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<インタビュー>Fluid Flowerがデビュー曲「獣のブルース」で描く、現代人の孤独と仮面の中の自分

インタビューバナー

Text:岡本貴之

 アンジ(ANJI/Vo./Gt.)とダビン(DABIN/Pf.)による女性2人組ユニット・Fluid Flower(フルイド フラワー)が7月23日に1stシングル「獣のブルース」でデビューした。2024年に結成されたばかりという、謎めいたこのユニットが世に放つ初作品は、軽快なピアノの打音に導かれて始まる洗練されたサウンドながら、架空の東京を舞台に“仮⾯を被って⽣きる現代⼈”の闇を歌う、人間の深層心理を鋭くえぐるエッヂの効いた楽曲だ。同時に公開されたアニメーションのミュージック・ビデオでは、より一層その世界観に没入することができる。果たしてどんな2人組なのか、初インタビューで“仮面”の内側に迫った。

Fluid Flowerに込められた想い

――デビュー曲「獣のブルース」リリース、おめでとうございます!

アンジダビン:ありがとうございます!


――デビューを迎えた今の率直なお気持ちを聞かせてください。

アンジ:すごくドキドキしていて、デビュー日の前日は緊張して眠れなかったです(笑)。

ダビン:何か全然、現実感がなさすぎてすごくドキドキしています。まだ実感が湧かないっていう感じですね。


――――Fluid Flowerはどんなきっかけで結成されたユニットなんですか?

アンジ:私とダビンが初めて出会ったのは、2023年末、インディーズゲームのサウンドトラック制作に、作曲家とボーカルとしてそれぞれ起用されたときのことでした。当時は、私たちがチームを組むことになるなんて全く予想していなかったんですけど、翌年の2月頃にプロデューサーが私のYouTubeを見てくれて、連絡をくださったんです。そのときのミーティングの場で、「自分がよく聴いている音楽です」って、ダビンの音楽を聴いてもらったら、「2人はすごく良い組み合わせなんじゃないか」って勧められて、ユニットを組むことになったんです。


――――ダビンさんは、どんなことを考えてアンジさんと一緒にやろうと思ったんですか。

ダビン:最初は、「アルバム一枚ぐらいを一緒にやってみましょうか」みたいな感じだったんです。徐々に一緒にやっていくうちに、アンジの能力やポテンシャルを感じて、「ああ、このチームは楽しくやっていけるんじゃないかな」って思うようになって、正式にチームを組んでやっていくことになりました。


――――Fluid Flowerというユニット名には、どんな意味が込められているのでしょうか。

アンジ:プロデューサーが提案してくれたユニット名だったんですけど、最初に聴いたときは、すごく聞き心地の良いかわいらしい名前だなって思いました。私たち2人は音楽のスタイルも、性格も本当に正反対なんですけど、だからこそ特定のジャンルや枠組みに縛られるのではなく、お互いの違いをリスペクトしながら、ゆらゆらと花のように柔軟に調和する音楽を作りたいという趣旨から、Fluid Flowerという名前にしました。今回リリースした「獣のブルース」から始まって、今後はより多様な音楽を聴いてもらえるんじゃないかなって考えています。


――――そうした音楽を作っていく上で、お2人がそれぞれどんな音楽やアーティストから影響を受けているのか、教えてもらっていいですか。

ダビン:私はサブカルチャーが好きで、メジャーじゃないところの音楽が好きだったんですけれども、じんさんや、米津玄師さんが「ハチ」名義で活動していた頃の音楽をよく聴いていましたね。

アンジ:私は椎名林檎さんの曲をたくさん聴いてきたのですが、特に、「ギャンブル」という曲は、最初に聴いたときから衝撃的で、本当に影響を受けています。最近は、Adoさんの音楽にも非常に感銘を受けて聴いています。


――――アンジさんがボーカルとギター、ダビンさんがピアノを担当していますが、楽器パートの役割はどのように決まったんですか?

アンジ:ビンがもともと、大学でクラッシック音楽の専攻だったんです。それもあって、ポジション的に曲も書きながら、ピアノを演奏することになったんです。自分はボーカルだけじゃなくてギターの演奏に興味もあったし、そうすればパフォーマンス的に良いバランスになるんじゃないかなって、今もギターの練習をめっちゃ頑張っています。


――――ダビンさんは、1人で音楽を作っていた経験もあるようですが、Fluid Flowerでの曲づくりについてはどう取り組んでいるのでしょうか。

ダビン:1人で音楽をやっていたときには、楽曲制作にとくに順番はなかったんですけど、チームで制作するようになってからは、基本的に私が最初のコードとか全体的なベースになるトラックを作って、そこから一緒にメロディを作り上げたり、歌詞をつけたりっていう感じでやっています。


――――「獣のブルース」は、作詞・作曲がFluid Flowerとクレジットされています。どのような過程を経て完成した曲なんですか?

