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<インタビュー>きっかけは日本で出会った友人たち――韓国ドラマのOSTで知られるPaul Kimが日本デビュー

Interview & Text:尹秀姫
Photo:筒浦奨太
ドラマ『ロマンスは必然に』のOST「Every Day, Every Moment」を皮切りに、『ホテルデルーナ~月明りの恋人~』や『涙の女王』、『わたしの完璧な秘書』など日本でも人気の韓国ドラマのOSTで人気のシンガーソングライター、Paul Kim。韓国ドラマが好きな人ならば、彼の曲を聴けば、どこかで聴いたことのある声だとピンとくる方もいるのではないだろうか。
そんなPaul Kimがついに日本デビューを果たした。8月29日にシングル「君に会い(Me After You)」をリリース、9月1日には【Paul Kim Japan Debut Showcase】と題した日本で初めてのショーケースを開催。日本のファンとともにデビューを祝った。
今年1月21日にはデビュー10周年記念アルバム『Sincerely yours』を引っ提げてワールドツアーを開催。2月のソウル公演にはじまり、バンコク、ジャカルタでもコンサートを行った。
日本には大学生の時に留学していたこともあり、特別な思い入れがあると語るPaul Kim。ショーケースでも通訳を入れず、全て日本語で進行していたが、今回のインタビューも全て流暢な日本語で話してくれた。日本に留学することになったちょっと意外なきっかけから、日本デビューに懸ける思い、デビューシングル「君に会い(Me After You)」についてなど、たっぷりと語ってもらった。
日本デビューへの想い
――日本デビューおめでとうございます! まずは日本デビューを迎えた今の気持ちを教えてください。
Paul Kim:シングルがリリースされた時は何も感じなかったんですけど、今回日本でショーケースして、インタビューもしていただいて、写真を撮ったりするのがすごく楽しくて、本当にデビューしたんだなという気持ちですね。
――先日開催された日本デビューショーケースでは、日本のファンからのお祝いの気持ちは感じられましたか?
Paul:日本でずっと待っていましたよとお声がけいただいたり、11月のコンサートでまた会おうね、と言っていただいたり、皆さんすごく優しいなと思いました。こういうショーケースの後にファンの皆さんとバイバイ(お見送り)するということが韓国にはないので、初めてで楽しかったです。
――そのショーケースでは、Paul Kimさんがかつて日本の別府に留学していたとお話されていました。日本でデビューしたいと思ったきっかけは?
Paul:高校生の頃から日本語を勉強し始めて、大学で日本に留学したんですけど、そこで出会った友達とすごくいい思い出があるんですよね。日本って温かいところだなと思って、いつか日本で、日本語で歌ってみたいと思っていました。言語によって歌い方とか込める感情も違うので、日本語で歌うことに挑戦したいと思っていたんです。でも、コロナとかいろいろあって、日本デビューがキャンセルになったこともありました。そしてついにデビューすることになって、本当に嬉しいです。

――――日本に留学したいと思ったきっかけは何でした?
Paul:日本に来る前はニュージーランドに留学して英語の勉強をしていたんですよ。その時は寮に泊まっていたんですが、ある時、日本からラグビーの交換留学生たちが来ることになって、先生から「あなた、同じアジア人なんだから通訳して」と言われたんです(笑)。その時の僕は日本語がまったく話せなかったんですけど、先生からはなんとかしてほしいと言われて…。それから英語の勉強をせずに日本語を勉強することになりました(笑)。その時は通訳するというより、ボディーランゲージで通じ合っていましたね。それをきっかけに、日本語を勉強することになりました。
大学は英語と日本語の両方を学べる場所に行きたいなと思って調べたところ、別府にある大学の国際経営学部は半分が日本人、半分が外国人で、いろんな文化を学ぶことができるタイプの学校だったんですね。そこに留学して、結構楽しかったです。
――別府での友人との出会いから日本への想いが生まれたんですね。その時の友人たちとは今も親交はありますか? 日本デビューについてはなんと言ってくれていますか?
Paul:全員ではないんですけど、今もまだ連絡を取り合っている友達もいるし、今回のショーケースに来てくれた友達もいました。僕はまったく知らなかったんですけど、お見送りしていたら、友達がいたんですよ! 他にも、「今日は行けないけど頑張って」と連絡してくれた友達もいました。
みんな「頑張れ!」とは言ってくれるんですけど、多分あんまり僕の音楽に興味ないんだと思います(笑)。友達ってそんな感じなんですよね。韓国でデビューした時も、「あんたが頑張って歌っているのを観るとなんだか照れる」って(笑)。僕は「とりあえず聴いてみてよ!」と言ってるんですけど…。仲が良すぎて、なんだか恥ずかしいみたいですね。
――今まで日本には公演を含めて何度かいらっしゃっていますが、日本の印象や日本のファンのイメージは?
