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<インタビュー>MisiiN×筧美和子 映画『オオムタアツシの青春』と主題歌に込めた想い/自分が自分でいるための秘訣

インタビューバナー

Interview:永堀アツオ
 Photo:小野正博(fort)
Stylist(筧美和子):小松千鶴
Hair&Make-up(筧美和子):中山友恵


 アーティストデュオ、MisiiN(ミシエヌ)が9月3日にエッセンシャル・アルバム『THIS IS MisiiN』をリリースした。本作のリード曲「Heartache Homework」は、映画『オオムタアツシの青春』の主題歌。人生の中で直面する困難や葛藤を“Homework(宿題)”と捉え、正解のない時代の中で自分と向き合い、自分を信じる勇気をそっと後押ししてくれる楽曲となっている。

 今回は、映画の主演を務めた筧美和子とMisiiNの二人にインタビューを実施。主題歌の制作や映画と楽曲の繋がり、さらに壁に直面したときの乗り越え方、自分が自分でいるための秘訣について、話を聞いた。

左から:n a g o h o、筧美和子、Misii

――MisiiNの初の全国流通CDとなるエッセンシャル・アルバム『THIS IS MisiiN』のリード曲「Heartache Homework」が、映画『オオムタアツシの青春』の主題歌になっています。映画のための書き下ろしということですが、どんな思いで制作しましたか。

Misii:作品を見た後にエンドロールで流れるのを想像しながら作ったんですけど、カッコよくいうと、「降りてきた!」みたいな感じでした。この映画は、普段自分たちが歌ってるテーマともすごくシンクロしてる部分がたくさんあって。例えば、映画のキャッチフレーズになっている「生きるって、そんなに甘くない——。」もそう。でも、自分自身と向き合うことで開けていく道がたくさんあるよねっていうことを「Heartache Homework」では歌っているんです。メロディや歌詞に込めたメッセージが、いろんなところで重なり合えたなと思っていて。MisiiNにとっては初めての映画主題歌で、初めての共作でもあったんですけど、とても幸せでした。


n a g o h o:今回、初めて90%ぐらい日本語の歌詞になっているんです。映画の舞台となった福岡県大牟田市出身の詩人である道山れいんさんに書いていただいた詩をもとに作ったのですが、日本語詞であることに対して、自分たちが伝えたいことを歌えるかなってドキドキしてたんです。でも、映画を見て導かれるように音も自然に出てきたし、アレンジも自然に出てきて。全てが必然だったなと感じました。最初からたどり着く場所が見えた感じがして。すごく新しい作り方をさせてもらったなと震えてました。本当に一気に出てきたんですよ。一瞬でできたから。



:二人のイメージは合致していたんですか?


n a g o h o:いつもMisiiが先に音にして、その後に私がアレンジするんですけど、見えてた完成形が一緒でしたね。


:同じ方を見てたんだ。


n a g o h o:監督からも素敵なフィードバックをいただきました。


――瀬木監督は「世代に関係なく、悩み、苦しみ、それでもあきらめず進みつづける人間の姿の、何と美しいことか。ポスト・ジャンル時代の新しい音楽のはずなのに、伝統的な情緒、汗や息遣いが感じられた。僕とは親子ほど歳も異なるが、じわじわと心に沁み込んで来た」というコメントを寄せています。

n a g o h o:監督とも近いものを見れてたのかなって思えましたね。(筧さんに)導いてもらいました。


:いや、恐縮です(笑)。今、たくさんインタビューをしていただいているんですけど、私と役の共通点をめちゃくちゃ聞かれるんですよ。


――夢だった洋菓子店を開店しようとした矢先にトラブルに直面して実現の危機に見舞われるパティシエの五十嵐亜美を演じてます。

:最初に脚本を読んだときは、あんまり共通点を感じられなかったんです。私とはタイプが違うなと感じていたんですけど、理解が深まっていくにつれて、自分に近いなと思うようになってきて。


――その共通点というのは?

