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<インタビュー>「1/2と1/2を足したらきれいに私という1になる?」にしなが『らんま1/2』第2期エンディングで描く裏返しや相反する感情の揺らぎ

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 にしなが新曲「パンダガール」を発表した。この曲は「完全新作的アニメ」として2024年から放送・配信中の高橋留美子によるドタバタ格闘ラブコメディーの名作TVアニメ『らんま1/2』の第2期エンディング・テーマだ。水をかぶると女の子に変わり、お湯をかぶると男の子に戻る主人公の乱馬をはじめとした個性的なキャラクターたちによるハチャメチャな世界観が、ファンキーなバンドサウンドと遊び心のあるアレンジで表現され、「1/2」というワードから発想を広げた歌詞の内容も実にユニーク。「パンダガール」の制作エピソードを軸に、にしなに現在のモードについて語ってもらった。(Text & Interview: 金子厚武 l Photo: 堀内彩香 l Hair & Makeup: eriko yamaguchi l Styling: hao)





──新曲の「パンダガール」はTVアニメ『らんま1/2』第2期のエンディング・テーマですね。

にしな:子供の頃はあんまりアニメや漫画を見てなかったんですけど、家族にアニメ好きがいて、『らんま1/2』は当たり前のように知ってるというか、世代を超えて愛されてる名作というイメージがありました。『うる星やつら』もそうですけど、高橋留美子さんの作品には独特の世界観がギュッと詰まってるものが多いじゃないですか。曲作りにも似た部分があると思っていて、そういう独特の世界観があるからこそ、その曲を作らせてもらえるって知ったときは、どんな曲になるのかとてもワクワクしました。

──アニメからどんなインスピレーションを得て、楽曲を制作しましたか?

にしな:エンディングなので、最初は乱馬とあかねの恋心をしっとりとゆったり歌うような楽曲がいいかもっていうお話だったんですけど、『らんま1/2』の「ハチャメチャ感」がすごく強かったので、エンディングとはいえ、そのハチャメチャさやポップさを取り入れたいと思ったんです。最後にかかったときに、次のエピソードはもちろん、明日の自分の日常が楽しみになるような、ワクワクする楽曲を目指したいなと思いました。この曲のテーマは乱馬とあかねの恋愛関係もあるんですけど、タイトルの「1/2」がすごく印象的だったので、このワードから自分自身の中にある“1/2な部分”だったり、表裏一体の感情だったり、そういうところに着目しながら曲を作っていきました。

──編曲は100回嘔吐さんで、ファンキーなバンドアレンジが印象的です。曲調のイメージはにしなさんの中でどの程度ありましたか?

にしな:一番を作り終えて、それを嘔吐さんにお渡ししたんですけど、弾き語りの状態からどうハチャメチャさが出るか、どこまで中華感を出すかといったことをやりとりしました。ピュアなんだけど、ひっくり返しちゃう幼さとか、まとまってるけど、まとまってない感じとか、そういう抽象的なことをいっぱいぶつけて、最終的に今の形になりました。


──ジングルっぽい始まりからしてユニークですよね。

にしな:あの部分は自分のデモの段階からありました。最初はもっと自分じゃない声、ロボットみたいな声にしたいと思ってたんですけど、エンドロールの最初のつかみで自分の声じゃなさすぎても変かなと思って、そこのバランスは考えました。『らんま1/2』の過去のテーマソングって、らんまらしい曲が多いじゃないですか。ちゃんと『らんま1/2』というものに対して曲を書いている。そこにすごくリスペクトがあったので、今回もそういう曲にしたいなと思って。「印象的なつかみってなんだろう?」と考えて、中華のイメージからカップラーメンが思い浮かんで、〈お湯をかければ3分〉の歌詞ができました。乱馬もお湯をかぶったら変身するし、最初のつかみとして遊び心をぎゅっと入れたいなって。

