回きた! 普通の曲だ」って(笑)。「Beautiful Circus」はAメロが2回出てくるし、歌を録ってる時もそんなに。「abnormalize」とかも曲構成はシンプルだなって思いました。

TK:完全にポップですよ。

--言い切りましたね(笑)。

TK:これをどうシンプルに聴かせるかが、自分の中での時雨のテーマではあるんですね。やろうと思えば全然しっちゃかめっちゃかにできるんですけど、そうじゃない微妙な境目。これ以上いくと音楽的じゃないとか、そこは無意識に凄く意識している所かもしれないですね。

一般的に言ってしまえばアンダーグラウンドな音楽

凛として時雨 『abnormalize(short ver.)』▲凛として時雨 『abnormalize(short ver.)』

--2曲目の「abnormalize」は、シングルリリース後にテレビ朝日系『ミュージックステーションスーパーライブ』で地上波に初登場しました。あれは本当に衝撃的でしたし、直後のネットの反応も賛否の嵐で本当に気持ち良かったです。

ピエール中野:Googleの検索急上昇ワードで“マヤ文明”を超えて堂々1位になりましたからね!(笑) あの後、後輩のバンドとかに感想を訊かれる機会が何回かあって、「出た方がいいよ」って答えたんですよ、[Champagne]とかに。そしたら出てましたよね。SiMもライブのMCで「時雨がMステ出てて……」って言ってて出たいと表明してるみたいだし、刺激を与えられたのかもしれないのは嬉しいですね。

TK:テレビに出たことによって自分たちの何かを劇的に変えたかったとかではないんですけど、こういう音楽が存在していることが一瞬でもかいま見えるだけで意味があったのかなって。一般的に言ってしまえばアンダーグラウンドな音楽ですから、そういったものがオープンになっていくのは面白いんじゃないかなって思うんですよね。凄い違和感があったでしょうし、そういうのって今はあんまりないんじゃないかな?っていうのもあるし、面白い爪痕が残せるのであれば。

--そして3曲目の「Metamorphose」は、変化していくトラックの展開が面白い楽曲です。

TK:変化していくって所がテーマの曲だったりはするんですよ、枠組みが一緒でも乗っているものが違ったりとか。ただ、骨組みは意外とシンプルなのかなって思っていて、その中でちょっとずつ動いていくというか。
他の曲は練り直して練り直してっていうのがあったんですけど、この曲は歌詞と一緒に録りながら構成を決めて、勢いで作った感じで。複雑なリフが入ってはいるんですけど、けっこう疾走感がある曲になりましたし、サビは「チンドン屋みたいだな」って思いながら作ってました(笑)。

--確かにサビのリズムパターンは時雨では珍しいですよね。

ピエール中野:速いテンポのシャッフルは初めてですね。

TK:本当に曲が導いてくれた感じですね。「ここでシャッフルやってみようか?」なんてオシャレなことを僕はなかなか言えないですし(笑)。何拍子とか転調とかの概念があんまりないので、2人に訊くことが多いんですよ、「今、何拍子?」みたいな。

ピエール中野:手前のキメが2拍3連で、その後の選択肢はこれしかなかったというか。「こういうリズムじゃないとハマらない感じ?」なんてやり取りに合わせてやってみた。わりと自然な流れですね。

やっぱり時間は簡単には戻せない

--ちなみに今回の収録曲は、いつくらいの時期に制作されたものなのでしょうか?

TK:パーツは前からちょこちょこ作っていたんですけど、使う用途はあんまり考えていなくて。で、アルバムを作る時にそういうのを聴き返すんですけど、衝動的に作ったフレーズとか歌って、その時にしか輝いてないもの、後で聴くと大したことがないものもけっこうあるんですよ。

普通は曲を作って2年も置こうなんて考えないのかもしれないですけど、それだけ前に作ったフレーズとかって完全に忘れていたりもするので、聴き返すことで初めて客観的に聴ける部分もあるんですね。そうやって聴ける瞬間って一度しかなくて、自分からちょっと抜け出して自分の音を聴ける瞬間、その先に何をイメージしたかはけっこう大事にしていますね。

--それが見えると曲になる?

TK:「Metamorphose」とかは次が見えやすい曲だったんですけど、全然見えないことが多くて。「Missing ling」なんかは弾き語りのイントロの部分から、どう進めばいいか分からなかったというか。その景色が見えすぎてて、後で筆を足すことができない。そういうのがあって時間がかかっちゃうんですけど、やっぱり時間は簡単には戻せないですし。

--そういう感覚は歌詞に対してもあるものなのでしょうか。

TK:そうですね。海外とか行く時に飛行機で空の上にいると、よく自分の感覚が変わるんですよ。その時にしか考えられない自分の想いとか、「普段ああいうことで悩んでいるけど、本当はこういうことなのかな?」とか。

そういうのを極力書きためておいてアルバムを作る時に散りばめることが多いんですけど、やっぱりその時の感覚には戻れないので、散りばめた後にどうやって巻き戻すかが凄く大変なんですよ。ある一定のイメージができているものほど、後から復元しづらいというか。

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あんまり自覚はないですね、失われたものに対して

--先ほどのMステ出演もそうですし、例えば前作『still a Sigure virgin?』でのオリコン1位など、時雨は4年前のメジャーデビューから一気にシーンをかけ上がってきたバンドだと思います。ただ、そうした時の中で失われてしまったものもあるのではないでしょうか?

