Special
<インタビュー>水瀬いのり、アーティストデビュー10周年を迎えた今何を想うのか――2ndハーフアルバム&ベストアルバムを深掘り

Interview & Text:一条皓太
Photo:筒浦奨太
水瀬いのりが9月3日、2ndハーフアルバム『Turquoise』と、自身初のベストアルバム『Travel Record』を同時リリースする。
来たる12月2日は、水瀬の誕生日であると同時に、アーティストデビュー10周年を迎える大切な記念日。それを祝して、今回の両作は共通して“旅”をテーマに制作されたものである。ハーフアルバムのモチーフとなった“ターコイズ”は12月の誕生石で、旅の安全を守る石としても古くから知られるもの。ベストアルバムの方はその名の通り、“旅の記録”を意味している。
Billboard JAPANでは本リリースに際して、水瀬にインタビューを実施。『Turquoise』に収録された全8曲の制作エピソードを掘り下げるのはもちろん、誕生日の節目を前にしたいまだからこそ、“大人の定義”や“いまの青春とは?”など、改めて自分自身と向き合う質問を投げかけてみた。終盤には、両アルバム初回限定盤のみ付属する豪華フォトブックの撮影で訪れた南フランスでの思い出、パスポートの更新は5年派 or 10年派といったテーマにも笑顔で答えてもらい、本当に感謝の念が尽きない。
「独り占めしたくなるような作品に仕上がりました」
――本取材に向けて、リリースよりもひと足早く『Turquoise』を拝聴しました。水瀬さん、さすがにやりすぎです。いい曲、作りすぎです。“オーバーキル”どころの騒ぎじゃないです。
水瀬いのり:ありがたい限りです(笑)。10周年を祝う作品ということで、全体的なイメージ、歌詞、サウンドと、曲に関することはほぼすべて、作家のみなさまにお任せさせていただきました。
――えっ。
水瀬:ビックリですよね。作家さん同士やプロデューサーさんを介して互いの進捗を偵察し合ったりしていたそうですが、私の方から「こうしてください」とお伝えしていないのに、集まった曲たちはテイストがまったく被らず。みなさんそれでいて、この10年間への想いや愛情をたっぷりと詰め込んでくださって、すごくお願いできてよかったなと。ファンの方に聴いていただくのはもちろん、今回は私に贈ってもらえた1枚という意味合いがとても強くて、本当に独り占めしたくなるような作品に仕上がりました。
――2024年8月発表の前作『heart bookmark』も、“ハーフアルバム”として制作されました。7〜8曲というボリュームが、普段聴きしやすくて絶妙なんですよね。
水瀬:それが、前回は既存曲を含めて7曲だったものの、今回は8曲すべてが新曲で。蓋を開けてみれば、私たちの稼働量としてはフルアルバムとほとんど変わりませんでした。

――たしかに。それでは、曲順通りにお話を聞いていきましょう。まずは「Calling Blue(overture)」から「Turquoise」への流れ。初めて聴いたとき、「YD、マジありがとう」と呟いてしまいました。
水瀬:わぁ、すごい(笑)。栁舘周平さん=YDの愛称も、だんだんと公式めいてきましたね。実は、アルバムのタイトル曲をYDにお願いしたのが初めてなことに加えて、この曲に着手したのが制作後半の時期に入ってからだったんです。いくつかの曲を先に録り終えるなかで、アルバムタイトルを真正面から冠する曲が見つからず、結果的に「YDの曲、“ターコイズ”になりました」とお伝えして。ご本人から「水瀬さんの見ているものを大切にしたい」と仰っていただいたこともあり、歌詞の方向性や曲調などをラリーしながら作っていった唯一の曲になっています。
――爽快なサウンドからは、ケルティックやダンスミュージックの要素を感じられます。
水瀬:ターコイズ=大地の石ということから、大地や自然の雰囲気を感じさせながら、デジタリックでもありつつ、それでいて祝祭感や船出感を出したくもあり。盛りだくさんでお願いしたのに、想像以上の楽曲に仕上げていただけました。YDの作る曲って本当に不思議なんですよ。私のDNAが欲しているというか、初めて聴く感じがしないんです……と言うと語弊が生じるのですが、「こんなふうに歌いたい」と思った通りに譜面が進んでくれるんですよね。YD、本当にありがとうございます。
――3曲目「夢のつづき」は、デビュー曲「夢のつぼみ」と同じく、絵伊子さんが作詞、渡部チェルさんが作編曲という布陣に。今回はそこに水瀬さんが共作詞として加わり、「夢のつぼみ」への10年越しのアンサーを描いています。
水瀬:実はこの曲、チェルさんに「アンサーソングを書いてください」とはお願いをしていなくて。
「夢のつづき」ミュージック・ビデオ
――取材冒頭のお話から推測するに、たしかにそうなりますね。
水瀬:いくら10周年といえど、私からすると失礼なお願いで、とても言い出せずにいて。そんな想いを、チェルさんは汲み取ってくださったんだと思います。デモ音源を聴いた瞬間、鳥肌が立つと同時に、感慨深い想いでいっぱいになりました。
――そこから作詞に入ったわけですね。絵伊子さんとはどのようなやりとりを?