──遊び心でもあるし、原作リスペクトの表れでもあると。

にしな:本当はお湯がかかると乱馬は男になるわけですけど、自分的に「パンダボーイ」がはまらなくて。ここは母音的に「ガール」で行きたかったんです。〈ラーメン?パンダ??ガール???〉ってハテナをつければいけるかなって。これはもう、遊び心として受け取っていただこうと(笑)。玄馬(乱馬の父。水をかぶるとパンダになる)のことももちろんあるんですけど、パンダの白黒と、あかねの「好きだけど嫌い」みたいな、その白黒さは通じる部分かなって。

──歌詞に関しては先ほど話していただいたように、「1/2」というワードから発想を広げているわけですよね。

にしな:テーマというか、軸になったのは「裏返し」みたいな部分です。そこからいろいろ妄想する中で、〈逆さのハートマーク てっぺん突き刺す悪魔キューピー〉ができたり、星は裏返しても同じだから、〈とげとげ星のマーク これって正直無駄なループ?〉が出てきたり。マグネット(磁石)も反発しててもひっくり返せば引き寄せ合うから、心みたいだなと思ったんです。小学校の頃にマグネットで砂鉄集めをやったのを思い出して、〈ひっくり返しマグネット 反発し合う運命 砂鉄みたいな胸のざらつき〉を書きました。過去を振り返り、思い出で遊びながら、歌詞を書き進めた感じですね。



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──乱馬とあかねも実際にはお互いを思いながら、表面的には反発してしまう。そういう感情の裏返しともリンクしていますよね。

にしな:ひっくり返しちゃう気持ちがすごくわかるので、それも含めてかわいいと思ってもらえる曲になったらいいなと思ってます。私もよく思ってないことを言っちゃうことがあって、オセロみたいに永遠にひっくり返してる気がします(笑)。

──歌い出しの〈半分こじゃないの1/2〉〈足しても2人は1にならないrelation〉はどんなイメージですか?

にしな:1/2って足したら1になるけど、1/2は1/2で完成していて、それを足したら1になるわけでもないというか……例えば、相反する2つの感情、嬉しいが1/2、悲しいが1/2あっても、それを足したらきれいに私という1になるかといえば、そうではなくて……わかりますか(笑)?

──感情や感性は白黒はっきり半分に分けられるわけじゃなくて、もっとグラデーションがあるということですよね。『らんま1/2』を今リメイクする意味として、ジェンダー論的な視点があると言われてるじゃないですか。主人公が男になったり女になったりする設定もそうだし、「男らしさ・女らしさ」を強調することで、逆にその揺らぎが表現されている。〈半分こじゃないの1/2〉という歌詞はそんな感覚とも通じるものがあるように思います。

にしな:ジェンダー論が盛んに話されるようになったのは比較的最近のことだと思うんですけど、『らんま1/2』って割と昔の作品じゃないですか? 作品の中にそういうテーマ性が内包されていて、当時のことを考えると「めっちゃ先取りだな」っていう印象がありました。これがまた現代でアニメ化されて、どういう方向性になるのかはわからないですけど、個人的にはジェンダーにまつわる話が話題になるのはいいことだなって思ってます。乱馬が男の子になったり女の子になったりするのは自分の意思ではないですけど、現代のリアルに生きる人でも同じようなことはあると思ってて。私自身、「今日はかっこいい男の子みたいな格好をしたい」っていうときもあるし、「今日はかわいい女の子みたいな格好をしたい」っていうときもあって、こういうバランスは誰しもあるものだと思う。「自分は男の子」「自分は女の子」と思ってる人にも無意識にある感覚なんじゃないかと思います。

──よくわかります。それこそ男女っていう性別も実際にはきれいに半分に分けられるものでもないというか、それぞれの中に男らしさ・女らしさがある。歌詞で直接それに言及しているわけではないかもしれないけど、そういう割り切れなさに人間の面白みを感じているような、そんな感覚も背景にはあるのかなって。

にしな:そうですね。自分の中に男性性と女性性という1/2があって、でも日によって半分こではないというか、そこには揺らぎみたいなものもある。日によって機嫌が違うのと同じくらい、当たり前に誰でもある感覚だと思うんです。「1/2」というワードから、そんなことをいろいろ考えました。



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──以前取材をしたときに、最近は事務所のブースで歌録りを一人で行っているという話がありましたが、今も続けているのでしょうか?

