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<インタビュー>「Longiness」の衝撃から5年、沖縄クルー=SugLawd Familiarのヒップホップ美学とは

インタビューバナー

Text & Interview: 大野俊也
Photos: 興梠真穂

 2020年に発表した「Longiness」が総再生回数2億回以上という空前の大ヒットを記録した、沖縄出身のヒップホップクルー、SugLawd Familiar(サグラダファミリア)。OHZKEY(オハジキ)、Oichi(オイチ)、Vanity.K(バニティー ケー)、XF MENEW(エックスエフ メニュー)という4人のMCと、DJのCaster Mild(キャスターマイルド)の5人で構成されるクルーは、各メンバーがヒップホップに対する絶対的な愛をベースにしながら、そこの枠にとどまらない音楽性、各々の個性が際立つ等身大のリリックのアプローチを武器に、常に進化を続けてきた。

 10月22日にアンセムとも言えるメジャーデビュー曲「HOPE」をリリースし、11月26日にはダンスホール・レゲエ調のダンサブルな2ndシングル「DAMN」がリリースされる。これまでの活動と、メジャーデビューを機に新たに抱くこととなった夢と目標について、5人のメンバーに話を聞いた。

左から:XF MENEW、Oichi、Vanity.K、Caster Mild、OHZKEY

──メンバーのキャラを知りたいので、一人ひとりについて、本人以外のメンバーが語るという形で、キャラを教えていただけませんか? まずはXF MENEWについて。

OHZKEY:XF MENEWは、一番のお調子者じゃないですか。

Vanity.K:でも、落ちる時は落ちる。人間ぽいところがちゃんと一番出てる。

Caster Mild:ギャグセンが高い。ツッコミが上手い。

Vanity.K:あと、ラップが一番上手です。一番突き詰めるタイプだと思いますね。

Oichi:楽器みたいなラップをするんですよ。好きなビートがめちゃ渋い。

OHZKEY:言いたいことを言う前提のフロウ、ライムがめっちゃ上手いと思います。日本語と英語のバランス感も一番上手いですね。

XF MENEW:自分でもこだわりを持ってやってます。人間くさいラップマシーンって感じですかね。言いたいことがたくさんあるので、詰め込みたくなるんですよ。


XF MENEW


Caster Mild

──Caster Mildは?

XF MENEW:猫ちゃん(笑)。大らかで、本当に可愛いんですよ。DJとしては、誰よりも音が太いですね。

Vanity.K:口数は少ないですけど、アドバイスを求めた時の一言がめちゃくちゃ的を得ていて。ボソって言うんですけど、そこで道が開けることがけっこうありますね。

OHZKEY:独自のグルーヴを持ってるのがめちゃいいですね。お酒が進む空気感というか。楽しくなるとすごい踊っちゃうんですけど、疲れないグルーヴがあります。

Vanity.K:音楽を聴きながら楽しみたい人にもめちゃ伝わるし、この音だけ聴きたいってヤツも喰らわせられるし。自己主張というよりも、演出が上手なんです。

OHZKEY:その名の通り、マイルドに仕上げてくれるんですよね。

Caster Mild:自分が目立つことよりも、音を意識してますね。現場によってスタイルは変えていて、自然体で踊ってくれるように、気持ちのいい選曲をしてるつもりです。


OHZKEY

──OHZKEYは?

Vanity.K:思ってることを文字にするのが上手ですね。コンシャスなラップもいけるし、内省的なラップもいける。日本語ラップの良さである韻をおざなりにしてないし、ガンガン踏んでるようでいて、ちゃんと散りばめたライムしてて。高校の時、初めて会ったときにゴリゴリのフリースタイルしてきて、「何こいつ?」と思ったんですけど、仲良くなっていくうちに「こいつおもしろっ!」て。

Oichi:何手か先を、プライベートでも音楽でも行けるイメージがありますね。人としては、掃除ができない(笑)。

Caster Mild:DJの相談をすると、いい意見をもらえますね。

Vanity.K:みんなの考え方がこんがらがってる時に、俯瞰してちゃんと話してくれる。まとめ役と言えばまとめ役ですよね。

XF MENEW:でも、異端児であり、仙人であり、主人公。出会う人、出会う人に引導を渡していくんですよ。それで俺らも自然とついていきたくなるんです。

OHZKEY:ラップがとにかく好きで、小学4年生からずっとフリースタイルをしてますね。ラップの上手さは“見せつけるもの”じゃなくて、“滲み出すもん”をモットーにやってます。


Vanity.K

──Vanity.Kは?

