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<インタビュー>加藤ミリヤ×JBL 変わり続けるリスニングの時代に、揺るがない“音”へのこだわり

Text & Interview: 黒田隆憲
Photos: 217
R&Bからポップスまで幅広い音楽性を自身の感性で昇華し、唯一無二の存在感を放ち続ける加藤ミリヤが、JBLの最新オープン型イヤホン「JBL Sense Pro」と「JBL Soundgear Clips」を体験。アーティストとしての表現活動のみならず、母親としての日常生活も同じように大切にしてきた彼女は、普段どのような環境で音楽を聴き、どのような基準で音の良し悪しを判断しているのか。日々変化していくオーディエンスのリスニング環境に対応しつつ、音作りに対する並々ならぬこだわりが、発せられる言葉の端々から浮かび上がってくる。
さらに今回は、9月にリリースした「#東京LIFE」に込めた時代性と都会の情緒、SNS世代へのメッセージ、そして毎年恒例となったビルボードライブ公演【歌の会 vol.6 Premium Live 2025 Powered by JBL】への思いについても丁寧に話を聞いた。スタジオワークからライブ、日常へと続く「音のある暮らし」のなかで、いま加藤ミリヤが何を感じ、何を届けたいと思っているのか。柔らかな語りのなかに芯の強さが宿る、密度の高いインタビューをお届けする。
加藤ミリヤにとってJBLとは
――JBLというと、やはりジャズのスピーカーとして有名な印象があります。加藤さんはJBLにどんなイメージを抱きますか?
加藤:気づいたら、生活のあらゆる場所でロゴを見るようになっていて。「いつから知っていたんだろう?」と思うくらい、自然に日常の中に入り込んでいるブランドですね。私、長年ジム通いが日課なのですが、通っているジムにもJBLのスピーカーが設置されていて、「あ、ここにもあるんだ」と気づくことが多いんです。もちろん、リハーサルスタジオでもJBLのモニターを使っていて、無意識のうちにJBLの音が自分の耳に馴染んでいる感覚があります。本当、生活の一部になっていますね。

――お子さんもJBL製品をお使いだとか。
加藤:子どもの学校がiPadを使った授業で、ヘッドホンを持っていかなければならないんです。Bluetooth不可などのルールがあるのですが、JBLのヘッドホン「JBL Junior 470NC」はカラーリングがかわいくて、子どももすごく気に入って使っていますね。
――普段はどんな環境、どんな場面で音楽を楽しむことが多いですか?
加藤:いちばん多いのは車の中ですね。ほぼ毎日運転するので、そこでヒットチャートを聴いたり、自分が制作中の曲をスマホで流してチェックしたりしています。あとは歩いているとき。英語の音声を聴いて、シャドーイングの練習をすることもあります。歩きながらだとすごく集中できるんですよ。でも声を出すのは恥ずかしいので、よく電話しているふりをしながら口を動かして練習していますね(笑)。
――今回、加藤さんにはJBLの2種類の最新オープン型イヤホン「JBL Sense Pro」と「JBL Soundgear Clips」を体験していただきました。まず、ファーストインプレッションはいかがでしたか?
加藤:とにかくおしゃれ! 本体はもちろん、イヤホンケースのデザインも洗練されているし、開けるとライトが点灯するのも近未来的で、思わず気分が上がります。どちらのモデルも耳にすぐフィットしてくれますし、見た目に惹かれたので用途や気分によって使い分けたくなりますね。特にイヤーカフ型の「JBL Soundgear Clips」は、アクセサリー感覚で楽しめる上に、耳の形に左右されず自分に合ったポイントを探せるのが嬉しい。落ちそうで落ちない絶妙なホールド感なのだけど、実際に動いてもズレないんです。

