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<インタビュー>石丸幹二が届けた歌の祝祭をもう一度 表現者人生の結晶『ORCHESTRA CONCERT 2025』

インタビューバナー

Text & Interview: 田中久勝
Photos: Masanori Naruse / Sony Music Labels Inc.

 デビュー35周年を迎えた石丸幹二が2025年に全国6都市(7公演)を巡ったオーケストラ・コンサートの最終公演、8月14日の東京・サントリーホールでの熱演を収めたライブアルバム『ORCHESTRA CONCERT 2025』が、11月26日にリリースされる。これまでの音楽人生を凝縮させたようなセットリストで臨み、その思いをマエストロ・円光寺雅彦と東京フィルハーモニー交響楽団が受け止め、素晴らしい演奏と歌が響き合い、大きな感動が生まれた。

 ゲストに石川禅、今井清隆、坂元健児、井上芳雄という日本を代表するミュージカル俳優が登場した、祝祭のようなコンサートの一部始終をパッケージ。まさに記念碑的な作品になった。石丸にインタビューし、このライブ盤について、そして60歳を迎えた境地を聞かせてもらった。

──サントリーホールのコンサート翌日が60歳の誕生日ということで、ステージでみなさんからお祝いされていましたが、改めて、還暦という節目をどんな思いで迎えられましたか。

石丸幹二:正直、60という数字に見合っていないぞ、という焦りがありました。若い頃、私がイメージしていた60歳はもっと大人だった気がするんです。今、体力はありがたいことにまだまだあるし、色々とやり続けているのですが、まだそこには至っていないんじゃないかと。ただ、振り返ることで、自分の人生を見つめ直す絶好のタイミングになったと感じています。

──そんな節目の年に、しかも誕生日の前日にサントリーホールでのコンサートが実現しました。

石丸:本当に偶然ですが、必然でもあったと思うようにしています。60歳の誕生日の前日に、サントリーホールというなかなか立てないホールでのステージ。これはみなさんのお力添えがあって実現できたことですが、自分の今を示す最高のタイミングでした。このコンサートを通じて、もし次にアルバムを出せる機会があるなら、より精度の高い、自分としての到達点だと思えるところにもう一度挑戦したいという思いが芽生えました。

──これまでにもライブ盤をリリースされていますが、ライブアルバムの意義をどう感じていますか。

石丸:スタジオ録音盤と比べると、違う勢いがあります。ライブはいい意味でも悪い意味でも想定を必ず超えるんです。これはミュージカルの舞台でパフォーマンスしているときと共通しているところがあって、ミュージカル曲は、スタジオよりライブで歌っているもののほうが、より実際の舞台を思い起こさせるんです。(作品を)ご覧になってない方には生々しく感じられるかもしれませんが、その生々しさこそが現場の空気を伝えてくれるのだと思います。取り繕っていないというか、それがライブの魅力だし、ライブ盤で感じていただきたい部分です。

──何度も経験されていますが、60人を超えるフルオーケストラをバックに歌うことについて、どんな感覚で臨まれていますか。

石丸:私は元々楽器をやっていたので、オーケストラの音を背負うというよりは、一緒に走るという感覚です。60~70人いるプレイヤーの中の一人のつもりで、かつ今回はコンサートマスターと共に走るような感覚でした。その中でオーケストラと駆け引きを楽しむんです。パフォーマンスしながら僕がちょっと仕掛けるとオーケストラの方々も「そうきたか」という反応で返してくれる。それがおもしろい。

──指揮の円光寺雅彦さんとは、もう長いお付き合いですね。

石丸:円光寺先生は私より10歳上の大先輩で偉大なマエストロです。「君のお抱え指揮者」なんてジョークでおっしゃってくれますが(笑)、日本中のオーケストラを指揮されていて、全国どのオーケストラにも繋がりがある。だからこそ、どこに行ってもある水準以上の表現ができるんです。今回のツアーもそうでした。さらに今回、全公演を一緒に走ってくれた奏者たちがいました。ピアニストとドラムとハープの3人です。鍵盤、リズムセクション、ハープが固定メンバーで安定していると芯ができるんです。円光寺先生とこのメンバーのおかげで、どの公演もあまり“ぶれる”ことはありませんでした。

──今回のセットリストは、どのように組み立てられたのでしょうか。

石丸:やり続けなければいけない曲と、新しく入れたい曲がせめぎ合いました。デビュー35周年の記念なので劇団四季時代の曲も入れるべきだと思って選曲したのは、「恋のさだめは」(『ラヴ・ チェンジズ・エヴリシング』、『アスペクツ オブ ラブ-恋は劇薬-』より)。20代半ばから40代初めまで過ごした劇団四季時代をほぼこの作品と共に歩んできたという思いがある、戦友のような存在です。初心忘るべからずといつも思わせてくれる、私にとって非常に大事な指針になっている曲なんです。