水瀬:今回は贅沢にも、絵伊子さんに書いていただいた歌詞に、私が手を加えさせていただく形となりました。具体的には、少しだけ語尾を変えたり、Aメロの歌詞をBメロに置くパズルのようなことをしたり。あと、サビの<あの日の空に似合う笑顔は>というフレーズは、私の方で考えさせてもらって。「夢のつぼみ」のほかにも、デビューシングルにはカップリング曲「笑顔が似合う日」「あの日の空へ」が収録されていたので、この3曲すべてにスポットが当たる形で、10周年のお祝いをしたかったんです。
――「夢のつぼみ」同様、<「あのね」>から始まる歌い出しも水瀬さんがアレンジしたもの?
水瀬:そこは絵伊子さんですね。ただ、もともと<「あのね」>から始まる曲にしたかったので、私が作詞に入らずとも同じ未来が待っていたと思います。サビの〈まだまだまだ〉という部分もそう。これはもう外せないキラーフレーズとして、「夢のつぼみ」から引用していただきました。……そういえば、レコーディングのときに“あのね論争”なるものが勃発しまして。
「夢のつぼみ」ミュージック・ビデオ
――気になります(笑)。
水瀬:私たちのなかで、<「あのね」>を当時の私のニュアンスで歌う派と、当時の私に向けていまの私から歌う派のふたつが生まれてしまい。結果、2パターンとも録音して、私の方で後者を選びました。やっぱり「夢のつぼみ」があっていまの私がいるので、10年前の私を慈愛たっぷりに包み込むように。かつ「これからの私は、いまの私に任せてね」と、感謝の想いなども込めながら歌いたかったので。そのくらい、細かなフレーズ一つひとつに意識を研ぎ澄ませながら制作しました。
――たとえばの話で、この曲をデビュー当時のご自身に聴かせたら、どんな反応をすると思いますか?
水瀬:たしかに、どうなるんだろう!? きっと、過去の私も「この曲、好きだな」って言ってくれるんじゃないかな。その上で、単に「いい曲だな」としか感じられないとも思っていて。10年間をかけて、1曲ごとにじっくりと噛み締めることが大切だとようやく気づけたので、曲の重みとか、感じ方も全然違うんだろうな。
――目の前に絵画があるとして、縦横の大きさは掴めても、奥行きの存在には気が付かない、みたいな感じでしょうか。
水瀬:そうですね。“表面上の美しさ”とも言えそうです。受け取った曲に、自分で新たな色を足して、深くまで根を張ること。その大切さを知った10年間でしたし、今回同時リリースするベストアルバム『Travel Record』を聴き返してみて、過去の自分がしてきた作業の歴史を一気に浴びるような感覚になったんですよね。
――それこそ、音楽活動に積極的になることに比例して、制作で関わる部分もぐっと増しますからね。そういえば「夢のつぼみ」には<走れ まだまだまだ>という描写がありましたが、今回はそれがなく。近年の水瀬さんはナチュラルな姿を大切にしているあたり、その点でも大人になったということでしょうか。
水瀬:<走れ>のお話だと、この10年間は速度としては速かった一方、私はやっぱり“歩く”ことを大切にしたくて。振り返ってみると、デビュー当時からそう願っていたなと。もともと、周囲から求められているものを察知するのが早かったというか、「こうあらねばいけないんだろうな」というのに気づきすぎる性質があって、それゆえ苦しむ時期があったんです。その時期を経て「まぁ、自分の人生だからね」と思える生き方になり、大人に……もっと言うと、本来の自分に戻れたんだと思います。
- 「現在進行形でのよさを感じてもらいたい」
- Next>
「現在進行形でのよさを感じてもらいたい」
――なるほど。やや質問が重複して恐縮ですが、水瀬さんにとって”大人になる”の定義とは?