アンジ:「獣のブルース」を書いたのは、デビューの時期が迫っていて、すごく焦っていた時期だったんです。締め切りが迫っていたのに、これだと思える特別な曲が出てこなくて、そのプレッシャーのせいで制作がうまく進まずに、毎日夜を徹して作業している状態でした。あるとき、朝まで作業した後20分ほど仮眠を取ったときに、夢を見たんです。すごく鮮明な夢で、私がコンサート会場で「獣のブルース」のサビを歌っている場面でした。夢から覚めた瞬間、そのメロディが鮮明に記憶に残っていたので、「これは面白いかも」って、音声メモで素早く録音して、すぐにデスクに座って制作を開始しました。おおまかに作って、プロデューサーとダビンにすぐに音源を送ったら、2人とも「めっちゃ良いじゃん!」という反応が返ってきたので、ベーシックな部分は私が作って、ダビンとやり取りしながらメロディや歌詞を発展させていきました。


――――夢から生まれた曲だったんですね!? ダビンさんは最初に曲を聴いたとき、どんなイメージを持ちましたか?

ダビン:最初に聴いたときには、自分だったらあんまり思い浮かべない、独特で面白いメロディだなって思いましたし、これを発展させたら面白い曲になるんじゃないかなって思いました。


――――そうした曲づくりをする上で、お互いの音楽嗜好や感性など、どんなところに刺激を受け合っているのでしょうか。

アンジ:ダビンのいろんな能力をリスペクトしています。特に歌詞の素材やストーリーを創り上げる方法、ワードチョイスが本当に独特で面白いんですよ。私が考えられないようなことを単語としてポンポン出してくるので、毎回受け取るたびに驚かされるんです(笑)。曲を送ってもらうたび予測ができない音楽性を感じるので、そこから自分もすごく刺激を受けていますし、影響されています。

ダビン:アンジは、わかりやすくてみんなが聴いていて気持ちの良いメロディを作るのがすごく得意だと思うんです。わかりにくい音楽じゃなくて、すっと入ってくる音楽を作れるところをリスペクトしてますし、アンジが書く曲も歌も大好きです。自分にないアイディアを持っているところもすごく面白いですね。それと、人間的にも周囲の人々をとても気遣ってくれたり細やかで、そういうところも尊敬しています。

アンジ:私も、ダビンのことをとても大切に思っています。ダビンは本当に内向的で口数が少なくて、時々何を考えているのかよく分からないときがあるんですけど(笑)。それでも、私をとても信じてくれていることを感じています。すごく責任感も持っているし、愛おしくてかわいい、いろいろ面倒を見てあげたい、かわいらしい妹のような家族的な存在ですね。


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  1. 「孤独を抱えながら生きる現代人たちの物語」
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「孤独を抱えながら生きる現代人たちの物語」

――――姉妹のような関係なんですね。そんなお2人で「獣のブルース」という世界観の歌詞を書くにあたって、どんなお話をされましたか。

アンジ:最初、この曲を夢の中で聴いたときに、メロディだけじゃなくて歌詞もまるまる出てきたんですよ。<終わらない 終わらない 愛を>というフレーズが回っていたので、それをどう全体的に作ればいいのかをすごく考えたときに、“架空の東京”を設定して、その場所で孤独を抱えながら生きる現代人たちの物語を盛り込もうと思いました。その具体化のプロセスで、私が骨組みのストーリーを書いて、ダビンと共有しながらお互いに単語を交換しながら完成させる方法で作業を進めました。

ダビン:アンジから最初のコンセプトを聞いた後、私が具現化するために考えたのは、歌詞に登場する「仮面」が単に顔を隠す小道具ではなくて、社会が求める「こうあるべき」という思い込みのようなものだということでした。自分の本当の顔が何かも分からなくなるほど、覆い隠されてしまったようなイメージを、自由に抜け出せないイメージとして捉えて、孤独や動物的な本能、飢えなどを比喩的に表現して、歌詞を詳細に書いて行ったんです。


――――「仮面」、「思い込み」というワードはすごく興味深いです。Fluid Flowerは2人にとって、「ペルソナ」としての存在なのか、それとも「仮面」をつけない素顔の自分に近いものを表現していきたいのか、どちらでしょうか。

アンジ:自分も「仮面」をかぶって生きている現代人として、正直じゃないときが多いと思うんです。でも実は、逆に音楽をやっている時の方が正直な自分がいるんですよね。Fluid Flowerとして音楽をする私は、現代を生きる私よりもずっと正直で、より素のままで言いたいことを明確に伝えるタイプだと考えています。

ダビン:私の場合、Fluid Flowerで音楽をする私という存在は、今回の曲で言及される「仮面」に近いものだと感じていました。


――――「獣のブルース」は、クールで都会的なメロディとサウンド、その中で描かれる人間の孤独や葛藤が印象に残る曲です。とくに注目してほしいポイントを教えてください。