──1曲目からいきなりフランク・ワイルドホーン作「あなたはそこに」(『スカーレット・ピンパーネル』より)という力強い曲で幕を開けますね。思いがじりじり募っていって最後に爆発して、その世界に引き込まれます。

石丸:コンサートの世界にグッと入り込んでもらうという意味では、1曲目って本当に大事だと思います。それと最初の曲でその日のコンサートの調子がつかめます。喉を開くというか。今回は大きなエネルギーを必要とする曲を選びました(笑)。


──「普通の人間」も印象的でした。オリジナルとは全く違う表情になっていますね。

石丸:ミュージカル『壁抜け男』では3人のミュージシャンとのセッションでした。それをオーケストラで演奏すると、アレンジでこんなに変わるんだと私も驚きました。

──井上芳雄さんと共演した舞台から、「Wheels of a Dream」(『ラグタイム』)と「闇が広がる」(『エリザベート』)も収録されています。井上さんとのデュエットはいかがでしたか?

石丸:実は彼と舞台で共演したのは『ラグタイム』(2023)の一回だけなんです。でも大学(東京藝大)の後輩であり、嬉しいことに、私のことをすごく慕ってくれ、いつもゲストとして来てくださっています。彼はミュージカルというジャンルを世の中にもっと浸透させたいという強い思いを持っていて、今や、彼も40代半ばになり、ミュージカル界を牽引しているキーマンです。その姿勢には共感しますし、尊敬もしています。

──「Wheels of a Dream」は、『ラグタイム』で井上さんと遥海さんが歌われる曲ですね。

石丸:そうですね。作品の設定上、私は井上くん演じるコールハウス・ウォーカーJr.と、遥海さん演じる婚約者・サラの息子を、彼らが他界したのちに引き受けて育てていきます。ということは、私は息子のおじさんとして歌っても成立するのではないかと考えました(笑)。

──声の質が全く違うお二人のデュエットに引き込まれます。「闇が広がる」はお二人にとって特別な曲ですよね。

石丸:そうなんです、舞台共演は少ないのに、「闇が広がる」はよく一緒に歌っていますね(笑)。私も昔、『エリザベート』でトート役を演じ、彼もルドルフ役を経て、今、トートを演じています。お互い、役を知り尽くしているからこそ、それぞれの表現をぶつけ合える。私の表現に彼がもっと磨きをかけて挑んでくれたりと、私たちならではの表現ができていると思います。一緒に歌いながら、違う楽器同士がハマっているような感じがするんですよね。

──「昴 -すばる-」や「Stand Alone」(ドラマ『坂の上の雲』より)といった、ミュージカル以外の曲も印象的です。

石丸:「昴」は大好きな曲で、谷村新司さんの歌い方を映像や音源を通してすごく研究しました。オーケストラでは朗々と歌い上げないほうがいいと思いました。歌詞が描く世界観を噛み締めながら、宇宙の中での一個人、“点”として歌う気持ちで臨みました。私は長野県のまつもと市民芸術館の芸術監督団の一員として活動しているのですが、「Stand Alone」は、現地にある障害がある方たちの楽団のみなさんと共演をした際、「この曲を歌ってほしい」と提案された曲なんです。

──久石譲さんが作曲した、サラ・ブライトマンをはじめ、女性が歌ってきた曲ですよね。

石丸:そうなんです。女性のために書かれている曲でしたが、ミュージカル唱法ではない方法で歌えると思って挑戦しました。久石さんはオーケストラ・アレンジもなさっていて、これからもどんどん歌唱していきたいと思える曲との出逢いとなりました。


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もっともっとその先の石丸幹二を観て、聞いてもらえるように精進していきたい

──石川禅さん、今井清隆さん、坂元健児さんの“おっさんず”との共演も圧巻でした。

石丸:オーケストラ・コンサートでの彼らとの共演は毎回刺激的ですね。本当にバズーカのような破壊力のある声を持っている人たちなんです(笑)。そんな彼らの真骨頂を発揮してもらえる曲を選びましたし、私の声とは声質も異なる3人と歌唱することで、ミュージカルの幅広さも感じてもらえると思いました。

