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<インタビュー>蓮の花は泥水の中でこそ育つ――22歳の新星、Vuatが1stアルバム『Dawn』に刻んだ傷跡と野心

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Interview & Text:柴那典

 巨大なポテンシャルを持ったニューカマーの登場だ。

 Vuatと書いて「ブア」と読む。現在22歳の男性シンガー・ソングライター。その魅力はドラマティックなソング・ライティングの才能にある。彼が紡ぐのは、居場所のなさと孤独を抱えた繊細な心情。それが美しく雄大なメロディと、澄み渡る歌声に乗って放たれる。

 12月3日にデビュー・アルバム『Dawn』がリリースされた。傷跡を意味する「ケロイド」など、収録曲には切実な響きが宿っている。ピアノ弾き語りからバンドサウンドまで幅広いアレンジ、アートワークも自ら手掛けるマルチ・アーティストとしてのスタンスにも、今の時代ならではのクリエイティビティの“冴え”を感じる。

 Vuatとは何者か。初のインタビューを試みた。

やっと自分の活動の花を咲かせられる

――まずはVuatというアーティスト名について聞かせてください。タイ語で“蓮”という意味とのことですが、この言葉を自分の名前に選んだ由来は?

Vuat:本名に“蓮”という言葉が入っているということ、自分がタイと日本のハーフであることが由来です。タイの文化の中でも蓮の花はシンボルのひとつですし、この言葉がいいんじゃないかとチームで話し合って決めました。

――蓮の花は自分にとって馴染みのある存在だった?

Vuat:蓮の花は泥水の中でこそ育つんです。水が汚れていればいるほど、美しく花開く。そのあり方が素敵だなと思って。僕自身も泥水のようなところで音楽をずっとやってきて、これからメインストリームで頑張っていく。その姿を重ね合わせました。

――泥水のような環境にいたという感覚があったんですね。

Vuat:そうですね。上京して4年ぐらい経つんですけど、最初は全然うまくいかなくて。自信はあったけど、目指す場所には足りないことばかりだった。それを逆算して、やることをやってきた。Vuatとして活動できるまではほぼそんな時間でした。下積みというか、泥水を吸って、やっと自分の活動の花を咲かせられるという感じです。




――4年前に上京したときにはもう音楽活動を始めようと思っていたんですよね。どういうビジョンがあったんでしょうか?

Vuat:当時はもうTikTokが流行っていて、TikTokから出てくるアーティストが多かったんですけど、自分はそういうタイプではないなと思っていました。音楽をやるからには一流の音楽家になりたいし、具体的な計画はなかったけど自分に足りないところがあるのは分かっていたので、順番にそれを磨いてきました。最初は歌唱を、次は作曲や編曲を、という感じですね。

――ここ数年はSNSをきっかけに世に出るのが簡単になった時代じゃないですか。でも、その道を選ぶのは違うという感じがあった。

Vuat:昔から簡単な道を選ぶのは好きじゃないんです。僕もそれなりにバズった経験はあるので、ただバズることだけを考えるのは簡単で。でも、それでは自分の理想とするアーティスト像には届かない。だから、ちゃんと一流になれる道を選んできました。

――そもそもの音楽との出会いというのはどんな感じでしたか?

Vuat:実家にピアノやギターが置いてある家だったので、物心ついた頃からずっと楽器を触っていました。ピアノを弾き始めたのは4歳ぐらいからです。何かのきっかけで音楽が好きになったわけではなく、ずっと好きでした。家族も音楽が好きで、父親も若い頃に音楽活動をしていたようで、趣味として家でピアノやギターを弾いていた。そこから自分も自然と音楽に触れるようになりました。

――家で流れていた音楽ではなく、あくまで自分で選んで出会った曲やアーティストはどのあたりでしょう?