Paul:美味しいものが多い(笑)。毎回、食べ物のために日本に来ているんじゃないかなというくらい、美味しいものが多すぎです。今日も、後で写真を撮るから我慢しようかなと思っていたんですけど、我慢できずに朝、つけ麺を食べちゃいました。しかもつけ麺とゆずラーメンの2つ! あ、でもスタッフさんと分け合って食べましたよ。お寿司も日本で食べるほうがおいしいですし、お好み焼きもおいしいし。今回、もんじゃ焼きを初めて食べたんですけど、めちゃくちゃ美味しかったです!
日本のファンの印象は、日本でツアーやファンコンサートをする前までは、結構心配でした。なぜかというと、日本のファンの皆さんはアーティストが集中できるように静かに拍手だけしてくださるという話を聞いたことがありました。でも、僕のコンサートではみんな歌ってくれました。僕は一緒に呼吸したいし、歌ってくださると元気が出るタイプですので、本当にありがたかったです。
- 「あなたに出会っていろんなことが変わったよ」
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「あなたに出会っていろんなことが変わったよ」
――ショーケースでは今後、日本のアーティストとコラボしたいという話もありました。具体的に好きなアーティストはいますか?
Paul:一番好きなアーティストは中島美嘉さん。昔からずっと好きなんです。ちょっと前に中島美嘉さんが韓国でコンサートされたんですけど、その時は仕事で行けなかったんですよ! 中島美嘉さんの「雪の華」は韓国でリメイクされて大ヒットしたんですよね。星野源さん、Vaundyさん、Official髭男dismさん、Mrs. GREEN APPLEも大好きです。韓国では最近、というか結構前からJ-POPがすごく流行ってるんですよ。普通にみんな聴いています。

――今こうしてお話していても日本語がとても流暢ですが、日本語でのレコーディングはどうでしたか?
Paul:レコーディングは、最初心配してなかったんですよ。自分が作った曲だし、歌詞も僕が書いているので、なんとかなるんじゃないかと思っていたんですけど。でもやっぱりレコーディングした後、日本の方に聴いてもらって、発音をチェックしていただきました。それで、この部分は録音し直したほうがいい、と言われたところは直したり…。韓国語と日本語では歌い方が違うというか、もしかしたら僕のスタイルが違うだけかもしれないですけど。例えば韓国語で歌う時は、最後の部分はあまり声を出さず、柔らかく歌ってるんですけど、日本語だと最後までちゃんと発音しないと音が出ないんですよね。その部分を調整するのが大変でした。
――今回、歌詞を日本語に翻訳するにあたって気をつけたところ、気に入っているポイントはありますか?
Paul:気に入っているのは、<燃える夏の足跡 濡れたままの傘 木々だち花火に着替えて やっと気づいた>というブリッジの歌詞ですね。韓国語の歌詞をそのまま直訳しちゃうと音の数が足りなくてうまく入らないんですよね。もともと韓国語バージョンでは、ブリッジに季節の流れを表現したいと思って歌詞を書いたんですけど、そのメッセージだけは残して、他に表現する方法はないかなとずっと考えていたんですね。それで、夏には梅雨とか傘のイメージがあるし、秋は木の色が変わる季節、そういう部分をちゃんと表現したら理解しやすいんじゃないかと思ったんですけど、日本ではあまり使わない表現だと言われて…。でも、僕は外国人なので、そういう部分までちゃんと入れた方がもっと面白いんじゃないかと思って、そのまま使っちゃいました。「木々だち花火に着替えて」とか、そういう表現が面白いと思っています。
――今回、日本デビュー曲として選んだ「君に会い(Me After You)」は韓国では2018年にリリースされて人気を博した曲の日本語バージョンですが、日本デビューにこの曲を選んだ理由はなんですか?