──「時が来た」(『ジキル&ハイド』)も石丸さんのライフワークといえる楽曲のひとつですね。

石丸:『ジキル&ハイド』は、私のミュージカル人生の中でも大きなポイントになってます。作品自体への出演は、次世代の俳優に託し、すでに卒業しましたが、だからこそ「時が来た」という曲は、ひとつの節目を象徴する曲になっているんです。20年前にこの曲を初めて歌ったとき、あまりに難解で、実はうまく歌えなかったんです。歌いこなすのに何年もかかりましたね。

──ダイナミクスと緩急のコントロールで出来上がる世界観に引き込まれます。

石丸:ペース配分も必要だし、ベルティング(強い声量を保ちながら高音域を力強く響かせる発声)もあって最後にギアをどんどん上げていく曲なんです。だから正攻法で歌おうとすると、自身の中で駆け引きをしないと歌い切れないナンバーです。

──「マイ・ウェイ」も歌い続けてきたナンバーです。

石丸:年齢を重ねていくにつれ、自分自身の歌に対する思いも変わってきています。スタッフの話によると、どの会場でも、年齢限らず、女性客よりも男性客のほうが、この曲にすごく反応してくださっているそうです。

──やはり人生を振り返るような曲ですし、年齢を重ねたほうが色々と感じるものがあるのかもしれません。

石丸:人生の中で過去を振り返るつど、「いいことをやってきたよね」と、来し方を肯定してくれる人生の応援歌。私も年を重ねるにつれ歌い方はきっと変わっていると思います。

──「僕の願い」(ディズニーアニメ『ノートルダムの鐘』)は、石丸さんの吹替え初作品でもありますね。

石丸:30代になったばかりの頃でしたね。吹替えは初めての経験で、単に声をあてる作業ではなく、心の動きを声にすることを学んだ、忘れられない作品です。この楽曲は、個人的にも思い入れのある曲ですので、チャレンジすることへの純粋な心を失わない限りは歌い続けられると思っています。

──アンコールの「今この時」は、ゲスト全員でのパフォーマンスになりました。

石丸:これも人生賛歌ですよね。客席を見渡すと一緒に歌ってくださっている方が多くて、それが嬉しかったです。人間の声は本当に色々な音色を持っています。会場全体で、ミュージカルというジャンルを超えた表現ができたと思います。

──配信限定のボーナストラックとして「ふるさとの赤い丘」も収録されています。

石丸:“おっさんず”と私が共演した『パレード』というミュージカル作品の曲で、本当に一人ひとりの個性が際立つ楽曲です。ぜひ石川さん、今井さん、坂元さんの声を楽しんでいただければ嬉しいですね。

──それにしても、オーケストラ・コンサートにしては曲数が多い印象を受けました。

石丸:確かにオーケストラ・コンサートでこの曲数は多いかもしれませんね。メドレーをやらず、MCも少なくして、できるだけたくさんの楽曲を聞いてもらおうと構成しました。もうちょっと年を取ったら「こんなに歌えないよ」って悲鳴を上げるかもしれませんね(笑)。でも、今回やってみて、やはりライフワークとしてオーケストラ・コンサートは続けていきたいという思いが強くなりました。


──このアルバム聞きどころ、楽しみ方を改めて教えてください。

石丸:「次は何を歌うんだろう」と思ってもらえるような曲順になっていますので、ぜひ1曲目から順々に続けて聞いていただければと思います。私自身の信条として、言葉を大切に歌うことを心がけています。だから、実際にご覧になっていない作品でも、セリフから感情が高まって歌になるというミュージカルの本質を味わっていただけるんじゃないかなと思いますし、初めて触れる歌詞についても、「こういう話ってミュージカルで描かれるんだ」と発見してもらえるかもしれない。そういう反応も、私には嬉しいことです。

──最後に、これからの展望をお聞かせください。

石丸:毎年がチャレンジです。今とは違う、もっともっとその先の石丸幹二を観て、聞いてもらえるように精進していきたい。そして「昴 -すばる-」や「Stand Alone」のような、ミュージカルではないけれど心に響くナンバーを、これからもライフワークとして歌い続けたいと思っています。シンガーとしての側面をパワーアップさせて、コンサート活動を日本各地で続けていく。それが今の目標です。来年2月15日にはBunkamuraオーチャードホールで今回のオーケストラ・コンサートのアンコール公演【ENCORE!!「KANJI ISHIMARU ORCHESTRA CONCERT 2025」】が決まっていて、“おっさんず”の3人が再び集結してくれます。ぜひ多くの方に足を運んでいただき、ミュージカルの素晴らしさ、歌の力の大きさ感じ取っていただければと願っています。

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