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<インタビュー>さかいゆうがアメリカの音楽コンテンツ『NPR Music Tiny Desk Concerts』に出演――国を超えたコラボレーションで感じる音楽への向き合い方

インタビューバナー

Interview & Text:田中久勝

Photo: CHIEKO KATO


 今年4月に日本人シンガー・ソングライターとしては初めて、現地の『NPR Music Tiny Desk Concerts』に出演したさかいゆう。YouTubeで公開されている「Yu Sakai feat. TBN Trio: Tiny Desk Concert」のパフォーマンスには世界中の音楽ファンから絶賛するコメントが寄せられている。そして同じメンバーでレコーディングをした『On Our Way EP』(7月2日リリース)も好評だ。昨年15周年を迎えたさかいのキャリアの中でも、特別な瞬間になった『NPR Music Tiny Desk Concerts』について改めて聞かせてもらうとともに、EP『On Our Way』について、そして日本と海外のミュージシャンの違いについて、さらに現在拠点としている故郷の高知県・土佐清水市での生活についてまで、多岐に渡って語ってもらった。

『NPR Tiny Desk Concerts』に出演

――4月にさかいさんがTBN TRIOと出演した『NPR Tiny Desk Concerts』が話題ですが、出演に至る経緯をお聞きして、あまりにドラマティックな展開でびっくりしました。

さかいゆう:そうなんですよ、偶然が重なったというか、去年日本版の『Tiny Desk Concerts』を立ち上げるために来日していたプロデューサーのスラヤ・モハメドが、TBN TRIOのジャパンツアーのために来日していたネイト・スミス(Dr.)に、渋谷のスクランブル交差点で再会するという、これこそがドラマティックですよね。それで次の日、スラヤが渋谷WWWXでやった僕がゲスト参加したTBN TRIOのライブを観に来てくれて、「この人の声にはエネルギーがあふれていてユニークだ」って気に入ってくれて、後日正式にブッキングが決まりました。


――その時どう受け止めましたか?

さかい:元々アメリカの『Tiny Desk Concerts』には憧れがあって、でも日本人シンガー・ソングライターが本家に出演なんて一生できないよな、と思っていたので、音楽家として夢みたいな瞬間でした。





Yu Sakai feat. TBN Trio: Tiny Desk Concert


――ワシントンD.C.での収録日当日の心境からその後の反響まで、まずは率直な感想を聞かせてください。

さかい:正直、夢を見ているようで、でも現場に着いて、あのオフィスの一角でピアノに指を置いたとき、ここが世界の日常なんだと実感と誇りがこみ上げてきました。もちろん緊張はしていたけど、でも不思議と日本でステージに立つのと同じ自分でいられたんです。やっぱり音楽には、国籍も言葉も超える力があるんだなと信じて突き抜けました。


――あそこで“J-POP”とは何かという説明をして、“本場”で日本語で歌を披露したことにグッときました。

さかい:J-POPのシンガーを代表して歌うことなんてそうそうないし、もうオリンピックに出場するような気分でした。“失敗できん”って責任感も半端なかったけど(笑)、でもパフォーマンスを観てくれたアメリカのリスナーから「君の日本語の響きに安心感を覚える」という言葉をもらって。母国語のメロディを、ストレートに海外へ出すということは昔はちょっと怖くて、つい英語詞に逃げた時期もありました。でも今は“そのままの自分”で勝負したいと思えるようになった。この経験は大きいです。


――TBN TRIOの3人と現地でセッションしたとき、どんな空気が流れていましたか?

さかい:トリオのみんなは最初から心で音楽を会話してくれます。リハーサルからすでに“予定調和”というものがない。たとえばベン(・ウィリアムズ/Ba.)がフレーズで冒険を始めて、ネイト(Dr.)はそれを軽妙に拾ったり、(大林)武司(Pf.)が日本語歌詞の言葉尻をすばやく音に反映したり。ジャズってこういう音の信頼関係なんだなと勉強になったし、リラックス感と真剣勝負の両立は、日本ではなかなか出会えないです。




――全員がすごく楽しそうにセッションしているのが印象的でした。TBN TRIOは全員がリーダーのようなトリオですよね。

さかい:そうかもしれないです。でもすごく有機的で誰かがリードして他は伴奏、とかじゃない。ずっと誰かがアンテナを張っていてその緊張感がとにかく気持ちよかったです。僕は英語で拙いなりにこれだけは伝えたいってMCを用意もしたけど、あとは現場の化学反応、生音、生声、その場の空気感に全てが託されている感じでした。スコアもざっくりコード譜にメロディだけ。決めごとはあまりなくて、ポップス的な進行と即興ジャズの緊張感、しかもみんなが自由に脚色してくるから面白い。全員が終始ご機嫌でした。


――Tiny Deskでセッションした楽曲をパッケージした『On Our Way EP』は、レコーディングは『Tiny Desk Concerts』の後だったんですか?