ピエール中野:どうなんですかね。変わった感じがありますけど、それを具体的に考えたりはしないですね。

--「ちょっと街を歩き難くなったなー」とか。

ピエール中野:全然ないですよ。ライブ会場にも正面入りして警備に止められるし、楽器屋に行ったらエレドラを叩きまくるし(笑)。そのときは高校生に思いっきり見られてましたけど、声はかけられなかったです(笑)。

345:あんまり自覚はないですね、失われたものに対しては。やっぱり変わってるでしょうけど、状況とかを見ていると。変化しますよね、はい。何が変化したとかは分からないですけど、時が経っているから自然に変化はするだろうくらいの感じで。過去はあんまり思い出せないんです、記憶力の問題で(笑)。

--というのも、4曲目の「Filmsick Mystery」や9曲目の「Missing ling」は失われた記憶への郷愁を感じさせる歌詞だと感じたんですよ。

TK:今は色んな物事の時間を戻せるようになったなぁ、なんて思っていて。例えば懐かしい曲とか昔聴いていた曲も、聴こうと思えばいつでも聴けるじゃないですか。そうすると懐かしいと思う感情とか、思い出したいと思う感覚がどんどん薄れてしまう。手に入れられるものは全部手に入れられるけど、そこで失われるものがあるというか。

(345、何度も大きく頷く)

TK:だから記憶を無くすというよりは、手に入れたいという感覚を無くすことを考えて歌詞を書いた感じですね。懐かしい曲をあまりに聴きすぎて、どうやって好きだったかとか、何を思い出したかったかとかを忘れてしまう。それは時間を戻しすぎたからだと思うんですけど、一旦そうなると元の感覚にはなかなか戻れない。さっきの歌詞の感覚とかと一緒なんですけど、……そんな所から重なっていった歌詞ですね。

TKが思い描く時雨の一番ソリッドな形

--以前、TKさんは前作を「時雨として一番リッチな音像」と仰っていました。対して本作は打ち込みもピアノもなく、アコギすらほとんどない。音色の数という単純な観点からすれば、昔に戻ったという見方もできますよね。

TK:僕が思い描いていたより音色は多くなったんですけど、蘇らせたかったというよりは単純に前作のようなアルバムを経て、ソリッドな音像に進化したという方が自分の中ではしっくりきますね。

--これも以前のインタビューですが、TKさんは「何も音を足してなかったり、僕が何も手を加えていない状態で、自分の音楽をあの3人で表現できたら、少しは自分のことを褒められるかな」と仰っていました。

TK:時雨に関して難しいのは、例えば録った音をそのままCDに収録しても3人の一番ソリッドな音になるワケではないんです。本来なら何もしていないピュアな状態が本当の姿ではあると思うんですけど、自分が思い描いている時雨の一番ソリッドな形はそうではなくて。

ミックスのポイントとして“最も中野くんや345の演奏になる瞬間”っていうのがあって、それは何もしていないピュアな状態じゃないんです。そのポイントに究極まで照準を合わせたのが今回、っていうのはありますね。

--今作はTKさんのミックスのみならず、高山徹さんや片岡恭久さん、比留間整さんやJens Bogrenなど名うてのエンジニアを招いている楽曲も多いですね。

TK:第三者を介すると難しくなってくるんですけど、それは“違うものになってもいい”っていうスタンスではなくて、第三者のエンジニアを介して2人を表現する感じなので、当然何度もやり取りをさせてもらいます。違和感があるのは当然なんですけど、それをどうやってプラスに持っていけるか。そこは凄く神経を使いましたし、上手く形にできたかなっていうのはありますね。

--9曲目「Missing ling」のボーカルは最も生音に近いというか、ほとんどエフェクトがかかっていないように思えたのですが。

TK:かけた状態で生々しく聴こえさせる、っていうのが一番の到達点ではありますね。僕のミックスは他の人よりもインサートされているプラグインがかなり多いんですけど、それでも一番自分たちらしく聴こえるように鳴っている。ドラムの音にコンプレッサーだったりEQだったりを凄くかけたからといって、それは作り込まれた音像じゃない。そうすることで中野くんがブースで叩いている音に一番近づけるというか。

結局ドラムから2cmくらいの所にマイクを置いて録っても、目の前で叩いている音になるワケがないんですよ。だから2人が一番目の前でやっているような所に近づける。最終的には2人のイメージには近い音像にできているのかなって思いますね。

--次のツアーの見所を最後に!

ピエール中野:アルバムの楽曲がライブでどのように表現されるのか、楽しみにしていて下さい。

Music Video

凛として時雨「i’mperfect」

i’mperfect

2013/04/10 RELEASE
AICL-2526 ¥ 3,204(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.Beautiful Circus
  2. 02.abnormalize
  3. 03.Metamorphose
  4. 04.Filmsick Mystery
  5. 05.Sitai miss me
  6. 06.make up syndrome (album mix)
  7. 07.MONSTER
  8. 08.キミトオク
  9. 09.Missing ling

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