ソニー・ロック名盤100選として、『Blu-spec CD2』の高品質で発売となったのは、1950年代～70年代ロック史に燦然とその名を刻むレジェンドたちによる100枚のアルバム。作品リストに名を連ねるのは、ロック・ミュージックの源流を遡った者なら必ずそこに辿りつくといっても過言ではない伝説的ブルース・マン ロバート・ジョンソン、カントリーとリズム＆ブルースを若者のための音楽＝“ロックンロール”へと昇華させたエルヴィス・プレスリーに始まり、ボブ・ディラン、ジャニス・ジョプリン、サンタナ、スライ＆ザ・ファミリー・ストーン、キャロル・キング、ザ・クラッシュ、エアロスミス、ビリー・ジョエル、TOTO…時代やカテゴリーを超え、“ロック”を創り上げてきた偉大な才能たち。まさに100枚全てが音楽史そのもの、正真正銘の“名盤”であり、今更ここで個々のアーティストや内容について触れる必要もないだろう。

　そこで今回は、それら名盤の顔である“ジャケット”に焦点を絞り、その一部を紹介したい。音楽ファンなら一度は経験したことがあるだろう“ジャケ買い”。アルバムの表紙というキャンバスに描かれた芸術は、時として、そこに収められた音楽以上の衝撃や残像を与えてくれるものだ。かつてはアナログ盤の12インチ、やがてCDの普及により12センチとなり、そして今では、デジタル画面の小さな枠の中でのみファンの目に触れるということも少なくない。作品の“顔”であったジャケットの価値そのものが変わりつつある今、改めて、その音楽とともに歴史に刻まれたジャケットの数々をじっくりと眺めてみよう。

ロック史上初の"名ジャケ"にして最大の攻撃力を持つ最高傑作

『プレスリー登場！』

　全米ビルボード・アルバムチャート10週連続首位を獲得したエルヴィス・プレスリーのデビュー作『エルヴィス・プレスリー登場！』。それまで、楽器を持ってポーズを決める姿などが定例だったポップスのジャケット写真において、エルヴィスのエネルギッシュで攻撃的なプレイ姿を捉えたこの写真と、ピンク×緑というなんとも攻撃的な色の組合、ダイナミックなタイポグラフィは、その作品同様、強烈なインパクトをもたらすと同時に、その後のロック史に絶大な影響を与えている。

『ロンドン・コーリング』

　エルヴィスのデビューから20年以上の時を超え、ザ・クラッシュの3rdアルバムで最高傑作との呼び声高い『ロンドン・コーリング』（1979）のジャケットが、エルヴィスのそれをモチーフにしているのはロック・ファンなら周知の事実。ポール・シムノンがステージ上でベースを叩きつけている様子を映したこの写真は、当時ザ・クラッシュのツアーに同行していた女性写真家 ペニー・スミスによるもので、エルヴィスがギターをかき鳴らしシャウトする姿同様、ロックンロールの持つ躍動感と攻撃性に溢れている。ザ・クラッシュがこのデザインを用いたことで、より一層ロックの象徴として広く認識されることになった、いわば“ロック史上最強のアートワーク”といっていいだろう。

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■『ロンドン・コーリング』ザ・クラッシュ（1979） / 1,890yen(tax in) 詳細・購入はこちらから

カウンター・カルチャーが生み出した巨匠たちの名作

『チープ・スリル』

　1960年代後半～70年代前半のカウンター・カルチャーの象徴といえば、グレイトフル・デッド、ドアーズなどのバンドによってもたらされたサイケデリック・ロックであり、ジャケット・デザインの世界でいうならばビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』、クリームの『カラフル・クリーム』などがその代表格といっていいだろう。

『天の守護神』

　ジャニス・ジョプリンがビッグ・ブラザー＆ザ・ホールディング・カンパニーの一員としてデビューを果たした『チープ・スリル』は、タッチこそそれらと異なるものの1960年代のアンダーグラウンド・コミックスの草分け的存在でカウンター・カルチャーを代表する漫画家　ロバート・クラムが手掛けた作品。フリッツ・ザ・キャットの生みの親でもあるクラムは、友人であったジャニスのためにこの作品のデザインを引き受けたというが、当時は大の"ロック・バンド嫌い"で、ローリング・ストーンズからのオファーを断ったという逸話も。自身もギター、バンジョーなどを演奏するプレーヤーで、"R.Crumb and his Cheap Suit Serenaders"としてレコードを数枚リリース、ジャケットのデザインはもちろんクラム本人が手掛けている。