――イヤホンを選ぶときに、ファッションや色といった要素を意識されることはありますか?
加藤:ありますね。ヘッドホンって昔は「音を聴くための機材」というイメージが強かったのですが、最近はデザインやカラーをきっかけに選ぶ人も多いと思うんです。「かわいい」「色が好き」から入って、そこから音の良さに気づく、みたいな。「JBL Sense Pro」と「JBL Soundgear Clips」も、そういうとっつきやすさも魅力の一つじゃないかなと。
――これまでオープン型のイヤホンを使ったことはありますか?
加藤:いえ、今回が初めての体験でしたが「これは家でも使える」と思いましたね。密閉型のイヤホンやヘッドホンだとどうしても生活音が遮断されて、自分の世界に入り込む聴き方になるんです。それはそれで魅力的ですが、例えば子育て中だと完全に一人の世界に没入するのは難しい。それもあって、家ではスピーカーに頼ることが多かったんです。でも「JBL Sense Pro」と「JBL Soundgear Clips」なら、音楽を聴きながら誰かと会話もできるし、家事をやりながら音楽をBGMにすることもできる。生活の中に、無理なく音楽が溶け込んでいく感覚がとても新鮮でしたね。
――オープン型なら、外を散歩中も安心ですよね。車がすぐ近くに来るまで気づかない、なんてことはないですから。
加藤:そうそう。周囲の音もちゃんと聞こえるので、車の音や人の気配を感じながら音楽が楽しめる。これはすごく大きいですね。
――「JBL Sense Pro」と「JBL Soundgear Clips」でご自身の楽曲を聴き比べた印象は?
加藤:今回、9月にリリースした「#東京LIFE」で聴き比べてみました。四つ打ちのリズムが特徴的ですし、セクションごとにいろんな楽器のフレーズを散りばめているので、イヤホンを通すとサウンドデザインの細かい部分までしっかり感じられて、とても面白かったです。私は音の差よりも付け心地を重視するタイプなので、両方とも快適に使えたという印象でした。それより驚いたのは、アプリで自分の聴覚特性に合わせて音を最適化できる機能です。自分の好みに合わせて音質を調整できるのは楽しいですし、作り手としても「そんな時代が来たのか……!」という気持ちでいっぱいでした(笑)。
――普段ご自身の曲を聴くとき、どんなポイントを意識されますか?
加藤:やっぱりボーカルの聴こえ方と、音像の奥行きですね。私はマスタリングの工程がすごく好きなんですよ。最近はマスタリングの現場に立ち会わないアーティストもいると聞きますが、私は音が一気に変わる瞬間が毎回楽しみで、必ず聞きに行っています。自分の声がしっかり前に出て、ふくよかに響くような聴こえ方が好き。高音域のシャリっと感が強いよりも、中低域の厚みがしっかりあるほうがテンションが上がりますね。
自分の声の特性もあり、レコーディングでは中低域を特に大切にしています。でも歌うとき……たとえばイヤモニで歌うときは、逆にギターなどの高域を少し上げてバランスをとることが多い。そのほうが歌が安定する感覚があるので。それと私は、少しリバーブが残るふくよかに広がる音が好きなんです。スッキリと切れるより、包み込まれるようなファットな音。あの響きが理想ですね。
――加藤さんの歌声は、中高域の倍音の豊かさが魅力だと思っています。
加藤:おっしゃるように、倍音はまさに自分の色だと思っていますね。マスタリングでもそこを意識して、コンプレッサーを軽めにかけて声の質感を前に出してもらっているんです。私としては、やっぱり歌をしっかり聴いてほしい。今回イヤホンで聴いてみても、声のニュアンスが細かく伝わる感じがあって、一つひとつの音がしっかり分離して聴こえる。スピーカーより細部を聴く感覚が強いですよね。
10年、15年前は「最後のチェックはスピーカーで」というのが当たり前だったけど、いまはイヤホンで聴くリスナーが圧倒的に多い。だから細かい音作りにもやりがいがありますし、自分の声や音のディテールまでちゃんと届く時代になったと感じます。
――リスナーの聴く環境も、この10年、20年で大きく変わりましたよね。ハイレゾのような環境だと、アーティストのこだわりも伝わりやすくなると思います。そうした変化は、作り手としてのモチベーションにもつながりますか?
加藤:「JBL Sense Pro」はハイレゾ対応なんですよね? 実は、私自身というよりスタッフを含めたチーム全体が「ハイレゾを意識した音作り」をしています。アレンジ、歌の配置、楽器の定位――どの音をどの位置から出すか、といった細部までしっかり設計していて。昔は趣味レベルでやっていた細かいこだわりも、ヘッドホンで聞いてくれるいまは、以前よりきちんとリスナーに届くようになったのではないかと。たとえばコーラスを左右どちらに振っているかとか、どの音がどの方向から鳴っているのか、といった立体的な表現。そういうディテールまで意識して作っています。
細かい音まで聴き分けて作業する方はもちろん、普段イヤホンで聴いている人にとっても、新しい楽しみ方ができると思うんです。「この音ってこう鳴ってたんだ」と気づけるような発見がある。子どもたちにとってもすごく良いと思いましたね。小さいうちから「これがベースの音だよ」「ここを下げるとこう変わるよ」といったことを体験できるのは、耳を育てる教育にもつながる。私自身、もし子どもの頃にこういう環境があったら、もっと早く音への興味が広がっていたかもしれません。