Oichi:毎回新しいメロディーを持ってくる。レコーディングも一番上手い。

OHZKEY:とにかく器用ですね。「こういうアプローチもあるんだ?」っていうのを最初に出してくれる。曲もいろいろ知ってるし、引き出しがスゴくありますね。

XF MENEW:俺らが表現したくて一歩つまずくところを、こいつはズカズカ入っていくんですよ。

OHZKEY:ライブの時も一番声がデカくて、一番スタミナがあって、フィジカルが強いんですよね。ラップを始めたての頃は、一番のライマーだったんですよ。それがあったからこそ、今の柔軟なメロディーとかフロウにつながってるのかなと思います。

Vanity.K:聴きやすい中にも技術、スキルを意識してやってるし、韻にもこだわってます。ヒップホップはもちろん大好きですけど、音楽で最初に影響を受けたのがBIGBANGでした。アイドルの概念を壊してきたし、「この人たちマジで音楽をやってるわ」と思って。そこから柔軟な考えを持つようになって、好き嫌いなしに何でも聴くようになりましたね。今は正直、何でもいけます。


Oichi

──Oichiは?

Vanity.K:Oichiは自分の世界を、持ってる風じゃなくて、ちゃんと持ってる。何をやるにしろ天才肌というか、感覚的にやるんですよ。レコーディングもフリースタイルでやるし。

OHZKEY:ひと言で言えば、吟遊詩人。特に何も求めないスタンスがスゴくて。僕らは計算をして答えを導き出そうとするんですけど、その考え方すらも覆すような生み出し方をするんです。メンバーの中で一番旅が似合う男ですね。

Oichi:うれしいです。旅をしながらその土地の人と音楽をやりたいという気持ちもあります。

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──結成から半年で生まれて、大ヒットした「Longiness」には、当時のヒップホップ・シーンに対する気持ちが歌われていますが、そもそもSugLawd Familiarを始めた時は、どういうスタンスで音楽活動をやりたいと思っていました?

OHZKEY:「風穴を開けたろか」と思ってましたね。高校の時、ヒップホップはすでに流行ってたんですけど、今溢れ返ってるヒップホップはそんなにカッコよくないと思ってて。「今売れてるヤツらよりもヤバい音楽を俺らは作ってるよ」みたいな。そういう感じはありましたね。


──「Longiness」はどのように生まれたのですか? 普通に作ってできた1曲ですか?

OHZKEY:できたときは、何かヤバい曲ができたっていう感じはありました。

Vanity.K:OHZKEYにビートを聴かせてもらって、「これカッコよ!」ってなって。ビートオンリーで鳥肌が立つのは初めてでしたね。多感な時期だったので、ガンガン嫌なことも言おうと思って書いてみたら、めちゃくちゃいい曲ができたんです。

OHZKEY:大海を知らない、本当に井の中の蛙だったからこそ出せるトゲというか。今になって、その当時の自分が怖いなって思いますね。あれって、地元の先輩であろうと敵に回すわけで。当時、現場に出てなかった僕らの強みでもあったのかもしれないです(笑)。

──あの曲はどのようにして人気に火がついたのですか?

OHZKEY:僕らのライブ動画がSNSで上がって、そこから「この曲何?」ってちょっとバズって、再生回数が10万~20万ぐらい増えていったんです。それからTikTokで曲が使われるようになって。いきなり何万件もの投稿が出てきて、そこから100万、200万って伸びだしました。でも、その時は実感が湧かなかったですよ。元々は10万再生を目標にしてたので。

Vanity.K:それで、自分たちは沖縄にしかいなかったのに、県外に出てやったら知らない人たちが歌ってくれてるという状況になって。「ヒップホップ、おもしろ!」と思いましたね。

──そこからは、AwichとCHICO CARLITOが参加した「LONGINESS REMIX」、THE FIRST TAKEに『ミュージックステーション』、【POP YOURS】への出演、Awichのツアーでの客演と、どんどん大きな動きとして広がっていくわけですが、自分たちとしてはどうとらえていました?

Vanity.K:最高に楽しかったですね。

OHZKEY:AwichさんとONE OK ROCKの対バンでベルーナドームに立った時の景色は、嘘かと思いました。

Vanity.K:360度、どこを見まわしても人でパンパンなんです。

OHZKEY:VRゴーグルを付けてるのかなと思いました。歓声もゲームの効果音みたいに聞こえて。生声なんだけどSEじゃないかと思うぐらい、現実ではないと思って、喰らいましたね。

Vanity.K:「よっしゃあ!」ってなって、普通に楽しんじゃいましたね。


──結成から半年でできた曲があれだけヒットしてしまって、新しく曲を出すことに、ぶっちゃけプレッシャーみたいなものは感じなかったですか?