Vuat:初めていいなと思ったのはエド・シーランでした。彼がアコギ1本でライブをやっているところに「すごいな」と思いました。日本のアーティストだと高校生ぐらいに聴いたVaundyですね。ただ、特定のアーティストのファンになるということはあまりなかったです。曲単体で「これはいいな」という感じで聴いてました。憧れというのもあまりなくて、その人の生き方、音楽の表現の仕方をリスペクトしている感じです。




Ed Sheeran - Bad Habits (Live from the Mathematics Tour 2024)


――いろんなジャンルの音楽をたくさん聴いてきたということですよね。そのなかで、どういうタイプの楽曲が好きになってましたか?

Vuat:好きになる曲にジャンルは全く関係なかったです。ラップでもダンス・ミュージックでもJ-POPでも、メロディが良ければ聴いていました。大衆性がある音楽が自然と好きになったと同時に、魅力的に感じるのは、ほかと違うことをしている音楽ですね。曲展開においても、オーソドックスな構成を使わないアーティスト、常に新しいことにチャレンジしている人が好きです。

――Vuatさんがアーティストとして音楽活動を始めようと思ったきっかけはどのようなものでしたか?

Vuat:幼い頃から音楽しかなかったんです。運動もやっていたんですけど、音楽と運動以外は全然できなかった。スポーツでは中学生まで空手をやっていて、高校から推薦の話が来るくらいにはなりました。ただ、中学を卒業する頃には「音楽で生きていきたい」と決めて、空手の話も全部断りました。高校も行かなくてもいいかと思っていたんですけど、親とも話し合って一応高校には入って。でも、高校2年生からは不登校になり、そこからはずっと音楽でした。誰かを見てとか、誰かに憧れてというよりは、ただ音楽をやりたいという思いがありました。

――今の時代、音楽活動をやるにあたってもいろんな選択肢があるじゃないですか。バンドもあるし、ラップやトラックメーカーもある、ボカロやネット・クリエーターもあるし、ダンス&ボーカルグループのオーディションもある。Vuatさんがシンガー・ソングライターでありマルチ・クリエーターの道を選んだのはなぜですか?

Vuat:物を創ることが好きだったんですよね。音楽に限らず、絵を描いたり、0から1を作る工程が好きで。それが音楽になったという感じです。作品を評価してもらうのが自分の一番幸せなことだから音楽をやっている。単に人前で歌いたいというより、自分の思いや考えを込めた作品を評価してもらうのが自分にとって一番幸せなことで、だから音楽をやっているという感じです。

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メインストリームを行く音楽家になりたい

――アルバム『Dawn』の制作は、どういうイメージから始まりましたか?

Vuat:この22年間生きてきて経験したことを全て出し切るという思いでアルバムを作りました。

――収録曲で最初にできた曲は?

Vuat:最初は「Whereabouts」ですね。

――「Whereabouts」は居場所のなさや不全感を歌った曲ですが、これが今作のコアになっている。

Vuat:そうですね。2年前くらいに作った曲なんですけど、今思うと、そのときだから出来た曲だと思います。その頃はしんどかった記憶があります。上京してきて、意気込みはあるものの、音楽だけじゃ生活できないし、結果的にバイトのほうが多いみたいな感じになって。「何しに上京してきたんだろう」と思うような時期でした。で、たまたまピアノを弾いていたらメロディと言葉が出てきて、「これは曲にしたほうがいいかもな」という経緯で生まれた曲です。

――そのときの自分の感触は、今も大切に持っているものですか?

Vuat:そうですね。「Whereabouts」があるとないとでは違うとは思います。

――「18」にも「Whereabouts」に通じ合うようなモチーフがありますよね。「何かを奪われた」という感覚が歌になっている。これはどういう由来なんでしょうか?

Vuat:「18」は「Whereabouts」を作ってから1年後くらいにできた曲でした。たまたま音楽の後輩と自然についての話をしたことからできた曲なんです。いつも通る道に立っている綺麗な木が突然切り倒されていたのを見て、まるで自分のようで悲しい感じがするんだよねという話をしたことがあって。僕の幼い頃にも似たシチュエーションがあったんです。実家は田舎で、庭に何本も木があったんですけど、小学生の頃、ある日学校から帰ってきたらそれが切り倒されていて。それを思い出して、歌詞にしたいと思ったんです。そこから自分が18歳だった頃や世間一般の18歳という時期をイメージして作りました。

―― 「18」はピアノのバラードですが、「Rain Man」はロックバンドのサウンドですよね。そのロック感はどういう由来なんでしょうか? メロディや曲のコアにふさわしいサウンドを選んでいるということでしょうか?

