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<インタビュー>ゲーム音楽を主役に据えた提供価値が新たなデジタル資産へ――Bandai Namco Game Musicが6,000曲で証明したコンテンツ活用戦略とは

インタビューバナー

Interview & Text:龍田優貴
Photo:筒浦奨太
クレジット:
Taiko no Tatsujin™ Series & ©Bandai Namco Entertainment Inc.
PAC-MAN™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.



~NexToneデジタルディストリビューション連載特集~


 日本のコンテンツ文化は今、世界中のストリーミングサービスで注目を集め、影響力を高めている。その牽引役の一つがゲーム音楽だ。ゲーム音楽は、言語の壁を越えるノンバーバルコンテンツとして、ジャンルの枠を飛び越え、世界的なデジタル資産へと進化を遂げている。

 前回インタビューを実施したNexToneのデジタルディストリビューション事業の新たな取り組み「Game Music Academy」の連載特集として、今回はバンダイナムコグループのサウンドレーベル「Bandai Namco Game Music」にインタビューを実施。同社は、レーベル立ち上げの2022年から、NexToneのデジタルディストリビューションサービスと著作権管理のスキームを活用し、音楽コンテンツの収益拡大に成功している。

(前回記事)<インタビュー>ゲーム音楽をもっと広げる――NexToneディストリビューションチームの新たな取り組み「Game Music Academy」の可能性

 バンダイナムコグループのサウンドレーベル「Bandai Namco Game Music」(BNGM)は、約45年にわたる膨大なゲーム音源という“眠れる財産”を掘り起こしている。BNGMのミッションは、単なるゲームのBGMではなく、ゲームの枠を超える“独立した音楽コンテンツ”としてその価値を確立し、世界に発信することにある。

 レーベルは2022年9月の設立からわずか数年で、配信楽曲数を6,000曲以上に拡大。過去の音源を、年間で多大な収益を生み出す「デジタル資産」へと転換させることに成功した。これは、ゲーム会社内では希薄だった「音楽をコンテンツとして発信する」という視点と、煩雑な権利処理を乗り越えた強い実行力の賜物である。

 今回、元レコード会社出身であり、レーベルの理念を打ち出した福田憲弘と、膨大な過去音源の権利関係をクリアにした金子夏子にインタビューを実施。BNGMが掲げるレーベルの理念、グローバル戦略の具体的な成果、そしてグローバルチャートのトップ10を目指す次なるフェーズについて話を聞いた。

ゲーム音楽を全世界へ。「Bandai Namco Game Music」が掲げるミッション

――改めて、「Bandai Namco Game Music」とはどのようなレーベルなのか、理念やミッションについて教えていただけますか?

福田憲弘:BNGMのテーマは、「ゲーム音楽の魅力を全世界に発信していくこと」です。ゲーム音楽というのは元々ゲームがあって、あくまでもその一部というふうに見られることが多いのですが、サウンドを主役として捉え、世界中に発信することでその魅力がきっと伝わるのではないかと考えています。


――ゲーム音楽の魅力には以前から気付いていたのですね。

福田:自分がもともとレコード会社の人間だったんです。ゲーム会社の人たちは、「音楽の魅力には気付いている。しかし、改めて発信するという考え方が無かったのでは?」というふうに感じていました。

そういった考えがあり、後にバンダイナムコエンターテインメントに入社し「ゲーム音楽をきちんと世に送り出したら、アウトプットの現状や世間の見え方も変わるだろう」という仮説に基づくアクションを始めたんです。

例えば『ELDEN RING』の場合、多くの海外プレイヤーに愛されているといった情報がありました。ゲームがこれだけ売れているのだから、ゲーム音楽はもっと世界中に届けられる可能性がある、ということに気付いて。そこからきちんとレーベルという組織体を立ち上げて、発信を始めたという経緯になります。



福田憲弘

――BNGMがゲーム音楽を扱う上で特に重要視されている点、あるいは独自の強みはどのような点にあるとお考えでしょうか。

福田: ゲーム音楽は色々とジャンルの幅が広いのですが、BNGMが扱っている楽曲でいうと、『パックマン』サウンドに代表されるような8bitサウンド、いわゆる電子音から歴史が始まっています。

その後、PCM音源のような形になったり、生音を入れられるようになったりして、約45年の間にゲーム音楽の歴史は非常に厚みが増したと思います。ですから、その辺りの歴史と共に、ゲーム音楽の魅力を感じてもらえる発信の仕方は常に考えているところですね。