:20代の時の自分の経験が亜美と重なったんです。20代の時って、まさに「もがき続けてたな」って感じていて。だから、この曲の最初の歌詞でまさに!と思ったんですよ。自分と重なるポイントがそこだった。まるで海の中をもがいて泳いでるみたいな感じだったので、本当に曲の印象がぴったりで、映画を通して自分が感じてたことが曲でも同じ感覚になって驚きました。



――「もがき続けてた」という経験を聞かせていただけますか。実はMisiiNさんから事前に「人生で一番ハードだった体験、そこからどう前に進んだのか?」という質問を預かってます。

n a g o h o:ディープな質問ですみません(笑)。映画を見ていて感じたことがあって。人は絶対に人生の中でもがき続けていくんだろうなとは思っているんですけど、もがく瞬間ってやっぱり苦しいんじゃないですか。すごく大変な瞬間だけど、映画として客観的に亜美を見たときに、そのもがいてる瞬間がすごく美しいなと感じて。その美しさって、純粋に俳優だから出せるものではないんじゃないかって思うんです。きっと、かつて経験したもがきがあるからこそ出ている美しさなんだろうなって。


:うーん……。これだっていうはっきりしたものはないかもしれないですね。ただ、20代は道しるべみたいなものがなかったので、ずっと手探りでやってきていて。その道のり自体がハードな感じではあったんですけど、今、思い返してみると……あんまり具体的には言えないですけど、やっぱり亜美と同じように、私も人に裏切られた経験が一番大きかったなと思います。それが原動力になったというか、変わろうというきっかけにはなってる。もう、バネみたいな感じですね。でもそれは1つの通過点なんですけど、わからないことだらけの20代を過ごす中で、そこで一気にパワーがわーって湧いたと思います。この映画の亜美のようにバババって突き進む時期はあったし、その経験は今の自分にとって自信にもなってますね。ごめんなさい、アバウトな回答になってしまって。


――そのままMisiiNのお二人にも同じ質問をしていいですか?

Misii:……うーん。これ、聞かれると難しいですね(笑)。


n a g o h o:自分は家族の悩みがずっとあったんです。中学、高校を経て、一回、20歳ぐらいの時に絶縁みたいな状況になったことがあって。その時に、結局自分でつかみに行くしかないんやな、みたいなことを突きつけられるというか、気づかされた瞬間がありました。でも、逆に言うと、それに気づけたからこそ、自分の足でどうやって進んでいこうと考える中で、今、結果として一番応援してくれてるのが家族だったりするんですよね。いろいろあったけど、それがきっかけで今進めていて。進んだ結果、また仲良くなれた。ある意味、それが自信にすごいつながる経験でした。一番きつかったことが、一番いい経験につながったなと思わせてもらってますね。


――亜美も教育ママだった母親と対立していて、劇中では関係修復までは至ってないですよね。

:そうなんですよね。でも、これは想像なんですけど、すぐにはガラッとは変わらないにしても、林田(麻理)さんが演じてる日菜子のお母さんとの関わりで、だいぶお母さんへの見方や理解も変わっていってると思います。だから、ちょっとずつ変化が生まれるのかなとは思ってたんですけど。


――糖尿病を患ってる娘を思うあまりに自分の未来に目を向けることを忘れてしまった母親役ですが、物語が進むごとに表情がガラッと変化していて。

:すごいですよね。最初のケンケンした感じも、監督と林田さんが細かく微調整されていて。


n a g o h o:林田さんが出てこられるシーンはほとんど泣いてました。毎回、号泣してましたね。


――Misiiさんはどうですか?

Misii:人生を変えるようなハードな経験はまだしてないですね。でも、あえていうなら、MisiiNを始めるきっかけになったのが、自分の個人的な失恋だったんです。自分のことを後回しにして、相手のために行動することが多くて。それでうまくいかなくなったときに、自分のことを大事にできてなかった瞬間がありました。それが純粋にすごくショックだったんです。そこからちゃんと自分に向き合おう、ちゃんと自分のことを愛するようにしようって思えるようになりました。まだまだトライ&エラーの繰り返しですけど、自分と向き合うことの大切さに気づいたことがMisiiNの始まりにつながってるので、それが一番大きいですね。




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初主題歌としてこの作品に携われたことは本当によかった

――MisiiNは“be the you”をコンセプトに掲げていて、「自分の人生を生きること」の大切さと難しさを歌ってます。一方の映画『オオムタアツシの青春』でも、「(自分が)やりたいことをやるのが人生でしょ」というセリフがあって。あなたはあなたのまま、私は私のままっていうのは共通するメッセージだと思いますが、MiisiNさんからもう1つ質問を預かってます。「自分を見失いそうになる時に大事にしていること。自分が自分でいるための秘訣」を教えてください。

:どうしてるかな〜。焦らないかな。さっきの話に近いんですけど、やっぱり乗り越えた経験が体に残ってるじゃないですか。だから、自分を見失ってしまう不安はあんまりないんですよね。人に優しくいたいとか、他者に対する部分ではちゃんと意識してないとつい忘れそうになってしまうんですけど、大きな判断に関しては自分を信用してないわけでもないので、「身を委ねて焦らずに」っていう感じですかね。


n a g o h o:それはすごい強さですね。


:どうしてますか?