にしな:今もやっているんですけど、最近はスタジオに戻ろうかなと思っていて、次のレコーディングはスタジオで録る予定になってます。

──自分の中でなにか掴んだものがあったわけですか?

にしな:自分でも悪い癖だなと思ってたんですけど、「大きい声が出ればいい」ってすぐ前傾姿勢になっちゃうんですよ。レコーディングでも、声をしっかり張ることをすごく大切にしてたけど、それがすべてじゃないって、いろいろ録りながら改めて感じました。自然体でやっていたとき、後ろに重心を乗せていたときのほうが気持ちよかったのを思い出して、最近は後ろに重心が乗った状態でいかに声を楽に出せるかを模索してます。

──今年のリリースだと、「weekly」のボーカルは印象的で、あの曲は張るというよりも、もっと自然体でビートに乗って歌っているように感じました。

にしな:「weekly」も自分で録りました。やっぱり一人だと、好きなタイミングで録れて好きなタイミングで聴けるので、いろんなニュアンスで録って聴いてを繰り返すことで自分が出したいものを追求できた気がします。

──ライブからのフィードバックもありますか?

にしな:ありますね。今年【RUSH BALL】に出たときに(フジファブリックの)「若者のすべて」をカバーしたんです。私の出番は花火が上がった後だったので、「夏の終わりだし、いいかも」ってセトリに入れて。その練習でも、自分で歌って、録って、聴いてを何回も繰り返して、自分にも聴く側にとっても、どこが一番気持ちいいのかを模索したら、後ろ重心がよかったことを思い出せて、レコーディングもこの感じでやってみようと思えたんです。

──今年は6月にライブハウスツアーがありましたが、その感触はいかがでしたか?

にしな:ツアー日程が結構詰まってたし、バンドメンバーとの付き合いも長くなってきたので、いっぱい会話をしたツアーでしたし、自分の軸みたいなものを改めて見つめ直す期間になりました。ライブでしっかり音を聴いて、きれいなピッチを取るために、普通イヤモニをするじゃないですか。でも私、イヤモニがちょっと苦手で、ちゃんとピッチが取れてるのか不安になっちゃうときがあって。それが気になりだすと頭の中はそのことでいっぱいになっちゃって、その場を楽しめなくなっちゃうので、6月のツアーはイヤモニなしで、必要なところだけつけて挑んだんです。それで、ピッチがすべてじゃないなって思いました。自分が心の底からライブを楽しめないと、お客さんにも楽しいと思ってもらえない。その純粋な気持ちに改めて気づかされたので、ステージが大きくなっても、そういう気持ちは大切にしたいなと感じたツアーでした。

──レコーディングもライブも、いろんなトライをして、自分を見つめ直して、その中で徐々に正解を見つけていってる、そんな一年になってるのかもしれないですね。

にしな:そうですね。ずっと模索をし続けていたんですけど、自分なりに「こっちのほうがやりやすいかも」が見えてきた年だなって思います。

──すでに来年3月からのツアーが発表されていて、年内は制作期間とのことですが、最後に現在のにしなさんの曲作りのモードについて話していただけますか?

にしな:「輪廻」や「つくし」は結構どっしりした曲だったので、それ以降は割と軽やかに楽しくやってるマインドの曲が多いですね。最近、自分という人格を内側からもしっかり見ているけど、遠いところも見ている感じがするんですよね。自分の生活の中の幸せを歌う方法として、すごく遠いところを見てる感じ。その結果、自分の中に「私にはもっと言いたいことがあるのかも」という主張が出てきたようで、自分の意思がそこにあると感じられる曲を作りたいと思っているのかもしれないです。それがどう捉えられるかは聴く人に委ねたいんですけど、日常だったり、世界だったり、人のあり方について、自分の思考をもっと伝えたいなって。今はそういうモードな気がします。


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