Paul:普段からK-POPや韓国ドラマに触れている方はPaul Kimという歌手をご存知の方も多いとは思うんですけど、日本では僕のことを知らない方のほうがもっと多いと思うので、初めての挨拶として、「あなたに出会っていろんなことが変わったよ」というメッセージを持っている曲の方が優しさが感じられるのでは、と思ってこの曲に決めました。
――韓国版のミュージック・ビデオではカップル2人が登場していましたが、日本版のミュージック・ビデオでは三吉彩花さんが出演されています。三吉さんが出演することになった経緯は?
Paul:三吉さんのことは元々知っていたんですよ。今回、ミュージック・ビデオを撮ってくださった監督さんのことも前から知っていて。僕はそのWATANABE MASAKI監督が大好きで、監督が撮った色んなミュージック・ビデオを沢山観ていて、いつか僕のミュージック・ビデオもお願いしたいと思っていたんです。それで今回お願いすることになって、打ち合わせをした時に、日本版のミュージック・ビデオでは女性1人に登場してもらって、ミュージック・ビデオを観ている人が相手役になるように撮ったらどうだろうという話になったんですね。それで主人公は誰にしようかという話になった時に三吉さんのお名前が出て、僕は無理じゃないかなと思ったんですけど、一応聞くだけ聞いてみようと。そしたら快諾していただけて、「本当に僕のミュージック・ビデオに出てくれるんですか!?」と思いました(笑)。すごくラッキーだったなと思いました。
三吉さんの演技も素晴らしかったですよね。ミュージック・ビデオって普通、撮影したものを編集するのにすごく時間がかかるものなんですよ。でも今回はそれがあんまりなかったんです。最初から曲の流れと映像の流れがぴったり合っていて、ミュージック・ビデオを観ながら曲を聴くと、また違う曲に感じられるので、素敵だなと思いました。
実は、お好み焼き屋さんで三吉さんが食事するシーンがあるんですけど、そのシーンを撮影している時、僕は隣でハイボールとお好み焼きをいただいていました(笑)。ずっと撮影を眺めながら食べていて…。美味しかったです(笑)。
「君に会い(Me After You)」ミュージック・ビデオ
――最後にウェディングドレスを着て涙を流すシーンが印象的でした。
Paul:韓国では結婚式で歌われることも多い曲なんですよ。内容的にもぴったりだと思います。実はこの曲は、メロディから先にできたんです。メロディがダイナミックに動くので、この曲を活かすには感情をしっかり込めたいと思って、歌詞を考えました。それにはやっぱり恋の話だろうと思って書いたんですけど、恋というものは特別なことをするから特別なのではなくて、普通のことが重なって特別になる、ということを歌詞に込めています。例えば、毎日テーブルで2人で話す「今日はどうだった?」という何気ない会話だったり、些細なことでケンカしたり…。そういう普通の出来事が沢山あるから、私たちは恋人同士になれる、という話をちゃんとしたいと思って作った曲です。そういう話がこの曲には似合うと思います。
――三吉さんからは日本デビューについてなんと言われましたか?
Paul:実は日本ショーケースに来てくださっていて、「おめでとう!」と言ってもらいました。Instagramでも韓国語でコメントをしてくれたり。三吉さんって韓国語がめっちゃ上手いですよ! 普通に韓国語で喋れるくらい上手で、2人でいる時は普通に韓国語で喋ってました。初めて会った時にびっくりするほどお上手でした。本当に優しい人です。
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Paul Kimはどんな人?
――日本ではPaul KimさんといえばドラマのOSTをはじめ、胸を打つバラードを歌うシンガーソングライターとして知られています。Paul Kimさんというアーティストについて自己紹介するとしたら?
Paul:自己紹介、難しいですね…。初めて歌手になろうと思ったのは、自分のことをちゃんと曲にして歌いたいという気持ちからやりたいと思ったので、自分の経験だったり友達との話だったり、色んなことからもらった気持ちを込めた音楽を作っているPaul Kimです(笑)。ジャンルとしてはバラードを歌うことが多いです。韓国ドラマのOSTも結構歌っています。Paul Kimの声が何か分かる、という方は多分ドラマで聴いたことがあるかもしれないですね。そういうロマンチックなバラードだったり、人生の悩みだったり、自分の中にある色んなことを音楽で表現したいと思っているので、これからもぜひ活動を楽しみにしていてください!
――長く歌手として活動されているPaul Kimさんですが、今までの歌手生活の中でもっとも忘れられない出来事はなんですか?
