Billboard JAPAN


Special

<インタビュー>溶けないうちに味わって――冨岡 愛、1stアルバムの“続編”で描いた「愛の温度」

top

Interview & Text:Takuto Ueda
Photo:堀内彩香

 2002年生まれのシンガー・ソングライター、冨岡 愛がニューアルバム『愛が溶けないうちに』をリリース。本作は、彼女が23年間の人生を結晶化させ、さまざまな愛の形を表現してみせた1stアルバム『愛'sCREAM』の“デラックス版”であり、既存のシングル曲を入れ替え、さらに新録の2曲を加えた続編的内容になっている。

 2023年にリリースした「グッバイバイ」が韓国で人気を集め、日本国内でもZ世代を中心にファン層を着実に広げている彼女。表現者としても日に日にアップデートを遂げており、『愛'sCREAM』と『愛が溶けないうちに』を聴き比べても如実な変化が感じられる。一連の創作について、本人に話を聞いた。

愛ってアイスクリームに似ている

――2025年11月にリリースされた1stアルバム『愛'sCREAM』の“デラックス版”となる今作『愛が溶けないうちに』は、新録曲や『愛'sCREAM』未収録のシングルが含まれた全14曲入り。こうした作品を作ろうと考えたのは何故ですか?

冨岡:『愛'sCREAM』は私にとって初のフルアルバムということで、私自身が生きてきた23年間(当時23歳)で感じてきた、愛に対してのさまざまな価値観を表現できたらいいなと思っていました。ただ、曲数はどうしても限られてしまうので、収録できなかった過去の曲もアルバムという形で残したかったこともあり、ずっと『愛'sCREAM』の続編みたいなものを出したいとは思っていて。表題曲「愛'sCREAM」の続きも書きたかったし、タイトルの「愛が溶けないうちに」もアルバム完成時点で決まっていたんです。なので、デラックス版という形ではあるけど、自分の中では第1章、第2章みたいにリリースしたいと思っていました。

――やはり1stアルバムには特別な思いが宿ると思いますが、あらためて『愛'sCREAM』はどんなアルバムになったという手応えがありますか?

冨岡:自分が当時伝えたかったことをちゃんと込められた作品だなと思います。今聴いても「分かる、そうだよね」って自分の曲ながら共感できるポイントがある。一番古い楽曲が1曲目の「あなたは懐メロ」で、19歳ぐらいのときに書いた曲なんですけど、1stシングルなので自分の音楽へのモチベーションだったり、「こういう音楽を作りたい」「誰かの懐メロになりたい」ということを歌っていて、その思いは変わらず今も自分の中にありつつ、言葉の選び方とかはちょっと若いなと感じたりはしますね。

――当時の冨岡さんの等身大がちゃんとパッケージされているということですよね。

冨岡:そうですね。そこに対しては全く後悔とかないんですけど、全体的に自分が傷ついたことを歌っている曲が多くて、逆に自分が傷つけてしまった側の曲がほとんど入ってないな、というのは最近俯瞰して気づきました。自分が被害者の曲ばかり。そういう意味では、自分を少しきれいに描きすぎているところはあるかなと思います。

――そもそも「愛が溶けないうちに」というテーマワードはどのようにして思い浮かんだのでしょう?

冨岡:1stアルバムのタイトルは“愛の叫び”の英訳で、冨岡 愛らしさとしてポップ要素を入れたかったこともあり『愛'sCREAM』にしていて、ジャケットも私らしくポップな感じで撮ってもらったんですけど、愛ってアイスクリームに似ているところがあるなと思っていて。冷凍庫から出したばかりのときは硬くて食べづらいけど、放置したら溶けすぎてしまう。冷たすぎても熱すぎてもいけない、ちょうどいい温度を保つのが難しいという部分は恋愛も似ていると思うし、この作品も「愛が溶けないうちに味わってほしい」という気持ちを込めてこのタイトルにした経緯があります。

――アイスクリームのように変わっていく愛の形が、この『愛'sCREAM』から『愛が溶けないうちに』に至る連作で描かれている。

冨岡:アートワークも普通のアイスクリームに見えるけど、よく見たら下のほうが溶けてしまっているんですよね。表面上では崩れていないふたりの関係も、徐々に下のほうから崩れてしまっていく。冷凍庫に戻しても別の形になってしまって、一度積み上げてきたものは簡単には取り戻せないというか、そういうメッセージも込めています。





――『愛'sCREAM』を完成させたときから思い描いていた構想なのでしょうか?

