Billboard JAPAN


Special

<インタビュー>Tele 俯瞰することで見えてきた新たな視点/自身の感情の変化が形になった新曲「あいでいて」

インタビューバナー

Text:小川智宏
Photo:久保寺美羽

 2025年4月にツアー【残像の愛し方】のファイナルとして横浜アリーナでワンマンライブを開催し、その直後、2ndアルバム『「残像の愛し方、或いはそれによって産み落ちた自身の歪さを、受け入れる為に僕たちが過ごす寄る辺の無い幾つかの日々について。」』をリリース。その一連のアクションは、Tele、谷口喜多朗にとって、自分の中に積み上がった過去を受け止め、音楽に昇華しきるためのプロセスだった。実際、アルバム以降、Teleははっきりと新たなステップを踏み進んでいる。それを雄弁に物語るのが、アニメ『タコピーの原罪』エンディング・テーマとして書き下ろした「硝子の線」、Tele流のサマーチューン「サマードッグ」、そして11月12日に配信された最新バラード「あいでいて」という、ここまでリリースされてきた楽曲たちである。自分自身という鏡に映る世界の歪さや醜さや生きづらさを歌い続けてきた喜多朗が、ここでは少し俯瞰した視点で、他者の人生や感情を見つめ、それを受け入れようとしている。それは、Teleが本当の意味でポップスになっていくための、重要な一歩なのではないかと思う。

諦めないでいると、
こんなに苦しいんだって思う

――少し前の話になるけど、4月の横浜アリーナのライブ、すばらしかったです。

喜多朗:ありがとうございます。


――あのライブの前半、喜多朗くんはカーテンで囲われたステージの中で、客席からは姿が見えない状態でパフォーマンスをしていて。「いつになったら出てくるのかな」と思ったら、全然出てこないっていう。

喜多朗:カーテンに隠れてね。あれは本当にちゃんと怒ってる人がいたんですけど(笑)、あの時期ならある程度突き放した演出っていうのもたぶん受け入れてもらえるだろうと思っていたし、ここでやっとかないと今後やっていく中で、もっと100%エンタメに振り切らなきゃいけないタイミングが来たときに、自分のやりたいことをやりきらなかったっていう後悔がストッパーになっちゃうんじゃないかなっていう懸念もあって。だから「これ、(カーテンは)開けなくていいよ」ってみんなに伝えたんです。それをお客さんにわかってほしいっていうところが第一目標だったんで、そこは叶ったのかなとは思ってはいますね。


――そういうライブをやり、アルバムを出し、その次に出たのが「硝子の線」でした。あの曲は改めてすごいところに踏み込んだなと思いました。『タコピーの原罪』という作品に導かれて、ここまで歌うんだなっていう。

喜多朗:その話が来たタイミングが、横アリでどう振る舞おうかとか、何を話そうとか、そういうことを考えていた時期だったんですよ。『タコピー』の原作は読んでいたんですけど、そこで過剰に自分のことを書いちゃったら面白くないだろうなって思っていて、だから本当は完全に客観視して書こうと思ってたんです。でも、難しいな、無理だな、入ってきちゃうなっていうのがあって。最初は歌とピアノだけの「がらすの線」を作ったんですけど、その時はなるべくコットンみたいな曲にしなきゃいけないなと思ったんですよ。アニメを観終わって、肌がヒリヒリしてるから、手で化粧水塗っちゃダメなんですよ。なるべく受け止められる、でも空っぽの優しさじゃない言葉を書かなきゃって。でも、本編を観ているとすごい情報量、感情が入ってくるから、なるべく情報量の少ない曲にしたいとも思っていて。そうなると、じゃあ優しい言葉じゃないほうがいいのかな、滲んでくるぐらいがいいのかなと思って。で、それができあがったあとにフル尺を書き始めて……そこから、自分のことを書き始めた。〈誰もいない台所 うざい夕陽と排水溝〉っていう、あれは『タコピー』とは関係のない言葉なので、あの瞬間はやっぱりエゴだなと思いましたね。



――なぜそこに至ってエゴが出てきたんだと思う?

喜多朗:僕は『タコピー』を読んだときに「わかるな」と思って泣いたんですよ。でも同時に、そういう自分の経験も『タコピー』がコンテンツにしてくれた気がしたんです。よく、悩み事を書き出すといいって言うじゃないですか。そんな感じ。だから、そういう人たちに対してもこの曲が響けばいいな、みたいな。


――だから、優しさが滲み出ている部分と、とはいえ自分自身のことと重なってしまう部分と、でもそれをある種コンテンツとして、エンタメとして成立させるっていう視点と、全部がちゃんと成立するところであの「硝子の線」は完成したということだと思うんです。

