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<インタビュー>Newspeak アニメ『BULLET/BULLET』と共鳴度100%の「Glass Door」完成 硝子の扉を開けるか開けないかは“あなた次第”

Text & Interview: 荻原梓
Photos: 辰巳隆二
ボーカルのRei、ドラムのSteven、ベースのYoheyによる3ピースバンド、NewspeakがEP『Glass Door』を8月13日にリリースした。昨年、メジャー1stフルアルバム『Newspeak』をリリースし、今年は澤野弘之のプロジェクト、SawanoHiroyuki[nZk]の楽曲「INERTIA」にReiが参加するなど、Newspeakは今まさに新しいステージに足を踏み入れようとしている。
そんな中で発表された本作のタイトルトラックは、『呪術廻戦』などで知られる朴性厚監督が手がけるアニメ『BULLET/BULLET』のエンディング・テーマ。Newspeakらしいパワフルかつポップなバンドサウンドが、同アニメの持つ力強いエネルギーを何倍にも増幅させている。「僕らの伝えたいこととアニメが伝えようとしていることがすごく近い」とReiは言う。アニメと楽曲、お互いが強く共鳴した本作に、彼らが込めた思いを聞いた。
左から:Yohey、Rei、Steven
──今回のエンディング・テーマの話を聞いた時はどんな気持ちでしたか?
Rei:すごく嬉しかったですね。朴監督が10年間構想を練って作ったアニメっていう話を聞いて、監督の気合が入ってる作品であることが伝わってきたので、そういう作品のエンディングを任せてもらえたことへの感謝とか喜びも大きかったです。
──普段アニメは観るんですか?
Rei:そんなに詳しいほうではないのですが、『進撃の巨人』や『BLUE GIANT』など、友達が面白いよと薦めてくれた作品は観ていました。
──いま日本のアニメは世界的に注目されてますよね。そうした中でアニメのテーマソングを担当することについて、何か特別な思いはありましたか?
Rei:最近は(英ミュージシャンの)ヤングブラッドがやっていたり自由な印象があったので、「アニメのテーマソングだからこうしよう」という特別意識はまったくなかった。とにかく作品に寄り添うことを一番に考えていました。
──『BULLET/BULLET』にはどんな印象を持ちましたか?
Rei:めちゃくちゃ面白いし、自分が属しているコミュニティに対する違和感とか、そこに迎合してしまう自分への違和感を歌うことが多いので、このアニメにもそういうテーマが含まれているところが、バンドのカラーにもリンクしているなと思いました。おかしくなっちゃった未来の話っていう点では、普段観る映画もそういう設定のストーリーが多いので、スっと入ってきたし、少年心をくすぐる内容もあったので、あらすじを読んだ時点で「めっちゃ面白い」ってなりました。
Steven:このアニメの話が来てすごくよかったです。
──ストーリーではどんなところが印象に残りましたか?
Yohey:例えば、みんな気づかない間に抑圧され、生活するための資材も吸い取られる環境の中で生きていて、その(元凶となる)組織と戦っていくストーリーなんですけど、物質的なものだけでなく、人間の怒りや抗う気持ち自体をも奪い取られていたんだという話に動き始めてから、ストーリーがより前に進んでいくんです。僕たちの生活の中でそういう側面に気づけるか気づけないかが大事なんだと思った瞬間でした。結局、自分の意見を持てるか持てないかだと思うので、そこに共感しました。
Rei:主人公のギアが憧れている、ロードというキャラクターがいるんですけど、そのロードのセリフに僕は一番グッときました。かつてはロードも世界に抗っていたんですけど、気づかないうちに偉い人たちの言うことを聞くようになって、靴を舐めつつ、それでも正しい時を待っている。そういうロードが主人公たちに「それはいつなんだ」「いつまでたっても来ねえだろ!」みたいなセリフを言ってるシーンがあって。僕らもそうじゃないですか。子どもの頃はみんな「大人うるせえよ」「なんで就職することが正解なんだよ」って言ってる。でも時間が経って、いろいろな意見を聞いていくうちに最初に持っていた光を失って、いいタイミングを待っていたはずなのに待ってることすらも忘れてしまう。それって誰でもあると思うんです。そこに自分はグッときました。

──それは去年の1stアルバムにも通じるようなテーマですよね。
Rei:めちゃくちゃそう。リンクするんですよ。僕らの伝えたいこととアニメが伝えようとしてることがすごく近い。
──「これって俺らの言いたいことじゃん!」みたいな。
Rei:そうそう、本当にそう!