冨岡:そうですね。表題曲の「愛'sCREAM」を書いた時点で結構そこまで見えていました。

――「愛'sCREAM」を書いたのはアルバム制作の終盤でしたか?

冨岡:はい、一番最後でした。そこからデラックス版というアイデアがチーム内で出てきて。私は最初、シングルでもいいかなと思っていたんですけど、さっきも言った通り『愛'sCREAM』から漏れてしまった、アルバムに入れたい子たちがいたので、結果的にアルバムにできてよかったです。

NEXT PAGE
  1. <Prev
  2. Next>

アレンジの好みも変わってきた



――『愛'sCREAM』から『愛が溶けないうちに』にかけて、ご自身の変化や成長を感じるポイントはありますか?

冨岡:それで言うと『愛が溶けないうちに』のほうがより正直というか。既存曲も今作のほうが新しいものが多いんですよね。『愛'sCREAM』は10代の頃に書いた曲も結構入っているので。そういう意味で、徐々に本音が出せるようになっているなと思います。昔は自分が思っていることをそのまま歌詞にしたとき、それが否定されたら自分を否定されたようにも感じていたし、それは今でもそうなんですけど、でも「そうしていかないとな」って思うようになりました。心が強くなっている気がします。ライブを繰り返していくなかで、お客さんと触れ合うたびに「ちゃんと本音を伝えたい」と思いますし。

――やはりリスナーの存在が大きい?

冨岡:すごく大きいです。私は最初にSNSを通して楽曲を届けることが多いので、いただくコメントはフィードバックとして見ていますし、そのなかで「もっと本音を歌いたい」と思えるようになったというか、だんだんそうではないものを歌えなくなってきたというのが近いかもしれないです。良い意味でも悪い意味でも、昔はもうちょっと違ったんですけど、今は自分の心が動かないことを曲に書くことができなくなってきた。

――表題曲「愛が溶けないうちに」の編曲は「デジャヴ」も手掛けたknoakさん。サウンド周りはどんなやり取りをしながら作り上げていきましたか?

冨岡:いつもギターで作曲しているんですけど、その段階でサウンドのイメージはわりと決まっていました。今回はエモーショナルなロックを意識していて、「愛'sCREAM」は初めてピアノで作曲したバラードなので対極ですね。同じエモーショナルな曲ではあるけど、感情が違う方向を向いているというか。自分の好きなインディー・ロックのサウンド感を取り入れたくて、特にギターについてはそういうリクエストをさせていただきました。




冨岡 愛 - 愛が溶けないうちに (Lyric Video)


――『愛'sCREAM』の1曲目「あなたは懐メロ」は爽快感のあるギターポップ・ソングだったので、オープニングでアルバムの第一印象もガラッと変わりますね。

冨岡:間違いないです。「あなたは懐メロ」は爽やかですもんね。私のアレンジの好みも変わってきたんですよ。10代の頃はそれこそ「あなたは懐メロ」みたいな、ちょっとカラッとしたサウンド感というか、イメージとしては海辺で歌いたくなるような音が好きだったんですけど、最近はもっとベースが効いているものだったり、リズム隊がしっかりしているサウンドが好みになってきて。

――もともとルーツはテイラー・スウィフトですもんね。

冨岡:もちろん今でもそういう音楽は好きです。テイラーを聴き始めたのが中学生の頃なんですけど、本当にずっと聴いていたので、いまだにコード進行は影響を受けていると思います。ただ、そこはもう染みついているので、自分で音楽を作り始めるようになってからはあえてちょっと聴かないようにしてみたりして、ほかのいろんなジャンルにも触れてきましたけど、インディー・ロック系のバンドの影響はすごく感じていますね。

――ちなみに最近、特に琴線に触れたアーティストっていますか?

