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<インタビュー>零×YAMASHOが鳴らす、現実の危うさと生への強い意志――ニューシングル「Crisis」

Interview & Text:高橋梓
Photo:Yuma Totsuka
2025年1月29日、THE RAMPAGEの川村壱馬が、「零」としてソロデビューを果たした。以降、自身の思いを存分に反映した楽曲をリリースしてきており、多くの共感を集めている。そんな零が10月6日に3作目の楽曲「Crisis」をリリース。同曲は命の瀬戸際に立たされた心情を真正面から描いたヘヴィなヒップホップで、ドキリとするようなリリックが印象的だ。危うさと生への強い意志が混在している同曲で零がタッグを組んだのは、同じくTHE RAMPAGEの山本彰吾ことYAMASHO。初めて本格的に共作した2人は同曲にどう向き合い、どんな表現をしたのだろうか。本人たちに話を聞いた。
「零では、よりリアルを伝えていきたい」
――「零」としてのソロデビューから約8か月、振り返ってみていかがですか。
零:僕自身、ソロに入れ込み過ぎていないこともあって特別な変化は感じていないです。でも、今までやりきれなかった部分も作品に落とし込めている、という事実はあります。ソロで曲を作ること自体が、自分の心の支えになっているのかもしれません。
――THE RAMPAGEで歌っている時との違いは感じられていたりも?
零:それはありますね。THE RAMPAGEの時の自分ももちろん好きですけど、零は立ち方が違うというか。THE RAMPAGEと零では、やるべきことの違いが明確に僕の中にあるんです。零では、よりリアルを伝えていきたい。THE RAMPAGEでも「リアルを伝えたい」という思いは変わりませんが、人数も多いですし。いろんな作家さんに新しい引き出しをもらったり、いろんな曲に出会ったりしたことで、THE RAMPAGEの表現が広がっていったことはとてもありがたいです。ただ、零はいかに自分を出せるかどうか。それはソロならでは、ですよね。そういう意味でも、ボーカルとしての違いは感じています。
YAMASHO:そうだよなぁ。僕はクリエイティブが好きなのですが、一番最初に考えるのって「この人がこういうことしていたらかっこいいよね」、「この人がステージでこういうパフォーマンスしたらお客さんも喜ぶよな」ということなんです。でもTHE RAMPAGEだと自分のことも考えなくちゃいけないし、16人もいるので少なからず制限される部分もあって。「今のTHE RAMPAGEはこういうことしなくちゃいけないよね」という、期待みたいな部分もあるんです(笑)。そういったことをパフォーマーである僕も感じているくらいなので、壱馬みたいな歌う立場の人間はもっと感じるんだろうなって。でも、零に関しては好きにやっている感じが見ていて気持ちいい。嘘がないし、着飾ることもないし、常に等身大の目線で世間を見た気持ちを落とし込んで活動しているのが零ですね。

――なるほど。
YAMASHO:グループのボーカルがソロ活動を始めると、ソロに固執しちゃうんじゃないかという心配が出てくるってよくあることだと思うんです。でも、壱馬の場合そういう不安はまったく無くて。壱馬は自分の立場や振る舞いを完璧に分けるタイプで、THE RAMPAGEの自分はこう、零の自分はこう、と固まっている状態でスタートしていました。ここが固まっていない人がソロを始めると、「1人の方が楽だし楽しい」となってしまうんですよね。壱馬はそういったものをすべて考えた後にソロデビューだったので、安心して見ていました。最近は自分でクリエイティブもしているのもいいですよね。声を武器にしている人が、自己プロデュースできるのは何十年後の未来にも繋がると思います。
――クリエイター目線でも見てもブレがない、と。今回はお二人がコラボした楽曲「Crisis」がリリースされます。そもそもタッグを組んだのはなぜだったのでしょうか。