Yohey:朴監督は僕らの楽曲をたくさん聴いてくださっていて、特に「Be Nothing」を気に入っていると、熱い思いを伝えてくれました。僕らとの親和性があると監督が感じ取ってくださった状態からスタートしたんです。
──アニメの制作チームからは「Newspeakらしく自由に表現してほしい」との話があったそうですね。
Rei:(監督やチームが)「Be Nothing」が大好きなことが伝わってきて、去年以降出会ったファンの中でも一番ってくらいの熱量だった(笑)。本当に「Be Nothing」が好き、でも「自由にやってください」って。だから「Glass Door」のはじまりの鬱屈とした主人公の感じは「Be Nothing」からのインスピレーションです。「Be Nothing」はどん底にいたからこそ微かな光が見つかる曲だけど、「Glass Door」はどん底だけど、もっとポップに描いていて、仲間が増えて希望に満ち溢れた景色が見えていく。スタート地点は近いけど、そこからのビルドアップは何も迷わずに、最後は一緒にこう(拳を突き上げて)ガッツポーズするみたいなエンディング。立ち上がって、走り出して、希望を歌って、たどり着く――そういう展開が最初から見えてました。
──「Glass Door」は「Be Nothing」ほど、どん底感がないですよね。
Rei:そうですね。このアニメの面白いところって、メッセージ性は強いし、世界も一度終わったようなディストピアなストーリーなわりに、雰囲気がポップなんですよ。キャラクターの性格もそう。そこからインスピレーションを得たかもしれない。どん底なんだけど、どん底じゃないふりをしてたり、気づいているけど、気づいてないふりをしてる世界。その雰囲気からインスピレーションが湧いて、どん底だけどどん底じゃない感じにまとまったかなと思います。
──音作りはNewspeakらしいポップさと力強さがありますが、どんな方向性にしようと思ってましたか?
Rei:力強さを第一に考えて、ピアノからはじまるアイデアはあったかな。そこから立ち上がって力強く地を這って歩き出すみたいな、ずんずん前に進んでいきたくなるようなサウンドにすることは話し合ってたかも。
──たしかに、その感じはすごく出てます。
Rei:荒野を走るシーンも多くあるので、大陸を連想するようなタムのフレーズをBメロに入れたり、真っ直ぐなベースラインで地を這う感じを出したり。でも、それだけじゃNewspeakらしくないから、ポップでありつつ“いい違和感”を絶対持とうと。
Steven:ドラムで言うなら、サビで解放感とか自由、フリーダムを感じさせるのが私の目標だった。そのフィーリングを出すために、Newspeakの曲の中でも一番と言えるくらい手数を入れてない。
──自分は一歩引いて、他を際立たせようと。
Steven:Yeah, yeah. “いい違和感”という意味では、サビの〈stand up on your feet〉のところのディミニッシュコードはうまく入れたと思う。自由って、ただのハピネスじゃないじゃん? 自由には明るい面も怖い面もある。自由になった結果、「どうなるかわからないよ」っていう、“いい違和感”のあるコードだよね。
Yohey:『BULLET/BULLET』は、内面の成長だったり、仲間を作ってみんなで力強く歩いていく要素だったり、いろんな要素のある作品で、底抜けに明るいシーンもあればカーアクションもある。制作はそのスピード感やポップな要素を組み合わせていく作業でした。

──タイトルの「Glass Door」という言葉も印象的です。自分の可能性を閉ざしてしまうもの、自ら未来を塞いでしまう蓋のようなものという意味に受け取りました。この“硝子の扉”という言葉にはどんな思いを込めましたか?
Rei:「硝子の扉の先に見えるものに一歩足を踏み出してみよう」っていうピクチャーが、僕の中で見えたんです。扉だけだと先って見えないじゃないですか。でも硝子だと自分が映るから自分とも向き合えるし、透明だから扉の先も見える。先が見えるのに開かないのは自分のせい。扉を開けたいのに開けないで、人や時代のせいにしてしまうことはみんなあると思うんです。やっぱり結局、決めるのは自分なので。だから「人が言っているから、自分はこういう世界が正しいと思う」のではなく、それぞれが自分の正しさを見つけて、それに共鳴した人たちが集まってそのドアをぶち壊していくのがいいと思うんです。それってバンドの精神性とも近いと思う。
Steven:Reiが言ったことに付け加えるとしたら、部屋の中で硝子の扉から見える景色を毎日見て、外を見る以外に何もしないっていうのは、なんかSNSに近いところもあるなと思って。みんなこれ(スマートフォン)を見てるだけ。「もっと行動しようよ」「見てるだけじゃなくて、ドアを開いて何かやっちゃおうよ」っていう曲でもあるよね。
Yohey:この「Glass Door」っていう表現は、内面を閉ざしてしまうものっていう受け取り方もできるし、「White Lies」で〈もし恐れるものがなかったとしたら、君はどうする?〉って歌った問いかけにもリンクする。だからすごくいい表現だなって思います。
──一方でこの曲では〈Light up your heart〉(心に火を灯す)というフレーズが何度も歌われます。“心の火”が消えてしまうことは誰しもあると思うのですが、Newspeakの去年のアルバムや今作を聴くと、Newspeakの“心の火”は今ものすごく燃えている印象を受けます。実際にこの曲では〈Now I see the flame grow higher than ever〉(今、灯火はかつてなく燃え盛っている)と歌ってますよね。Newspeakの“心の火”がここまで燃えているのは、なぜでしょうか?