水瀬:自由でいること。子どもっぽさとも共存しそうですが、自分の意志で物事を選んで決断できることです。もちろん責任も伴いますが、自由であることはすごく大事で、私はそうした生き方が大好き。なので、大人になれてうれしいです。
――選択肢が増えるに伴い、見える世界も広がりますからね。
水瀬:そうそう。これは“余裕があること”とも言い換えられそうですが、そのときの気分と決断次第で、1分後の未来を変えられるのが大人のいいところですよね。これから年齢を重ねても、そんな生き方のままでいたいです。それこそ、いきなり肉の塊を食べられる夜とか「あ、大人すぎ!」って思いますし。
――どんな夜ですか(笑)。
水瀬:あははっ(笑)。それはもう、肉塊を食べる夜ですよ!
――UberEATSなどで?
水瀬:いや、ステーキ屋さんに入ってです。自分で選んで、自分でご褒美を得る。“自分の機嫌は自分で取る”までセットで、大人の嗜みです。大人はめっちゃ楽しいので学生のみなさんにも大いにお伝えしたいくらい!
――某ステーキがいきなり出てくるお店などで水瀬さんを見かけたら、さすがにビビってしまいそうです。
水瀬:私はどこにでもいますよ。ありとあらゆるチェーン店にいますから。ごはんとか、おかわりしているかもですよ。この記事を読んでいるあなたの後ろにも……私はいるかもしれないですよ。
――なんだろう、“怖い”よりも“やったー”が勝つ気がします(笑)。とはいえ、自分の気分次第でステーキにかぶりつく夜も、この年代だからこそ味わえる青春なのかもしれないですね。水瀬さんのお話を聞いていて、オカモトレイジさん(OKAMOTO'S)がとあるインタビューで「青春の形って生きてるとめっちゃ日々変わる」「自分の青春の形を自分で決めていない」と語っていたのを思い出しました。
水瀬:いい言葉すぎますし、本当にその通りだと思います。外側の年齢に関係なく、ひたむきに、無邪気でいる大人ってかっこいいし、だからこそ“イケおじ”なんて言葉も生まれたんじゃないかな。夢中になれることがある人って、いくつになっても素敵です。
――そんな想いも、この歌詞に反映されているのかなと。
水瀬:「夢のつづき」を、未来に繋がる曲として受け取っていただけたらうれしいですね。過去の栄光ではないですが、「あの頃がいちばんよかった」なんて言葉はすごく残酷だと思っていて。私自身、常に変わり続けていきたいし、現在進行形でのよさを感じてもらいたい。輝きの種類はたくさんある一方で、その年齢、その瞬間にしかない輝きもあるはず。美学とまでは言わずとも、私もそんな瞬間を見せられるアーティストでありたいです。
――そう思うと、歌い出しの<「あのね」>を現在視点から歌ったのは正解だったのかもしれませんね。
水瀬:貴重な1票、ありがとうございます。こんな感じで、ちょこちょこ票数を集めていきたいな(笑)。

――4曲目「まだ、言わないで。」は、前作で「ほしとね、」を手がけた櫻澤ヒカルさんによるもの。サウンドとしてはリキッドファンク(ドラムンベースのサブジャンル)のような系統ですね。
水瀬:かわいい&かっこよくて、不思議な曲だなと。「ほしとね、」のEDM感やスターリー感が好きだったところから、今回はチェーンの音など、心のきしみや、胸に浮かぶまだ名もない曖昧な想いを表現したようなSEがたくさん使われていて、聴きながらすごく楽しい印象でした。
――水瀬さん自身、こうした楽曲は普段からよく聴いたり?