　そしてカウンター・カルチャーの集大成ともいえる1996年のウッドストック・フェスティバルで観客の度胆を抜くパフォーマンスを披露し一躍世界へと羽ばたいたサンタナの2ndアルバム『天の守護神』。このジャケットはアブドゥル・マティ・クラーワインというドイツ・ハンブルグ出身のアーティストが絵画を担当。スピリチュアルでサイケデリックかつ宗教的な香りをまとうマティの絵がカヴァーを飾ったアルバムとしては、マイルス・デイヴィスの名盤『ビッチーズ・ブリュー』が有名である。

■『チープ・スリル』ジャニス・ジョプリン（1968） / 1,890yen(tax in) 詳細・購入はこちらから

■『天の守護神』サンタナ（1970） / 1,890yen(tax in) 詳細・購入はこちらから

日常を切り取った、等身大のポートレイト

『フリーホイーリン・
ボブ・ディラン』

　その名を音楽シーンに轟かせることになった「風に吹かれて」や、「激しい雨が降る」などを収録したディランの2ndアルバム『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』。こちらも、その内容とともに"名ジャケ"として呼び声高い作品だ。当時のガールフレンドであるスーズ・ロトロと腕を組み、肩を寄せ合って歩く姿が撮影されたのは、当時二人が一緒に暮らしていたニューヨークのとある街角。だが、仲睦まじい二人の日常を切り取った写真を"顔"に据えたこの作品をきっかけに、名声を高めていったディランとスーズの間にすれ違いが生じ、やがて二人は破局…なんとも皮肉な話である。その後、ディランについて多くを語らなかったロトロだが、2000年以降、徐々にメディアに向けて重い口を開くようになり、2005年に制作されたディランのドキュメンタリー映画『ノー・ディレクション・ホーム』にインタビュー出演を果たすと、その後、ディランや当時のグリニッジ・ヴィレッジについての回顧録を出版するなど、貴 重な証言を残したが、2011年に2月にこの世を他界している。

『つづれおり』

　そして1971年に発売され15週連続1位を獲得、シンガー・ソングライター時代の幕開けを告げたキャロル・キングによる永遠の名盤『つづれおり』は、キャロルが出窓に座り、猫とともにリラックスしている姿が印象的。この写真はキャット・スティーヴンス、カーペンターズなど、数多くのアーティストのジャケットやプロモーション写真を手掛けた写真家 ジム・マクラリーによるもので、当時彼はA&Mレコードの専属カメラマンだった。独学で写真技術を習得し数々のアーティストとの仕事を重ねてきたマクラリーだったが、その後、とある事件によりロック写真の世界から遠ざかってしまった。それは、若き日のマイケル・ジャクソンとの仕事のこと。『オフ・ザ・ウォール』のジャケット写真の撮影依頼を受けたマクラリーは、撮影現場でラジオから流れてきた「今夜はドント・ストップ」が、目の前にいるマイケルの曲だと知らず、他のチャンネルに切り替えてしまったのだという…その行動を見て呆気にとられたマイケルが、その後マクラリーの撮影した写真を使用することはなかった。彼はこの事件をきっかけにロック写真に興味を失ったといい、その後は主にポートレイトや静物写真を主に撮影、昨年4月に72歳でこの世を去っている。

■『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』ボブ・ディラン（1963） / 1,890yen(tax in) 詳細・購入はこちらから

■『つづれおり』キャロル・キング（1971） / 1,890yen(tax in) 詳細・購入はこちらから

ロックの象徴 "バンド・ロゴ"の確立

『闇夜のへヴィ・
ロック』

　今年でデビュー40周年を迎えたエアロスミスが"第一次黄金期"で最高のセールスを記録した3rdアルバム『闇夜のへヴィ・ロック』。表題曲のほか「ウォーク・ディス・ウェイ」、「スウィート・エモーション」など多数の代表曲を収録したこのアルバムで、特徴的な流線文字で描かれたおなじみのロゴがアルバム・ジャケットに初登場。ちなみに、翼のモチーフは2ndアルバム『飛べ！エアロスミアス』のジャケットにそれの原型となるものが描かれているが、それが後にロゴと組み合わされ、現在形へと進化を遂げている。