Vuat:今思い返すと、0から1の段階で、階段を一段登る瞬間みたいなものがそれぞれにあるんです。例えば「Whereabouts」だと、別に曲を作るつもりはないけどピアノを弾いていて出てきたメロディがあった。「Rain Man」は、それがたまたまエレキギターを持っている瞬間でした。階段を一段登れたときに「これいけるかも」みたいな感じで曲を作っていくので、それだと思います。「Rain Man」はピアノって発想がなかったですね。

――「ケロイド」に関してはどうですか?

Vuat:「ケロイド」はストリングスだったんですよね。ストリングスからイメージを固めて、それに合うウッドベースで曲の骨子を制作していきました。

――「ケロイド」は後半でオアシス的な雄大なメロディに至ったり、熱いギターソロが入ってきたりしますよね。そういう曲の中で光景が変わっていくような展開を作る意識が、Vuatさんのクリエイティブにとっては大事なポイントなのではないかと思います。

Vuat:うれしいですね。その通りです。曲によって違うんですけど、同じことをしないという思いはどの曲にもあります。2番でそのまま同じトラックを使うとかはあまりしないですね。




Vuat - ケロイド(Official Music Video)


――「ケロイド」のタイトルにある傷跡とはどういう象徴ですか?

Vuat:僕は傷跡が結構多くて。ケロイドになっているものもあるんです。でも、その傷を見ると、幼い頃のものでもそのときのシチュエーションを鮮明に思い出せる。それだけ濃く記憶に残っているって、当たり前のことではないなと思って。目に見える傷跡じゃなくても、記憶に濃く残っているものがある。そういうことを「ケロイド」として曲に書きたいと思いました。

――スタート地点にこの曲があるのは大事なことかもしれませんね。

Vuat:そうですね。反応がすごく良かったので、いい感じでした。

――「AloneなBaby」はウクレレを活かしたサーフ・ミュージックっぽいサウンド感ですが、これはどんなイメージから作っていましたか?

Vuat:最初はアコギで作っていたんですけど、作っているなかでちょっと違うなと思って。たまたまウクレレで弾いてみたらバチっとハマった。その時点で曲の世界観も出てきました。あのトラックだからあの歌詞やメロディが出てきたのかなと思います。

――「アルビレオ」は恋愛ともとれる二人の関係を天体をモチーフに描いた曲ですよね。この曲はどんなきっかけで?

Vuat:これも音楽の後輩と話していて、そのなかでアルビレオの話をしたことがきっかけなんです。白鳥座にアルビレオという星があって、肉眼だと一つの星にしか見えないけど、望遠鏡で覗くと二つの星が見えると知って。このモチーフで曲を作ろうと思ってできた曲です。これは自分の実体験というより、映画監督のような感覚で作った曲ですね。

――アルバムタイトルの『Dawn』はどういう象徴の言葉になりましたか?

Vuat:僕のありのままを表す言葉だと思います。夜明け、今から日を浴びていくということなので、最初のアルバムの名前として相応しいものになったと思います。

――この先、どういう道を歩んでいきたい、どういう存在になっていきたいという思いがありますか?

Vuat:トップを走るような音楽家になりたいと思っています。やるからにはやっぱり1番がいいと思って生きてきたので。メインストリームを行く音楽家になりたいですね。歌が上手いとかだけでなく、本当に音楽家として評価されるような人にはなりたいです。

――やってみたいこと、見てみたい景色は?

Vuat:「僕が歌わなかったら、この曲がどう響くか」という興味もあります。曲には自信があるので、例えば女性ボーカリストに提供してみるのも面白いかもしれない。でも、まずは自分自身で証明したいです。日本でライブができない会場はない、と言える存在になりたいですね。それが僕の思う一流のアーティストだと思います。

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