冨岡:私が最初にそういうサウンド感に惹かれたきっかけはスネイル・メイルでした。あと、最近はガール・イン・レッドもすごく好きです。

――内省的でメランコリックなサウンドスケープですね。

冨岡:そうなんですよ。「もしかして私、こっち側の人間かも」みたいな。ただ、やっぱりコード進行の好みはテイラーで形成されているので、カントリーの感じもあったりして、そこはハイブリッドになっている。あと、ここ数年で邦ロックもかなり聴くようになりました。自分が活動しているマーケットの音楽をちゃんと聴こうと思ったのがきっかけなんですけど、15歳までオーストラリアにいたので日本語で歌詞を書くにあたって、人より勉強しなくちゃいけないと思っていたので。母の影響でaikoさんやZARDさんは昔から聴いていたんですけど、あらためて聴き直してみたり、TikTokで流行りの曲を漁ったりもしました。





――3曲目の「Psycho」についても聞かせてください。表題曲と同じく新録曲ですが、もともとライブでは披露されていましたよね。

冨岡:はい。2024年にオーストラリアの音楽プロデューサー、Taka Perryさんとコライトで作り上げて、2025年4月のリキッドルームでのワンマンあたりからライブでも歌っています。

――当時の自分の思想や価値観が反映されている実感もある?

冨岡:ありますね。いまだに変わらない価値観を歌っていると思います。すぐに人を信じてしまうところがあるというか。ただ、あらためて聴くと、やっぱり被害者面しているなとも思いますね。もしかしたら自分にもサイコな部分があるかもしれないのに、一方的に相手をサイコだと言っているところとか。「愛が溶けないうちに」を書いた頃にはそのあたりの考え方も変わってきたように思いますね。

――〈you play the victim〉とは歌っているけど…

冨岡:「おまえもだろ!」みたいな(笑)。ある意味、今回のアルバムに入れたのは伏線回収ですね。

――具体的に作詞作曲の作業はどんなふうに進めていきましたか?

冨岡:普段から言葉ノートっていうのを作っていて、そこには日記だったり気になる言葉だったりがばーっと書いてあるんですけど、ちょうど最近、サイコって言葉にまつわる話を書いていて。そこから歌詞を書き始めて、メロディーをつけて、コード進行を考えてっていう順番でした。実は「Psycho」という曲は2作目なんですよ。

――作り直したということですか?

冨岡:はい、私ひとりで書いた曲が別であったんです。そのときから〈最後の最後〉っていうフレーズは気に入っていて、2作目もそこを起点にサビから書いていきましたね。あと、〈相思相愛でありたいだろう〉っていうフレーズがありますけど、それは私の音楽のコンセプトでもあります。愛したら愛されたいよね、与えた分だけ愛してもらいたいよねっていう。そこもこだわった部分のひとつです。

NEXT PAGE
  1. <Prev
  2. Next>

感情って生もので、日に日に変わっていく

――『愛'sCREAM』と『愛が溶けないうちに』ともに収録されている「グッバイバイ」ですが、世界でヒットしている日本の楽曲をランキング化したBillboard JAPANの“Global Japan Songs Excl. Japan”にもチャートイン。国/地域別で見ると、2023年11月頃から韓国での人気はデータとして可視化されていましたが、2025年12月頃からはインドでも上位をキープしています。そうした作品の広がりはモチベーションやインスピレーションになっていますか?

冨岡:ひとり狭い部屋の中で作ったものがたくさんの人に届いて、聴いてくれた人に「この気持ち分かる」とか「この曲のおかげで頑張ろうと思えた」とか、そんなふうに思ってもらえる、言ってもらえるんだったら、自分の人生を切り取って曲にしてよかったなと思えますよね。私、めっちゃ数字を見るんですよ(笑)。よくエゴサもしますし。

――そうなんですね。

冨岡:相思相愛っていうのは恋愛だけじゃなく、音楽においても大事なコンセプトなので。自分だけ気持ちよくなっていても意味がないなと思う。ライブを見に来てくれる人たちとも「ああいうところ行きたいよね」とか、そういう相思相愛を実現させるためにも数字は現実的に大事なのかなと思いますね。




冨岡 愛 - グッバイバイ (Music Video)


――冨岡さんはどんな場面で新しい音楽と出会うことが多いですか?