零:メンバーの何人かと僕の家で飲んでいて、その流れで真剣な話をしていたんです。僕ら、飲んでいる時でも仕事の話をしたり、今ある問題について話をしたりするんですね。その中で、自分たちの周りで起こったことや経験談を踏まえながら生について話していて、YAMASHOさんと一緒にそういう方を助けられる曲を作ろうということになりました。それまでも何か一緒にやろうという話はしていたのですが、そこでテーマがガチっと固まりました。
YAMASHO:そうだね。
零:僕がちょうど3曲目を作っている頃だったので、テーマが固まった後何か月か時間が空いたのですが、そろそろ動き出そうというタイミングでYAMASHOさんからリファレンスをもらって。一旦僕が作って、またYAMASHOさんに投げて意見を聞いて、手直しをして……という流れで土台を作っていきました。それを以前からお世話になっているJUGEMくんに渡して、一緒にスタジオに入って。「ここはもう少しこうしたい」、「ここはリリックに合わせてちょっと抜きたい」と意見を出し合って完成したという流れですね。

- 「理不尽に対しての怒りでもある部分なんです」
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「理不尽に対しての怒りでもある部分なんです」
――零さんがJUGEMさんとタッグを組むのは3回目です。共通言語や感覚の共有のしやすさもできていたのかなと想像しました。
零:まさに。バッチリ整えてくれます。
YAMASHO:めっちゃ早かったよね。
零:「こんな感じで」と言ったらすぐやってくれるんです。
YAMASHO:壱馬のバースの前に、トゥーンというサイレンが鳴るんですね。それを入れたくて「サイレンとか入れられますか?」と聞いたら、「どんな感じですか?」と探ってくれて。僕が口で「トゥーン!」と言ったんですよ。そうしたら2秒後には「トゥーン!」というサイレンが入っていました。
零:そう、そう(笑)。とにかく早かった! あとは、バースに入る前などのビートの感じがJUGEMさんっぽくて好きでした。「Delete」にもそういうビートが入っているので、一貫性が出ているのもいいですよね。
「Delete」ミュージック・ビデオ
――ちなみに、同曲は曲先、詞先、どちらだったのですか?
零:曲先でしたね。
――となると、リリックは曲を聴きながらお二人で話し合って書いたのですか? それとも、別々に進めたのですか?
零:フックだけ「こういう感じにしようと思っていて」というのはYAMASHOさんに伝えましたが、バースは完全にノータッチです。「YAMASHOさんなら絶対完璧やろ」と思っていたので。
YAMASHO:あはは(笑)! 壱馬の家で飲んでいる時にテーマの軸となる部分は喋っていたから、テーマだけしか決めていなくてもピッタリだったよね。
――普通に飲みつつも、クリエイティブに着地できる会話もしているって、なんだかいいですね。
零:そうですよね。グループごとでもそうかもしれません。
YAMASHO:その前後は見せられたものじゃないことをしていますけどね(笑)。
――(笑)。そのリリックも、じっくり読んでいくとパワーワード、パワーフレーズが詰まっています。ご自身で書いたパートの中で、「実はここが一番言いたいことが詰まっている」、「ここは表現としてこだわった」という部分を教えてください。
零:最後の<この世に生きている人の数だけ人の心というものがあんだ 誰かの幸せ成り立つためには誰かの痛みが必要なのか?>という2文かな。ここは嘆きでもあり、理不尽に対しての怒りでもある部分なんです。今ってSNSを見ても、人に攻撃することで快感を得ている人間が山程いて。そういう人に対して、「お前の幸せのために、その人の不幸は必要ないんだよ」ということが言いたかったんですよね。それと、自分が勝負の世界にいるということもあって、逆に「現実って残酷やな」という思いも嘆きとして入っています。恋愛もそうですよね。同じ人を好きになってしまったら片方は結ばれて幸せなのに、片方は不幸を感じてしまう。そんな「しょうがない」、「どうしようもない」という嘆きも表現しています。人によって、いろんな意味に受け取れるリリックになっていると思っています。
