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<インタビュー>売れるという目標を掲げたほうが楽しい――アイナ・ジ・エンド「革命道中 - On The Way」国内外でロングヒット、 メインストリームで闘う葛藤と覚悟

Interview & Text:柴那典
Photo:堀内彩香
Billboard JAPANが注目するアーティスト・作品をマンスリーでピックアップするシリーズ“MONTHLY FEATURE”。今月は「革命道中 - On The Way」が国内外でロングヒットを記録しているアイナ・ジ・エンドのインタビューをお届けする。
テレビアニメ『ダンダダン』第2期のオープニング主題歌としてリリースされた「革命道中 - On The Way」は、Billboard JAPANの総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”で17週連続チャートインを果たし、“Global Japan Songs Excl. Japan”チャートでは16週連続トップ10入り、さらにUS Billboardの“Global 200”にも6週連続でチャートインするなど、国内外でロングヒットを記録している(10月31日現在)。また、9月には『tiny desk concerts JAPAN』に出演し、向井秀徳とのコラボレーションを繰り広げるなど活動の幅も広げている。
ソロシンガーとしていよいよ飛躍を果たそうとしている今、楽曲について、アーティストの現在地について、語ってもらった。
『ダンダダン』が面白すぎてアイデアが止まらなかった
――「革命道中 - On The Way」はご自身にとってどういう曲になった実感がありますか?
アイナ: BiSHを解散してソロになってから、一人で歌う覚悟を持とうということばかりに日々必死で、自分にはヒット曲がないことに気づいて、いつかそういう曲が欲しいなと思っていました。だから「革命道中 - On The Way」がいろんなチャートに載っているのを見ると、やっとアイナ・ジ・エンドの名刺みたいな曲ができたなという気持ちがあります。
――「革命道中 - On The Way」はShin Sakiuraさんと共作した曲ですよね。BiSH加入前から親交がある盟友的な方と一緒に作った曲が、自分にとっての代表曲になったことの喜びや手応えもあるんじゃないでしょうか?
アイナ:そうですね。今も一緒に新しい曲を作っているんです。気を遣わないというか、何でも言い合えちゃうので、なかなか進まないこともあって。でも、自分にはないものを持っているから、相手の意見を聞こうとする。自分のエッセンスも足しながら、自分にない感性を取り入れていける。それが音楽にも表れていて、二人はすごくいいチームなんだなって、あらためて最近思ったんです。盟友とこういうことを続けられるのはうれしいですね。
――アイナさんはいろんなプロデューサーの方と共作していますが、Shin Sakiuraさんとのタッグだからこそ生まれるものってどういうところにあると思いますか?
アイナ:時代の琴線に触れにいける気がします。Shin Sakiuraくんだけだと、結構おしゃれにまとまるんですよ。聴き心地が良くて、家でお酒を飲みながら聴いていて楽しいような音楽を作るのが得意だと思うんですね。で、私はどっちかというとロックで育っているし、ジャリジャリした声を出しちゃうし、耳触りが悪い瞬間がある。1曲でお腹いっぱいになっちゃう。そんな私とおしゃれなShin Sakiuraくんが交わることで、私のギザギザも中和されるし、Shin Sakiuraくんのおしゃれさにもエッジが効く。すごく良いバランスが生まれるなと思います。
――なるほどね。たしかにShin Sakiuraさんの曲にはチルやラウンジーな、BGMになるタイプのテイストがある。でも、良い意味でアイナさんの声はBGMにならない。
アイナ:そうそう。ならないですね。だから私たちは極端なんですよね。もうひとつ良いと思うのは、Shin Sakiuraくんがめちゃめちゃ勉強熱心なことなんですよ。出会ったときは18歳ぐらいだったんですけど、そのときからたくさん学んで訓練もして、今はコードのことも全部分かっているし、J-POPもすごく研究している。バランス感覚もすごく良いので尊敬しているし、Shin Sakiuraくんの切る舵に自分もついていけるんですよね。学ぶことをずっとやめない人なので、チームでやるうえでそういうところは大事な気がします。
アイナ・ジ・エンド / 革命道中 - On The Way [Official Music Video]
――「革命道中 - On The Way」の制作についてもあらためて教えてください。『ダンダダン』の主題歌を書くにあたって、どういうところが取っ掛かりになりましたか?
アイナ:二人でスタジオに入って、お互いに思う曲の構成をバンバン言い合って、アイデアを出しまくって、骨子を作っていった感じでした。いろいろなことを考えたとは思うんですけど、タイアップだからとか、そういうプレッシャーはあまりなかったです。『ダンダダン』が面白すぎてアイデアが止まらなかったというのが正直な気持ちでした。
――『ダンダダン』から出てきたアイデアってどういうものがありましたか?
