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<インタビュー>harhaが語る、3年目の進化と信頼 ドラマ『すべ恋』OP「素描」で描いた“別れ”のかたち

Interview:沖さやこ
今年10月に結成3周年を迎えた、クリエイターのハルハと、ボーカリストのヨナベによるポップスユニット・harha。彼らの2025年は、大きな変化と進化に満ちたものである。
3月には初ワンマン【ミライサイライ】、8月には2ndワンマン【オトナタイコウ】を開催し、それぞれ異なる趣向のパフォーマンスで観客を大いに沸かした。そして楽曲面でも7月には初のドラマタイアップ書き下ろし曲「マスカレード」を、8月にはハルハがこれまで意図的に避けていた自身のパーソナルな要素をふんだんに盛り込んだ「えくぼ」をリリースした。
最新シングルであるTVドラマ『すべての恋が終わるとしても』のOP楽曲「素描」(読み:そびょう)は、ドラマの要素、ハルハのパーソナルな思い、ヨナベの楽曲の解釈が三位一体となり、まっすぐな愛情に満ちたバラードに仕上がっている。様々なターニングポイントを迎えている彼らは今、どんなことを大切にしながら音楽と向き合っているのだろうか。
【オトナタイコウ】に込められた思い
――harhaは今年3月に初ワンマンライブ【ミライサイライ】を、8月には2回目のワンマンライブ【オトナタイコウ】を開催しましたが、この2公演でまったく違うアプローチをなさっていることに驚きました。初ワンマンでは映像を大々的に使用していましたが、8月のワンマンでは照明やレーザー、スモークなどの演出とご自身のステージパフォーマンスで観客を沸かしていましたね。
ハルハ(Creator):初ワンマンは今まで作ってきた楽曲をどう披露するかを重点的に考えて作ったんですが、そのときに想像以上にお客さんが飛んだり跳ねたりしてくれて、かけ声や歌声もたくさんくれたんです。
ヨナベ(Vo):映画を観るような感覚で観てもらえるのかなと思っていたら、めちゃくちゃ大盛り上がりしていただいてね。わたしたちが煽ったりしなくても、お客さんが自ら楽しみに行くくらいだったんです。
ハルハ:これはめちゃくちゃ予想外でした(笑)。最初の登場も静まり返っているだろうなと思いきや、大歓声で迎えてもらえて。harhaの楽曲を聴いてくださっている方々ばかりが目の前にいるという状況が初めてだったので、その光景が本当にありがたかったんですよね。それを受けて8月のワンマンではもっと一緒に楽しんでいくライブにシフトしていったんです。
ヨナベ:思い切って違うことができたのは、初ワンマンの盛り上がりがあったからこそですね。お客さんに全体的な信頼を寄せられたからこそ、あの演出が組めました。
――8月のワンマンはライブアレンジもふんだんに盛り込み、ほぼノンストップで曲をつないだドラマチックなライブで、没入感もありました。初ワンマンに続き参加したバンドメンバーの演奏との一体感も相まって、後半の怒涛の追い上げも熱量と爽快感があって。
ハルハ:8月のワンマンは【オトナタイコウ】というコンセプトのもと作っていったので、初ワンマンよりもエネルギーが感じられるものを目指しましたね。その結果レーザーを入れて照明の演出に力を入れたり、スモークを使ったり、ヨナベさんのメガホンマイクも“抗い”が見えるものになったかなって。あとお立ち台を使ったりもしましたね。
――【オトナタイコウ】というライブタイトルにもあるように、“大人”はharhaの音楽においてひとつキーワードになっていると思うんです。ワンマンの直前にリリースされた「えくぼ」の歌詞にも出てきます。
ハルハ:僕にとっての“大人”は、何かに抑圧されていて好きなことができない状況のことなんですよね。子どもの頃に「宇宙飛行士になりたい」と言うとみんな応援してくれるけど、大人になってそれを本気で言うと呆れられちゃったりする。大人になればなるほどどんどん夢を見られなくなって、日々が現実になっていくんですよね。一番身近なことで言うと、大人は「遊ぼう」って言わないじゃないですか。
――そうですね。仲のいい人を誘うにしても、ごはんに行こう、旅行に行こう、宅飲みしよう、などなど。
ハルハ:僕、今も全然ケイドロとかしたいんですよ(笑)。年々「遊ぼう」という概念が薄れていくことに寂しさを感じていて、大人になっていく過程のなかで「なるべく子どものままでいたい」という思いがどんどん強くなっていったんです。【オトナタイコウ】というライブタイトルも、「どうしたって大人にはなっていくけど、いろんなものから抗いながら小さなワクワクを忘れずに生きていこうね」という思いを込めたんですよね。
――その精神がharhaの「子ども心を忘れない」というポリシーにつながっていくんですね。ヨナベさんはハルハさんの考え方にどのような印象を持っているのでしょう?
