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<わたしたちと音楽 Vol. 66>奥津マリリ×星野概念に訊く、“しんどいとき”の対処法【『B-sideプロジェクト』連動企画】

米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。
今回は、ソニー・ミュージックエンタテインメントがエンタメ業界で活躍するアーティストやクリエイターを心と身体の両面からサポートするプロジェクト『B-side』との連動企画として、Podcast番組『B-side Talk 〜心の健康ケアしてる?』でMCを務める奥津マリリ(フィロソフィーのダンス)と、番組内新企画『My Tune, My Mind』でMCを担当している精神科医でミュージシャンの星野概念を迎え、心のケアをテーマに話を聞いた。(Interview:Kazuharu Kato[SOW SWEET PUBLISHING] l Photo:Yukitaka Amemiya)
ゲストアーティストに
“自分のトリセツ”を訊く『B-side Talk』の新企画

――奥津さんは以前この連載にご登場くださったときにも『B-side Talk』について触れてくださいましたが(https://www.billboard-japan.com/special/detail/4566)、改めてどういった内容の番組なのかご紹介いただけますか。
奥津マリリ:一緒にMCを担当している小原ブラスさんと共に心の健康をケアするためのヒントになるテーマを毎回ピックアップし、ゲストの方をお迎えしてそれについてお話ししている番組です。番組自体は2022年にスタートしましたが、私がMCを担当するようになったのは1年ほど前です。毎回違ったジャンルの方のお話を聞けるのが新鮮で、勉強になる。本当に素敵な番組だと思っています。
――星野さんはゲストとして『B-side Talk』にたびたびご出演されてきましたよね。そして今年の6月に、ご自身がMCを担当する番組内新企画『My Tune, My Mind』がスタートしました。こちらはどういった内容ですか?
星野概念:アーティストの方をゲストにお迎えし、皆さんに“自分のトリセツ”を伺ったりしています。やっぱり、誰でも気持ちって揺れるじゃないですか。気持ちが揺れたときにどういうふうにされているのかとか、それぞれの方の工夫をお話ししていただいています。皆さんすごくオリジナリティがあって興味深いんです。あとは、お薦めの曲のことを話したり。不定期なのですが、個人的にはすごく居心地が良い場だなと思ってます。
――ちなみに星野さん、『B-side Talk』の初回からゲストで参加されていたんですよね。
星野:そうなんです。その後は「何回来るんだよ」って感じで何度も伺っています(笑)。MCのお二人が面白いから、僕は気楽にお二人の船に乗ってればいいというか、何か言いたくなったら言わせてもらうみたいな感じ。「快適だな」なんて思いながら、何度も遊びに伺っています。
奥津:私が初めてお会いしたときにはもう既に数回は出られていましたよね。だから、先輩なんです。
――お二人それぞれ、番組の中で印象深かったり、ご自身の中で気付きになったテーマは?
奥津:瞑想をテーマにした回があったんですけど。それまでは、“瞑想”って聞くと「“無”にならなきゃいけない」「すべてを取っ払わないといけない」みたいな、修行みたいなものくらいのイメージがあったんです。でも番組で、そこまで至らなくても全然良いという話を聞いて。“現実から思考を少し別の所に移す”じゃないですけど、それがリフレッシュになると知って、難しく考えていた瞑想をすごく身近に感じる機会になりました。「あなたの好きな場所を想像してください」など先生の声を聞きながらその通りに想像していくっていう体験をしたりして。そう考えると、日常のいろんな所に瞑想チャンスがある。音楽を聴くこと一つ取っても、すごく集中して聴くのと、流してなんとなく聴くのとではすごく違うし、曲についてものすごく考えてみるとか、ものすごく感じてみるとかでも軽い瞑想になるのかもしれないなと思ったら、身近なものに感じられました。その後、本をテーマにした回もあったのですが、読書も瞑想状態になれるものの1つなんじゃないかというお話をしたりしていると、リフレッシュする機会が思っていたよりも身近に自分で探せるようになっていったり。考え方が変わる機会になりましたね。
星野:瞑想、面白いですよね。僕、瞑想センターで10日間の合宿をやったことがあります。奥津さんがおっしゃったように、何か食べるときでも瞑想的になるし、歩くときとかも、歩いてるときに地面を蹴るとか、どんな空気を感じてるのかとか、どんな音が聴こえるかみたいなことに集中する。その、“今ここに集中する”っていうのが、瞑想的な感じだと思うんです。
――星野さんが特に印象深かった回はありますか?