水瀬:私はあまり通ってこなかったものの、ファンのみなさんが好きなのはもう知っているし、なによりインタビューにもたびたび名前が登場する親友・大西沙織もそのうちの一人で。この曲も聴かせてみたところ、途中の“ズクシ、ズクシ!”みたいなフレーズに翻弄されて、すごくハマっていましたね。私も見ていてニヤニヤしちゃいました。
――レコーディングはいかがでしたか。
水瀬:この曲は、歌い上げるというより、むしろ起伏をつけすぎないように指示がありました。ビートが急に消えたり、復活したりのジェットコースターのなかで、ボーカルが不動でいるのがエッセンスになるとのことで。絶妙な塩梅が求められるし、ハモリも主旋(メロディ)と同じくらい大きいしで、ほとんどダブルみたいな聴き応えになっています。ボーカルの作り方が、この曲だけ特殊なんですよね。
――サビ前のドラムが強烈なサウンドだったので、逆にボーカルも負けじと挑むくらいだったのかと想像していました。あまり質問しすぎる無粋とは承知のうえで、水瀬さんはこの曲の歌詞をどのように受け止めましたか?
水瀬:どうしても逃れられない気持ち……終わりを見つめる感情の儚さ、みたいなものが描かれているのかなと。その日、その時はたしかに訪れるし、だからこそ抗いたい。でも、もしかしたらその日すら愛してしまえそうな。恋人同士、私とファンのみなさん、あるいは等身大の私と、アーティスト=水瀬いのりのふたりの歌と、さまざまな形で解釈できそうですよね。まだ言わない余白が心地よくて、考察して想いを巡らせていきたいです。
――そこから緩急をつけて、大切な人がそばにいる暖かさを歌った「アニバーサリー」に。こちらは遠藤直弥さんによる楽曲です。
水瀬:紅茶やコーヒーを淹れたマグカップを抱えながら、おうちで10年間の思い出をひたるときなどに、この曲が寄り添ってくれると思います。それにしても、心の暖かさや、普段は言わない感情を改めて言葉にする大切さを表現してほしいとき、遠藤さんに頼りがちな私の10年間だったなと思っています。遠藤さんは、私の初ワンマンライブ『Inori Minase 1st LIVE Ready Steady Go!』で、オープニング映像のBGMを担当してくださったのですが、この曲のBメロでは当時のピアノのフレーズを引用していて。そこはもう大胆に立たせてほしいと、私からもお願いをした次第です。
――ライブ映像のBGMは、一般的にその後は陽の目を浴びづらいものですし、作家視点で見れば喜ばしいものかと思います。
水瀬:それができたのも、優しい遠藤さんだからこそ、なんですよね。未来を目指す曲が揃うなか、「アニバーサリー」は“あの日の私”に向けて歌ったもので。それを遠藤さんが作ってくださったのも、私との距離感を表しているようだなと。ライブで披露するときは、みなさんの近くを歩きながら、手を振ったり、目を合わせたりして歌いたいです。
- 「これ、2〜3年くらい前から準備してましたよね?」
- Next>
「これ、2〜3年くらい前から準備してましたよね?」

――それで、問題は次の「NEXT DECADE」なんですよ。あの「HELLO HORIZON」を生んだ岩里祐穂さん×白戸佑輔さんのタッグ作ともなれば、一筋縄でいかないのはなんとなく承知していましたが……。
水瀬:デモを聴いたときは、「HELLO HORIZON」初視聴時と同様、白戸さんの舵取りに「わぁ〜、もうわかりません!」と振り落とされるようでした(笑)。あの感覚を再体験しながら、岩里さんにはごちゃ混ぜで整理できない脳内をそのままお伝えしてしまい、結果的に<ごちゃ混ぜの気持ち>と、そのままの形で歌詞に採用されました。岩里さんは作詞をするうえでヒアリングを大切にされる方で、今回もプロデューサーさんを介してお話を聞いてくださって。好きなのに嫌い、楽しいのに寂しいとか、両極端にあるはずの気持ちが混ざり合った素敵な歌詞をいただけました。
――“作詞家あるある”ではないですが、岩里さんも人の未来が見えるエスパータイプの一人ですよね。だからこそ諦めではなく、いまの我々が歌詞のすべてを理解できずとも仕方がないかなと思いました。ただ、あくまでポジティブな曲だというのは間違いないですよね?
