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<インタビュー>才能とどう向き合う? 憧れと嫉妬で揺れる葛藤――Galileo Galilei尾崎雄貴が感じた『青のオーケストラ』との共鳴

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Interview & Text:黒田隆憲
Photo:Yuma Totsuka

 Galileo Galileiが、アニメ『青のオーケストラ Season2』のオープニングテーマ「アマデウス」を発表した。クラシカルなタイトルに反し、鋭い焦燥感と複雑な感情が交錯する本楽曲は、彼らの“今”を象徴する1曲となっている。

 インスピレーションの源には、尾崎雄貴が中学時代に出会った映画『アマデウス』がある。モーツァルトとサリエリ、天才と凡人、憧れと嫉妬。その関係性に、原作『青のオーケストラ』が描く“才能と向き合う孤独”が重なった。比喩に満ちた歌詞と、生のストリングス三重奏による深い響きが、作品世界と絶妙に共鳴していく。

 譜面に頼らず、感覚と直感を信じて音楽を構築する――Galileo Galileiが今、技術や知識の先で見ようとしているのは、もっとプリミティブで、本能的な衝動なのかもしれない。音の説得力で心を震わせる、“今”の彼らのスタンスがここにある。

“才能とどう向き合うか”というテーマ

――今回の新曲「アマデウス」は、アニメ『青のオーケストラ Season2』のオープニング・テーマとして書き下ろされたものです。原作を最初に読んだとき、どんな印象を受けましたか?

尾崎雄貴:最初に1巻を読んだときは、「部活ものっぽい、わりとライトな青春作品なのかな?」という印象でした。「このまま恋愛要素が中心になっていくのかな?」とも思っていたら、2~3巻あたりから作品のトーンが大きく変わっていくのを感じて。音楽に真剣に向き合うストーリーが展開されて、パート争いや主人公の家庭環境といった、より深い内面に踏み込んでいく描写が増えてくるんです。「ああ、そういう話だったんだ」と読んでいて腑に落ちる感覚がありました。




アニメ「青のオーケストラ Season2」PV


――特に惹かれたのは、どんなところでした?

尾崎:作品に通底する“才能とどう向き合うか”というテーマですね。自分の才能を持て余したり、それを理解しきれなかったりすることで生じる孤独感、それを作品全体から感じましたし、自分自身とも重なるところがあって強く共感しました。それに、“独奏”ではなく“オーケストラ”という、集団のなかで音を鳴らすという前提がある点も印象的でした。個と集団のあいだで揺れる感情や、パート争いの緊張感、人間関係の複雑さ。僕自身、中学時代に吹奏楽部に入っていた経験があるので、その空気感はすごくリアルに感じられたし、自然と作品の世界に入り込めました。でも、僕が一番強く惹かれたのは、そうした“スポ根”的な側面よりも、やはり“才能”や“嫉妬”など、よりパーソナルかつ普遍的な感情です。大人数が集うオーケストラという場で、自分の居場所をどう保つのか。自分の価値をどう見つけていくのか。そういった本質的な問いにこそ、この作品の魅力があると感じました。

――タイトルである「アマデウス」の由来は?

尾崎:このタイトルを思いついたのは、原作を読んでいるときに、中学時代の記憶がふっと蘇ったからなんです。当時所属していた吹奏楽部の顧問が、音楽の授業で映画『アマデウス』を見せてくれたんですよ。モーツァルトの破天荒な言動が面白くて、クラスのみんなは笑いながら観ていたのですが、僕自身は映画の世界にどんどん引き込まれていって、何度も見返していました。そして、音楽活動を本格的に始めてからあらためて観直してみると、まったく違った印象の作品に感じられたんですよね。





――『アマデウス』は、若きモーツァルトの破天荒な生き様を描いていますが、根底にあるのはもう一人の音楽家アントニオ・サリエリの、モーツァルトに対する複雑な感情です。

尾崎:まさしくサリエリの持つ嫉妬、才能に対する屈折した思い……モーツァルトに嫉妬しながらもその才能に惹かれてしまう複雑な感情。そういったテーマが、自分の心にすごくしっくりと入ってきた。僕自身、若い頃は海外の音楽や、同世代の才能あるミュージシャンたちに憧れていたし、同時に嫉妬もしていました。彼らと“並ぶ”立場になったとき、どうしても心がざわついてしまう。でも、やっぱりその音楽がどうしようもなく好きで。その矛盾した感情こそが、「アマデウス」というタイトルに込めた思いでもあります。『青のオーケストラ』に登場するキャラクターたちもまた、才能とどう向き合うかで葛藤していて。その感情と自分の感覚がリンクしたことで、作品と曲が地続きになるタイトルとして「アマデウス」が自然に浮かんできたんです。

――映画『アマデウス』の音楽的な面、つまりモーツァルトからの影響もありましたか?