『オーロラの救世主』

　一方、ELOが初のプラチナ・ディスクを獲得した6thアルバム『オーロラの救世主』で確立したのは、その音楽性だけではなかった。単にバンド・ロゴといっても、バンド名をオリジナルのフォントで表現したものから、ストーンズの"ベロ・マーク"ようにバンドの象徴となるオリジナルのイラストレーションなど、様々なものが存在する。その中でも、このELOのロゴは少々特殊な経歴を持つ。『オーロラの救世主』以降の二作品に、この円盤がそれぞれ異なる形でアートワークに組み込まれてジャケットに登場しているが、その後は忽然と姿を消してしまう。だが、その絶大なインパクトでELOのロゴとしての地位を確立したこの円盤は、以降ベスト盤のジャケットにも必ず登場している。

　そして80年代ロックを代表格バンド ジャーニーとTOTOは、それぞれ共通のシンボルを異なるデザインで複数のジャケットに取り入れている。ジャーニーは古代エジプトで死と再生の象徴である“スカラベ”（フンコロガシの一種）を、TOTOは“剣”を、長きにわたり数々のアートワークに採用、現在ではそれがバンドのシンボルとしてすっかり定着している。

■『闇夜のへヴィ・ロック』エアロスミス（1975） / 1,890yen(tax in) 詳細・購入はこちらから

■『オーロラの救世主』エレクトリック・ライト・オーケストラ（1976） / 1,890yen(tax in) 詳細・購入はこちらから

■『ディパーチャー』ジャーニー（1980） / 1,890yen(tax in) 詳細・購入はこちらから

■『宇宙の騎士』 TOTO（1978） / 1,890yen(tax in) 詳細・購入はこちらから

日本人イラストレーター　長岡秀星によるスケール感溢れる超大作

『太陽神』

　　"神殿と宇宙"をテーマに制作され、代表曲「宇宙のファンタジー」が収録されたEW&F絶頂期の名盤『太陽神』のジャケットは日本人イラストレーター 長岡秀星によるもの。アルバムのスケール感をそのままに表現したイラストレーションは、この作品に絶大なインパクトと彩りを与えている。ラムセス王の足元に"風林火山"がひっそりと書き込まれているのもファンの間では有名なエピソードだが、数か所にわたり書いてあるのでぜひ全て見つけ出したいところ。長岡氏は、EW&F『黙示録』や1978年リリースのベスト盤なども手掛けている。

『アウト・オブ・
ザ・ブルー』

　そして、『太陽神』と同年の1977年にリリースされたELOの7thアルバム『アウト・オブ・ザ・ブルー』も長岡氏による作品。こちらは前述の"ELO 円盤三部作"の第二部で、ダイナミックに描かれた例の円盤の中にスペースシャトルが入っていくイラストの世界観さながらの音世界が詰まったスペーシー・ロックの傑作となっている。

■『太陽神』アース・ウィンド＆ファイアー（1977） / 1,890yen(tax in) 詳細・購入はこちらから

■『アウト・オブ・ザ・ブルー』エレクトリック・ライト・オーケストラ（1977） / 1,890yen(tax in) 詳細・購入はこちらから

そのサウンドを表現する、洗練されたアートワーク

『シルク・
ディグリーズ』

　最後に紹介するのは、AORの最重要名盤 ボズ・スキャッグスの7thアルバム『シルク・ディグリーズ』。ダークスーツ＆サングラスをまとった男（ボズ・スキャッグス）、ベンチ、海、鮮やかなマニキュアで飾られた女性の手…都会的なサウンドをそのまま表現したスタイリッシュなアートワークは、その後のAORの様々なアルバム・ジャケットのひとつの指針となっている。

『ストレンジャー』

　そして、大都会の人間模様を切り取り歌うビリー・ジョエルがその孤独や哀愁を美しいメロディーで表現、「素顔のままで」などに代表されるより一層洗練されたサウンドで大出世作となった『ストレンジャー』。ベッドにもたれ、仮面をそっと語りかけるように見つめるビリー。背後に吊るされたボクシング・グローブ…表題曲の"We all have a face That we hide away forever （誰もみな、他人には見せないもうひとつの顔を持っている）"というフレーズを彷彿とさせる不安で意味深なアートワークは、彼の紡ぐ音楽の世界観を見事に表現している。

■『シルク・ディグリーズ』ボズ・スキャッグス（1976） / 1,890yen(tax in) 詳細・購入はこちらから

■『ストレンジャー』ビリー・ジョエル（1977） / 1,890yen(tax in) 詳細・購入はこちらから