喜多朗:ちょっとエンタメ分は少なかった気がするな。もうちょっとみんなが楽しめるものにすることもできたのかなって思いますけど。


――でも、あの曲はいきなり〈ほらね もとどおりだよ〉って歌うわけです。それはタコピーの視点だけど、でも、極端にいえばそれって嘘じゃないですか。現実としては、何かがもとどおりになることなんてあり得ない。

喜多朗:うん、嘘ですね。


――でもそこでちゃんと嘘をつくというのは、つまりエンタメをするぞっていうことだと思うんですよ。

喜多朗:確かに。あれは『タコピー』の曲を書くって聞いた時から、1行目は〈ほらね もとどおりだよ〉って決まっていたんです。それがうまくはまったなと思ってました。




――今までのTeleだったら〈もとどおりだよ〉とは言い切れなかった気がするんですよね。

喜多朗:そうですね。もうちょっと厳しかったかもしれない。冷たい目線で書いたかもしれないですね。なんか最近、諦観がなくなってきたかも。逆に諦めなくなってきたかな。


――それはどうして?

喜多朗:これは今思っただけなんですけど、なんか諦めるっていいながら、だんだんどうにかなってきたんですよ。生きていけてるし、今諦めるのは嘘だなっていう。1stアルバムの曲を書いてる時とか、音楽始めた時とかって、完全に出口のない部屋にいるみたいな気がしてたんで、まず諦めるのが賢い態度だったんです。「じゃあ諦めた先でどうしようか」っていうエネルギーがあったんですけど、なんか今は、諦めがいろんな感情の前段にあるのってすごく醜いなって思う。それは今の俺の話で、諦める人が悪いって意味ではないんですけど。聞いてくれてる人は散々諦めてから次に行くっていうことをしてほしいんですけど、横アリとかにみんな来てくれているのに、「そんなもんっしょ」って思いながらやってるのって違うじゃないですか。世の中そんなもんじゃないから、お前はそこに立ててるんだろっていう話だから。


――ああ、なるほど。実際の状況が、まず諦めるっていう態度と逆になってるんだ。

喜多朗:だから、今は絶望が多いです。諦めないでいると、こんなに苦しいんだって思う。世の中のこととか、人間関係のこととか。どうしようもないくらいへこんじゃうことが増えましたね。でも、それはリングに上がることが増えたからで、俺が今もし18歳に戻って今の俺を見て、未だに「気づけば未来は死んでいて」とか言ってたら、なめんなよって思うから。「お前、そんなに時間も金もあるんだから、生きてメシ食えるだろ」みたいな。そういうマインドになったから、今まで持っていた語彙がまったく使い物にならないみたいなことをすごく思いますね。こんな言葉は今の俺が使っちゃダメだって。




NEXT PAGE
  1. < Prev
  2. でも今は応援じゃなくて、
    なんかこう、ハグしてあげたい。
  3. Next >

でも今は応援じゃなくて、
なんかこう、ハグしてあげたい。


――そういう、ちょっと自分を俯瞰しながら「そうじゃないだろ、お前」っていう感じが、今年出してきてる曲には出ていると思います。だから、これは「サマードッグ」も「あいでいて」もそうなんですけど、一人称の曲なのに、なんか徹頭徹尾他者のほうを描いているように見えるんですよね。

喜多朗:そうですね。本当に他人。これは、夜中に新宿あたりを散歩してた時に、アルタ前の信号があるじゃないですか。あそこの信号を無視して走ってる男の子と女の子がいて、今までだったら「くっだらねえ」と思ってたんですけど、それを「いいね」って思えるようになってきていたんですよ。でもそれって、すっごい冷たい感情だったんですよね。すごく冷えた気持ちで「いいね」って思ってたんですよ。


――その「いいね」ってどういう意味なんですか?

喜多朗:たぶん、他人と他人が別れていくこととか、今この瞬間だけ一緒にいるみたいなことに対して、今まではすごく否定的だったんですよ。「1回付き合ったらずっと一緒にいろよ」みたいな。でもそうじゃないことに慣れた。そんなこともないし、それは悲劇的だけど、悲劇ではないなって。あと、人間の感情って「愛する」と「憎む」と「無関心」だけだと思ってたんですけど、なんかね、まだ言語化できてない3つのちょうど真ん中みたいな位置の感情を世の中に対して抱くことが増えてきたんです。難しいな……許せるようになったわけじゃないし、どうでもよくなったわけでもないんですけど、たとえば狭い部屋でしっちゃかめっちゃかされたとして、今までは「そいつをどうやって追い出すか」って考えてたんですけど、「頑張ればこの部屋広がるぞ」って気づいたから、そいつを追い出したくないと思ったんですよ。いろんなものを対処するときの選択肢が、自己実現的な方向に向かっていくようになった。今までは他者を攻撃したり、自分を否定したりっていうのが現実への対処方法だったけど、選択肢はまだあると思ったんです。