尾崎:ありました。僕は曲を作るとき、映像からインスピレーションを得ることが多いのですが、今回も映画『アマデウス』のティーザー映像を流しながら曲のイメージを膨らませていきました。そこから生まれたのは、“ゆったりとした旋律”ではなく“詰め込んだリズム感”。ちょっとした焦りや切迫感を感じるような構成ですね。混沌とした空気、少しだけざわつくような感覚。それを音で表現したかったんです。

――モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」のような。

尾崎:『青のオーケストラ』のキャラクターたちって、才能や血筋、自分自身の葛藤に向き合いながら、常に心が揺れている。その揺れや混乱を、音楽としてどう描くか。特に、若い頃に感じる、自分が何者かわからないままステージに立たされるような不安やストレス。そういった感情を、速度やテンションで具現化しようとしたんです。だから、イントロにはかなりこだわりました。「アマデウス」という言葉を知らなくても、あの音を聴いた瞬間に“モーツァルト的”な何かを感じてもらえたらいいな、と。突出した才能に圧倒されたり、翻弄されたりするような、でもどこかで惹かれてしまうような、そんな緊張感と美しさを、音の中に込められた気がしています。

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生ストリングスは「確かに使える武器」

――オーケストラ・アレンジはどのように構築していったのでしょうか。

尾崎:最初の段階では、今のようなストリングス三重奏が入った完成形とは、少し違うイメージを持っていました。昨年、北海道日本ハムファイターズの本拠地であるエスコンフィールドHOKKAIDOでライブをさせてもらったとき、会場でいつも流れていたのがコールドプレイの「Viva La Vida」だったんです。あの広い空間であの曲を聴いたときに、心にすごく響いて日本語詞でカバーしたこともあるくらいでした。その経験から、あの曲の持つストリングスの魅力をあらためて強く感じたんです。ただ、その頃は、まだストリングス・チームとのつながりもなかったので、打ち込み(シーケンス)で鳴らすしかなくて。「これを生でできたら、どれだけ良かっただろう」とずっと悔しく思っていました。なので今回、『青のオーケストラ』のお話をいただいたとき、「これはその機会だ」と。Galileo Galileiの音楽とストリングスは相性がいいと前から思っていたし、ようやくその構想を実現できるタイミングがきたと思いました。




――なるほど、そういう経緯があったのですね。

尾崎:最初の構想では「Viva La Vida」のような、静けさと荘厳さを兼ね備えた広がりのあるリズム感をイメージしていました。でも、『青のオーケストラ』を深く読み込んでいくうちに「この作品にはもっと混沌としたサウンドのほうが合うんじゃないか」と思うようになって。映画『アマデウス』を見返したこともあり、そこから徐々にサウンドの方向性が変化していきました。焦燥感や混乱、内面の葛藤が渦を巻いているようなリズムや構造へとシフトしていって、結果的に“疾走する混沌”のような音楽に仕上がったんです。

――Galileo GalileiやBBHFの過去作で、生のストリングスを使ったことはありましたか?

尾崎:本格的に生のストリングスをレコーディングで取り入れたのは、今回がほぼ初めてです。BBHF時代に「黒い翼の間を」という曲で一度だけ試したことはありますが、そのときは個人のプレイヤーに録音してもらった音源を素材として受け取り、こちらで編集やミックスをしていました。どちらかといえば、サックスやブラス系の楽器を入れるときのような感覚に近かったですね。でも、今回の「アマデウス」ではまったく違っていて、プレイヤーの方々に実際にスタジオに来てもらい、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの三声を生演奏で録りました。いわば“共演”のようなかたちで、同じ空間で音を作っていった感覚です。レコーディングでは、実際に30テイクくらい録って、細かなニュアンスやバリエーションをたくさん試しました。演奏者のみなさんも柔軟に対応してくれて、メロディを現場で変えてもすぐに反映してくれるような素晴らしい方々で、本当に助けられました。Galileo Galileiにとって“生ストリングス”はまだ新しいチャレンジですが、今回の経験を通して「これは確かに使える武器だ」と実感しました。これからも、もっと積極的に取り入れていきたいと思っています。




Galileo Galilei - アマデウス (Official Music Video)


――歌詞の中で〈奇妙なブーツ〉〈メロディー失い即興のローレライ〉〈箱の中で鳴るバッハ〉といった、印象的な比喩が登場します。こうした言葉やイメージは、どこから着想を得たのでしょうか?