星野:さっきも言いましたけど、MCのお2人がめちゃくちゃ面白いんです。たまにほかのラジオ番組などに呼んでいただいたとき、MCの方々のことを「素敵だな」「しっかりされてるな」と思うことはあるのですが、『B-side Talk』のように「2人の話を聞いていたいな」という感覚になることってあんまりない。それが毎回印象的です。番組も決まった流れじゃなく、その時その時の会話で形成されていく。奥津さんがまだ参加される前ですが、以前、小原さんと僕が長めに話した回があって。話すテーマも決まっていなかったのでどうしようかと考えていたら、ディレクターの方が「例えば、大谷翔平は?」と。それで小原さんが話し始めるんですけど、小原さんも僕も大谷翔平さんのことをほとんど知らない(笑)。それでも、何かを話そうとするんですよ。だから、「海外の野球選手で〜」「二刀流で〜」みたいな、“浅瀬”くらいのことしか話せないという。コントみたいな空気になりましたが、そういった体験をしたのも個人的には印象深いですね。
考えがグルグルしたら
“ネジを回すだけ”のゲームで切り替える

――『B-side Talk』では、表に立つ自分=A-side、普段の自分=B-sideとして、業界や性別に関わらず、幅広くメンタルケアについて発信されています。一方でこの連載は、エンタメ業界の女性の活躍を後押しすることを目的にしているのですが、『B-side Talk』の番組を通して、特に女性から多く寄せられる悩みだったり、女性特有のテーマなどはありますか?
奥津:私が関心を持ったというか、女性に聴いてほしいと感じた回の話になるのですが、“涙活”をテーマにした回があって。そのとき、悲しくて流れる涙だけじゃなく、感動して流れる涙でも、1粒でも流れればストレスが軽減されると聞いたんです。エンタメ業界で働く女性はタフでいなきゃいけない場面がすごく多いから、「泣くなんて」って方もいると思うんですね。泣いてもどうにもならないし、泣いてる暇があったらほかのことをやらなきゃっていう……私もそういう考えでいたんですけど、“涙活”の回で、涙を流すことに意味があるということを知りました。涙はストレスを減らす……この1粒って、ストレスなんですって。ストレスが入っていて、流すことで1週間ストレスを抑えるホルモンも出る。しかも、幸せホルモンも分泌されやすくなる、みたいな。涙を流すと体の中でそういうことが起こると知って泣くことのハードルが下がったので、女性の方にもぜひ聴いていただきたいと思います。
星野:涙って心が揺れたとき、心が震えたときに、その身体反応として流れるものなんじゃないかと思うんです。“サウナで汗が出る”みたいな身体反応なんだと思うんですよね。汗は、暑いから出るわけじゃないですか。で、涙が流れるっていうのは、心が震えたり、心が揺れたりしていることに対しての体の表現なんです。身体反応って勝手に起こるから止めたりできないはずなのに、何となく一般的な感覚として、「涙を流したら負け」みたいな感じが、もしかしたらあるかもしれなくて。でも、それは“サウナで汗をかかない”という状況に似てるというか……つまり、けっこう体に無理をさせてるんだと思う。そういう意味でも、無理しないで涙を流すことを存分にできる涙活って、僕はすごく良いと思います。たぶん、体も心も嬉しいんじゃないかな。
――お二人が「最近疲れたな」「しんどいな」など感じた際、自分なりのケアの方法や、乗り越えるための工夫などはありますか?
星野:疲れか……疲れにもいろいろありますよね。
奥津:私は、ライブでは落ち込まないんです。ライブは“生き物”なので、失敗しても仕方がない。「ライブだから起こること」「いっぱいやってたら、そりゃあ起こる」と捉えていて。でもそれ以外、例えばお話をする仕事などで失敗をすると、すごく落ち込む。言葉を発することについて、自分に対してすごくプレッシャーをかけているみたいなんですよね。「誰かを傷つけてなかったかな」「あの言い方だとちょっと嫌に聞こえる人もいるかもしれないな」とか、いっぱい考えちゃう。家に帰ると、お布団の中でその日しゃべったことの反省会をしてしまって。「あのときの最適解って何だったんだろう」「どういう言い方をすれば良かったんだろう」って……自分の中の正解を見つけるまで、本当に眠れなくなっちゃったりするんですよ。でも「じゃあ次はこう言おう」って終わらせるしかないんですけど、するとまた、「いやでも、その言葉もなあ」ってまた考え始めてしまう。このループに入っちゃうと眠れなくなって、不安になるんです。
――そういったときの対処法などは?