水瀬:そうですね。私の解釈ですが、2番にある<ほんの2ミリ>が1ミリではないのは、私の誕生日が12月2日で、かつ「数字の2が好き」だとたびたび言っているからなのかなと。あと、1番よりも2番で安心するタイプだし(笑)。それに岩里さんはインタビューをたくさん読まれる方と伺っているので、そのあたりからも「いのりさんなら、1じゃなくて2だろうな」と思ってくださったんだと思います。
――いまのお話を聞いて、急に背筋が伸びました。
水瀬:あっ、突然ですね(笑)。岩里さん、見てますか〜? 素敵なインタビューなので、ぜひご覧になっていただきましょう!
――7曲目「My Orchestra」は、作詞を藤林聖子さん、作編曲をKOUGAさんがそれぞれ担当。「Innocent flower」を制作した名タッグです。終盤に近づくにつれて壮大さを増していくのは、まさしくオーケストラといったところでしょうか。
水瀬:ラストの追っかけ部分は、TD(トラックダウン)の際に大胆に音を上げていただきまして。すごく意味を持った言葉ばかりだったので、「終盤だし!」と思って目一杯に振り切りました。逆に、そのほかの曲については、私からTDでお願いすることはなく。どれも言うことなしでした。
――「Innocent flower」を経て、モチーフが花からオーケストラに変わりましたが、この点についてはどんなことを感じましたか?
水瀬:私の受け取り方としては、オーケストラ=これまでの音楽活動で出会ってきた方々なのかなと。かつては、ソロアーティストゆえの孤独を感じたり、「ユニットならよかったのかな?」と思ったりする日もあったんです。だけど、ファンのみなさんが私を見つけてくださって、私が居るところならどんな場所でもステージにしてくれる。そんな大オーケストラであるみなさんの存在を歌っている、というのが私なりの考察です。
――先ほどから感じていたのですが、水瀬さんってたぶん考察オタクですよね(笑)。
水瀬:何事においても考察するのが好きですね。あくまで自己満足ながら「こうだったら素敵だな」と思い込める力があると考えていて、それがレコーディングのときもバフをかけて(=任意の能力を向上させて)くれたんじゃないかなと。この曲でいえば、目を閉じるとファンのみなさんやバンドメンバーの顔が浮かんできて、そうした思い込みを自分なりに感動する方へともっていきました。真実よりも「私はこう感じた」という感覚を大切にしています。
――答えはあっても、正解はないと。
水瀬:そうです。「こんなふうに感じられる自分自身が好き」みたいな節にも帰結して。やっぱり自己満足ですよね?
――「これをかっこいいと思える感性に生まれてよかった」と信じられることがあるなんて、とても素敵だと思います。その証拠に、きっとバフかかりまくりだったであろう次曲「海踏みのスピカ」が本当に最高で。あまりによすぎて、この曲については質問を用意してきていません(笑)。約10年弱のライター人生で初めての経験です。
水瀬:もう答えがすべて曲のなかにありますよね。この曲をくださった藤永龍太郎さん(Elements Garden)は、初めてご一緒したときからすごい方でしたが、2023年4月発表の楽曲「クータスタ」あたりから、曲としての説得力や、私に対するご本人の解像度が恐ろしい領域に達しているなと。今回の歌詞に目を落としても「どこまでが偶然なんだろう?」と思うくらいの完成度で。というのも、藤永さんと作った曲や、過去のライブタイトルがほぼすべて入っているんですよね。

――やはりそうでしたか……。
水瀬:抜粋ですが、<さあ行こうよ>は「Ready Steady Go!」。<ちゃんと心に栞っている>は「heart bookmark」。一部、日本語に置き変わっているものもあって、<好きを歌ったあの日>はきっと「まっすぐに、トウメイに。」に対応していそう。本当に走馬灯のような内容で、最後には<準備はもういいかい?>とまで。「ここに留まらないぞ」という想いが歌われているのが、本当にエモすぎました。
――うわ〜。
水瀬:そうなんです、すごいんですよ。あまりに出来すぎていて「これ、2〜3年くらい前から準備してましたよね?」と聞きたくなるくらい。
――思わず「これ専用のプロジェクト、密かに立ち上げてましたよね?」と言いたくなりました。そういえば先ほど「Turquoise」について質問するなかで、「自分の思い通りに譜面が進む」というお話がありましたよね。同曲と「海踏みのスピカ」は今作でも特に、イントロを聴いただけで水瀬さんの曲だとわかる“掴み”があった気がしていて。ご自身でもそんな感覚をお持ちだったりは?