アイナ:いろんな要素が絶妙なバランスで成り立っているアニメだと思ったので、それを表現したかったんですね。学園ラブコメでもあるし、幽霊もいるし、SFでもある。かと思えば、めちゃめちゃ闇のシーンもある。主人公たちは基本的に口が悪くて、おちゃらけて見える。そういういろんなエッセンスを詰め込むということを考えました。
――それが曲展開の多彩さにつながっている。
アイナ:そうですね。Aメロはキャッチーにして、Bメロはチルっぽいビートだけど〈暗いトンネルの壁〉という歌詞とかダークなシーンが出てきて。〈ダメダメ...待て待て...〉というのはちょっとおちゃらけゾーンで。そこからのサビはオカルンが覚醒したときみたいな力強さを出したりして。1曲の中にいろいろなエッセンスを入れることを意識しました。とにかく『ダンダダン』が面白かったから、そこに負けない曲を作るというのが、私たちの大事な課題だった気がします。
――『ダンダダン』第一期のオープニングはCreepy Nuts「オトノケ」でしたが、あの曲は意識したりしましたか?
アイナ:曲を作っていたときはまだ放送が始まる前だったんですよね。制作の終盤くらいに放送が始まって、そこで「オトノケ」をちゃんと聴くことになったんです。そしたらR-指定さんの声で〈ダンダダン〉というワードが入っていて。その姿勢がめっちゃかっこいいなと思ったんです。だから、私たちも曲中に“ダンダダン”を入れたいなと思って。
TVアニメ『ダンダダン』×Creepy Nuts「オトノケ」 Collaboration Music Video
――Aメロで“♪ダンダンダダダン”と歌うところは曲の中でフックになっていますよね。
アイナ:もともとああいうフレーズを入れたいとは思っていたけど、明確に意識したのは「オトノケ」に刺激を受けたからですね。これが別のアーティストさんだったらそんなに引っ張られなかったと思うんですけど、Creepy NutsさんはBiSH時代に何度も共演してきたから親近感があって。それでShin Sakiuraくんに言いました。ここのセクションはアニメのタイトルを叫びたい、「オトノケ」みたいにしたいって。無理やりこじ開けて作ってくれました。
――「革命道中 - On The Way」というタイトルは、どういうところからつけたんですか?
アイナ:『ダンダダン』って、革命が起きているなと思って。オカルンはオタクで陰キャの男子だったのに、急に学校イチぐらいのギャルが喋りかけてきて。他の子たちからは「なんで綾瀬と仲良いの?」みたいになるじゃないですか。私はどっちかと言うと陰キャ男子側だったんですけど、それって革命なんですよ。ほかにもいろんな革命が起きているアニメだから“革命”というワードがまず浮かんでいて。だけど、二人の恋は実っていないし、革命を起こしている最中でもあると思うので。『ダンダダン』にインスパイアされてできたワードでした。
リリース情報
シングル「革命道中 - On The Way」
- 2025/7/2 RELEASE
公演情報
nukariari
2025年12月20日(土)
東京ガーデンシアター
開場 17:30 / 開演 18:30
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ミュージシャンとしての感覚が薄れていく瞬間もあった
――結果的に“革命”という言葉は、ここ1年のアイナさん自身の状況を表す言葉にもなったと思うんです。そのあたり、今年の状況の変化を振り返ってどんな思いがありますか?
アイナ:私はもともと“売れたい”みたいな気持ちがあまりないタイプだったんです。特にソロは、自分のやりたい音楽をやりたいというか、自分が普段言えないことを音楽にしてみようとか、やりたいことをやろうとか、そういう気持ちだけで始めたので。気がついたらグループも解散して一人になって、ありがたいことにタイアップもいただくなかで、チームで音楽を作ることになった。自分一人だけの世界だったのが、私が出した曲を売ろうとしてくれる人がいたり、インタビューを組んでくれる人がいたり、いろいろな人が動くんですよね。このことがプレッシャーにもなっていって。どうせこんなに辛いんだったら、売れるという目標を掲げてやらないと意味ないって気づいたんです。
――タイアップに苦手意識はありました?
アイナ:最初はありました。プロの作曲家でもないので。
――ソロを始めた頃はまだBiSHのメンバーでもありましたよね。メインストリームはBiSHでやって、むしろそうじゃないほうをソロでやろうという感じだった。
アイナ:おっしゃるとおりですね。BiSHで東京ドームを目指そう、ソロは黙々とやってみようという感じだったので。それがソロ1本になって、慣れないタイアップもやって。自分が未熟だったので、修正が重なった時期は「何を歌ってもダメって言われるんじゃないか」みたいにメンタルが落ちる時期もあって。そういうことを乗り越えて出した曲に対していろんな人が動いてくれるのはすごいことだし、辛いけど幸せなので、これを続けるためにはやっぱり売れるという目標を掲げたほうが楽しいと思って。本当に最近なんですけど、それに気づいたのが去年だったんです。そこからヒット曲を頑張って作ろうとなって、「革命道中 - On The Way」もそういう気持ちもあって作ったので。数字が全てではないけど、周りの人たちの笑っている顔が多くなったのはうれしいし、数字も大切なんだと思う瞬間も増えました。
――先日の『tiny desk concerts JAPAN』でもこの曲を披露していましたよね。そのときのバンドメンバーが、西田修大さん、君島大空さん、石若駿さん、マーティ・ホロベックさん、渡辺翔太さんという非常にミュージシャンシップのある面々で。しかも向井秀徳さんとのコラボもありました。楽曲がヒットしたということだけでなく、その曲を斬新で質の高い形で演奏したということにも、数字とは別の形での達成があったんじゃないかと思います。
アイナ:そんなふうに言ってもられるのはすごくうれしいです。
――実際にやってみてどうでしたか?