アンジ:「どのような楽器を使えば特別な音を出せるだろうか」と考えたというより、歌詞とストーリーの流れに合わせて、ストーリー展開を盛り上げる部分を、没入感を持って最後まで楽しく聴いてもらえるようにすごく考えました。特に気に入っている部分は、2番に入ってから、ようやく2人が感情的な交流を始めて、その次のバースで間奏に入る部分に、私が叫ぶシーンがあるんです。この叫ぶ部分が曲の一番のハイライトだと考えています。女性の主人公が男性の主人公を飲み込んでしまうようなミュージック・ビデオのシーンともよく合っていて、インパクトがあるので、とても気に入っています。

ダビン:すべて気に入っていますけど、やっぱり一番気に入っている部分は、アンジが今言ったように、シャウトしてからギターソロが流れる部分が、曲の最も高揚した感情の頂点を示しているように感じられて、気に入っています。





「獣のブルース」ミュージック・ビデオ


――――今、アンジさんがおっしゃったミュージック・ビデオも拝見しましたが、ちょっとショッキングな描写もあったりして、ミュージック・ビデオを見ることでより曲の世界観が伝わってきました。アンジさんはクリエイティブ・ディレクターとしてクレジットされていますが、曲を映像化する上でどんなことを考えてディレクションしましたか。

アンジ:ご覧いただきありがとうございます! 感想を聞かせてもらえてうれしいです。実は、今回のミュージック・ビデオを作り上げる段階の前に、曲を作っている段階から、背景、登場人物、季節や時間帯、天気や温度だったり、すべてのことを考えながら歌詞を書いたんです。それもあって、ミュージック・ビデオのストーリーを作り上げるときに、結構スムーズに進んでいった記憶があります。「獣のブルース」は、“孤独という空腹”を抱えて生きる人々が獣のように愛に執着する内容の歌詞なので、安易な愛ではなくて、孤独という苦痛から逃れようとする本能的な飢えみたいなものに立ち向かったときの過程で、自分の本当の顔と向き合う瞬間の恐怖を描きたかったんです。その世界観を映像でうまく表現したいと思いました。


――――ダビンさんは、ミュージック・ビデオを最初に見たときにどう感じましたか。

ダビン:はじめて曲のストーリーを聴いたときは、あんまり想像ができないというか、「これってどうやって映像化されるんだろう?」っていうのがすごく気になったり心配したりもしてたんですけど、ミュージック・ビデオの制作過程を見てみると、私たちが考えていたイメージがそのまま実現されたように感じられて、大満足しています。


――――「獣のブルース」が描いている世界観に共感する人も多いと思います。特にこういう人に聴いて欲しいという、ターゲットはいますか?

アンジ:いや、特にこういう人に聴いて欲しいというのではなくて、現代人だったら誰もが心の中に孤独や空虚感といった、似たような苦痛を抱えて生きていると思うので、みんなが聴いて共感できる曲だと思います。なので、そういう感情が突然浮かび上がるときや、夜に一人で歩くときなんかに聴いてもらえたらなって思います。

ダビン:孤独をテーマにした曲なので、他人に説明しにくい種類の寂しさを感じたことのある人なら、誰でも共感できる曲だと思います。


――――この曲をきっかけに、これからどんな活動をして行くのか教えてください。ライブパフォーマンスは今後予定されているのでしょうか? それと、お2人のビジュアルが公開される可能性はありますか。

ダビン:これからは、お互いの持っている全然違う魅力を曲を通じて発表して行きたいと思います。音楽のスタイルや感情の表現がまったく違う真逆な2人の組み合わせが、Fluid Flowerの強みだと思うので、そうした魅力が目立つ面白い活動をして行きたいと思います。ステージに立つのはまだ少し恥ずかしいんですけど、アンジの歌ってるところが見たいので(笑)。いずれライブはやってみたいです。

アンジ:ライブは、来てくださる方々がいてくれるなら早くやりたいです。今後はオープンに、リスナーの方々と直接お会いして、良い時間を共有したいですね。ビジュアルの公開はまだできていませんが、今後は公開することもあるかもしれません。


――――では最後に、アンジさん、ダビンさん、それぞれのアーティストとしての夢や目標を聞かせてください。

ダビン:個人的には、国籍や年齢層、性別などのアイデンティティや考え方や文化とかは関係なく、誰もが共感して楽しめる音楽を作っていきたいです。そして、何より作る私たち自身が楽しめる音楽をやっていきたいです。いずれは、ドラマやアニメのサウンドトラックに参加することが夢です。

アンジ:すごく大きな目標に聞こえるかもしれないんですけれども、Fluid Flowerというジャンルを作りたいというか、「この曲調はFluid Flowerなんじゃないかな」って、みんなが聴いてすぐわかるような音楽をやっていきたいと思っています。私たち2人が持っている異なる魅力や音楽要素で、大勢の方々が聴きたくなるような癖のある音楽を作っていきたいですし、リスナーさんやファンのみなさんと一緒に成長していくグループになりたいです。そして、いずれは東京ドームでライブができたらいいなって思います。


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