加えて、強みとしては「運用可能なゲームIPの訴求力」にあると思います。知名度が高く、世界で通用するゲーム作品の音楽を、BNGMを通して伝えていけるということですね。

金子夏子:確かに、保有IPやタイトルの多さはうちの強みかなと思います。少し雑多な感じではあるんですけれども(笑)。業務用・家庭用・スマホ向けと非常に幅広いプラットフォームでタイトルを展開しており、ジャンルもアクションやRPG、シューティング、リズムゲームなど本当に多岐にわたります。まだ世に出せていない音源もたくさんあり、”“カタログの多さ”というのは強みだと自負しています。


――BNGMの公式サイトには、3,600曲以上の楽曲を抱えていると記載されています。まさしく、ゲームの歴史を体現しているように感じました。

福田: 実は公式サイトの記載内容はアップデートされているんです。まだまだ継続途中ですが、2025年11月時点で6,000曲以上のところまで来ています。具体的に言うと、『パックマン』のような往年の名作がある一方で、『鉄拳』シリーズや『テイルズ オブ』シリーズ、『エースコンバット』シリーズなど、ジャンルを問わず幅広く扱っています。それが結果として、ゲーム音楽のバラエティにも繋がっているのかもしれないですね。

――近年、ストリーミングサイトや動画プラットフォームを通して、ゲーム音楽が世界中で聴かれている傾向にあります。BNGMの楽曲で、特に国内外のリスナーから反響が大きいタイトルや傾向があれば教えていただけますか?

福田:海外のストリーミング再生回数だけで見ていくと、やはり海外比率が高いですね。グローバル市場における売上に割と比例していくのかなと思っています。

これはレコード会社にいた頃の経験なのですが、アーティストを売り出す時に、海外でヒットさせたいと考えても、簡単ではありませんでした。その点ゲーム音楽は、作品が世界中で売れている場合、コミュニティに浸透するのが早いんですよね。

昨今はストリーミングサービスが普及していますし、音楽が国境を超えやすい状態にあると感じていて。なおのこと、ゲーム音楽は今の時代にマッチしていると思います。


金子夏子

――配信プラットフォームに登録できれば、世界中の色々な方に楽曲を聴いてもらうことができます。ある意味で、ゲーム音楽はデジタル資産と捉えることもできそうですね。

福田:そうですね。配信を全くやってこなかったところから、今のように6,000曲をラインナップできる段階まで持ってくることができた。「ゲーム音楽の配信事業で、ここまで収益が出せるのか」というふうに一定数認めてもらえているのかなとは思います。その点で、0からのスタートだったこの取り組みにおいては、ディストリビューションの立場でNexToneさんが伴奏してくださったことが、今のBNGMを作っていると思いますので、大変感謝しています。


――日本のゲーム音楽が、国内および海外のリスナーに受け入れられている要因はどこにあるとお考えでしょうか。

福田:やはり、「言語に依存しない」というのが大きな要因ではないでしょうか。その歴史を紐解くと、細野晴臣さんや砂原良徳さん、KIRINJIの堀込高樹さんなど、ゲーム音楽へのリスペクトが活動の基盤にあるアーティストは少なくありません。その点で言うと、ゲーム音楽はあらゆるミュージシャンのルーツになっているのだろうな、と個人的に感じています。

また、ゲーム音楽はクラシックミュージック的な魅力も大きいと思っています。ゲームの中で流れる音楽ということで、お客さん(プレイヤー)と楽曲の接触時間が長くなるはずです。それは各々の記憶に染み込むものなので、ゲーム音楽が思い出の一つになっている。アーティストの楽曲を繰り返し聴くのと同じような価値が、ゲーム音楽にもあるのでは、と思います。


「Bandai Namco Game Music」とは?


ゲームミュージックを中心に、世界にその魅力を届けるバンダイナムコエンターテインメント発のサウンドレーベル。

『パックマン』、『鉄拳』、『太鼓の達人』、『エースコンバット』、『テイルズ オブ』シリーズなどの自社発のIPに加え、「ELDEN RING」をはじめとした、協業先やグループ会社等と共に創出する様々なゲーム・サービス群のBGMを中心に順次配信予定。

世界中のミュージシャンにも影響を与えた8bitサウンドから、現代のRPGゲームでは採用されることも多いフルオーケストラ録音による生サウンドまで、総曲数6,000曲以上のゲームミュージックを保有。