ヨナベ:わたしの周りにいる大人たちは結構やりたい放題好き勝手に生きているタイプなので(笑)、どちらかというと年を取れば取るほど年を取る楽しみを感じているんです。ハルハくんの言っていることを踏まえると、わたしの周りの大人たちは子ども心を忘れていないからこそ楽しそうなのかなと思って。だから大人になる楽しみと、子ども心を忘れないことの両方を織り交ぜて考えていけたらいいなと思っていますね。

――おふたりの話に共通する概念が“自由”なのかもしれないですね。「えくぼ」は「誰しもが親には子どもの頃の感情を見せてしまう」というテーマから生まれたそうですが、そこに至った経緯とは?
ハルハ:ふとしたときに、僕の祖母にとって僕の母はいつまで経っても子どもだし、母にとって祖母は唯一自分が子どもになれる存在だなと思ったんですよね。大人になってから子どもになれる瞬間があることはすごく大切なはずなのに、いま僕の母と祖母は遠く離れたところに暮らしていて、なかなか会うことができなくて。甘えられる場所、帰れる場所になかなか帰れないことがすごく寂しいな、悲しいなと思ったんです。そこから歌詞を書いていきました。
ヨナベ:この曲はハルハくんがしっかりと長文で曲に込めた思いを送ってくれたのと、個人的にはこれまでのharhaの曲でいちばんストーリーが鮮明に見えてくる曲だったので、そのうえで自分なりにいろいろと考えてレコーディングに臨みました。曲と同化しながらレコーディングをしていくうちに、どんどんイメージが湧いてきて「自分にもこういうことがあったな」と自分の経験のように感じてくるんです。だから感情が乗せやすかったですね。
――なかでも3拍子に変わるところは印象的でした。《いずれ全て脱ぎ捨て/遥かな竜へと/えくぼのような祝福と/僕らの両手で》というアート性の高い歌詞も引き立ちます。
ハルハ:3拍子には讃美歌の雰囲気や多幸感があるので、そういう結末にしたかったんですよね。だから《いずれ全て脱ぎ捨て~》のところも天に昇るイメージで書いたものなんです。もともと“えくぼ”は子どもの心理学の本を読んでいるときに「いつか使いたいワードだな」とストックしていたワードで、この曲を書き始めたときにそこから引っ張ってきたんです。それでえくぼについて調べたら、たまたま見かけたネットの記事によると、えくぼには「前世で親孝行をした人」「神様がつけた印」という言い伝えがあるらしいんです。今の親孝行が、来世でえくぼとして残るなら、すごく素敵だなと思ったんですよね。
――確かに“えくぼ”は“子ども心”とつながるモチーフだと思います。harhaのタイトルのワードチョイスって、子どもや10代の純粋さやワクワク感がありますよね。ナチュラルな可愛らしさというか。
ハルハ:そうそう、そうなんですよね。ひらがなってかわいいじゃないですか。“えくぼ”はめっちゃharhaっぽい(笑)。
ヨナベ:“ちっぽけ”とかもそうだよね。かわいい。
ハルハ:そのあたりは谷川俊太郎さんからの影響も大きいですね。harhaの言語バランスや適正は始動当初から定めていて、harhaの世界観を作っていくうえで似合う言葉をザッと書き出していったことがあるんです。そこからこまめにワードはストックするようにしています。でも「素描」はそれとは関係なく、書き下ろしさせていただいたドラマからのイメージなんですよね。
もう会えなくなった人に思いを馳せられるような曲になったらいい
――「素描」はTVドラマ『すべての恋が終わるとしても』のOP楽曲。harhaにとって2曲目のTVドラマ書き下ろしタイアップ曲ですね。7月にリリースした初のTVドラマ書き下ろしタイアップ曲「マスカレード」は華やかなホーンが鳴り響くポップソングでしたが、今回は静謐で美しいバラードです。ドラマは主人公が美術大学に進学するところから物語が始まります。
ハルハ:台本をすべて読ませていただいたうえで制作に入ったので、ドラマの様子はふんだんに入っていますね。最初からバラードを作るつもりでいて、あらためてバラードにおいて歌詞はすごく大事だな……と痛感したんです。歌詞が前に来るアレンジにしたかったし、前に出てくるに相応しい言葉を探していきました。「素描」も「マスカレード」も作品に寄り添った曲にはしつつ、僕が思っていることを書くという大前提はぶれていませんね。
――「素描」も「マスカレード」も、タイアップ作品の要素を取り入れつつ自分の心情を書いていくような感覚で制作したものですか?