さかい:実は『Tiny Desk Concerts』の数日前にニューヨークのPower Station at BerkleeNYCでレコーディングしました。今思うと、スタジオ録りはリラックスしているはずなのに、本番より緊張感が増す瞬間がありました。どこかで“これだ!”っていう瞬間が全員わかるんです。一流ってみんな絶対にその、“来た”のテイクがわかるのが面白い。まとまりがあるけど油断のない、ギリギリを攻める手応えというか…。逆にこのメンバーだったから『Tiny Desk Concerts』の後にスタジオに入ったら、すごいものが録れていたとも思えないですよね(笑)。


――「Get it together (TBN Ver.)」「桜の闇のシナトラ(TBN Ver.)」「よさこい鳴子踊り」(TBN Ver.)と、特に代表曲を大胆にメドレーにした「ストーリー 〜 まなざし☆デイドリーム 〜 薔薇とローズ(TBN Ver.)は注目を集めました。

さかい:日本らしさ、自分らしさ全開のこのメドレーで、この編成でなければ出せないグルーヴを、世界基準の現場で真剣に演奏できたのが面白かったです。とにかくTBN TRIOとメドレーを演奏してみたかったんです。一曲一曲を分断せず、流れのまま弾けば曲と曲がどう響き合うか、自然に見えてくるはずです。日本語詞のニュアンスまで丁寧にくみ取ってくれて、しかも彼らなりの解釈で音を重ねてくれる。録音中は誰の曲? って思う瞬間もありましたが、これも音楽の越境です。全曲もちろんノーオーバーダブの一発録りで、ちょっとしたミスも、思わぬアイコンタクトの瞬間も、全部作品に残す。狙いどおり聴くたびに“現場の呼吸”が蘇るような仕上がりになったと思います。





ストーリー 〜 まなざし☆デイドリーム 〜 薔薇とローズ (TBN Ver.) / Medley: Story – Gaze, Daydream – Rose & Rhodes (TBN Ver.)


――地元・高知の「よさこい鳴子踊り」をニューヨークで録る発想は、どこから?

さかい:ふと、この場で故郷の音をやるのも悪くないという思いつきです。子どものころから耳にしていた“よさこい”は、生まれ育った土の音そのもの。日本語の音のリズムがニューヨークの空気でどう鳴るか、チャレンジしてみたかった。結果、地元と世界が一本で結ばれた気分になりました。


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  1. 「“音楽断食”は自分の価値に集中する一種のリセット」
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「“音楽断食”は自分の価値に集中する一種のリセット」

――海外のミュージシャンとセッションする機会が多いさかいさんから見て、日本のミュージシャンとの違い、そして音楽への向き合い方の違いを感じることはありますか?

さかい:アメリカは“自由・個人主義”の国で「お前はどう思う?」ってひとりずつに責任感を求められる。そして譜面より耳と心が先にある。みんな異なるバックグラウンドでも、一瞬で“ここでしか出会えない音”を形にしようとする。日本の現場は緻密で美意識が高く、“全体”を守る空気がある。どっちも素晴らしい。僕はその両方を自分の中に共存させたい。“型”を崩さずにクリエイティブさを表現した時の芸術性って、日本独特の美学だと思う。アメリカ人は、いきなり全部自分から始まる発想。例えば住所表記でも“自分→地域→国”って順だし(笑)。音楽でも“自分がここにいるぞ”感を自然に出すけど、日本は国や土地やコミュニティ単位のアイデンティティから始まる気がする。


――なるほど。

さかい:ジャズにしても元々は個人プレーの集合体で、そこから集団としてアンサンブルを形成する。一人ひとりの主張があって、その上で合わさった時の魔法が必要になる。そのバランス感覚とか譲れなさとかが、国ごとで違うんですよね。ポップス的な手堅さと即興ジャズの偶発性、これがミックスされた時の魔力は、日本には日本なりのやり方もあるし、アメリカにはアメリカの熱量があると思う。


――さかいさんは故郷の土佐清水市に移住して4年になるそうですが、暮らしと音楽にどんん変化が生まれましたか?