ゲームの枠を超えた、IP・楽曲・企画プロデュースを行っている既存のサウンドレーベル「ASOBINOTES」と連携し、ゲームミュージックの更なる拡大を目指す。


NexToneデジタルディストリビューションと、NexTone Game Music Academy


2003年よりディストリビューション事業を開始。800以上のレーベルから130万曲を超える日本コンテンツを預かり、著作権管理事業とあわせてグローバルで益々存在感を高めている。音楽配信流通のみならず、マーケティング・広告、メタデータ整備など、きめ細やかなサービスが特徴のディストリビューター。

NexToneは、20年を超えるディストリビューション事業と著作権管理事業の両側面において、ゲーム音楽の発展に貢献してきた実績を背景に、2025年9月に「NexTone Game Music Academy」を発足。以下の2点を主な目的として、様々な活動を展開している。

① 日本の「ゲーム音楽」をグローバル視点でワールドワイドに広めていくこと。

② オンリーワン・エージェントとしてゲームシーンにおいて貢献を果たすこと。


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  1. ゲーム音楽を届ける側から生み出す側へ。制作への深い関与
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ゲーム音楽を届ける側から生み出す側へ。制作への深い関与

――ゲーム音楽は、ただゲームの世界観を彩るだけでなく、それ自体が独立した音楽コンテンツとして確立されつつあります。この流れをBNGMはどのように捉え、今後、どのようなメディアミックスやライブ展開の可能性を考えていますか?

福田:ゲーム音楽がコンテンツとしても独立し、楽曲が一人歩きしていってくれるというのは、やはりレーベルとして目指すところです。とはいえ、BGM的なサウンドであるものの方が多いですし、この先、グローバルチャートを席巻するようなコンテンツにまで行けるか、未知数な部分もあります。

逆に野望としては、本当の意味で「グローバルチャートのトップ10に入ってくるような音楽」を、世に送り出せるといいかなと考えています。そうなるとBGM的なサウンドだけではなく、例えば直近の『ワンス・アポン・ア・塊魂』のように、歌唱がふんだんに入っているゲームサウンドが突破口を開く鍵になるかもしれません。そういったボーカルのある楽曲を上手く駆使しながら各作品の海外シェアも見つつ、ゲーム音楽でグローバルチャートのトップ10入りを目指したいと考えています。



――世界的な大ヒットやグローバルシェアの獲得という部分では、やはり歌唱曲が大前提になるのでしょうか。

福田:日頃からSpotifyなどで世界中のトップチャートを聞いていますが、やはり今のところは歌唱曲が多いですね。ゲーム音楽のインスト楽曲をトップに入れ込むのは簡単ではないと思っています。

ただ、最近は邦楽のようなカラオケで歌う歌唱曲よりも、ヒップホップでも何でも、イージーリスニングな感じで聴き心地のいいサウンドが上位に来ている傾向もあります。そうなった時には、歌唱曲ではないものでも、普段使いできるサウンドという意味で、”“日常に溶け込むようなゲーム音楽”は逆転できる可能性があるのかなと。BNGMとしても、市場のニーズを捉えながら、現実を見据えて狙える時は狙っていく、というスタンスです。

金子:BNGMは、ゲーム制作の初期段階から開発チームと連携しているため、作品コンセプトを踏まえた音楽制作のサポートもしています。作家様のケアや契約処理などの著作権対応に加え、完成した楽曲の音楽商材化やイベント事業への展開まで、音楽に関わる業務を“360度”包括的に担っています。

楽曲を生み出すコンポーザーを尊敬しているからこそ、ジャンルを問わず作ったものは全部世に出してあげたいなと思っています。ゲーム内の収録楽曲として終わるのではなく、もっと日の目に浴びさせたいという強い気持ちで、チームで力を合わせて6,000曲以上のゲーム音楽を配信まで持っていきました。

福田:我々の強みは、ゲーム会社の中にレーベルがあり、音楽出版管理を行っている、という体制の密度にあります。クリエイターの人方たちも、「自分が作った楽曲をたくさんの人に聴いてもらいたい」という思いはあると思うので、そこを助けてあげるのが僕らの役目だと思っています。


――ゲーム音楽の配信という名目だけでなく、サウンドを生み出すクリエイターを助けたいという真摯な熱意が伝わってきました。

福田:ゲーム音楽を内製で作っている部分が大きいからこそ、BNGMはレーベルとして、制作と連携しながら動くことができています。逆に、世界を本気で席巻していくとなったら、今度は「作る」の部分にもより深く入り込んでいく、いわゆる第2フェーズになっていくのかもしれません。