n a g o h o:私は赤ちゃんになるっていうのを大事にしてます。ちっちゃい時から感情の表現があんまり豊かじゃなかったんですよ。あんまり怒らないし、泣かなかった。でも、Misiiはすごく傷つきやすいんです。すぐ怒るし、すぐ泣くのを見てて、人ってこんなに知らない間に傷ついたりするのかもな?っていうのを教えてもらって。Misiiに出会ってから変わりましたね。



:すごく素敵!


n a g o h o:傷つかない方が生きやすいじゃないですか。気づかないふりをしてた方が、大人になるにつれて生きていきやすいと思うんですよ。でも、逆にそれをちゃんと受け入れて、解決した上で進むほうがきっと強いんだろうなって最近は思えてきて。だから、傷ついた時はめっちゃ泣いたり、めっちゃ怒ったりします。


:ちゃんと感じるっていうのは大事ですね。


n a g o h o:一回、消化しますね。


Misii:いま、nagoが言った通りで、私は本当に感情の喜怒哀楽が120%ぐらいの人間なんです。その1個1個に向き合っていて。上手くいかないこともあるんですけど、ひたすら向き合っていくことが、この複雑な自分が自分として生まれたからには、やるべきことなのかなって思ってます。


n a g o h o:二人とも赤ちゃん過ぎるんですけどね(笑)。


:いや、でも、めちゃめちゃ大事ですよね。私もそれができるようになったのは最近かもしれないです。私もあんまり自己表現が上手な方じゃないというか、思ったままに素直には出せなかったんですよ。一回ストップする癖がついちゃったから。でも、今はとりあえず出してみるようにしているし、泣くのも恥ずかしくないなって思うようになりました。あと、私からも質問いいですか? 「Heartache Homework」というタイトルが気になってて。なんで「宿題」ってつけたのかなって。


Misii:道山さんが詩に「宿題」って書いてたんですよ。確かに人生って宿題だなと思って。でも、苦しいじゃないですか。だから、「Heartache Homework」にして。すごく気に入ってます。


n a g o h o:Heartacheなのが重要ですね。次から次に来る人生の宿題を解いていくんだけど、そこには痛みがあるっていう。



――実際に試写でエンディング主題歌を聴いてどんな感想を頂きましたか?

n a g o h o:筧さんの感想を直接聞くのはドキドキしますね。


:ふふふ。この映画って、結構泥臭い感じだと思うんですよ。それぞれのキャラクターの個性もあるし、大牟田の町には昭和っぽい感じが残ってたりする。全体的に懐かしみを感じるようなところがあった。それに亜美は明るく振る舞うし、それこそあんまり表に感情が見えないタイプなんですけど、私たちと同じようにめちゃめちゃ抱えてるものがあるはずなんですね。それが、「Heartache Homework」がかかった途端に、一気に亜美の内側にばーって連れていかれたような感覚があったんです。しかも、それが重々しくもないし、泥臭くも感じないし。さっきも言ったように、海で泳いでるような感じで、軽やかにこの映画の深いところに潜っていけるような感じがあって、すごく印象的でした。


Misii:嬉しいな〜。


:あと、さっきの「もがき続ける」っていうワードがいちいちしっくりきちゃって。<めぐり合えた意味を知る>も、うわ! って思いました。


n a g o h o:ありがとうございます。私たちも超いい! って感じました。観客として、お客さんとして、映画に毎回泣くぐらいに感動させていただいていて。みんなの純粋な部分に生きるパワーをもらいました。


:そう言ってもらえると私も嬉しいな。ありがとうございます。


Misii:最初に話したのと重なるんですけど、「幸せ」って感じでした。ニヤニヤしてたし。MisiiNにとっても初主題歌としてこの作品に携われたことは、本当によかったなって思いました。


――号泣してる人とニヤニヤしてる人が隣同士で見てたんですね。

:あはははは。面白いね。


n a g o h o:すみません(笑)。でも、映画の主題歌って映画本編と分かれていることが多いけど、今回は地続きで使っていただいている印象があって。それはすごく嬉しかったですね。物語が続いている感じがして。


:そうですね。曲はもちろん、別々でも楽しむことできるけど、こうやってリンクできるから、音楽と映画って素敵だなって改めて感じましたね。この感覚を皆さんにもぜひ劇場で味わっていただけたらいいなと思います。



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