OHZKEY:最初は悩まなかったですね。「俺らが普段やってたことが世に出ただけだから、普段通りやればいいでしょ」と思ってたんです。それがあるとき、「普段通りって何だろう?」に変わって。それがわからなくなってきてから、プレッシャーを感じるというか、「俺らにポテンシャルがあるのかな?」と思うこともありました。

Vanity.K:最初はプレッシャーを感じてなかったんですけど、俺らをレゲエのアーティストだと思う人も出てきて、レゲエのフェスとかに呼ばれて苦労したこともありました。求められてるものとやりたいことのギャップに苦しんだ時期はありましたね。それで何回か、曲作りがストップする時もありました。

──メジャーデビューするってなった時、考え方が変わったりとか、新たな目標が生まれたりとかはしました?

Vanity.K:自分たちの音楽を広げることにフォーカスした時に、メジャーデビューはめちゃくちゃデカい話だなと思ったんです。

OHZKEY:届けることに意識を割き始めたというか。自分らの中で完結した自己満足じゃない音楽……そういうふうに方向性が変わっていきましたね。

──けっこう大きな意識の変化ですね。

Oichi:そういう話は常にしてたんです。

OHZKEY:高校生の時は、自分のことを知らない人たちの前でライブをしてカマすのがヒップホップの美学だと思っていました。自分のやりたいことを100%やればいいって信じてたところがあったんです。「Longiness」がヒットして、僕らの名前が知られるようになってきてからは、お客さんが知らない曲をやっても別に盛り上がらないし、自分のやりたいことだけをやるだけじゃダメなんだなって、痛感して。自分らが方向性を見失いかけてる時に、メジャーデビューの話をいただいたんですよ。そこから、人に届けることの重要さ、人がいてこそのアーティストというところに、意識は変わっていきましたね。

Vanity.K:初めて曲作りでリスナーのことを考えて作るようになりましたね。

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──初めてゼロからゴールまで方向性を決めて制作したとのことですが、メジャーからのリリース曲、「HOPE」と「DAMN」はどのように制作に取り組んだのですか?

OHZKEY:まず“アンセム”というのが一個ありましたね。それで、各々のアンセムだと思う曲をいろいろ持ち寄ることにして、「これがアンセムなんだ」というのをどんどん紐解いていって。その要素を取り入れて、最終的に「SugLawd Familiarのアンセムはこれだ」という楽曲を目指しました。

──ビートはどのように選びました?

OHZKEY:一緒に作っていきました。ドラムスからメロディーから、楽器から全部、1から一緒に選んで。

Vanity.K:そういう作業は初めてでしたね。ビートから話し合って作ることが今までなかったんですよ。自分たちが作りたい音を形にしてくれるArt'Teckyxさんには、本当に感謝してますね。

──ギターの音もホーンの音も入って、強い曲ですよね。

OHZKEY:僕らは「チャンピオン・サウンド」って呼んでます。入場曲みたいなイメージです。

──「HOPE」では“希望”をテーマにしていますが、4人のMCが自分自身に向けても、仲間に対しても、聴き手に向けても、“立ち上がるためのメッセージ”を歌っているんですよね。各々、どういうアプローチをしたのか聞かせてください。

XF MENEW:悩める人たちは自分と同じ考え方をしてるって勝手に解釈して、そういう人たちがどういうものを受け取りたいかを考えて書きました。自分にも向けつつ、自分と同じくらいネガティヴな人たちを救うような気持ちで、今は届かなくても、いずれ届く時は来るだろうと思って書きました。

OHZKEY:元々小細工をするのが好きなんですけど、「HOPE」に関しては、シンプルにストレートに伝えるという、剥き出しの表現をしたくて。ピュアで100%みたいな感じになりました。

Vanity.K:自分もストレートに書くことを意識しました。ストレートな中にも、自分が思ったことだけど、共感を生むことにフォーカスして書いて。地元の友達にしても、この歳になると、調子が悪いヤツもけっこう出てくるんですよ。彼らの話をたくさん聞いて、彼らに寄り添いながら書いてたら、自ずと戦ってる人たちに向けてのメッセージになっていきましたね。自分の中でも思い入れのある曲とヴァースになりました。