冨岡:街中でちょっと気になる曲が流れたらすぐShazamしますし、好きな人がいたらその人の感性が気になるので、好きな音楽も共有してもらったり。あわよくば自分の音楽がそこに入っていてほしいと思っちゃうタイプですね。

――「グッバイバイ」の話に戻しますが、最近だと韓国の音楽番組『日韓トップテンショー』で当時10歳の女の子、キム・ユハさんが歌唱したことでも話題になりましたね。

冨岡:びっくりしましたね。たしかに韓国では広がってくれていたけど、日本語と英語しか使っていないので、声質とかサウンド感で選んでくれたのかなって。何があるか分からないというか、すごく運命みたいなものを感じます。タイミングだったり、いろんなことの組み合わせでヒットって生まれると思うので。狙ってできることじゃないからこそ、今回ユハちゃんが歌ってくれたこともありがたいなと思います。

――こういうことが自身の曲作りに影響する部分もあったりしますか?

冨岡:私、曲によって別の人格が出てくるタイプなんですけど、「グッバイバイ」で出している人格、声質だったり表現方法は今のところ「グッバイバイ」でしか出していないんですよね。それをたくさんの方が良いと思ってくださるなら、同じ人格の曲をもう1曲くらい書いてみてもいいのかな、みたいなことは考えます。わりと傷ついたあとに書いた曲なので、同じようなことが起きないと出てこないとは思うんですけど。

――曲ごとに別の引き出しがあるようなイメージなんですね。

冨岡:作っているときは無意識なんですけどね。「愛が溶けないうちに」も、どちらかと言えば「グッバイバイ」みたいに自分が傷ついた経験から書いた曲なので近しい人格で、同じような雰囲気になるのかなと思っていたんですけど、意外とそうはならなくて。どこか客観的になっている自分がいることに、レコーディングしたあとに気づきました。

――何が違ったんでしょうね。

冨岡:「グッバイバイ」を聴いたとき、まだ諦めきれていない状態というか、半分刺されているような状態で歌っているような感じだったけど、「愛が溶けないうちに」はそこにバンドエイドが貼ってあって、かさぶたになりかけているぐらいの温度感になっているなって、あとで聴いたときに思いました。同じような経験、感情でも書いたタイミングとかで全然変わってくるなって。やっぱりアイスクリームと一緒で、置きすぎると形が変化しちゃう。感情って生もので、日に日に変わっていくし、意外と復活も早いんだなと思ったので、今後はなるはやで仕上げたほうがいいかもなって思いましたね。





――今の音楽モードとか、興味が向いている音楽性とか、そのあたりについては?

冨岡:ふたつぐらいあって。ひとつは、ちょっとポジティブな曲を書いてみたい。ハッピーなラブソングの中に自分らしい傷ついた部分も入れて、でもぱっと聴いた感じではポジティブに聴こえる曲。もうひとつは、さっきも言ったように被害者面をやめた曲。自分の良くないところもさらけ出している曲を書いてみようかなと思っています。

――5月からは福岡、大阪、名古屋、東京を巡るツアーも始まります。

冨岡:セットリストをガラッと変えられるほど曲数があるわけじゃないけど、そのぶん表現力とかを磨き上げて、アップデートしたデラックス・ツアーにしたいなと思っています。

――ファイナルの東京はLINE CUBE SHIBUYAですね。

冨岡:そうなんですよ。ライブハウスじゃなくてホールなので、そこもどうしていくか考えないといけないですよね。椅子はあるけど、ちゃんとポップロック的なパフォーマンスにはしたいので、どうにか工夫できたらなって。

――ワンマンライブの規模も着実に大きくなっていますね。

冨岡:私はライブがめっちゃ好きで、どんどんやっていきたい人なので、会場は大きければ大きいほどいいですね。いつかはアリーナとかドームでもやれるようになりたいです。そうやって空間を共有できたら全部が報われる感じがするので、自分の中ではライブが一番の目標です。

NEXT PAGE
  1. <Prev
  2. Next>

関連キーワード

TAG

関連商品

愛’sCREAM
冨岡愛「愛’sCREAM」

2025/11/12

[CD]

-

愛’sCREAM
冨岡愛「愛’sCREAM」

2025/11/12

[CD]

-