――「届ける」から、今度はゲーム音楽そのものを生み出す側へ回っていくという認識でしょうか。

福田:そうなりますね。今までは、出来上がっているサウンドを世に送り出すのがミッションでした。次のフェーズ2では、僕らが制作のところにも良い影響を及ぼし、クリエイターの色を出してあげて、メロディラインも含めて世界で通用するようなサウンドを、ゲームに組み込みつつ市場へ届ける。そこが次の段階かもしれないな、と思いました。


――12月10日には、【GAME MUSIC CROSSING TOKYO】開催が予定されています。このライブイベントに対する意気込みや期待のメッセージをお願いします。

福田:我々の根っこには、ゲーム音楽自体の底上げをしたい、ゲーム音楽を主役にしたいというテーマがあります。その点を踏まえて今回のDJイベントは、ゲーム音楽の魅力を発信する非常に重要な機会だと捉えています。というのもDJとゲーム音楽の相性は抜群で、ノンバーバルに、感じて踊れる曲がゲーム音楽にはたくさんあるからです。

ゲーム会社の垣根を越えた発信場というのは、意外と今までありませんでした。今回のイベントが、ゲーム音楽自体がよりワンランク上のところに行けるようなきっかけ、一つの礎(いしずえ)となることを願っています。

金子: 素直にイベントが実現できてとても嬉しいですね。大画面でゲーム映像を見ながら、迫力あるサウンドでゲームミュージックを聴くだけで楽しい。さらに今回は、色々なメーカーのゲームミュージックを一度に聞ける場が実現できました。だからこそ、今回だけではなくこのイベントを継続し、ゲームミュージックの地位を高めていきたいという思いがあります。イベントに来て、素敵な音楽を知って、帰ってからもからも配信プラットフォームで聴いてくれる、というサイクルを広げたいですね。


――では最後に、今後の新たな取り組みや、BNGMとして目指す具体的な展望についてお聞かせください。

金子:現在6,000曲を配信していますが、埋もれているゲーム音楽はまだまだ数え切れないほどあるのが現状です。数千曲はまだ出せますし、何より純粋に世に送り出してあげたい。そして、ゲームミュージックをサブジャンルではなく、もっと多くの人々人たちが楽しめるようなメインジャンルに押し上げたいです。そのためにも、コンポーザーとの連携をはじめ、キャッチーな曲作りも今後も進めていきます。

福田:活用できていない過去のゲーム音楽をしっかりと見直すこと。そして先ほども述べた通り、ゲーム音楽が独り立ちし、主人公としてメジャーシーンに届くような存在にしていくことが、次の大事なアクションだと考えています。日本発のゲーム音楽が、世界中の人方たちに愛されている。この状況を誇りに思いますし、その母数をさらに増やしていくことを具体的に目指していきます。


「Bandai Namco Game Music」とは?


ゲームミュージックを中心に、世界にその魅力を届けるバンダイナムコエンターテインメント発のサウンドレーベル。

『パックマン』、『鉄拳』、『太鼓の達人』、『エースコンバット』、『テイルズ オブ』シリーズなどの自社発のIPに加え、「ELDEN RING」をはじめとした、協業先やグループ会社等と共に創出する様々なゲーム・サービス群のBGMを中心に順次配信予定。

世界中のミュージシャンにも影響を与えた8bitサウンドから、現代のRPGゲームでは採用されることも多いフルオーケストラ録音による生サウンドまで、総曲数6,000曲以上のゲームミュージックを保有。

ゲームの枠を超えた、IP・楽曲・企画プロデュースを行っている既存のサウンドレーベル「ASOBINOTES」と連携し、ゲームミュージックの更なる拡大を目指す。


NexToneデジタルディストリビューションと、NexTone Game Music Academy


2003年よりディストリビューション事業を開始。800以上のレーベルから130万曲を超える日本コンテンツを預かり、著作権管理事業とあわせてグローバルで益々存在感を高めている。音楽配信流通のみならず、マーケティング・広告、メタデータ整備など、きめ細やかなサービスが特徴のディストリビューター。

NexToneは、20年を超えるディストリビューション事業と著作権管理事業の両側面において、ゲーム音楽の発展に貢献してきた実績を背景に、2025年9月に「NexTone Game Music Academy」を発足。以下の2点を主な目的として、様々な活動を展開している。

① 日本の「ゲーム音楽」をグローバル視点でワールドワイドに広めていくこと。

② オンリーワン・エージェントとしてゲームシーンにおいて貢献を果たすこと。


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