尾崎:たとえば「ローレライ」という言葉は、ずっと前から語感が良くて、いつか歌詞に使いたいと思っていたんです。僕は歌詞を書くとき、最初の段階ではメロディに仮の日本語をはめていくことが多いのですが、そのときによく出てくるのが「ローレライ」でした。ただ、これまで本格的に使ったことがなかったので、今回は「もうそろそろ使ってみよう」と決めたんです。そこから「ローレライ」という響きを軸にして、曲の中に登場するキャラクターや情景、世界観が少しずつ立ち上がってきて。「これを“アマデウス”というタイトルとどう接続するか?」という方向で、全体の物語を組み立てていきました。意味から入るというよりも、言葉の持つ感触やリズムから世界観を構築していく。僕の詞作ではよくあるアプローチですね。

――〈独りで磨いてた奇妙なブーツは/人混みの中でいびつに見えた〉というフレーズには、創作衝動の孤独や、他者の視線によって揺らぐ自己像といったニュアンスが感じられます。

尾崎:表現って自己満足だけじゃなく、他者と交わるものでもあると思うんですよね。つまり、どれだけ素晴らしい才能を持っていても、それを“外に出して”表現しなければ意味がないと常に思っていて。自分の中だけで「俺は本気を出せばすごい」と思っていても、出さなければそれは単なるプライドでしかないというか。『青のオーケストラ』の主人公も、まさにそういう葛藤を抱えています。自分がヴァイオリンを弾けることは分かっているけれど、その実力を認めようとせず、演奏の場に立とうともしない。才能を持っているのに、それを使わない。その心理にすごく惹かれたんです。

――それって、ご自身の過去と重なるような感覚もあったのでしょうか?

尾崎:いや、僕自身は逆の立場というか、“持たざる側”の人間だと思っていました。だからこそ「もし何かを持っているなら、絶対に振るうべきだ」って強く思っていたタイプなんです。「なんでその才能を使わないんだよ!」って、野球漫画でよくあるようなシーンでも、僕は言ってしまう側(笑)。持っている人が、その力をちゃんと使い、まだ誰も見たことがない景色を見せてくれたとき、僕ら“持たざる側”も勇気をもらえるんです。だから、“持っている人”に対しては、心から「見せてほしい」と思っていますね。

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「えっ、食事しながらこの音圧!?」

――〈僕の姿はどう映るんだろう〉〈君の目にだけ そう映るんだろ〉というフレーズには、自己と他者の視点のズレによる葛藤も読み取れます。

尾崎:“僕”と“君”は、誰か特定の人物ではなく、才能のある人、ない人、どちらの立場にも通じるような存在として描きました。見る人によって印象が変わるよう、どちらかに固定したくなかったんですよね。聴く人それぞれの立場や感情に応じて揺れ動くような、そんな曖昧さを意識しながら作りました。それって、僕が歌詞を書くうえで、常に大切にしていることでもあります。一つの意味に縛られるのではなく、解釈が開かれていること。それによって、聴く人が自分自身の物語として受け取れる余白を残したい。

――歌詞にもある〈スコアを投げ捨て〉というフレーズには、既成概念や型からの解放という意味も込められているのかなと感じました。

尾崎:おっしゃる通りです。僕の中にはずっと、「譜面に縛られたくない」という思いがあって。それは中学時代の経験に起因しています。当時、吹奏楽部でトランペットを担当していたのですが、実は譜面が全然読めなかった。読む気もあまりなかったし、トランペットって基本3本のピストンで操作する楽器なので、「この音は1、この音は2」といった具合に、音符の下に自分で番号を書いて覚えていたんです(笑)。リズムさえ書かないこともあって、裏返した譜面には数字だけ並んでいるような状態。でも、そんな状態でも大会にはちゃんと出られたんですよ。