――要するにこれまでは、喜多朗くんの中の理屈とか必然とか価値基準とかがあって、それを貫く上でノイズになるものに対しては攻撃性が発揮されていたわけですよね。でも「あいでいて」はそうじゃない。そこを飛び越えちゃって、かつその先で肯定してるなって思うんです。この曲は美しいバラードだけど、その一方でこの主人公は結構支離滅裂で。

喜多朗:そうですね。



――なんか、駄々っ子みたいだなって思ったんですよ。〈いつか消えてしまうよ。〉と言いながら、〈だけど、君がいいよ。〉って、なんか無茶苦茶じゃないですか。

喜多朗:そう、駄々っ子ですね。無茶苦茶なこと言ってる。「責任取れよ、お前」って(笑)。


――そう。責任取れないようなことを言うんだけど、でもそれを許容していく。そのためのマジックワードとして、〈全ての愛はラッキーだ!〉って言うわけです。それでなんか全部解決しちゃう。

喜多朗:そうです。MVとかジャケット写真の打ち合わせでも「こいつやばくないですか?」って言ってましたからね。でも、なんか他人だとも思えなくて。これは僕じゃないけど、わかるところもあるんです。〈指先がほら馬鹿になって。/こんな喜び、いつか消えてしまうよ。〉のところとかは、その刹那的な考え方っていうのは恋の本質だと思うし。だから、他人なんだけどいい友達になれる、わかるなって……いや、無理かな(笑)。


――でも、こういう人、世の中にいっぱいいるんだよ。それこそ喜多朗くんが真夜中の新宿で目撃したふたりみたいに。

喜多朗:いるんだよな、こいつ。


――で、こういう人がいっぱいいるってことは、それに向き合うことがポップスということでもあって。Teleはこの曲で、ちゃんとポップスを作ったんだなと思っています。

喜多朗:そうですね。冷たい目で見てはいるんですけどね。冷たい目っていうか、俯瞰で見てるんです、そういう存在を。でも世の中、いろんなニュースで国単位だったり、世界単位だったり、地域単位だったり、そういう集団に対して絶望することが多くて、どうやってどうやったら集団を憎まないでやれるんだろうと思ったら、やっぱり個人のチャーミングな部分を見つけていくことしかないんですよ。思想が違う人間がいたとして、そいつの属している集団を憎んじゃったら、それは本当に本末転倒だと思うんで、個人のチャーミングな部分に気づいた上で、その思想を否定したい。人間はみんなかわいいんで。そういう考えになってきてるし、そういう考えを持っていても崩れなくなってきたかもしれない。ちょっと前は「どういうことなんだろう」と思って結構「うわー」ってなっちゃったんですけど、それがだんだん崩れなくなってきている。だからこういう歌詞が書けたのかなと思いますね。



――本当にそうだと思います。

喜多朗:だから、〈ここにはないよ。何もないよ。〉って言ってあげないといけない。そこは絶対に嘘をつけない。何もない日は消えてしまうけど、でも君がいいならそれでいいんじゃない? っていう。君がこの人がいいと思うなら、絶対に一緒にいた方がいい。楽しい方がいいよって。楽しんでいこうぜって。


――よくわからない人に対してそう言えるということが、覚悟でもあるし、引き受けるということでもあるんだと思います。

喜多朗:最近、今まで観てきた映画とか読んできた本をもう一度見直してみようみたいな感じで、2日間で『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を読んで『タクシードライバー』を観たんですよ。なんかね、ちょっと寂しいけど、登場人物に完全投影できなかったんですよね。最初に観たときはfor meだと思ったんだけど、not for meって言われているような感覚を少し感じたんですよ。『タクシードライバー』のデ・ニーロなんて、やばいやつなんですよ。でも俺はそのやばいやつのことをすごい応援していた記憶があるんです。でも今は応援じゃなくて、なんかこう、ハグしてあげたい。


――それと同じ。この曲は、最終的にはわかりあえない人とハグしようとしてる。

喜多朗:それが自分なりの、今の必然さですね。



Tele | あいでいて - Music Video


関連キーワード

TAG

ACCESS RANKING

アクセスランキング

  1. 1

    【ビルボード 2025年 年間Top Lyricists】大森元貴が史上初となる3年連続1位 前年に続き5指標を制する(コメントあり)

  2. 2

    【ビルボード 2025年 年間Artist 100】Mrs. GREEN APPLEが史上初の2連覇を達成(コメントあり)

  3. 3

    【ビルボード 2025年 年間Top Albums Sales】Snow Manがミリオンを2作叩き出し、1位&2位を独占(コメントあり)

  4. 4

    【ビルボード 2025年 年間Top Singles Sales】初週120万枚突破の快挙、INI『THE WINTER MAGIC』が自身初の年間首位(コメントあり)

  5. 5

    <年間チャート首位記念インタビュー>Mrs. GREEN APPLEと振り返る、感謝と愛に溢れた濃厚な2025年 「ライラック」から始まった“思い出の宝庫”

HOT IMAGES

注目の画像