あとは、〈世間は軽々しく言う「不適合」 故に「No」〉からの部分。ここ何年か「社不(社会不適合者)」という言葉をよく目にするじゃないですか。ギャグとして自分で自分を「社不」と言うのはいいのですが、人に向けて軽々しく言う人がいるんですよね。それがよくないと思っていて。 さすがにストレートに「社不」とは書けなかったですが、「不適合」と書いたら伝わってくれるやろうと思って、この一文を書きました。実は僕自身も「不適合」な部分があると思っているのですが、それは今の社会が狂っているのか、自分が狂っているのかわからないんです。で、〈誰もわからないくせによ〉に続く、と。その思いも反映させました。

――なるほど。個人的には、ここのリリックを読んだ時、他人のことを勝手にわかった気になってカテゴライズしてしまわないように気をつけようと戒めになりました。
零:そういう解釈をしてくれるのも嬉しいです。本当の悪人ではなく、ちゃんとしている人にとって律するきっかけになればいいなと。
YAMASHO:僕は前半から後半に行くにつれて、屋上まで歩いているのを意識して書きました。<朝目が覚め枕滲む汗 また同じ時繰り返してく螺旋>は螺旋のように同じ毎日を繰り返しながら登っている感じ。一番好きなフレーズは<嘘で塗り固めたコンクリ乾いた>という部分です。嘘をついていると最初は自分をドンドン苦しめることになるのですが、途中から当たり前のように嘘をつくようになってしまう。それを最初はベタベタなコンクリートなのに、乾いたら逆にスッキリしちゃうというふうに例えました。僕、昔空手を習っていたのですが、嫌すぎてサボっていたんですね。最初はお母さんに「休んでも良い?」と聞いていたのですが、気づいたら行ったふりをしてサボっていたんです。そういう小さい嘘が自分の首を絞めて、最終的にバレて怒られていました。これは冗談みたいな例えですが、嘘で自分の心を塗り固めてしまうと、ダメなラインをいつの間にか跨いでしまうんですよね。それをここのリリックで伝えてみました。
――YAMASHOさんのリリックも、ギクッとして己を律するきっかけにする人もいると思います。お二人は長年活動を一緒にしてきていますが、だからこそ同曲で生まれたと思うものはありますか。
零:よくここまでハッキリ言う曲を作れたなぁと思いますし、そういう曲が作れたのはYAMASHOさんだからだと思います。他の方とコラボしたとしても、ここまで攻めた楽曲が作れる想像がつかない。
YAMASHO:たしかにねぇ。あとは、こんなに声が合うんだなと思いました。THE RAMPAGEだとボーカルとパフォーマーなので声を合わせることもないんですよね。僕は結構クセのある歌い方なので、レコーディングするまでは「壱馬の声と合うのかな、邪魔しちゃわないかな」と思っていた部分はあって。でも逆にそれがいい方に転んだと思います。僕が上の方から引っ張って、壱馬は下から引っ張って、釣り合いが取れているというか。お互いの良さを消さない曲になったと思います。こういうちょっとしたヒリヒリが続く曲はあまりないので、よかったな、と。

――意識的に声質を近づけよう、みたいなこともなかったのですね。
零:そうですね。YAMASHOさんはシャウト系のラップでいきたいと話していたので、僕はLOWを際立たせたほうが合いそうという話をしたくらいです。なので、合わせにいくというよりも曲にハマる歌い方をそれぞれやってみたら、結果2人の声もハマっていたというイメージですね。
YAMASHO:そうね。ラップをする時にトラックにどう乗せるかは考えるじゃないですか。とはいえ、合う乗せ方には一定の幅はあって。今回はその両端に行った感じです。多分、僕のラップがもっと高かったら気持ち悪いと思うし、壱馬がもう1個高く乗せていたら歌モノっぽくライトに聴こえていたと思うんですね。そういう意味でも、ちょうどいい所にハマったのかなって。
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二人の関係性
――「Crisis」に限らずなのですが、お二人はメッセージ性の強い楽曲ならではの歌い方をお持ちなのでしょうか?