Oichi:自分はメジャーの話をいただいたとき、正直、ずっと退屈してて。だからそれも入れてるんですよ。〈退屈だから飛び込む 飛ぶ為に踏み込め/上がるティーダと狙う場外〉というリリックは、どちらかと言えば、自分を救うために書いたものです。


──「DAMN」のジャケットにはカタカナで「デム」って書かれているのがいいですね。これはみなさんがよく使っている言葉なんですよね。

Vanity.K:OHZKEYが一番の使い手です(笑)。

OHZKEY:「デムすぎ」みたいな(笑)。

XF MENEW:僕らが発祥ではないですけど、基本的な使い方はネイティブと同じで。何かヤバいことがあったり、喰らったりしたら、「デム!」みたいな。俺らなりのスラングになってきてますね。

OHZKEY:例えば、遊ぶ予定だったのに実はバイトが入ってて「デムすぎるわ」みたいな。めっちゃヤバい曲を教えてもらった時とかも「デムすぎ」みたいな。

XF MENEW:本当に「God damn!」とか言ってたら、痛いじゃないですか(笑)。

──「HOPE」はメッセージで、「DAMN」はグルーヴという感じがしますが、そこは意識して差別化した感じですか。

OHZKEY:まさにその通りで、何でもやりたいんです。これだけ1stと2ndで違ってるのもいいのかなと思って。「HOPE」はみんなの1曲にかける思いが強すぎて、スゴい定食が出てきたような感じ。重くて1日に何回も食えないけど、「DAMN」はスナック菓子みたいな、ラフな感じで何回も聞けるよさがある。「そういう抜け感も、俺らできまっせ」みたいなのはちょっと出したかったんです。

──「DAMN」はパーティーピープルだからこそできた曲ですよね。

Vanity.K:現場にも遊びに行ってるし、それぞれパーティーの価値観もあるので、自分たちの中でわかりやすいパーティーチューンが欲しくて。ライブでも歌いたかったのでできた曲ですね。

OHZKEY:パーティーピープルで言うと、ここ最近のCaster Mildの追い上げ感がヤバいですよ。

Caster Mild:この前もショットを飲みすぎて。DJタイムがあったんですけど、次の日に覚えてなくて。一緒にDJをした先輩に連絡して、「俺、DJやってました?」って聞いたら、「めちゃくちゃゴリゴリのトラックでカマしてたよ」って。そこまで行くつもりもなかったんですけど。

一同:(爆笑)

──アメリカではすでにヒップホップはメインストリームですが、日本の状況はそこまで行けそうで行けない感じがありますよね。SugLawd Familiarはメインストリームも意識していると思いますが、そこはどう考えていますか?

OHZKEY:正直、そこにはこだわりはないです。日本のヒップホップがそこまで行かないのは、ヒップホップを“やろう”としてるからだと思っていて。アメリカの人って、自分のやりたいことが勝手にヒップホップになっていくだけで、たぶんそこがゴールじゃないんですよ。だからこそ、僕らも僕らの人生をやるだけで、それが勝手にヒップホップとして評価されるのが一番理想なのかなと思ってます。しかも、そこにちゃんと相手がいることを忘れずにやっていけば、自ずといいものができると思うんです。最終的には「SugLawd Familiar」というジャンルができちゃえば、もうそれがベストじゃないですかね。

──「Longiness」で歌っていた、余命宣告の5年後の今年、メジャーデビューをしたわけですが、これからの5年は?

XF MENEW:東京ドームはマジでやりたいです。

Vanity.K:俺らはヒップホップとポップの架け橋になれると思ってて、その役割は俺らにしかできないと思うんです。

XF MENEW:世界に行くでしょ。

OHZKEY:アメリカのラッパーがR&Bやポップスのシンガーと一緒にやることは多いし、日本でもそれができると思ってて。そういう動きをして、日本の音楽がヤバいんだぜっていうのを世界に知らしめたいですね。ほかの日本のアーティストを連れて国外にカマしに行きたいです。

──長い目で見て考えていることはありますか?

XF MENEW:メンバーにはまだ言ってないですけど、「SugLawd Familiar」をテーマにして掲げて、俺らが引退しても、その後を誰かに継いでほしいんですよね。特に人数制限もないし、誰がどうとかもないし、同志たちが集まって、俺たちが紡いできた音楽をこの先も伝えてくれたらうれしいかな。

OHZKEY:今の子供たちがSugLawd Familiarを見てラップ始めましたってなったら、それが一番の幸せですね。

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