奥津:考え切って「一旦、今日はここまで!」ってなったら、携帯アプリのネジを回すだけのゲームをやってます。ポチポチって。一時期、ランキングに入ってたりもして(笑)。
星野:すごい(笑)。あれやってる人、何人か知ってます。
奥津:そういう無心でできるゲームを、真剣に、目を見開いてやってます。リフレッシュというより、切り替えですね。もう、とりあえずピチピチピチ……ってやって、「よしっ! スコアあんまり良くないけど寝よ!」みたいな感じ。
星野:瞑想に近いですよね。今日、たくさん瞑想の話をしていますけど(笑)、僕が瞑想センターに行ってみようって思ったのも、そういうことがきっかけだった気がします。瞑想センターでは音声を聴きながら瞑想していたのですが、1日10時間とかやるんですよ。その音声で言われているのが、「すべてのものは移り変わっていく」「それに執着しないで」という趣旨のこと。僕も、何かで頭の中がグルグルしてしまったら、その言葉を思い出すようにしてます。キツくなるとき……例えば昔のことを思い出したりとか、「今日、こんなことを言ってしまったな」とか思うときって、そこで思考が止まってグルグルグルグルするじゃないですか。ずっと「ああでもない、こうでもない」と考えてしまう。それはそれで何か意味がありそうな気もするんですが、でも、一旦それを手放して、執着せずに過ごしてみようと思うようにしていますね。
――切り替える、という意味では、お二人とも基本的に共通した対処法ですね。
星野:それに、体が疲れてるときにそういう思考に陥りやすいことにも気が付いてきたんです。体に余裕がなくなるとそういう思考が頭から離れなくなるから、スーパー銭湯に行って、まず体を温める。体を温めて出てきたら、「あれ? なんか大丈夫じゃん」という感じになったりするっていう経験を積み重ねているので。体を温めるっていうのもすごく大事なんじゃないかと思ってます。
調子が悪いときだけじゃなく
“良い状態”を認識することも大切


――『B-side』プロジェクトが発足して4年が経ちました。お二人はそれぞれ番組を通じて発信する側としてこのプロジェクトに関わる中で、“メンタルケア”に対する世の中の意識の変化などを感じることはありますか?
奥津:アイドル目線で言うと、精神的に疲れてしまってお休みする子が増えていますよね。それ自体は悲しいことですが、一方で、お休みできるという選択肢があることは素敵なことだなとも思います。「待ってるからね」「とにかく休んでね」という声をかけ続けてくれるファンの方もいて、それを見ると、休む選択肢があることの良さを感じますね。自分が休むことがあったとしても、戻る場所がある、待っててくれている人がいる、休むことを理解してくれる……のであれば、心に余裕が生まれるのかなと考えることはあります。
星野:「休んだら遅れを取るんじゃないか」「存在意義や居場所が減ってしまうんじゃないか」と考えてしまうかもしれませんが、やはりエネルギーは無限ではありません。休むこと自体が一般的とまではいかないにせよ、疲れたら少し休んで、また復帰するっていうモデルケースをアーティストの方々が体現してくださるのは、ものすごく大事なことだと思います。無理をする人が減りますからね。僕、診療で子供とも会うんですけど、子供たちが学校に馴染めなくなることってたくさんある。その受け皿となる“学校じゃない場所”って、いろいろできているんですよね。それこそ、4年前よりも全然増えていると思います。そういう意味でも、今の状態はキツいからちょっと休むとか、別の所に行ってみるという柔軟性みたいなものが、当たり前になっていくといいなと思う。自分のA-sideだけじゃなく、B-sideもAと同じぐらい意識することは、メンタルヘルス的にとても大事だと感じます。
――デビューしたばかりの若いアーティストやタレントの方々もそうですし、新入社員の方々などもそうだと思うんですけど、やはり気負ってしまうようなことがあると思います。そういう方々に、何か声をかけるとしたらなんと声をかけますか。
奥津:「自分の気持ちを常に周りの人に話しておくといいよ」と言いたいですね。「それができる状況を自分で作っておくといいよ」って。活動をしていると、大好きな歌とか、自分の夢だったことをやっていると思えるので基本的にはすごく楽しいんです。だけど、お仕事にするとなれば楽しいばかりではいられない瞬間もあるわけで、それを乗り越えないと楽しい瞬間はやってこない。それを考えると、どんなに好きなことをやっていても波は生まれてきてしまうと思う。だからこそ……星野さんが以前「調子が悪いときだけじゃなく、調子の良いときを知ることで、“調子、悪いんだな”というのがよく分かる」とおっしゃっていたのですが、それが自分の中に残っていて。