YAMASHO:普通のラップの録り方だと、韻重ね(韻の部分に声を重ねる)をしたりするんですね。でも「Crisis」は1本に聞こえるようにしました。大体のラップ曲って重ねてナンボというか、途中で「Yeah」みたいな声を入れたり、追いかけてくるような声を入れたりするんです。でも「少なっ!」と思うくらいそういうのを省いて。なので、歌い方というよりも録り方で工夫しました。
零:歌詞が浮き出ているように聴こえる。
YAMASHO:そう、そう。トラックもビートもめっちゃ強いですが、それに負けないくらい歌が浮き出ているんです。これをダブルやトリプル(声を重ねるレコーディング方法)でやってしまうと逆に曲に埋もれる可能性があるんですね。なので壱馬がレコーディングしているときから、「とにかく脳みそに語りかけるような処理の仕方をしてください」と言っていました。「ガヤ入れますか?」という話も出たのですが、とにかくスルッといった方が本を読んでいる感覚みたいになって絶対響く、ということになりました。
零:歌い方で言うと、僕の場合リリックを書いている時点でどうアプローチして歌うかは決まっているんです。「My Precious One」の時もそうだったのですが、リリックを書いている時になんとなく想像はついていて、実際にレコーディングでやってみる。そうするとハマる、という流れですね。
――さすがです……! ではお二人の関係性についてもお聞きできたらと思います。16人いるTHE RAMPAGEの中でもお二人の関係性をひと言で言い表すとすると、どんな言葉になると思いますか?
零・YAMASHO:「生ハムメロン」ですね。
――生ハムメロン!?
YAMASHO:まさにさっき、メイクをしながらそういう話をしていて。改めて僕ら2人が並ぶと同じグループのメンバーに見えないじゃないですか(笑)。16人いたら「こういうヤツもおるやろうな」と思うのですが、いざ2人で並ぶと自分でも「この人(川村)と同じグループってTHE RAMPAGEを知らない人はわからないんやろうな」と思ってしまって。そう話していたら、メイクさんやスタッフさんから「でも合わさると同じ味になるよね」、「曲の中で同じ色が出てくるよね」と言われたんです。で、メイクさんが「クワトロフォルマッジみたいに、『チーズとハチミツ? 合うわけない!』って思って食べたら美味しいパターンじゃん」と。
零:で、YAMASHOさんが「生ハムメロンみたいな感じですね」って(笑)。
YAMASHO:「果物とハムなんて……合うやん!」って(笑)。対称的だけど美味しくしようとしている気持ちは一緒というか。キャラや見た目ではなく、中身が同じ方向を向いている2人なのかなと思います。
――生ハムメロン、めちゃくちゃいい例えですね!
YAMASHO:「この質問のためにさっき話してたんか!?」というくらいタイムリーです。
零:ほんまに! しかもプライベートでの交流もこんな感じなんですよ。
YAMASHO:少し前に僕の親が甥っ子を連れて東京に来たのですが、その時も壱馬の家に連れて行って。家族ぐるみで食事をしたりもしています。しかも、性格的にも僕らは「ウェーイ!」というタイプではないので、2人で飲んでいても落ち着くんですよね。
零:よく言っているのですが、家族のような、幼馴染のような、兄弟みたいな、親友みたいな、独特な安心感と落ち着きがありますね。

――ただのメンバーで終わらない関係性が素敵です。
零:間違いないですね。
YAMASHO:たしかに、もうメンバーっていう感覚もないかも。
――だからこそ「Crisis」のようなエモーショナルな楽曲が生まれたのかもしれません。
YAMASHO:この質問に「まぁ、メンバーの1人ですね」って返したら逆に面白い(笑)。
零:悲しいですよ、それは(笑)!
――(笑)。そんなお二人がもし2回目のタッグを組むとしたら、やってみたいテイストやジャンル、テーマなどはあるのでしょうか。
零:ストックしてある曲の中に、YAMASHOさんに渡してみたい激しい系のトラップがあるんですよ。それが合いそう。僕も「Crisis」ほどLOWではなくて、同じテンション感でまくしたてる感じにしても面白そうだなと思います。悪そうな雰囲気の楽曲とか。
YAMASHO:いいね。「Crisis」が沈める系の曲だとしたら、打ち上げる系の曲はやってみたいよね。オートチューン引っ掛けてフックを作って、歌っているけどラップっぽい感じが良さそう。それぞれのフローが出てめちゃくちゃになるかも(笑)?
零:【THE RAMPAGE LIMITED LIVE 2024 *p(R)ojectR® at TOKYO DOME】の時の「STRAIGHT UP」みたいな感じですかね。あの時はYAMASHOさんは踊っていましたけど、僕がラップして。
YAMASHO:あぁ。上で歌ってる感じね。
零:想像しただけで楽しそう。本当に近々またお願いします!
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