ハルハ:「マスカレード」はどちらかというと、ネットを見ていて感じたことですね。僕は普段等身大で生きているけれど、世の中には場を丸く収めたくて自分の本心が言えなかったり、いろんなしがらみに雁字搦めになって生きづらさを抱えている人がすごく多いと感じるんです。でもみんな仮面をつけて、傷ついているのを隠そうとする。それはある意味優しさだよなと思うんです。
ヨナベ:わたしも喜怒哀楽の怒と哀を出すのがうまく出せないというか、そのふたつを出すのがあんまり好きじゃないんです。できれば人といるときはずっと笑っていたいという気持ちがあるし、普段自由に振る舞っている人も、自分以外の人に気遣いができるからこそ自分のやりたいことができているからなのかなとも思っていて。だから「マスカレード」はどんな仮面を被っていてもいいよね!と全肯定の気持ちで歌いました。
ハルハ:優しい嘘は誰かのためでないとなかなか言えないし、それこそその人の強さの表れだと思うんですよね。世の中には全然普通に生きられているし、友達もいるけど、ふとしたときに孤独を感じて苦しくなる人たちが多い気がしていて。そういう人たちの心をふっと軽くできたらいいなと思っています。「素描」はドラマのテーマが“恋の終わり”なので、そこを掘り下げていった結果、恋愛に限らずに“別れ”と向き合っていく制作になりました。だから自分のちっちゃい頃に遊んだ幼馴染のこと、おじいちゃんおばあちゃんのこと……今はもう会えない人やペットとか、いろんな別れを思い起こしたので、別れそのものを広く書きたかった。恋愛関係に限定したくなくて、主語も入れなかったんですよね。
――だから「素描」はただただ“あなた”への思いが綴られた楽曲になったんですね。
ハルハ:広い意味での愛の唄ですね。別れの悲しみではなく、いくつになっても思い出してしまうぬくもりや優しさを大切にしたかったんです。だから別れてすぐではなく、ある程度時間を置いてからの別れを書いています。「学校で隣同士になって、よく話していたあの子は元気かな?」とか、「初恋のあの子は幸せに暮らしているかな?」とか僕もよく考えるので、会えなくなった大切な存在に手紙を送るようなイメージというか。その人との思い出を一つひとつ思い起こしているような温度感にしたかったんですよね。
ヨナベ:「素描」のレコーディング直前にドラマの台本を全部読んだので、レコーディング中に《初めて出逢った誰かの口癖に/あなたの面影をまた感じます》という歌詞を歌った瞬間に頭の中にドラマのストーリーが鮮明に蘇ってきて、自分の素直な気持ちを乗せられました。聴いてくださった方々も、もう会えなくなった人に思いを馳せられるような曲になったらいいなと思います。
ハルハ:ヨナベさんの歌も今までよりも表情がめちゃくちゃ見えていて、歌い出しの瞬間から新しさを感じたんですよね。ウィスパー寄りだけど言葉が聞こえる歌い方で、「これはいい曲だ」と確信して。オケもピアノ、ベース、ギターだけでなくストリングスも全部生演奏で録っていただいて、僕が想定していた仕上がりをどんどん超えていきました。いい曲になったな……と他人事のように思えるほど感動しましたね。
――harha始動から3年の月日を共に歩んできたからこそ、ハルハさんのパーソナルな部分を表現した「えくぼ」や、タイアップ作品の要素を取り入れて新たな表現を開拓した「マスカレード」と「素描」が強度をもって生まれてきたのかもしれないですね。
ヨナベ:もう3年も経ったんだ。でもこれまでやってきたことを振り返ると、そりゃ3年経つよなあ……とも思うんですよね。(紙資料のディスコグラフィのページを眺めながら)