星野:やっぱり、自分の状態を人に話しておくことって本当に大事だと思います。調子が良いときはあまり人に「調子が良いんですよ」とは言わないけれど、調子が悪いと相談したいから、人に話すことが多いですよね。でも、調子が良いときも言っておく。そうすることで、自分が調子が良いことを認識できる。調子の良さのレベルを認識できていないと、上がりすぎてしまって、相手に偉そうな態度を取ったりしてしまうこともあるかもしれない。
奥津:だから私も、調子が良いときも「この活動がすごく楽しくて、ライブがすごく楽しくて」と日々いろんな人に話すようにしていて。それによって「ちょっと調子悪くなったな、最近楽しくないな」と思ったときも周りに話しやすくなるし、周りのスタッフさんや一緒にやっているメンバーも察知しやすくなるのかなって。どうしても、A-side、B-sideで言うB-sideのほうで「どうしよう、どうしよう」って考えがちだけれども、A-sideの自分もよく知っておくことが、B-sideの自分にとって大事になることがあるのかなと思います。なので、調子が良いときに調子に乗りすぎない。楽しいからといって、楽しさだけで頭をフワッとするよりも、「今、ちゃんと楽しいな」とか、「ライブをすることが楽しいな」とか、「歌っていることがすごく幸せなんだな」っていうことをちゃんと認識しておくのがいいと思うんですよね。
星野:いや、僕が以前お話ししたことがそんなふうに考えるきっかけになったとおっしゃってくださって、感無量です。調子が良いことって、嬉しいことです。それは良いことだけど、嬉しいっていうことも自分でちゃんと認識するというか、「今、嬉しいんだよね」「良い感じなんだよね」って話すことで、1回そこでそれを認めて確認していくのも大事。突き抜けないように。

プロフィール
5人組アイドルグループ フィロソフィーのダンスのメンバー。ソロではグラビアなどでも活躍する。ポッドキャスト番組『B-side Talk ~心の健康ケアしてる?』では、小原ブラスとともにMCを担当。フィロソフィーのダンスは、2015年に活動を開始し、2020年にソニー・ミュージックレーベルズよりメジャー・デビューしたアイドルグループ。2025年に結成10年目を迎えた。
精神科医、文筆家など。元バンドマンという経歴で、音楽活動も行う。著書にいとうせいこうとの共著『ラブという薬』、『自由というサプリ 続・ラブという薬』(どちらもリトルモア)、『こころをそのまま感じられたら』(講談社)『ないようである、かもしれない〜発酵ラブな精神科医の妄言』(ミシマ社)など。
関連リンク
- ・フィロソフィーのダンス 公式X
- ・フィロソフィーのダンス 公式Instagram
- ・フィロソフィーのダンス 公式TikTok
- ・奥津マリリ 公式X
- ・奥津マリリ 公式Instagram
- ・奥津マリリ 公式TikTok
- ・星野概念 公式X
- ・星野概念 公式Instagram
「B-side」とは?
2021年9月より、ソニーミュージックグループ各社においてマネジメント契約のあるアーティスト、俳優、タレント、作家、およびこれらのクリエイターと直接仕事をするスタッフが、心身ともに健康な状態で創作活動に集中できるようにサポートすることを目的としてスタートした、メンタルケアのプロジェクト。現在は「オンライン医療相談」「体験カウンセリング」「専門家によるカウンセリング」「ワークショップ」を社内にて無償で提供しています。このような取り組みをソニーミュージックグループのみならず、音楽業界全体で利用できる仕組みとすべく、2024年秋からは賛同いただいた社外プロダクションでも順次ご利用いただいています。
2025年10月10日の世界メンタルへルスデーでは、#じょうずにやすもう をテーマに掲げ、B-sideが運営するPodcast番組「B-side Talk」での特別企画や、「B-side Talk」にゆかりのある方たちから寄せられた、自分の休め方やリフレッシュ方法を紹介するハッシュタグキャンペーンなどを実施しています。
▼『B-side Talk ~心の健康ケアしてる?』とは?
2022年10月の配信開始以降、心と身体の状態に気を配り、自分自身を大切にしていくことの重要性を幅広い層に伝えていくことを目指しているこの番組では、MCにタレント/コラムニストの小原ブラスと、五人組アイドルグループ・フィロソフィーのダンスのメンバーである奥津マリリを迎え、毎回設けるテーマに詳しいゲストから、心と身体の健康に関する知識や情報をお聞きしていきます。また、2025年6月からスタートした番組内企画「My Tune, My Mind」では、精神科医/ミュージシャンの星野概念をMCに、様々なゲストを迎えて音楽やセルフケアなどについて気ままにお送りしています。




