アイナ:本当におっしゃるとおりで。自分がメインストリームに出ていくなかで、ミュージシャンとしての感覚が薄れていく瞬間もあったと思っていたんです。もともとアイドルだったし、周りにもサポート・ミュージシャンしかいない状況だと、勉強しないとミュージシャンとしての感覚がなかなか入ってこない状況で。その勉強をせずに一生懸命テレビに出たり、目の前のことばかりに頑張っていたら、気づいたら音楽に潜り込んでなかったときもあって。それが自分で情けなくて。もっと音楽に潜って、音楽を勉強しないといけないのに、どうしたらいいかなって、西田修大に相談したんですよ。
――そうなんですね。実は危機感があった。
アイナ:そうなんです。このままだったら歌姫キャラになりそうって。もうちょっとバンドっぽいところが欲しいし、勉強もしたい。そういうことを言っていたら、西田が君島大空くんとかをライブに呼んでくれたりして。『tiny desk concerts JAPAN』のメンバーも西田のおかげで集まったところがあったんです。そこは浅はかにお願いしたんじゃなくて、結構真剣に相談したことがあったので。
――自分の音楽愛を見失わないようにしたいと。
アイナ:性格的にも“ザ・歌姫”みたいな感じじゃないし、もうちょっと泥臭い、バンドっぽい感じがほしいと相談して。そこからチームの人たちともいろいろ打ち合わせてくれたりして、西田が今はキーパーソンになってくれていますね。
――9月に東京国際フォーラム ホールAで開催された【JAZZ NOT ONLY JAZZ II】では、石若駿さんの率いるバンドと共演されていましたね。
アイナ:そうなんです。【JAZZ NOT ONLY JAZZ】は2年連続で出させてもらって、そっちはそっちで石若駿くんとのつながりがずっとある。君島大空とも同い年で仲良しで。西田がつないでくれたけれど、それぞれとちゃんと縁があるし交流もあるので、最高の空間でした。スタジオでリハしているときも楽しかったです。
――『tiny desk concerts JAPAN』での向井秀徳さんとのコラボはどうでした?
アイナ:私、ZAZEN BOYSがめちゃ好きで。高校生のときに自分でチケットを買ってライブを前のほうで観るくらい好きだったんです。当時の自分にはあの変拍子も向井さんの掛け声も斬新で刺激的で。だから、今回のコラボが決まったときに正直、最初はちょっと怖いなと思っていました。好きだったからこそ、ヤバいというのは知っているので。何されるんだろうかって。スタッフに「知らないですよ?」と言うくらいビビっていたんです。でも、当日はすごく優しくて、楽しくて。だけど、やっぱり誰も超えられないし、触れられない何かをまとっていた。やっぱ向井秀徳ってすごいなって思いました。
――12月20日には東京ガーデンシアターにてワンマンライブ【nukariari】の開催が決定していますが、これはどんなライブになりそうでしょうか?
アイナ:やりたいことがめっちゃあって、今はどういう方向性にしようか悩んでいます。だから、まだ何も言えない感じです。
――来年に向けて、この先やりたいことは?
アイナ:海外で公演がしたいと思っています。もちろん日本でもライブ力を高めている最中なんですけど、海外で今聴いてくれている方々にもちゃんと楽曲を届けたいなと思っています。難しそうなところもあるけど、どんなに大変でも、ちゃんと自分のこの目で何が大変なのかを体感したうえで音楽を続けていきたいなと思います。
――最後に教えてください。アイナさんが今リスナーとして好きな曲、ハマっているアーティストは?
アイナ:青葉市子さんがすごく好きなんです。YouTubeにあるMVは全部観ました。前にあのちゃんと対バンしたときに、青葉市子さんがたまたま観にきてくださったんです。終演後にお会いしたら、アイナの絵を描いてくれて。その絵をくれたんですよ。すごくうれしかったです。こんなちっちゃいメモなんですけど、額縁に入れて部屋に飾っています。宝物ですね。
リリース情報
シングル「革命道中 - On The Way」
- 2025/7/2 RELEASE
公演情報
nukariari
2025年12月20日(土)
東京ガーデンシアター
開場 17:30 / 開演 18:30
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