水瀬:私自身としては、自分らしさにぴったりとハマったり、歌いたいように歌えているなと感じる瞬間に、感覚的ながらそんな印象を覚えます。おそらく、自分よりも作家さんの方が私のよさを理解してコードなどを組んでくださっているのかと思います。
- 「最後に突然褒められる感じで終わっちゃった(笑)」
- Next>
「最後に突然褒められる感じで終わっちゃった(笑)」
――ここからは、同時発売となる2枚組のベストアルバム『Travel Record』について聞かせてください。
水瀬:今回は、収録した23曲すべてにリマスタリングを施したほか、通常3秒だという曲間を4〜5秒。最長で6秒にまで長めに調整しました。それもそのはず、Disc 1の冒頭から「夢のつぼみ」「harmony ribbon」「Starry Wish」ですよ。「ちょっと待って、情緒が!」と言いたくなる曲ばかりで、なるべく余韻を感じさせようと試みた結果、最初に起きた曲間の遅延がどんどん後ろにという形に(笑)。普段はしない作業で、本当に新鮮でした。
――各楽曲が生まれた当時は、この収録順を想定せずに制作していますからね。
水瀬:そうですね。しかも、2枚それぞれでかなり毛色が違っていて。Disc 1は王道をいくポップスに始まり、「TRUST IN ETERNITY」あたりから雰囲気を変えつつ、自分らしさを模索しながら「Catch the Rainbow!」で虹を掴む。そこがゴールかと思いきや、Disc 2で「まっすぐに、トウメイに。」が流れ始めると、まだ挑戦の途中であることが伝わってきて。まさに、いまの私の気持ちそのままです。これからも変化していきたいし、決して完成はしていない。まだ旅の途中にいるという想いが、最後の「heart bookmark」からも伝わってほしいです!

――『Turquoise』には別冊フォトブック、『Travel Record』には64Pの写真集が、どちらも初回限定盤に付属します。今作のロケ地は南フランスと聞いていますが、具体的にはどのエリアを?
水瀬:アーティスト写真でいえば、赤土が映えるルシヨン。そのほか、カシス、ムスティエ、ルールマランと、本当にたくさんの土地を転々としました。撮影外でニースにも遊びに行きましたね。今回はドライバーさんが各スポットを1〜2時間かけて車で移動してくださったので、徒歩での聖地巡礼はなかなか難しいかと思いますが、天国のような絶景が待っているので、みなさんにもぜひ生で体感してもらいたいです。
――水瀬さんってパスポート更新は紺色の5年派ですか。それとも赤色の10年派?
水瀬:赤色の10年派です。更新がめんどくさいので(笑)。もしや、5年派ですか?
――つい先日まで5年派だったのですが、昨年から10年派に寝返りました。私は水瀬さんと同い年なのですが、若くいるうちの写真を可能な限り長く使いたいなと、そろそろ思い始めまして。
水瀬:おぉ〜。まずは10年間、激盛れ写真で生き続けられますね。
――ありがとうございます。……いや、本来的な言葉の意味とは異なりますが、水瀬さんはいつの写真を使ってもあんまり関係ないかと思いますけどね。常時、激盛れ状態ですし。
水瀬:どうしよう、最後に突然褒められる感じで終わっちゃった(笑)。

関連商品