ハルハ:ほんとこの3年、すごくいろんなことがあったね(笑)。高1だった子が高校を卒業するくらいの年月が経ってるわけだから。
――harhaさんが人生でいちばんヘビーだったという高校時代と同じ時間が経っています。
ハルハ:ほんとそうですよね。感慨深いなあ……。この3年間は振り返る瞬間がないくらいとにかく毎日が怒涛で。
ヨナベ:たまにレコーディングとライブリハとあれやこれやが全部重なる、とんでもないスケジュールになるときがあるからね(笑)。
3rdワンマンは大きな節目になる
――2026年3月にZepp Shinjukuで開催される【キボウカクメイ】ではまた新しいharhaが観られるのでしょうね。タイトルからもポジティブなエネルギーが感じられます。
ハルハ:【キボウカクメイ】の“カクメイ”はナポレオンのような大それたことではなくて、「今日の帰りはいつもと違う道を通っちゃお」みたいな、小っちゃいことでも勇気を出して選択することを指しているんです。それはすごく有意義で意味のあることだし、そういうところから希望につながっていくと思うんですよね。「大冒険の小さな革命をみんなで起こそうぜ」みたいな、新しいことを探しに行ってほしいという意味を込めました。
ヨナベ:Zepp Shinjukuは1階と2階の間をLEDモニターが囲んでいて、アーティストごとにいろんな使い方をしている印象があるんです。harhaはどんなふうにあの設備を使っていくのかなと、自分でも楽しみですね。
ハルハ:会場が変わるとできることの幅も広がるし、今までのワンマンとは違うものにしたいですね。【ミライサイライ】【オトナタイコウ】と来て今回は【キボウカクメイ】なので、これまでのエピソードの終幕みたいなイメージもあって。全部ひっくるめて面白いものができたらいいなと思っているところですね。

――2025年はharhaの積み重ねてきたものと変化がどちらも健やかに発揮されているので、【キボウカクメイ】はそのひとつの大きな節目になりそうですね。
ハルハ:そうですね。「えくぼ」みたいな曲は、今年だからリリースできたと思うんですよ。最初のうちは「harhaの楽曲をより多くの人に届けたい」という漠然と大きな気持ちがあったから、楽曲にも自分のパーソナルを書かないようにしていた。でもライブ、特にワンマンで届ける相手の顔が見えたことで「僕はこの人たちに向けて曲を書いていたんだ」と漠然としたイメージと現実がつながったんですよね。そうしたら安心できて「別に僕が僕のためだけに作った曲でも、みんな自分事として受け取ってくれるだろうな」と思えたし、「えくぼ」は素直にいい曲ができたと思えているんです。この曲を完成させたことが転換期になって、その後に作る曲は自分なりの解釈をより色濃く混ぜられるようになってきたんですよね。
――それが「マスカレード」や「素描」といったタイアップ曲にも活かされているんだろうなと思います。harhaが初期から目指していた“聴き手とのコミュニケーション”がより深く実現できるようになっているんでしょうね。
ハルハ:それができるのもヨナベさんの声があってこそなんですよ。harhaのクリエイティブとして、僕の素直な気持ちで書いた曲にヨナベさんの声を通してヨナベさんの考え方が入ってくることはすごく理想的だし、掛け算が起きているなと感じるんです。特に「えくぼ」から「ヨナベさんの思ったように歌ってもらって大丈夫だ」と絶大な信頼を置けるようになった。だから本当に、今はharhaの転換期だなと思っているんですよね。




