――加藤さんご自身は、仕事を離れて聴くのはどんな音楽が多いですか?
加藤:やっぱり“くつろげる音楽”ですかね。実は、私にとってのヒーリングミュージックはジャスティン・ビーバーなんですよ(笑)。ポップなんだけど、どこか癒しがある。マネージャーともよく「この感じ、絶妙だよね」と話しています。初期の頃からずっと、流しているだけで心が整うような存在ですね。
最近は「この1曲が好き!」となると、それをずっと聴き続けるタイプです。最近よく聴いているのは、ケシの「WANTCHU」。面白いのが、同じ曲でもBPMを落としたり、逆に速くしたり、いくつもバージョンがあるんです。今ってそういったリミックス文化が当たり前になっていて、オリジナルより別バージョンのほうがバズることもある。聴く側としても、自分の気分やシチュエーションに合わせてテンポ感を変えて楽しめるのがいいんですよね。いつか自分の楽曲でもそういう形でリリースしてみたいと思っています。
「#東京LIFE」について
――9月にリリースされた「#東京LIFE」についてもお聞きしたいです。
加藤:この曲、本当に気に入っています。聴いていて心地いいし、東京っぽい、都会的でスッキリした曲にしたかったので、そのイメージどおりに仕上がりました。歌も押し付けがましくならず、軽やかに届くようにしたかったんです。一緒に作ったマット・キャブと、「ちょうどこのくらいのテンポで歩いている感じのスピード感の曲を作りたいよね」みたいに話しながら、街を歩く人のリズムを意識して作りました。
ちょっと平成の空気感を感じる部分がありつつ、それをそのまま懐かしさに寄せるのではなく「令和らしさ」もちゃんと刻みたかった。それで歌詞の中に「Reel撮って」とか「LUUPで抜ける渋滞」とか差し込んでいるんです。10年後、20年後に聴いたときに「あの頃ってこういう音があったよね」と思い出してもらえるような、懐かしさの中に「今」も閉じ込めておける曲にしたかったんですよね。
――歌詞には、SNS世代の女性たちへのメッセージのようなものも感じました。
加藤:ありがとうございます。今の時代って、SNSがあることで生きやすくなった部分もあるけれど、そのぶん大変なことも増えたと思うんです。SNSを通して“周りに見られる自分”を作らなきゃいけない場面が多くて、「本当の自分って何だろう?」と見失いやすい。でもSNSはこれからも生活の一部であり続ける。だったらどうやって自分にとってプラスに使うかを考えるしかない。他人の目に合わせるだけじゃなくて、自分をより良くしていくためのツールとして向き合えたらいいなと思ったんです。
流行って、結局パワーを持っている人が作っていくものだから、自分が流行をつくる側にまわるという意識もすごく大事。でも、ずっと頑張り続けるのはしんどいこともあるじゃないですか(笑)。SNSでは「都合のいい自分」を簡単に作れるけれど、その中身がスカスカにならないように、内面を豊かにする方法を探していくことも大切。それは私自身へのメッセージでもあります。
加藤ミリヤ #東京LIFE-TOKYO GALS Story Video-
歌と向き合う、研ぎ澄まされた空間
――12月にはビルボードライブで【歌の会 vol.6 Premium Live 2025 Powered by JBL】が開催されます。意気込みを聞かせてください。
加藤:【歌の会】は毎年12月に開催していて、私にとってはすっかり恒例のイベントです。クリスマス前の、あのホリデー感が漂う時期にライブができるのがすごく好きで、会場全体が幸せな空気に包まれるんですよね。年末の締めくくりとして、リラックスしながら音楽にしっかり向き合える場所をいただけていることに、とても感謝しています。
このライブは、とにかく歌と向き合う空間。自分自身もすごく集中できるし、近い距離でお客さんに歌を届けられる。ステージに立つと、「あ、自分の声って好きだな」と素直に思える瞬間があるんです。そういう時間は、他のライブとはまた違う特別さがありますね。

――「自分の声を好きになれる」というのは、他のライブとは違う感覚なんですね。
加藤:大きいステージだと、演出や見せ方など考えることが本当に多いんです。でもビルボードライブのような空間では、「どう見せるか?」よりも「どう届けるか?」に意識が向く。観客との距離も近いので緊張感はあるのですが、そのぶん一体感が生まれるんです。お客さんもきっと緊張していると思います(笑)。でもその空気も含めて楽しいし、あの距離感で歌えるのは本当に貴重ですね。
――バンドメンバーの存在も大きいですよね。
加藤:はい。いつも一緒にやっているバンドのみんなと、音でひとつになっていく瞬間が本当に面白くて。普段は打ち込みで作っている音楽が、生演奏として立ち上がる。その場限りのアレンジやグルーヴを楽しんでいただけると思います。JBLによる音響のサポートもあって、より生々しい音や空間の響きを味わってもらえるライブになるはずです。ビルボードライブだからといってしっとりなだけではなく、ちょっとテンションを上げる曲も混ぜて、静と動のメリハリを感じてもらえる構成にしています。
――もうすぐ2026年になりますが、音楽的にもプライベート的にも、どんな年にしたいですか?
加藤:今はアルバムを制作していて、2026年にリリースする予定です。今はその途中段階なので、まずはしっかりと完成させることが一番の目標ですね。そのうえで、アルバムを引っさげてツアーもやりたいと思っています。全国を回ってお客さんに会えるのは、自分にとってすごく大きいことなので。
そして、コラボレーションにももっと挑戦したい。今、本当にジャンルや世代の垣根がなくなってきていて、誰かと一緒に曲を作ると自分の新しい面を発見できるのが楽しいんですよね。「この人とだったらどうなるんだろう」というワクワクがある。特定の相手を決めているわけではないですが、いろんなクリエイターと自由に音楽を作って、新しい刺激を受けながら次の自分を見つけていけたらと思っています。

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