さかい:やっぱり生まれ故郷というのは、変わらない良さがあります。自然や、例えば雨が降った後の匂いや海の色の微妙な変化にすごく敏感になった。そうした“小さい刺激”はむしろ田舎の方が多い。都会の“ケミカルな刺激”も決して嫌いじゃないですけど、情報過多の中に居ると感覚がどんどん消耗する。情報も人も多い東京ではなんでもつい“先回り”してしまう。でも田舎にいると情報が必要最小限で済むから、逆に感性が磨かれる。ちょっとした出来事に耳を傾けられるのは、地方拠点の贅沢だと思う。見つけた物件が元々誰かの別荘として使われていた建物で、リフォームして一部をスタジオに改造して、それでも広さを持て余しているくらいだけど、毎日音楽と手の届く距離で暮らしています。



――快適そうですね。

さかい:東京での滞在が長くなってホテル生活ばかりしているとしんどくなって、田舎に帰ると改めて体も心もリセットできる気がします(笑)。コロナの影響もあって、僕のように都会に縛られず暮らす人が周囲にも増えた気がします。でも僕は昔からツアーなどで移動生活が多かったし、今のほうが本当の意味で自然体に近いですね。生活コストなど現実面もあるから、この国でより生きやすい仕組みが広がるといいなとも思います。


――何か最近始めた新しいことや“習慣”はありますか?

さかい:“情報断食“に加えて音楽をやる上で“音楽断食”もやっています。世の中と繋がりたくないからではなくていい曲を書くため、今までにない表現を掘り当てるために、敢えて“音楽断食”をしています。創作の根っこに戻れるというか、“音楽断食”は自分の価値に集中する一種のリセットです。

――この情報が溢れた時代に、ミュージシャンの役割や音楽の拠りどころについてはどう捉えていますか?

さかい:音楽は“シェルター”だと思います。みんなが逃げ込める場所。異なる立場の人にも楽しめる場を作りたいって考えているので、音楽では例えばあまり政治的発信はしないとか、そういうことは心がけています。



――でも最新アルバム『PASADENA』(2025年3月)には、さかいさんの社会や世界への強いメッセージが、ラブソングとして昇華されてます。

さかい:ちゃんと今世の中に思うことは、歌に落とし込んでいるつもりです。人間なんてみんな汚い部分も愛せばいいし、綺麗ごとじゃない部分も音楽に昇華させているつもり。でも情報過多で毎日何万回もジャッジメントする時代の中で、音楽だけは何色にも染まってないシェルターでありたい。みんなが安心して来れる場所にしたいという思いが強いです。


――さかいさんは大きな影響を受けた作詞家・松本隆さんの作詞活動55周年記念コンサート【風街ぽえてぃっく2025】(9月19、20日東京国際フォーラムホールA)に出演が決定していますね。改めて作詞家・松本隆の魅力、凄さを教えてください。

さかい:松本隆さんは、自分の“作詞観”に決定的な影響を与えてくれた存在です。言葉の方から寄ってくる感覚というか、他の作詞家が、説明したくて言葉を並べるのに対して、松本さんは説明していない。言葉自体が力を持ってそこに現れる。説明なんか要らない、説明抜きで感情に直結してくる。それが松本さんの凄みだし、一見難解な歌詞でもそれが伝わる力があるからみんな惹きつけられる。世の中を丸ごと包み込む普遍性があって、例えそれが回りくどくてもどこか本質を射抜いてくる。自分の中では最も“言葉に愛された作詞家”だと思っています。


――昨年15周年を迎え、これまでジャンルや国を越え続けてきました。今後はどんな“越境”を?

さかい:ニューヨークで感じたのは素の自分でいる覚悟の大切さ。日本語、日本のリズム、日本人としての想いを堂々と世界に届けたい。土佐清水の風景も、両親や地元の人のことも全部音楽に込めて、クラシックや民謡、R&B、全部ごちゃまぜでも“自分らしさ”が残るような、新しい作品を作っていきたい。音楽は、自分が“知らない世界”へ運んでくれる船みたいなもの。今も曲を書くたびに不安や迷いがあるけれど、“この場所で今しかできない歌”を大切に、みんなと旅したいです。どこに住んでいても、どんな言葉や文化を持っていても、音楽があれば必ず誰かとつながれる。その奇跡を、これからも一緒に信じてほしいです。


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