Rei:なんでだろう。自分と向き合えたからかもしれない。自分と向き合えないとたどり着きたいところも見えないし、光がないと硝子のドアを前にしても自分が映らない。自分と向き合って、自分は本当は何をしたいのかがはっきりしたからだと思いますね。実はこの曲を書いた時って、アルバムの制作中でイライラしてたんです。うまくいかないことが多くて、これは人に届くのか悩んだし、作ってるものに対してもクエスチョンばかりだった。そんな時にこのお話をいただいて、アニメのプロットを観て勇気づけられたんです。「俺らもこうやって音楽をはじめたよな」って。同じ目的を持った人たちが集まって、なんかよくわかんないけど一歩前に踏み出して、試しにドアを開けてみたっていう気持ちを、このアニメを観て思い出せた。それでそういう歌詞が自然に出たのかもしれない。
──煮詰まっていたところで、アニメがアルバム制作を進めさせてくれたと。
Rei:そう、だからアニメに感謝ですね。初心を思い出せた。
【Newspeak presents 「Glass Door」 Release Party】より
Photos by Ryotaro Kawashima
──今作はEPという形で、「Glass Door」以外に「Coastline」と「Lifedance」の2曲も収録されてますが、こういう形態になったのはなぜですか?
Yohey:今回、バンドとして初めてアニメのテーマソングを担当させていただくことで今までとはちょっと違ったベクトルで広がって聴いてもらえるチャンスだと思ったので、僕らの多様な一面が見せられたらいいなと思ってました。
Rei:あと「Glass Door」は自分に向き合いすぎているとも思ってて、他の2曲はそこに対して真っ向からぶつかる曲でもあるんです。ただ自分と向き合うだけが人間じゃなくて、「そこから離れよう、そういう話はどうでもいいよ」って気持ちがあるのも人間だと思うんです。
──わかります。
Rei:「Glass Door」を作り終わった後、キャッシュが溜まってパソコンが重くなってたんです。キャッシュをクリアにすると軽くなるじゃないですか。その感じを出したくて。
──というと?
Rei:ちょうどこの2曲を作った時期がリセットしたいタイミングだったんです。何をやるべきかわからない時期があって、一気に20曲以上作ったんですけど、その中でもやりたいことがはっきりしてるのがこの2曲だった。「Coastline」はただただ気持ちよくなれる曲で、「Lifedance」は「人生なんてダンスだよ!」みたいな曲。
Steven:「Glass Door」はたくさん考えて作ったミーニングフルな曲。これでほかの2曲もミーニングフルだったら……ねえ。
Rei:そうそう。僕らってもっと単純なはずなんです。楽しいから音楽をはじめたはずなのに、僕らはたまに考えすぎちゃう時がある。それはそれでいいものが生まれることもあるけど、「そうじゃないよな」って思うこともめちゃくちゃある。
──なるほど、この2曲でバランスを取ってるわけですね。
Rei:そう。だから僕的にはバランスのいいEPになったと思ってます。
Steven:「硝子の扉を開いて、コーストラインに行こう。レッツダンス!」ってね。
Rei:人間って何かに真剣に向き合っている時もあれば、どうでもよくなっちゃう時もある。そういう人間とかバンドの多面性をぎゅっと一枚に凝縮できたEPになったと思いますね。
──この作品をどんな人に届けたいですか?
Rei:みんなそうだと思うんですけど、17〜18歳くらいの時に自分の人生を考えて「このまま行っていいのかな」って思うことってあるじゃないですか。宗教とか勉強、就職でもなんでも、人に言われたからやってるけど「なんかおかしいよな」って。そういう人たちに、この曲を聴いて「違う扉を開いてみよう」と思ってくれたらいいなと思います。違和感がありながらコミュニティに属してる人っていっぱいいると思う。そういう人たちが「新しいところで生きてやる!」って思うきっかけになったら嬉しいですね。
Yohey:楽しいことがないとか、学校だったり会社だったり、いろんな理由で外に出るのが嫌だなって思う人も結構いると思うんです。そういう人たちが家を出る時に背中を押してくれる曲だとも思うので、力が出ない時とか、一人だと勇気が出ない人の後押しをしてあげられたらと思いますね。
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