――それはある意味すごい(笑)。

尾崎:だから僕にとって、「音楽は譜面がなくてもできるもの」という感覚は、ごく自然なものなんです。むしろ耳で感じたこと、直感でつかんだ感情をそのまま音にするほうが、本質的なんじゃないかと思っていて。型にとらわれすぎることで、音楽の生々しさや自由さが損なわれてしまうこともあると思うんです。今回、「アマデウス」のストリングス収録でご一緒したプレイヤーの皆さんも、その点ですごく柔軟な方々で。「音だけで大丈夫です」と言ってくれて、現場でメロディを少し変えても、即座にそれを受け取って演奏してくれるんですよ。本当にありがたかったし、自分たちの音楽にぴったりフィットしてくれたと思っていますね。

――これを機にストリングスを導入した楽曲も増えるといいですね。

尾崎:実は今、ストリングスを取り入れたライブの構想も進めているところです。その時もぜひまた彼らと一緒にやれたらと思っていて。今回のレコーディングで生まれた“譜面を超える瞬間”を、もっと広い場所で再現したいし聴いてもらいたい。僕にとって、そういう自由な音楽こそが一番リアルだと感じています。

――Galileo Galileiは、常に音楽性を変化させながら進化してきたバンドです。特に再始動して以降、ご自身としてはどのような変化を感じていますか?

尾崎:そうですね……僕らはずっと、ある種の“サイクル”の中を回っているような感覚があります。「バンドらしさを大事にしよう」と思う時期もあれば、「緻密に構築された音楽を作りたい」と思う時期もある。興味や感性の移ろいとともに方向性は変わっていくけれど、ただ同じところをグルグル回っているわけではなく、回りつつ前に進んでいる実感があります。今の自分たちが惹かれているのは、いわゆる“オルタナティブ”なもの。これはジャンルというより、スタンスの話ですね。“王道”や“正解”からちょっとずれた場所にあるけれど、だからこそ深く刺さるような表現、そういうものに魅力を感じています。それに、僕らはDTMやオーケストレーション、録音や編集の技術など、いろいろな手段を身につけてきましたし、今ではかなりのことを自分たちだけで完結できるようになりました。でも、それってあくまで“手段”なんですよね。

――なるほど。

尾崎:今はむしろ、「ステージに立って、ただ声を出してみたらどう響くか?」とか、「その場にいた誰かの心が動くか?」みたいな、もっと根源的な衝動に立ち返りたいと思っていて。それを“研究”としてではなく、“本能”として追いかけていきたいんです。たとえば今、オアシスが再結成してツアーをやっていたりするじゃないですか。彼らって、決して新しいことをしているわけではない。でも、それでも多くの人を惹きつけてしまう。それは“説明がつかないけど、確かにそこにあるもの”の力だと思うんです。今のGalileo Galileiは、そういう“人を揺さぶる何か”を、テクニックや理屈じゃなくて、音楽そのものの熱量や説得力で届けたいという気持ちが、どんどん強くなっている。今、ようやくそういうモードにたどり着いた感覚がありますね。




――昨年のビルボードライブ横浜公演では、クリスマスらしい“ダサセーター・パーティー”も印象的で、楽しいライブになっていました。今年12月のビルボードライブ・ツアー(東京・大阪)については、どんなライブにしたいと考えていますか?

尾崎:おっしゃってくださったように、前回は会場の雰囲気に合わせた構成にしました。でも今回は、そこをあえて外してみたいと思っています。つまり、その会場ならではの“特別感”を演出するのではなく、Zeppツアーのようなスケール感のあるライブを、そのままビルボードライブという空間に持ち込んでみたい。「えっ、食事しながらこの音圧!?」って驚いてもらえるような、いい意味での違和感やギャップを楽しんでもらいたいんですよ。ガーデンシアターのような大規模会場でライブができたことも、自分たちにとってすごく大きな意味がありました。ちゃんと音が届いた実感もあったし、「このサイズでも自分たちの音楽は鳴らせる」と確信できた経験だったんです。だからこそ、あの熱量を凝縮して、よりタイトな空間でどう機能させるか。そこにチャレンジしてみたくなったというのもあります。今のGalileo Galilei 100パーセントをそのままぶつける。自分たちがいちばん自然体で鳴らせる楽曲たちを使って、あの空間を“ガリレオのライブ空間”にしてしまう、そんなチャレンジングなステージにしたいと思っていますね。

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