Paul:韓国でデビューしてから数年間はテレビにも出てなくて、僕は歌手ですと言うのも恥ずかしいと思うくらい活動がなかったんですよね。でも、「Rain」という曲がCMソングに選ばれて、それからテレビに出られるようになって、初めて音楽フェスティバルにも出ることになったんです。その時、「きっと僕のステージの時には誰もいないかもしれないけど頑張ろう」って思っていたんですけど、いざステージに上がってみたら観客が多すぎてびっくりしちゃいました。その時のことが一番、歌手になってから忘れられないハプニングだと思います。
フェスで歌うのはその時が初めての経験だったし、そんなに大勢の人の前で歌うのも初めてだったので、ものすごく緊張して…。それからいろんなフェスにも参加させていただくようになって、コンサートもできるようになりました。あれだけ沢山の人たちを見た、あの瞬間は、今もはっきりと記憶しています。マジで、「なにこれ、現実なの!?」って思いましたから(笑)。

――今までファンの方に言われた言葉で一番嬉しかったことはなんですか?
Paul:Paulさんの曲を聴いて、大変だった時期を乗り越えることができました、と言われた時が一番嬉しかったですね。僕も誰かの力になることができたんだなって思ったし、歌手になって良かったと心から思いました。
――今回の日本デビューをきっかけにPaul Kimさんを知る方もいらっしゃると思うので、まずは聴いてもらいたい曲を日本デビュー曲以外で教えてください。
Paul:先ほどお話しした「Rain (yours)」という曲ですね。僕の曲の中で一番有名な曲というわけではないんですけど、Paul Kimが今のような歌手になれた、一番重要な曲だと思うので。僕にとってもとても大切な曲です。
――日本デビューを果たし、今後は日本での活動も期待したいと思います。日本でやってみたい活動や、コンサートしてみたい会場はありますか?
Paul:昨日もずっとインタビューしていたんですけど、僕は正直、どこで歌ってみたいとか、一度も考えたことがないんです。韓国で初めてデビューした時もそうでしたし…。ただみんなの前で歌いたいという気持ちだけで今まで歌手を続けてきました。でもせっかく日本で活動するなら、路上ライブをやってみたいですね。日本の新人歌手として、まだやったことがないこと、いろんなことをやってみたいです。
――個人的に日本でやってみたいこと、行ってみたい場所はありますか?
Paul:最近人気だそうですが、沖縄の宮古島に行ってみたいです! ダイビングで有名な場所なので、実は今回、友達から「一緒に行く?」と誘われたんですけど、「僕は仕事で日本に行くから」と言って宮古島には行けなかったんですよね。でも、いつか行ってみたいです。宮古島に行くために、韓国で初めてダイビングのレッスンも受けたんですよ! ライセンスがないとダイビングはできないんですよね。だから、ライセンスを取得するために頑張っています。

――じゃあ日本で全国ツアーをしていただいて、沖縄にも行くというのはどうですか?
Paul:それ、いいですね! 沖縄でもコンサートできますか? 北海道には2回、行ったことがあるんですけど、とても食事が美味しかったです(笑)。生ビールはどこで飲んでも美味しいけど、帆立とか雲丹とか蟹とか沢山食べて、全部美味しかったですね。
――これまでの活動の中で、日本のファンとの思い出やエピソードはありますか?
Paul:韓国のコンサートやイベントにも来てくださる日本のファンの方がいらっしゃって、「日本から来ました」と言われて毎回驚きます。「本当ですか!? なぜそんな遠いところから…」と心配になるし、大変だとは思うんですけど、本当にありがたいですよね。いつも感謝しています。きっと韓国で美味しいものを召し上がってるんじゃないかなと思います(笑)。不思議なのが、皆さん普通に韓国語を話されるんですよね。
僕、前にファンの皆さんに「バイバイ、元気でね」という意味で「お大事に」って挨拶していたことがあったんですよ。それで後になってファンの方に「お大事に」という意味を教わって、衝撃でしたね。僕は「元気でね」という意味で言っているんだよと話したら、ちょっと違うって…。今までずっとみんなに「お大事に」って言ってたのに! 勉強になりました。
――日本のファンに向けてメッセージをお願いします。
Paul:ずっと夢見ていた日本デビューがついに叶いました! 本当にずっとこの日を待っていて、すごく楽しみにしてました。これからアルバムを出したり、いろんな活動をしたいと思うので、ぜひ皆さん楽しみにしていてください。ゆっくり長く、いろんなことやっていきたいと思うので、焦らずに頑張っていきたいと思います。




























